Take2―10 死因
「おー、アチチ……思ったよりも派手に燃えちまったな。って、この4匹燃えカスになっちまってるじゃねえか!」
「盾を直接燃やしたのが要因だろう。とめどなく溢れ出る油がこうまで派手に炎を作り出したのだな」
「なあ、早くしようって! この火を見たやつが来ちまうよ」
「まだ近くに敵はいないみたいだけど……そうね、集まり始めているみたいだからうかうかしてられないわ」
瞬く間に2チーム合計6匹を殺して見せた強襲者――ウッホ達4匹は敵の死体を見ながら周囲の様子を伺う。
「しかしよくこんなずる賢いこと思いつくわね。大きな甲羅は重量があるからその場で守る盾にはうってつけだったけど、小さい甲羅を投擲に使うなんて」
「石を打ちつけた火花で簡単に燃え上がるのはウッホが証明してくれたしよ。遠くからウッホなら投げられる。ウッホが勢いをつけて甲羅を投げて石で着火してくれりゃぁ、俺達は安全圏から攻撃できるってわけよ」
「ほとんどウッホの旦那の力じゃねえか……」
「ああ? なんか文句あるのかよ!」
例によってトリニコがミガテに食って掛かる。
「まあ、いいじゃないか。甲羅はミガテの能力だ。ミガテがいなければこの策は使えなかった」
「だろ、だろ! 俺のおかげだ。しかも最後に残った2匹のうちの1匹は俺の爪で仕留めたんだからよ、もっと褒め称えろよ」
「……まあ、そりゃよくやったとは思うけどよ……なんか釈然としねえのよな」
納得いっていないとばかりにトリニコは首を捻る。
尤も、この2匹の諍いに関しては性格上の問題の範囲内であるため、ウッホとしてもあまり強くどちらが悪いとも言えない。
「トリニコが先ほど言っていた通り、余り時間があるとも思えない。ミガテ、早く食べてしまえ。能力の確認は後回しだ」
「へいよー。5分だけ待っててなー。そんくらいで食べ終わるからよ」
そう言ってミガテは食事を始めた。
「旦那、次はどうすんだい?」
「同じように奇襲を続けるのもいいとは思うのだが……」
この戦法なら失敗したとしてもリスクが無い。
遠方から甲羅を投げて着火する。成功か否かはホミーが視ることが出来る。
失敗したなら正直に闘わずにそのまま逃げてもいい。どの道距離は十分にあるのだから。
「あー、そのことだがよ、次はかなり後になるぜ」
食事中のミガテから声が掛かった。
「後になるって?」
「やっぱりよ、甲羅のほんの一部だから制限はかなりかかっていると分かってはいたんだ。思っていたよりも小さい甲羅が使えたんで失念していたが、やっぱりしょせんは一部だった。甲羅の能力は一日に一度だけ。制限がかなり強くなってるな」
「それは……早く言って欲しかったわね」
「俺もよ、今ある甲羅のことばかり考えていたから次の甲羅のことを忘れちまってたよ。今初めて、次の甲羅を出しておこうと思ったんだが、出せなかった。感覚的にも明日になるまでは出せないな」
「明日というと、24時間後ということか?」
時間制限があるならこれははっきりとさせておかなければならないだろう。
きっかり24時間か、それとも約一日なのか。
「うーんとな……俺が寝て起きればそれでいいみたいだ。食事は有った方がいいな。十分な栄養と休息。これが重要みたいだ」
「食事は今行っているのと同じでいいのか?」
「ああ、それで問題ねえ。食事したという事実が俺の中で能力になって、食事したという結果が俺の栄養になってるって解釈だな」
食事問題で言うならばウッホ達はどうすればいいのだろう。
ウッホはふとそれを思い起こしてみたが、特段空腹感はない。疲れは有り、寝たいとは思うのだが食事に関しての欲求は無い。
夢の中だからなのか、それとも肉食草食の食べ物の差別を無くすためにそうした配慮がされた体になっているのかは分からないが、ミガテ以外は食事を用意する必要はないみたいである。
「じゃあ、別の案を考えなくっちゃいけないってわけかい」
「ふむ……そういえばトリニコの回復可能時間は後どのくらいだ?」
「それならもう終わったよ! 待たせちまって悪かったな旦那」
「問題ない。それも視野に入れて策を考えるが……」
しかしウッホは思う。
