Take2―11 散開
「止まって」
ホミーの先導の下、ホミーの復讐対象に接近していたが、ホミーが突如停止する。
「どうした。新たな敵か?」
これまでも他チームが近くにいるとホミーが同様に一度足を止めさせ、迂回しながら目的地まで接近していた。
今回もそうであるのだろうとウッホは尋ねた。
「いいえ、違うわ。これは……いえ、気にしないで私に付いてきて」
そう言って再びホミーは進み始めた。
「……あれで間違いないのか?」
「ええ、間違いないわ……でも変ね、いつの間にか……」
「3匹になってるじゃねえか」
ウッホ達の肉眼でもホミーの復讐対象者含むチームを見える位置にまで近づくことは安全に遂行することが出来た。
「先ほどの停止、気にするなと言っていたがこれが視えていたからか?」
「違う。私が気づいたのは……向こうも私達に気づいているということよ」
「気づいているだって!? 俺は別に音なんざこれっぽちも立てちゃいねえぞ!」
ミガテは静かに抗議する。
しかしホミーの言う通りならすでに気づかれているため声を抑える必要性はあまりない。
「ならばあの場に1匹いないことはホミーには心当たりはないのだな?」
「ええ。むしろこちらに気づかれていたということなら心当たりがありすぎるわね……私の復讐相手の能力なのだから」
「ってーと、ホミーの姉御の復讐相手も同じ索敵系の能力なんかい?」
「そう……私と同じく、みることに特化した能力よ」
同系統の能力。
それを聞いてウッホは安堵する。
同系統であるならばホミーがいれば相殺出来るだろう。この距離まで来ればホミーが相手をするだろう。
むしろ特殊な攻撃をする能力であった方が厄介だ。
相手のうちの1匹の能力のネタはこれで知れた。
「ホミーはその復讐相手を。俺があの大きい見た目からして強そうなやつを、ミガテが小さいやつだ。トリニコは様子を見ながら援護をしてくれ」
「は? おいおい、俺にあのデカブツの相手は無理ってか? 甘く見るなよ、あんなやつ俺がサクッと食い殺してきてやるよ」
「……分かった。なら俺があの小さいやつでミガテが大きいやつだ」
ミガテが見栄を張ったのか、それとも先ほど喰らった動物の能力がそこまで強いのか分からないが、見た目からして強そうな方を選ぶ。少し考えてウッホはそれを許諾し、4匹は散開した。
次に揃う時は相手が全滅した時……もしくはこちらが全滅し天国と呼ばれるような場所で再会した時だろう。
「……分かっているわよね、私がここにいる意味」
ホミーと同様に背に翼を生やした男。親の仇のように――実際に自分の仇である――その男をホミーは睨みつける。
目つきの鋭い男であった。何もかもを見透かしたかのような目は底のない沼のように果てが見えない闇である。
「分かっているさ。俺に殺されに来たんだろ? あの時と同じ様に」
「っ!?」
ホミーの脳裏に生前の記憶がよぎる。
同盟を組んだ直後の不意打ち。
あの時はまだ殺し合いというゲームのルールを理解していなかった。
仲間になったならば、仮にその仲間の性根が腐っていることが分かっていたとしても仲間に対しては向けられないだろうと思い込んでしまっていた。
「あなたを殺して私は生まれ変わる。イグルー……」
ホミーは自分を殺した張本人であるイグルーを睨みつけたまま翼をはためかせ空中へと飛び立った。
「地上は私たちにとって狭い。こっちで決着を着けましょう!」
「ふん。俺には勝ったという結果がありお前には負けたという結果がある。それは覆しようのない過去であり、そして変わることのできない未来だ!」
イグルーもまたホミーのものよりも一回り大きな翼で飛び立った。
「幼い少女の姿をしていようと俺は加減しないぞ」
ウッホの前に立っているのは人間の年齢にして10歳にも満たない少女であった。
黒を基調としたゴシック調の服を着ており、長く乱雑に伸ばされた髪も、目も黒い。
唯一その見た目からして分かる柔らかな肌だけは透き通るように白い。
「……イビルアイ」
少女は短く単語を口にした。
「それがお前の名前か?」
ウッホが知らないだけでそのような動物がいるのかもしれないが、あえて名前だろうと推測し、尋ねた。
「そう」
見た目はか弱い少女。
恐らくだがウッホが腕を一薙ぎでもすればそれだけでただの肉塊へと変えることが出来るだろう。
力も防御も速度もない。見た目からしてそうであり、そこに強者足り得る何かを持っているようには見えない。
だが、ウッホの額には汗が流れていた。
「……イビルアイ、お前がこのチームのリーダーだな?」
初めはホミーの復讐相手がリーダーだと思っていた。
