Take2―8 方針
「ひとまず全員生き残ることが出来たか」
ウッホがカメサマを倒し、翔太郎が逃げだしたおかげでホミーと合流することが出来た。
闘いにおいての経験値というものは傷を負ってでも得ておきたい。それが1匹でなくチーム戦でなら尚更だ。そして傷を負ってでもというが、大抵の傷であればトリニコがいれば解決する。
即死しない限りは無茶出来る。だから積極的な戦闘を行ってもウッホのチームは問題がない。
問題があるとすればこのチームが現在4匹しかいないこと。
そして、戦闘員が少ないことだ。
先の戦闘もウッホしか相手を倒せていない。
ホミーは相手が弱く、それでいてタフであったため倒しきることが出来なかった。
「だけどよ、倒したのは1匹だけじゃねえか。ホミーお前、逃がしたってどういうことだ」
「なによ、喧嘩売ってるの?」
ミガテがホミーに毒づく。
「俺達は火を使う強敵を倒したんだぜ? そりゃ一匹は能力で逃げられたけどよ、お前は止めをさせきれなくて逃げられたんだろ? しっかりしてほしいぜ」
「くっ……」
逃がしたことは事実。そしてミガテ含め三匹が敵の一匹を倒したのもまた事実。
言い返したいけれど言い返す材料はない。
戦闘における決定打を持たないホミーが闘いをジリ貧に持ち込まれた時点でこうなる結末は見ておく必要があった。
「そこまでにしておけミガテ」
「そうだぜ。あの戦闘でお前を治したのはオイラ。そして敵を倒したのはウッホの旦那だ。ミガテは何もやってなかっただろ」
しかし仲間内での諍いはウッホの望むところではない。その意を汲んだトリニコもそれに乗る。
「ホミーには適した役割がある。トリニコにも、そしてミガテお前にもだ」
「俺に闘えって言うのか? だけどよ、倒した敵を食らうにもあの有様じゃあな……」
ミガテは先ほど倒したカメサマの死体を思い出す。
体に燃料を詰め込んでいたようなカメサマは火の中に入れた途端に勢いよく燃え、そのまま数分と経たないうちに炭となった。そして火は未だ消えず炭を取ることもできず風に乗って散らばってしまった。
「せめて火に入れちまう前に甲羅でも取り外しておけば……いやあの硬い甲羅じゃ俺の歯でも喰えねえか」
ちなみに甲羅も熱には勝てなかったようで火に沈んでいった。
溶けたのか蒸発したのか、それとも炭となったのか。元は甲羅であるが金属並みに硬くなっていたあの物質が火の中でどのように変化したのか。想像すらつかない。
「……体の一部というが甲羅でも良かったのか?」
「ああ。能力で生み出されてたからな。石を使う能力で石を喰っても変化は無いが、石を産みだして使う能力なら産み出した石を喰らうことで能力は得られる。だが、本体を喰うよりもだいぶ弱くはなるだろうけどよ」
「ふむ……そうか」
納得したかのようにウッホは頷いた。
それを見てミガテは何を言ってるんだこいつとばかりにウッホの顔を眺める。
「ならばこいつを喰え。俺には無用の長物だが、お前には違うのだろう?」
そう言ってウッホが差し出したのは何かの破片であった。
「俺が甲羅を殴っていたのは見て……いなかったか。甲羅にヒビを入れた時にな、いくつか掌に握りしめていた。握力まで上がってしまったから砕け散ってしまったが、結果的には、お前にとってはこちらの方が都合がいいだろう」
破片は丁度ミガテが飲み込めそうなほど砕かれていた。
最初から、ミガテに食べさせるために砕いていたのかと思うほどに。
「うおぉ、いっただきまーす!」
ミガテは甲羅の破片をゴクリ、と噛まずにそのまま飲み込む。器用に破片の1つも口内に残さず喉に引っかかることもなく胃へと送り込む。
「お、お、お……おぉ?」
「どうだ? 何か変化はあったか?」
ミガテはそのまま下を向いて黙る。
もしや、小さすぎて能力発動には至らなかったのだろうか。
見守る3匹が心配になった頃にミガテは顔を上げた。
「なるほどな」
ミガテは晴れ晴れとした顔をしていた。
「おい、何がなるほどななんだよ。早く教えろよ」
