Take2―3 欠点
「知能が下がるだぁ? おいおい、チーム戦でそんな欠点ってどうなんだよ」
すぐさま噛みついてきたのはやはりウッホを下にみる一匹であった。
とにかくウッホの地位を貶めたい。そうすることで相対的に自分の地位が上がる。そう思っているようである。
「無論、味方を……理性を見失う程までに下げるつもりはない。少しばかり注意力が無くなる程度だ」
「ハッ。注意力散漫なやつなんてただの足手まといじゃねえか。俺はやだぜ、そんなのを介護するなんてよ」
話し合うというよりも貶し合うと言った方が正しいと錯覚するまでに喧嘩腰であるその動物にウッホはどうやって話を収めるか悩む。
これでは纏まらない。話の腰を折られてばかりである。無視されるよりかはマシであるが、それでももう少し他の動物との話もしたい。
「……ちょっといいかしら?」
この場唯一の雌である一匹が口を挟んできた。
「なんだ。何だって聞いてくれ。俺の能力についてなら何も隠さず話す。話したうえで、欠点を補ってほしい」
ウッホの欠点を誰かに補ってもらい、誰かの欠点をまた別の誰かが補う。そうすることで欠点を無くしていくことこそがウッホの求めるチームの理想である。だから、協力的にウッホの能力について質問してくれるのはありがたいことであった。
「いえ、欠点はまた別として。あなたの筋力上昇っていうのは具体的にどういうものなの?」
「ふむ……俺の能力がどれほどのものか……それは俺自身にも分からない」
「それって……?」
「分からないというのは、俺の理性が消えてしまうから俺には測れないということだ。しかし、俺が最後に記憶しているところでならば、鉄の檻であっても軽く捻り千切ることが出来ていたな」
「へえ……」
どよめきが起こる。しかし、これはどちらかというと希望的な雰囲気が混じっている。
ウッホの戦闘能力が思っていた以上のものであったのだろう。
「その時の俺は何かを倒す、ただそれしか考えていなかった。策を弄することも無く、ただ猪突猛進に敵に攻撃を仕掛け、そして負けた」
「……そこまでやって負けたのか?」
そう言ったのは先ほど噛みついてきた一匹であった。
「ああ、負けた」
「なるほどね……正面から闘わない、技に優れた相手だったってことかしら?」
「……」
そうだったのだろうか。よく覚えていない。
そうだったのかもしれない。ただ、力では負けていなかった。
負けていたのは……心だったのだろう。
「それより、能力について話すなら私達のも話すべきじゃなくて? ウッホさん……だったかしら? 彼の能力の粗を探すならあなたの能力には欠点が無い、そう判断してもいいのよね?」
ウッホに噛みついた一匹を挑発するように唯一の雌は言う。
「うぐ……わぁーったよ。俺も俺の誇るべき能力を言ってやるよ……ったく、とんだチームだなここは」
ぶつくさ文句を言いながらも噛みついた一匹が自らの能力を話し出す。
「俺はハイエナのミガテだ。……能力は『鬣犬の心』。……喰った相手の能力を奪うっていう能力だ」
「喰った相手……」
ウッホを除いた3匹がミガテから遠ざかる。
どれも能力を奪うために喰われることを恐れているのだろう。
実際にミガテはいざとなったら味方でさえ殺し食べることのできる性格をしている。そのため、彼らのとった行動は間違いではない。
「心配するなよ。俺だって馬鹿じゃねぇ。味方を殺しちまえばそれだけチーム戦じゃ不利ってことくらいは理解している。だから、安心しろ」
それを聞いて3匹は元の位置に戻る。だが、ミガテの一挙手一投足に注意を払いながら会話を続ける。
「それで? 何か欠点とか、能力の発動条件とかあるかしら?」
「あー……喰った部位というか全部喰わないと完全には奪えないから中途半端に喰うと中途半端な能力になるっていう欠点もあるが……それ以上に……」
「それ以上に?」
「今の俺ってすっからかんなんだよな。生きている時に喰ったのが全部吐き出されちまったというか、リセットされちまったというか……」
「要するに闘う時に何の能力も使えないってことじゃない」
ばっさりと雌の一匹に切られる。
「う、うるせえな……そういう能力なんだから仕方ねえだろ。だが、後半に進むにつれ、喰らうにつれ俺は強くなる。考えてみろよ、苦労して倒した強敵の能力が次の瞬間には俺が使えるようになってるんだぜ?」
「それならまあ……使えるかもしれないけど」
大器晩成型、そう考えることで納得するしかなかった。
