Take2―4 襲撃
闘いはすでに始まっているが動く者は少ない。
敵の数は明確に決まっており自身を含め100匹いる動物からチーム5匹を除いて95匹。これだけの数を倒し頂点に立たなければならない。
そしてルール上、5匹一組でこちらが動くことが前提であり、敵も同じくである。ならば、無暗に一匹で動くことは死を意味することに他ならない。
どの動物も慎重にならざるを得ない。
万が一にも死ぬわけにはいかない。
現在3週目を生きようとしている現実世界で闘う動物達。彼らとの絶対的な差がこの夢の世界で闘う100匹の動物達には存在する。
それは死を味わったということ。死というものが遠いものではなく身近に、ごくありふれたものだと彼らは知ってしまっている。死んで学習している。
身体能力も頭脳も与えられた能力すらも絶対に自身を勝利に導いてくれるものではなく、時に運や相性も勝敗には関係する。力押しでは勝てない。頭脳だけでは勝てない。能力だけでは勝てない。全てを持っていても勝てない。
慢心していたが故に負けた者。
臆病であったばかりに負けた者。
何をすることなく負けた者。
敗者の寄せ集めであり勝利を知らぬ者達。生きることに渇望する彼らは死だけは絶対に免れなければいけない。
「……囲まれているわね」
それでもなお、少数ではあるが即座に攻撃を仕掛ける者もいる。
チームの結束力を固めるだとか、策を練ることで方向性を固めるだとか、他の動物達の様子を伺うといったことの必要性が分かっていないわけではない。
分かっているからこそ、そういったチームは今すぐに攻めて来られないだろうと油断しているからこそ、彼らは即座に他チームへの攻撃を仕掛けてきたのであった。
草の根を掻き分け、葉を避け、木々を潜り抜けながら他チームを探す彼らは細心の注意を払いながら接近していることを悟らせないように動く。
物音ひとつ立てずに、それでいて迅速に。
合計25あるチームのうち最も狩りやすいチームはどれか。
それは――序盤にして一匹が離反したチームに他ならない。
「(ゴーゴーゴー)」
チームのリーダーが手で合図をし、他の4匹を見つからない位置にまで招く。
その動きからリーダーが最も隠密行動に長けており、他が少しばかり劣っているといったところである。
「(しかし、猿真似とはよく言うが本当に助かるぜ。誰か1人の長所を皆で共有し合える。『猿の心』を持つニホンザルの弥七……つくづくチーム戦向きだぜ)」
リーダーの真後ろの控える全身黒ずくめの男。
彼は言葉を発することなく、リーダーの言葉に反することなく従って着いて行く。
「(言葉を返さないから相談相手にはなりはしないのが欠点だが、それはこいつの性格上の問題。能力には何ら問題ない)」
黒ずくめの男こそニホンザルの弥七。彼の能力である『猿の心』は他の動物の行動を真似することが出来る能力である。
リーダーが称したように猿真似。そして、猿知恵。ニホンザルならではの他の動物よりも高い知恵で以て他の動物の行動を観察し、それを自身のパフォーマンスとして取り入れる。どれだけアクロバティックであろうと、どれだけ非常識であろうとそれを肉体のみで行えるのであれば彼の能力で以て出来ない動きはない。
しかし所詮は猿真似。その制限ともいうべき欠点は存在する。肉体以外で行われる行動……つまりは能力によって行われる行動は彼には出来ない。
例えば巣の身体能力が高いことで石を割る動物がいたとする。これは真似できる。
例えば能力による身体能力の強化によって石を割る動物がいたとする。これは真似できない。
どちらも結果的には同じ行動であるのだが、そこに能力が介在する限りは『猿の心』は発揮出来なくなる。
1週目ではそうして能力による攻撃を真似できないためにあっさりと敗北した。
「(だがこれをチーム戦に当てはめてみるとそれは当たりの能力なんだよな。しかも自分だけでなく他のやつにも真似した行動を教えられる……まあ多少はレベルが落ちているみたいだが問題はない。……なんせ俺の抜き足は天下一品だからな)」
能力だけは真似できない。そうした制限を課せられているがゆえに弥七の能力には他のメリットが存在していた。
それこそが猿真似の教授。真似したことを教えることが出来る。伝言ゲームのように自分で得た感覚ではない分、完全にとは言えないが、それでも隠密行動を取るには十分すぎるほどの猿真似を教えていた。
「(つくづく他人に使われる性格と能力だが、それでいい。だから裏切るということをしないだろう。俺がせいぜい便利に使ってやるからそのまま最後の5匹にまで生き残らせてやるさ)」
やがてチームの動物達がそれぞれ規定の配置に着いたことを確認するとリーダーは
「(俺がまずやる。後はお前ら、好き勝手に動け、殺せ!)」
と、仲間に目配せをして飛び上がった。
「見つかっていない。そう思っているのでしょうね」
「今はどの辺りにいるんだ?」
ウッホがそう、敵チームの位置も動向も全て視えているホミーに尋ねる。