思考が全くクリアにならない、と。先ほどの奇襲でウッホは手傷を負っておらず、しかしながら闘うためにドラミングは行っていた。
知能が一段階下がっている。これが今のウッホの状態であり、頭の隅に靄がかかったかのように深い思考を邪魔している。
「……ん……」
何かが出かかっている。
この状況を改善するための何かを思いつきそうなのだが、喉元で引っかかっているような感覚だ。
「旦那!」
「……トリニコか」
「トリニコか、じゃねえよ! さっきから呼んでるじゃねえか」
「あ、ああ……すまない。少し考えがな」
「ん? ああ、そうか。旦那はさっきドラミングしてるから知能が下がってるんだっけか」
「まあ、な。正直、考えが纏まらなくて今の会話すら難儀だ」
「早く言ってくれりゃ良かったのによ」
そう言ってトリニコは掌に小さな灯火を作る。
それをウッホに当てると、そこに頭の隅にあった靄が吸い込まれていくかのように思考がクリアになっていく。
「そうか……そうだったな。忘れていた」
カメサマとの闘いでもトリニコの炎でなぜか知能低下は無くなっていた。筋力強化も同時に消えていたのでドラミングの効果そのものが消えているようだが、これは明らかに回復能力とは違う。
「……トリニコのその能力」
「ん……まあ今は秘密だ。でも旦那のドラミングによる知能低下は消し去れるから今後も言ってくれよな」
「何だよ、秘密なのかよ。おいおい、チームなんだから教えろや」
「ミガテには絶対に教えるかよ。オイラの能力は悪用されると困るんだ」
「俺が悪用するみたいな言い方じゃねえか……。ええ? 俺のどこを見てそう言えるんだ」
またも険悪な雰囲気になってしまっているためウッホは話を変えようと話題を探す。
と、ホミーが一か所を見ていることに気づく。
「ホミー、どうした。もう敵が来たか?」
「いえ、ちょっとね……。敵はそうね、後1分ここに居れば危ないかもしれないわ」
ということは後1分弱はここにいても安全ということだろう。
その辺りはホミー頼りではるが、任せるしかない。
「私が視ていたのはある1匹……私を生前殺した敵よ」
「ホミーを殺した敵か……」
ホミーの能力は索敵に特化しているところが強い。そのため、敵が来ればすぐさま逃げることが出来るはずだ。
それでホミーが殺されているとなると、ホミーの能力を無効化出来るもしくはホミーが真正面から闘ったということだろうか。
「同盟を組んだ直後の不意打ちだったわ」
しかしながらウッホの思っていたものとは全く違っていた。
同盟破棄。しかも不意打ちであればその動物は知略タイプであろうか。直接的な戦闘力は低いはず。
「ホミーがその敵に復讐したいのであれば、そうしてもいい。どうせ次の目的はまだ決まっていないのだ。俺達の復讐をする、そういう目的でも構わないだろう」
尤も、ウッホは知らないことだが、ウッホを殺したドリーはまだ健在である。あの時よりも強くなっているかと言われればそうではなく、全く変わらない戦闘力のまま生き続けている。
「復讐ね……考えたことも無かったけれどいいかもしれないわ」
「俺の食事も終わったぜ。次の獲物を見つけに行くってんなら賛成だ」
ミガテも同調する。
「オイラも構わねえよ。まあどの道オイラは補助しか出来ないけどな」
トリニコも立ち上がる。
「ありがとう……素直にお礼を言っておくわ」
ホミーが頭を下げる。顔を上げた表情からすると本心から礼を言っているようだ。
「敵は4匹。うち1匹は私が倒す。後の3匹はお願いするわ」
「俺とトリニコで2匹、ミガテが1匹、か」
「オイラはそれで構わねえけどよ……ミガテは大丈夫かい?」
「ん、……まあ今喰ったやつの能力を上手く使えばいけるか……。少し弱い能力だがこういうのは数で勝負してやるか」
「全員……というか未だ不明の1匹は除くとして、4匹で行くとするか」
「そこに行くまでは私のプライドにかけて他のチームには見つからないように進むわ。……絶対にあいつだけは私が正面から倒す」
ホミーが自分の主張を強く述べたのは初めてだろうか。
いつも誰かをフォローしている印象が強くウッホには残っていた。
チームにとっては良い徴候だろうか、とウッホは前を歩くホミーを見て少し笑った。




