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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
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Take2―7 無音 

 まだ日の出ているはずの時間帯の森の中を走っていた。

 日の出ているはず。そう表したのは、森に茂る木々が高すぎて空を覆い、日が見えないからである。常に夜の森を走っている。そう錯覚するくらいには薄暗い森であった。

 時折、葉が少ない場所では木漏れ日が漏れているためまだ昼なのだなと思い出させてくれるが、それでも夜目が効かないこの身では走ることすらままならない。


「まったく、この能力で本当に良かった」


 走ると言いつつ足はほとんど動いておらず。

 走ると言いつつ目はほとんど何も見ておらず。


 いくら走ろうとも息を切らすことも無く。


 翔太郎は己の能力は闘うためでも、誰かの闘いをサポートするためでも無かったとようやく理解した。

 『(ラビット’ズ)(ハート)』。移動能力としてはこれ以上ないと翔太郎は自負していた。

 そう、移動だ。戦闘ではない。用途はまさしく移動のためだけに使われるべき能力なのである。


「俺っちの能力は他人のためには使ってられない。俺っちが生き延びるためだけに次皮得る能力だ」


 移動とは1つの場所から1つの場所へと位置をずらすこと。

 他の動物がその場所に来ても、位置がすでにずれていれば鉢合わせすることはない。ただ歩いていたり走っていたりすればその移動途中に出会ってしまう危険性はある。だが、翔太郎の能力であれば移動途中というものが存在しない。それをすっとばすのが翔太郎の能力なのである。


「脱兎のごとくとはよく言ったものよ。俺っちの能力は逃走専門さ」


 能力を上手く使い今も現世で逃げ生き延びているスナックとは違う。能力そのものが逃げることに最適とばかりになっているのである。


「カメサマには悪いことしちまった……とは思ってないなぁ。俺っちは自分のために生きているんだ。カメサマのために自分の命を危険には出来ねえや。寂しいと死んでしまうウサギだけど、それ以前に死から逃げるのが俺っちさ」


 翔太郎が見たカメサマの最後の表情は裏切られた、という顔であった。

 しかし翔太郎からしてみればカメサマはたまたま敵ではなかった関係であって、命を預け合う仲間になったつもりはない。

 優勢になっていればこちらも生きるために相手を殺す努力くらいはするが、劣勢になれば勝利を掴むために努力をするのではなく、生きるために逃げ延びる。それが翔太郎だ。


「リーダーや弥七、それにアイツらは今頃俺っちを逃がすために闘っているんだろうな……それを考えると……」


 翔太郎は1人小さく呟く。

 サァッと風が吹き翔太郎の頬を撫でた。


「笑えてくるぜ。俺っちを仲間と思い込んでいるやつらが俺っちのために闘ってくれるなんてさ。確か5人まで生き残っていればいいって言ってたな……なら俺っちは1人でその5人の中に入ろうかね」


 翔太郎がこれからの目的を考え呟く。


「残念ながらそれは叶わない。仲間ではないお前はここで死ぬからだ」


 音もなく木から飛び降りた翔太郎の属する……属していたチームのリーダーであるホープが翔太郎の背後から首を鉤爪のごとく尖った爪で頸動脈を掻っ切った。


「は……? なんで……」


「お前の考えていることはすぐに分かった。逃げた瞬間にな。だから、向いていた方向を辿ってここまで飛んできただけのこと。フクロウは森の王者。どれだけ逃げても無音の狩人たる俺からは逃げ切れない」


 じゃあな、とホープはそのまま現れた時と同様に音もなく姿を消した。

 まだ翔太郎はかろうじて生きている。だが、止めを完全に刺すことも無く、手当をすることも無く消え去る。


「ま、待ってくれよ……こんなとこで俺っち1人でなんて……」


 翔太郎の首からは止めどなく血が流れ続ける。

 それは風に乗って血に飢えた獣たちを呼び寄せる撒き餌となる。


「うわ、あぁぁぁぁぁ!?」


 まもなくして翔太郎は全身を食い破られて死んだ。

 裏切者には相応しい末路だ。そう木の上から弥七と共に見ていたホープは思った。

 隣に立つ弥七を見て、全員がこうして自分に傅いているならばどれだけ楽か。そうも思ったが、それ余りにもつまらないと、弥七だけで十分だと思い直す。


「さて、戻るか弥七。残して来たアイツもそろそろ限界だろう」


 攻撃と防衛共にこなしたカメサマ。

 サポートに徹し最後には1人逃げ出した翔太郎。

 常にリーダーであるホープに付き従う弥七。

 それらを纏めるホープであったが、最も仲間思いでありあの場に1人残った動物を思えば戻って助け出すことも悪くない、そう思えるのであった。





「……嫌になるわねもう」


 1対1の闘いであるが時間稼ぎくらいは任せて欲しい。

 そうウッホに強気で言って見せたつもりであったが、ホミーは相手と闘い始めて後悔し始めていた。

 