このミガテの能力も、今となってはチーム戦向きであると言える。個人戦ではどうしても逃げ回って死体を集めるしかなくなる。
「分かった。死体でいいんだな? それなら俺がどこかで調達しよう」
「ほ、本当か!? いや、一部でもいいんだ。たとえば腕を引きちぎってきてくれればそれで俺は能力を手に入れられる」
ウッホがミガテに肩入れすることで先ほどの態度が嘘のようにミガテはウッホにすり寄る。その様はハイエナというよりも犬のようであった。
「それじゃ私の番かしらね? 私はホミー……タカよ。正直、死んだ原因が同盟直後の裏切りだったから余りチームに良い思い入れはないのだけれど、しょうがないから信用してあげるわ。能力は視力強化よ」
「視力ってことは遠くまで見えるということか?」
「ええ。それもあるわね。それだけじゃなく、暗視も出来るわ。トリだから空も飛べるし、索敵なら任せて頂戴」
「ふむ、シンプルだが良い能力だな。特筆すべき欠点はないのか?」
「欠点ねぇ……まあ戦闘に直接関わらないのが欠点かしらね。私はどちらかというとサポート向きよ」
サポート向きの能力。ウッホはむしろそちらを望んでいた。トリニコにしろ、ホミーにしろ、ウッホを出来る限り支援し、ウッホはその力で相手を叩くだけでいられるのが最善である。
「後は……まあ私は一回も闘ったことが無いのよね。だからそれも欠点かしらね」
「ならば俺と共に行動するか、ミガテと行動して死体集めをするかだな」
死体を集めるならば何もウッホが殺して回る必要はない。殺すことが必要なのではなく死体が必要なのだ。ならば、すでに殺された死体でもいい。
「そうね、チームを強化するなら死体集めをするのもいいわね」
そうして一同の視線は次にこれまで無口であった一匹に向かった。
ここまでで発言はゼロである。
その第一斉に注目がいく。
「……」
「あ、おい!」
その一匹は何も発さずそのまま歩いてどこかへと去って行ってしまう。
ウッホは追いかけようとするが、
「やめとけ旦那。この森だ。迷っちまったらそれまで。このチームの要であるのは旦那ってのが今の話し合いで分かったはずだ。旦那がいなけりゃチームが成り立たねえ」
「だが……」
「こういう時こそホミーの姐さん、アンタの出番だろ?」
「既にやってるわ」
トリニコが言うよりも先に、ホミーが能力を発動していた。
「大丈夫。そう遠くまで行っていないわ。私達と一定の距離を置いているけれど、見失うほどじゃない。あれは、集団でいると目立つからあえて距離を取ったって感じなのかしらね……どちらにしても私達の様子を窺っているみたいだから移動すればついてくるわよ」
「それならばいいのだが……」
ここまで上手くいっていると思っていただけに、早々の離反者にウッホは意気消沈していた。せめてその離反者がどこか知らぬ場所でいつの間にか死んでいるなんてことにならぬようウッホは祈る。
「トリニコ、お前も自分の能力くらいはもう少し説明しておけ」
「そうかい? まあ旦那が言うならするさ。オイラの能力は回復さ。掌から出す小さな炎に触れると、触れた個所が回復していく。ホミーの姐さんと同じく闘いには使えないが、闘いの後なら役に立ってみせるぜぃ」
やはりそういうシステムか。
先ほどウッホの指を治した時は詳細を伝えられなかったが、トリニコの能力をこれでようやく知ることが出来た。
これで、とウッホは考える。
「便利そうな能力だけど、欠点は? あるんでしょう」
「そりゃああるさ。欠点というか条件かね。一度治した箇所はその範囲と深さで相応の時間が経たないと再度使用できない」
「時間経過、か……どの程度なんだ?」
「そうだな……致命傷なら一日はかかると思っていてくれ。指の骨折なら5分てとこかな」
つまり、一日に一度なら致命傷を負っても助かるということだ。
それだけでも破格の能力だろう。
「ひとまずは4人だけでだが、闘うことは出来るな」
「バランスだけで見るなら良いかもしれないわね」
敵の発見はトリニコが。
直接的な戦闘はウッホが。
傷を負えばトリニコが。
「こういう闘い方でいいな」
「そんで俺は倒した相手を喰らってパワーアップだな」
「……一応は肉食獣でしょアンタ。なら最初から闘いには参加してなさいよ。相手が5匹とも戦闘系の能力だったらウッホさんだけで闘うのは難しいわよ。私達だって少なからず戦闘に参加する。それを覚えていなさいよ」
「へいへい」
諍いはあったが、終わってみればチームとして機能し、互いに理解することは出来たと思う。ウッホはそう満足げに仲間を見た。




