Take2―9 奇襲
「要は奇襲ってことね」
「闘っているところに奇襲はそりゃ成功率は高いかもしれないけどよ、2チームを敵にしちまうってことだろ?」
下手をすればこの4匹で10匹を相手にしなければなくなる。
争っていた敵を和解させることになるかもしれない――それはルール上不可能ではあるのだが。
「勿論、ホミーにある程度減っているチーム同士の闘いを探してもらう。消耗し合っているチームならこちらの奇襲で数匹を一気に倒せるかもしれん」
ただその辺りで休んでいるチームに対しての奇襲であれば誰かしらが警戒しており、失敗に終わる可能性は高い。
しかしながら争っている2チーム。これならば警戒している暇など無く目の前の敵を倒そうと、目の前だけに集中する。奇襲は上手くいく可能性は高く、ウッホだけでなくミガテやホミー、トリニコも奇襲に加わってもそれぞれが撃破出来ることも可能かもしれない。
「全員、回復は済ませてあるな?」
「ああ、さっきの闘いじゃ傷を負ったのはオイラとミガテだったが、一番遅いオイラが終わってる。次に回復出来るのはしばらく後だけどよ」
「ふむ……」
すぐに他チームを見つけて奇襲をかけるか。
それともトリニコの次の回復可能時間まで待つか。
前者のメリットとしてはミガテの強化がすぐ出来るということだ。トリニコを待つ間に他チームに遭遇してしまった場合、ミガテが中途半端にしか闘えなくなってしまう。すぐに他チームの動物の死体をミガテに食べさせるためにも奇襲は早い方がいい。しかしトリニコがここで致命傷を負ってしまった場合、回復できずにトリニコが死んでしまうとチームとしても痛い。それだけトリニコの回復能力はこのチームの要とも言える。
トリニコさえ無事であれば他はどれだけ傷ついてもいいのだ。回復出来てしまうのだから。
後者のメリットはその回復能力を十分に生かせるということだ。トリニコが積極的に闘えず、ウッホ達がトリニコを守って闘うよりはトリニコ自身にも一回は致命傷を食らっても自力で回復出来るという点を活かした闘い方をしてもらった方がいい。しかし、この場合はミガテの強化が遅れてしまう。
トリニコの回復かミガテの強化か。
それをウッホは悩んでいた。
それは自分だけでは決められない。ウッホはその考えを仲間に伝える。
「……俺かトリニコか、か」
「オイラとしてはこのまま待ってくれた方がいいけどな。ミガテは力の強弱だけの問題だけどよ、オイラの場合は生死に直結する」
それもあるためウッホは後者へと考えを傾けていた。
ミガテの強化は後でどうとでもなるが、トリニコの場合はどうにもならない。
「んー、俺がトリニコの腕なり喰ってもいいってんなら話は別なんだけどな」
「嫌だよ。誰が喜んで自分の腕を食わせるものかよ」
ミガテがトリニコの腕を食べる。それはウッホには無い考えであった。
トリニコの回復能力をミガテが得たならば、制限はあるだろうが回復能力を持つ者が2匹に増える。トリニコの回復をミガテが担当すれば時間的問題も解決できるかもしれない。
だが、トリニコは嫌がっているようだ。
「それに、ミガテが得る能力は食べた割合で変化するんだろ? オイラの腕を食べて自分だけしか回復出来ない、なんてあるかもしれねぇ。そしたら食われ損だ」
「嫌なものを無理強いさせることはしないが……」
ならば、やはり後者の時間が来る時まで待つしかないのだろうか。
それまでの間はホミーに警戒をし続けてもらおうか。そうウッホが結論を出した時、
「奇襲をよ、トリニコの回復時間を待つ理由がトリニコが闘った時に危険だからだよな?」
「そうだな。今トリニコに闘わせるわけにはいかない」
「だからよ、俺とウッホだけが闘える状況になりゃいいんだろ? ホミーとトリニコに補助させる。さっき話に出ていた通りに」
出ていた。出ていたが、それは1つのチームを相手にした時のことであり、2チームに奇襲をかける場合ならば闘う相手は必然的に増えることになる。