 時間稼ぎ。始めはそう思っていたが、いざ始めてみるとそれは途轍もなく難しいことだと思い知らされた。


「我は仁義を尽くす者なり。我を友と認めてくれたホープ殿に報いるまで、貴様を逃がしはせぬぞ!」


「うるさいわね……」


 ホミーは爪を一閃。

 敵の頭部から垂直に爪を突き立て脳を直接破壊する。

 心臓と同じく急所だ。

 手足や腹部といった内臓への攻撃では一瞬では死なず、反撃を許してしまう可能性がある。


 ホミーは相手の体を視て、最も効果的な部位を狙った。

 そして脳を破壊し、相手が動かなくなったことを確認する。


「終わったかしらね……ハムスターのグランとか言っていたけど、厄介というよりは面倒臭い相手だったわ」


 何せどれだけ攻撃しても立ち上がってくるのだ。

 そのくせ相手の攻撃自体は大したことの無いもの。まともに戦闘経験のないホミーであっても避けられるものであり、当たったとして手加減しているのかと疑いたくもなるほどの弱さ。

 しかしして、この敵が弱い一端としての心当たりがホミーにはあった。


 ホミーが視た限りでは、グランは能力の使い方を間違っている。

 回復力を溜めることのできる能力。それ自体は間違っていないのだが、それを活かした闘い方はもっと別にある。


「まあ、それをわざわざ言う必要もないのだけれど」


 敵を強くする必要はない。

 弱いならばそれでいい。

 ホミーはバトルマニアではなく勝つために、生きるためにこの敵を引き受けた。

 ならば勝ってそれだけで満足できる。


「さて、ウッホさん達に合流しないと」


 思っていたよりも弱かった。これならばこちらへの応援はいらず焦らないで自分達の闘いに専念していてほしい。いや、それよりも自信を付けられたホミー自身も参戦しようかと、ウッホ達のいる火炎燃え盛る火の海を見て少し後ずさりした。


「も、もうちょっとしてからにしようかしらね……。相手が優勢に立って油断したところを私が状況をひっくり返す。……うん、これね。これしかないわ」


 今現在、火の海からの脱出法を考えていたウッホ達からすればホミーが駆け付け、空を飛んでウッホ達を脱出させてくれるのが最もありがたいことであったのだが、それを知らないホミーは闘いの後の一息を付け始めようとする。


「まだだ……まだ終わらない」


 しかしながらホミーの足を掴む者がいた。

 それは脳天を貫かれ絶命したはずのグラン。彼は未だ頭部から血を流してなお、ホミーの行く手を遮ろうとしていた。


「ああ、もうしつこい」


 再び脳へと爪を突き立てる。

 何度目だろう。絶命に至るはずの傷を与える。


 しかしそれでも数秒も経てば、


「まだ……我は我の役目を果たさねばならぬのだ……」


 と、立ち上がる。


 ホミーは相手の状態を視る。

 後一撃。そのはずなのだ。しかしながらそれでもグランは立ち上がる。


 能力を使った真の闘い方をしているわけでもない。

 これからのパワーアップを期待しているわけでもない。

 たち

 つい先ほど仲間になった者を生かすため。そのために彼は立ち上がり続けていた。


「……なら、原形を留めなくなるくらいにやるしかないわね」


 何度も何度も何度も何度も殺し続ける。それならばいつかは立ち上がらなくなるだろうか。

 あるいは少し遠くで燃え盛る火の海。そこに放り投げればさすがに回復出来なくなるのだろうか。


「やめてもらおうか。そいつは俺の仲間だからな」


 音も無く飛び、音も無くグランを掴み、音も無くそのまま消えていった何者かが言葉を発した。


「いつの間に!?」


「このままお前を殺すこともできるぜ。だけどよ、カメサマも死んじまった今、お前の仲間はすぐこちらへとやってくるだろう。だから今は見逃してやるよ」


 と、ホミーにとっては幸か不幸か、グラントの勝負に横槍が入れられ、決着のつかないままに勝負はお預けとなった。とは言え、ホミーにとっては二度と闘いたくもない相手であっただろう。

 戦闘用の能力ではなく、決定的な攻撃に欠けるホミーにとって回復を能力とするグランは相性の悪いというか時間のかかる相手であった。


 出来るならばウッホに一撃で消し飛ばして欲しい。

 敵の言葉によればもうすぐこちらへと来るであろう仲間に対してそう思うホミーであった。


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