ミガテに喧嘩腰であるトリニコもミガテの能力に興味はあるようで急かす。
「甲羅の破片だからよ、どんだけ制限された能力になるのかって心配だったが、いやはや本体を喰らうよりも良かったみたいだ」
「本体というのはカメサマのことか」
「ああ。能力に直接関わるのは甲羅だったからなのかね。まあいいやそんなことは。俺が得た能力。それはこれだ」
そう言ってミガテは甲羅をどこからか出した。
その形はカメサマの甲羅と全く同じ。しかしながら大きさは違った。
ちょうど手に持つのが良いくらいの小さな盾にでもなりそうな大きさ。
全身を覆っていたカメサマの甲羅とは比べ物にならないほど小さな甲羅であった。
「こんだけ小さけりゃ甲羅とは呼べねえな。まあ小楯かね。だが、どうも硬さは同じみたいだ」
「と、いうことは……」
「ああ。ウッホの攻撃をもしのぐ盾。それが俺の能力として発動したってわけだ」
これには一同明るい表情となる。
大きさとしては不十分だが、ウッホを苦しめた甲羅が一部ではあるが味方の能力として使えるのだ。
「小さいってのも案外悪くはねえ。あのカメサマとやらは体格があったからあの甲羅でも良かったが、俺にはこれくらいで十分よ。むしろ小回りが利くからこっちが良いくらいだ」
「なるほどな。盾持ちの前衛か。ミガテ、お前の役割も決まってきたようなものじゃねえか」
トリニコがミガテを褒めるのは初めてではないだろうか。
それを聞いてミガテも気を良くしたようだ。
「任せとけ。これなら多少の攻撃は防いでやるよ……それとな」
と、ミガテが3匹の方を向いて言う。
「これで分かったとは思うが、俺の能力は相手の一部分でもこれだけの性能で発動することもある。だから、相手と交戦した時はどれだけ小さくても、最悪倒せなくても体のどこかのパーツは持ち帰って来てくれ。それだけで俺は強くなれる」
「ひいてはこのチームの戦力も上がるってわけか」
「このチームの方針も決まってきたみたいなものね」
積極的な戦闘。
それを目的にしても25チーム100匹いるこの森の中では終わりが途轍もなく遠い。
何か身近な、もっと倒すことに対するモチベーションが必要ではあるとウッホは最初から考えていたが、ミガテの能力をこうして目の当たりにするとその能力の重要性が分かってくる。
誰だって闘えば傷を負い消耗する。
だから終盤は体力や肉体面では弱くなる。
ミガテだけは違う。
倒せば倒すだけ、喰らえば喰らうだけ強くなれるミガテは終盤戦における切り札となる。
「それで、どうするんだい? 守りに徹するか、攻撃に出るか。それともホミーの能力で各チームの戦力を図るか」
守りに徹すれば、不意打ちも避けられる。むしろホミーがいれば不意打ちされたと見せかけて反撃出来る。
各チームの戦力を図るのも同様にホミーがいれば簡単に行える。どこでどのチームが闘っているか、どこにチームが消耗して数が少なくなっているか。数の不利がウッホのチームに存在する限り、このチームよりも少ない人数のチームを知ることは必要である。
「あのどこか行っちまったやつが戻ってくればなぁ……簡単には許すつもりはねえけどよ」
「……まだ近くにいるわね。やっぱり私達に付いてきているみたい」
ホミーの言葉にウッホは安心する。まだ死んではいない。ならばそのチームから抜け出した者が心変わりして戻ってくるという可能性は十分にある。
「だけどよ実質4匹みたいなもんだぜ? 攻撃するって言うんなら相手も4匹以下を狙うか、もしくは最初の一撃でウッホの旦那が一匹殺すくらいやってくれねえとこっちが辛い」
トリニコやホミーが戦闘に不向きであることを考えればむしろ3匹のチームを探し出し、1匹をウッホが不意打ちで、後の2匹をウッホとミガテが担当しトリニコとホミーには補助についてもらうのが一番であろう。
「闘うことに関して、反対意見のある者はいないな? それならば……」
と、ウッホは今後の方針を話し合っていた頃より考えていたことを仲間に伝えた。
「どこか闘い合っている2チーム。そこを叩こうと思うのだが、どうだろうか?」