どれだけ足音を立てずとも、物音を立てずとも、暗闇に隠れようとも、そこにいるのであればホミーには全て視えている。それこそ、視覚そのものを奪われない限りはホミーから隠れることは出来ない。
隠れているつもりの他チームはホミーには丸見えであった。
「ここから10mも離れていないところね。そこに草むらがあるでしょ? あれに1匹、隣の木の裏に1匹、その上に2匹」
「……4匹だけなのか?」
「いえ……最後の一匹は……真上!」
ホミーの言葉と同時に空から石が降り注いだ。
「『梟の心』」
ただの石。当たれば少しだけ痛いだけなはずのただの石が4匹に降り注ぐ。
普通であれば、それだけであればすぐさま4匹は臨戦態勢から反撃に移っていただろう。
しかし石は普通の石でも、それを放った者が普通ではなかった。
「ぐぁっ!?」
「いたっ!?」
ミガテは頭部に石が当たりそのまま倒れる。
トリニコは腕に当たり、当たり所が悪く骨折する。
「なんだ!? そこらにあるただの石のはずだろう?」
ホミーは事前に視えていたためか全ての石を避け、ウッホは腕の一振りによって生み出された風圧で石を弾き飛ばした。
「ふん、1匹を仕留め、1匹は骨折ってとこか。まあ順調だ。さあ、残りはお前らに任せたぞ!」
そう言って石を放った襲撃者――リーダー――は消え去り、3匹の動物が新たにウッホらを仕留めようと四方を囲むようにして現れたのであった。
「チッ……トリニコ、回復次第参戦しろ。ホミーは……闘えるのか?」
「……1匹くらいなら請け負うわ。ただし、勝つというよりも守って時間を稼ぐ形になるかもしれないけれど、いいわね?」
ホミーに期待するのはあくまでも偵察やこうした索敵であって直接的な戦闘は望んでいない。それはウッホやミガテの仕事だ。
そしてミガテは石が頭部に当たったことにより気絶している様子だ。
「構わない。すぐに俺がこいつらを倒しそちらも倒す。策などない。持ちこたえていろ」
「分かったわ」
ホミーはそのまま3匹の敵対者のうち1匹を引き連れ離れていった。
「俺は……この場を離れるわけにはいかないな。放っておけばミガテやトリニコが狙われる。先ほど石を放ったやつを合わせて後2匹はどこかに潜んでいるはずだ……少なくともトリニコが回復するまでは離れられない」
トリニコは未だ回復中だ。最初に能力を見せた時は一瞬であったが、今回は時間がかかっている。
「……まさか、自分と他の動物では次に回復できるまでの時間が違うのか?」
トリニコが回復しようとしている腕。それはウッホが握り締め痣を作ってしまった方の腕である。
ウッホの小指は5分程度で回復までの準備時間は終わると言っていたが、それはあくまでウッホのこと。トリニコは自らの準備時間を語ってはいない。
「……あの馬鹿」
まだ完全に心を開かせていなかった。
まさか一番最初に仲間になった者が一番能力を明かしていなかったとは。……この分では他の仲間も疑わしい限りではあるが、今はトリニコとミガテだ。
「トリニコ」
「……なんだよ旦那……いや、言いたいことは分かってるが」
「ミガテの治療を優先しろ。少なくともミガテは闘える動物だ。お前はミガテを回復させたらホミーのサポートをしてやってくれ」
「……さすがに戦闘中にお説教は無しってか。あいよ、正直ミガテは嫌いだが旦那は気に入っている。優先してやるさ」
「どの道このままでは全滅だ。さっさとやれ」
そう言ってウッホは敵対者2匹の方を振り返る。
「待たせたな」
「いいや待ってないさ。俺っちは待ってはいない。待つのは何時だって鈍重なやつだけだ」
「それは俺のことを言っているのか? 鈍重……オサガメたるこの俺に」
ウッホの眼前に立つ2匹。
一匹は痩せた男であった。衣服は最低限以下。ボロ雑巾のような服を纏っている。
もう一匹はウッホですら見上げる程の大男。背には何やら岩のような物を背負っている。
「さあ殺し合おうぜぇ。死ぬ直前で力の使い方を習得した俺っちは生前よりも強い。それは確信している」
「……お前、軽そうだな。そして脆くて弱そうだ」
どちらも雑魚とは呼べない風格がある。
本来であれば2週目にまで生き残ることも可能であったのだろう。相対者に奇跡でも起こらない限りは負けることの無かった2匹であったはずだ。
「……来い!」
長くかかるかもしれない。
しかしウッホは目の前の2匹をどう倒すかではなく、最短時間で倒してホミーに合流することを考えていたのであった。
「さあて、様子見だ。俺の仲間がどれだけ闘えるかのテスト。合格なら良し。不合格なら……補充するまでだ。賢い俺はすでにこの戦場の生き抜き方を見抜き切ってしまってるぜ」
ウッホと襲撃者2匹が闘う傍の木。その頂上から襲撃者のリーダーは闘いを見下ろしていた。
「ここは森だ。なら森の王者であるフクロウは王らしく振る舞わらせてもらおうか。なあ弥七よ」
「(コクコク)」
襲撃者リーダーのフクロウ――名をホープ――は同じく木の頂上にいる弥七にそう声を掛けたのであった。