最低でも2匹。だが、そんな状況はまずない。それ以上いるに違いなく、奇襲をかけて数を減らしたところで3匹以上は残るだろう。それをウッホとミガテだけで相手をするのは難しい。
だから、リスクを回避するためにもトリニコの回復時間を待たなければいけないのだ。
「ホミー」
「何かしら?」
ミガテがホミーに呼びかける。
「近くに……そうだな、両チーム合計5匹くらいで闘っているところはあるか?」
「……無いわ。6匹のならあるけれど」
「6、か……まあそれでもいいか」
ミガテがホミーの指さした方へ歩いて行く。
「おいミガテ」
「安心しろよ。俺は単独行動をするつもりは無え。安全に、複数の敵を殺す手段を思いついたからよそれを試しに行くだけだ」
「6匹ということは一度に4匹倒すことになるが大丈夫なのか?」
「それは賭けだな。もしかしたら一匹だけかもしれねえ。上手くいけば6匹とも殺せるかもしれねえ。だが、俺の考える限りは成功率はとても高い。そしてウッホ、お前がいれば成功率は上がる」
「……分かった。まずは詳細を聞こう。実行するか否かはそれからだ」
そこでは3匹と3匹が殺し合っていた。4匹は地に倒れ夥しい量の血を流している。顔には死相を浮かべているため生きてはいないだろう。
出会いがしらの衝突であった。
両チームに偵察のできる動物がいなかったことが原因かもしれない。
両チームにリーダーはいても頭脳がいなかったことが原因かもしれない。
考えずに動いていたことが原因だったのだろう。
木々を潜り抜けながら5匹と5匹が歩いていると、ばったりと出くわしてしまった。
驚きながらも互いのチームの最も好戦的な者が放った一撃が奇跡的に互いのリーダーの急所に当たり絶命させた。その後、その一撃を放った者も狙い撃ちにされ殺された。
こうしてリーダーが不在のまま撤退することもできず、纏まることも無く戦闘に入ったのである。
どちらも攻撃的な者を失い統率者を失い、どちらとも先手を打つことなく固まる。
先に攻撃を仕掛けた方が負ける、などとは両チームとも思ってはいないが、次の行動をどうするべきか。それを誰かが指示してくれないと動けない。
拮抗状態以前の硬直状態。
緊張の糸は張りつめており、ふとした拍子に糸が切れ全員が何も考えずに殺し合ってしまうことは確実。しかし緊張を緩めることは出来ず、次第に精神だけが摩耗していく。
そして糸をぶちぎるような飛来物が3匹と3匹のちょうど中間地点に地面にめり込むほどの勢いで飛んできた。
飛来物は地面に落ちる直前まで回転をしており、付着していた液体を周囲に飛び散らせる。当然ながら6匹も顔や体に液体が付着し、何だこれはと手に取り嗅ぐ。
「……お前らの仕業か?」
「は? 俺達じゃねえぞ。……まさかそっちの増援じゃないだろうな?」
両チームともに飛来物に見覚えも心当たりも無く、ただ地面に埋もれた飛来物を見る。
楕円形をした甲羅によく類似した飛来物を。
さらに先ほどの飛来物と同じかそれ以上の勢いで小さな何かが飛んできて、先の飛来物に当たった。よく見れば、地面に落ちたそれを見れば小石であることはすぐ分かったのではあるが、6匹全員が確認することは出来なかった。
6匹いるうちの4匹。最も飛来物に近かった動物達の体に突如火が付いたのだ。
「ぐあ、あぁぁぁぁぁ」
「何だこれ、消えねえぞ!?」
「熱い!? 誰か消してくれ」
「おい、お前、この火をどうにか……」
燃え盛る仲間を見て取り残された2匹は動くことが出来なかった。
1つは火を恐れる動物としての本能である。近づくことを体が、脳が拒否していた。
そしてもう1つはこれを行った誰かがいるという事実。無暗に動くわけにはいかない。
「もう遅いんだよなぁ」
しかしながら近くの木から飛び降りた大男に1匹は驚き固まる。その隙に大男の巨腕はその1匹を腕の一薙ぎで肉片へと変え、もう1匹は地を駆けてやって来た男に首を噛み切られて絶命した。




