Take2―2 会合
「こんにちは……いえ、こんばんはですかね。人生の終わりが見えるどころか終わりそのものである皆さんには終わりの挨拶に相応しい『こんばんは』がお似合いでしょう」
暗い森の中に置かれた1つの高台。その上に立った錺の言葉はそんな挨拶とともに始まった。
「ええ、知っての通り、皆さんは一度死にました。愚かも愚か、弱きも弱き、まさかの1ヶ月あるうちの1週目に、です。情けない。実に情けない」
その言葉で周りにいる全ての生き物が騒めきだす。
それがたとえ真実であったとしても、認めがたい現実だとしてもプライドがそれを聞き流すことを許さなかった。
「ですが、そんな皆さんには大チャンス! もう一度生き返る可能性を提示してあげましょう! 皆さんは運がいい。1週目に死んだ。だから、生き返る可能性がある」
周囲の生き物たちの騒めきの種類が変わる。
怒りから疑問へと。こいつは何を言っているのだと、誰もが首を傾げる。
「そもそもで気づいていないのですか? 皆さんは死んだのですよ? 死んだらそこでお終い。こうして集まることもできない。出来ないのに出来ている……不思議ではありませんか」
ハッとした表情へと周囲は変わる。
考えてみればそうである。
死んだのなら、天国か地獄かがあるのかは分からないが、こうして錺が目の前に立っていることは少なくともない。こうして望んでもいない集会に集まることもない。
「ここは天国でも地獄でもありません。そもそもで死後の世界でもない。そうですね……しいて言うならば『夢の世界』、でしょうか。あ、私はちゃんと現実世界でも生きています。あなたたちと世界を繋げてもらっているだけで現実の私は妻と娘に挟まれてぐっすりと寝ていますよ」
そしてパッと森の中が明るくなり、周囲の生き物たちの全容が明らかになる。
異様に肥大した部位を持つ人間……に近い生き物。
頭部から角を生やした人間……に近い生き物。
背から翼を生やした人間……に近い生き物。
どれもこれも、人間に見た目こそ似ているが決定的に違う者ばかり。
「では始めましょうか! 敗者復活戦を」
そもそもで敗者復活戦などというものは当初の予定では存在していなかった。
死んだ生き物を蘇生する術も、死んだ動物とコンタクトを取る手段も無かった。
しかし、2週目の序盤にしてその術とも手段とも言える、能力を得たものがいた。
それこそが1人の科学者が『人間の心』によって自在にとは言えずとも多少は操り弄り回るようになった『夢の世界』であった。
本来の持ち主が死んだことにより主導権こそ奪う事は出来たが、それでも世界を構築と維持をするためのパワーは恩無には無い。後一回、それが限られた恩無に許された『夢の世界』の操作権であった。
そして『夢の世界』には当然ながら恩無以前の先住民がいる。1週目で死に、意識のみが『夢の世界』に囚われた動物達である。それらをどうにか活用できないか、それを錺に相談した結果、このような催し物が開かれたのであった。
「ルールは簡単! 2週目がペア、タッグという意味でのチーム戦でした。それならこちらは団体という意味でのチーム戦。5人1組での闘いを行っていきます!」
「団体戦だと?」
どこからか声が飛んでくる。
「ええ、団体戦です。もっと言えば5人1組もとい5匹1組。25チーム計100匹で殺し合い、最後に5匹となるまで戦い抜いてもらいます」
動物達が黒服達の誘導の元、チームに分けられる。
「それでは各自、仲良くなっておいてくださいねー」
「旦那と一緒か」
「……そのようだな」
ウッホとトリニコは奇しくも同じチームであった。
あるいは先ほどの会話をどこだかで聞いていた錺が気を利かせて……もといこちらの方が面白そうだと思ったのだろう。
「他のやつらは俺も知らねえのばかりだが、旦那に見覚えのあるやつはいるかい?」
「……いない」
いるかどうか尋ねられてもウッホの知る動物なぞ片手で数える以下でしかない。何故なら彼は始まってすぐ、ドリーの下まで行き、負けたからである。
「そうか……まあいいか。ゴリラである旦那がいれば一騎当千。少なくとも真正面からの戦いに不安がるこたぁねえや」
「……ああ、任せろ」
これまた真正面から戦った上で負けたウッホとしては返答に困るものではあったが、良くも悪くもウッホは元群れの長。仲間を守るための責任感なら持っている。仕方なしにでも、少なくともトリニコを守ることを決めた彼にとって保護対象を放り出すわけにはいかない。これはプライドではなく生き方の問題であった。