ホミーからもそう伝えられていたし、敵チームを分断させる際のやり取りからもそう思わせていた。
だが、こうして直に向き合ってみればこの少女こそが真のリーダーだと分かる。
得体の知れなさがどこまでも付きまとうこの少女以外にこのチームのリーダーは務まらない。
「ええ、そう」
やはりか。そうウッホは思うと同時にミガテが想像した通りの行動を取ってくれたことに安堵していた。
このチーム戦においてリーダーとなる資質とは強さか賢さのどちらかであろう。
ウッホは強さで以てしてリーダーの座にいる。開始と同時に襲撃して来たチームは恐らくは賢さでリーダーとなったはず。
この目の前の少女。イビルアイと名乗る小さな少女はそのどちらだろうか。
どちらにせよミガテには荷が重い。だからこそ、あえてミガテの性格を汲んでミガテが自分からもう一方の動物へと向かうような言い方をした。あの大きな方は立ち振る舞いからしてリーダーではない。この少女かホミーの復讐相手か、どちらかがリーダーであると予想出来ていた。
「お前がいかなる強さを持とうとも、純粋な力の前に伏してもらおう」
「私が伏すのはあのお方だけ。そして、純粋な力こそ私のもの」
かくしてウッホとイビルアイ、巨漢と少女の闘いは始まった。
仮に第三者がこの場を見ていればウッホが一方的に少女を嬲り殺すのだろうと思い込む。ウッホですらこのまま相手の実力が見た目相応であれば圧勝であろうと思っている。だが、少女の能力はそんな想像を容易く越え、そして少女の言葉通り純粋な力をウッホに見せつけるのであった。
「よーよー、ミガテよう」
大きな男を前にして額から汗を垂らしているミガテにトリニコは呼びかけた。
ウッホのサポートよりもミガテの方に付かなければならない。直接的な戦闘は出来ないが、傷を負えばすぐさま対応出来るように、より苦戦しそうなミガテをサポートしようとトリニコはこの場にいた。
「……なんだよトリニコ。俺は今、忙しいんだ」
「忙しい? 相手を睨みつけてはいるが全く動いちゃあいなぜぃ?」
「牽制し合ってるんだよ。俺もあいつも互いの力量が分かっているから迂闊に先に動けないだ。動いていないわけじゃねえ」
「そうかいそうかい。ならそのままでいいからオイラの言葉だけ耳から入れておいてくれ」
「ああ」
「この闘い、あんまり長引かせるなよ。これはオイラの予想だが、どこかへと消えた一匹の動物。こいつが油断した隙に奇襲してくるかもしれねえ」
何せ相手はホミーすら見逃してしまった相手だ。
いつの間にか背後から刺されていた、なんてことになりかねない。
「そういやいたな。……まあそれはおいおい考えるとして、というかトリニコ、暇だったらお前が警戒しておけ。俺はこいつを片付ける。だからトリニコ、背中は任せたぞ」
「お前からそんな言葉が出るとは驚いたぜぃ。あいよ! オイラがお前を完全に支援しきってやる。ミガテは目の前の相手にだけ集中しておくれ!」
役割を分けることでミガテが集中して目の前の相手を倒せるようになった。
トリニコは警戒と回復。どちらもこなさなければならないが、それでも直接的な危険はミガテに比べれば少ない。
楽な役割なんて存在しない。片方が欠けても互いに実力を発揮できないまま殺されてしまう。
だから、文句は一切出ずに……ミガテもトリニコも互いに決して仲の良い方ではないが協力することがここに決まった。
「話し合いは終わったのか?」
トリニコが下がるとミガテの前に立つ男が口を開いた。
「ああ、待たせたな。だが、お前も俺を警戒して動けなかったのならば、おあいこだ」
ニィ、と口の端を釣り上げてミガテは相手を認めている風に言う。
実際に、ミガテはこの相手の実力は高いと認めていた。カメサマと比べても遜色ない。
「あぁ? 動けなかった? そんなわけねえだろ」
しかし男はミガテの言葉を覆す。
自分は決してミガテのことを強いとは思っていないと。
「お前たちが遺恨を残したまま闘えばそれだけ弱くなる。お前が素の実力を見せられるように俺はあえて動かなかったんだ。闘う準備が出来たなら闘うぜ俺は。お前はどうだ? 闘う……殺し合う準備は出来たか?」
そう言って男は全身を震わせると、体毛全てを鋭く尖った針へと変えた。
「間抜けな名前だから名乗りたくはねえが、俺はぽん太だ。さあお前の力をこの殺し合いで見せてくれ。互いに高め合おうぜ」
対するミガテは数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの数の針に圧倒されるも口調だけは強がってみせる。
「殺し合う? 高め合う? 違うね、お前を喰らって俺だけが強くなるんだ」