「仕切りはオイラに任せておくんなし。虎の威を借る狐じゃぁ無いが、旦那の後ろ盾があればオイラにも話の主導権は握れそうだ。旦那はオイラの後ろで胡座をかいて踏ん反り返ってればいいさ」
実際に戦闘の場になれば前に立つのはウッホであり、後ろに行くべきなのはトリニコであるのだが、交渉に至ってはトリニコに任せようとウッホは決める。何よりウッホは誰かとの対話は苦手である。必ずそこにはウッホの……ゴリラの象徴とも言うべき筋肉が介在してしまうため、恐怖での支配でしかならなくなってしまう。
守るべき相手とするならばそれでもいいのだが、できれば皆が自ら協力し合う対等なチームでありたいと、助け合って行きたいとウッホは考えていた。力で成り立つチームなど裏切りと策略の格好の獲物であろう。
「さて、じゃあ挨拶させてもらうよい。オイラはトリニコだ。よろしく」
「……それだけか?」
仲間である動物の一匹がトリニコに不満気に言う。
当たり前である。種族や能力を一切明かしていない。これでよろしくと言われても何をよろしくすればいいのだろう。
「これ以上聞きたければアンタ達の情報をとっとと言うんだな。ああ、ちなみにこちらの旦那はゴリラのウッホさんだ。アンタらのリーダーだからちゃんと敬えよ」
「……失敗したか?」
ウッホは早くもトリニコに場の仕切りを任せたことを後悔し始めていた。この言い方ではまるでウッホがそう命じたからトリニコはああも尊大な態度をとっているかのようではないか。
「……やめろトリニコ。やはり俺に任せてくれ」
「そうかい、旦那。ならオイラはお手並み拝見といくよ」
あっさりと引き下がったトリニコに変わりウッホが前へと出る。
「あー……」
場の雰囲気は最悪であった。ただでさえ動物達は協力し合うには土台無理な殺し合いの場であるには更にトリニコがかき回してくれた。これなら本当に力での支配を考えた方がいいのだろうかとウッホは思う。
「……ウッホだ。トリニコが先ほど言った通り俺はゴリラ。……能力は、『大猩々の心』。ドラミングをする度に筋力を増強する能力だ。トリニコの説明が足らなくてすまなかったな」
周囲からどよめきが起こる。
いとも簡単に能力を明かしたこと。それに加え、ウッホがトリニコに代わり謝罪したことである。
他の動物に弱みを見せれば即下に見られる。戦いの場であれば、協力体制を取るのであれば避けたいのが謝罪である。それを簡単に行ったことでこの場のウッホとトリニコを除いた3人は2つの考えに別れた。
1つ目は先ほども挙げた思ったよりも気弱であり、リーダー気質ではないと認知されたこと。このウッホの発言を境に、彼はウッホの言葉をあまり信用せずに行動するようになった。
2つ目は謝罪してなおそれだけの影響力を残せる自信があるからこそ謝罪したのだなと逆に見直したことだ。下手に出ているが、ここから自分たちを纏めるに相応しい力を持っているのなら従ってもいいと彼らは判断した。
この時ウッホは何も考えず誤っていた。とりあえずトリニコが迷惑をかけたから謝ろう、その程度であった。リーダー云々は全く考えていなかった。
「単純に強い能力って解釈でいいのかしら?」
ウッホを認めた一匹がそう問う。
「……近接戦闘なら負けることはない、と思う」
煮え切らない答えをウッホは返す。
ウッホは考える。自分の能力を全て明かすかどうかを。
「おいおい、旦那……」
ちなみに周囲と同様にトリニコも驚いていた。
何故なら、彼もウッホの能力を知らなかったからである。教えないからには何かしらの理由があり、切り札として切るべき時に切るのであろうと思っていたからだ。
「だが、俺の能力には代償がある」
ウッホはトリニコに構わず続ける。
後で分かるくらいならここで伝え、周囲にフォローしてもらった方が良いとウッホは考えていた。
「代償か……大丈夫か? 俺たちにまで危険があるんじゃねえだろうな?」
口を挟んだのは先程のウッホの謝罪で彼を下に見た一匹であった。
代償があるという発言で更にウッホへの評価は下がっていく。
それを感じ取れないウッホではない。場の空気は不安と疑心暗鬼に満ち始めていた。
これ以上何か、火種を投下してしまえば一瞬で炎上してしまう。協力などこれから先、不可能になってしまう。
「俺の能力の代償。それは筋力の上昇に反比例した知能低下だ」
場の雰囲気、周囲の目、これから先のこと、それら全てを無視してウッホは正直に己の能力の欠点であり代償を告白した。




