53話 強欲なる鼠算 後編
ようやく書きたかった話の1つを書き終えたー
この二人が絡む話ってまだそこまで書いてなかったし、ナイの闘いまだやってなかったしでやりたかった
存在感の操作。それこそがナイの新たな能力である『鼠の強欲』の性質。
奇襲をかける際には道端をせっせと歩く蟻のように気にも留めないほどの存在感を薄くし、逆に事故を起こして大破した車のように気にせずにはいられないほどの存在感を振りまくこともでいる。
ただ2つ目の能力を得ただけならばここまでであった。
ナイは自分の存在感を小さくする。大きくもできる。これだけであり、歯を伸ばす能力にもう1つ、存在感を操作する能力が加わっただけであった。
しかし錺の強化を受けてナイの能力はこれだけで留まらなかった。
自分の体の一部ならば、かつて自分の体にあったものならば、それも自分の体と言えるならそれの存在感も操作出来るのではないだろうか。
答えは可能であった。
というか、出来ないはずが無かった。
初めからそれくらいは出来るだけの才覚を、強化を錺達はナイに与えていた。
復讐心こそ最大の原動力。ナイが持ちうる力を錺達は生かそうとしていた。
折った歯をばら撒き、伸ばすことで相手の警戒心を抱かせ、それを突破し油断させたところで、使い物にならないと思わせていた歯の存在感を最大限にまで引き延ばす。長さを、ではなく存在感を伸ばしていく。
歯の脅威さは一度味わっているはずだ。
少しでも慄いているならば、その存在感を無視することは出来ない。
『鼠の心』と『鼠の強欲』。
この2つを使い分けることでタケミツを追い詰め、そしてその背にしがみ付いていた本来の目的を、獲物を殺すことが出来た。
「ギ、ギィヤァァァァァ」
その傷口からしてもうこの老人は助からない。
それはナイにも、タケミツにも分かることであった。
「そう、カ。最初からこいつが狙いだったのカ」
これはチーム戦でありナイはチームであるジュウゾウを守るために行動していた。
ならばこのタケミツにもチームの仲間がいるはず。それはどこか。他の場所で待機している……逃亡した……あるいはすでに死んだ……否、タケミツの長い髪の下。そこにこそ、ナイの目当ての、放っておけばジュウゾウを苦しめるであろう敵は存在するとナイは確信していた。
「こいつは我が師匠の壁となる。ならば私が取り除くしかない」
「ふう、ン……?」
タケミツには理解できないだろう。その背に隠れていたということはタケミツに守ってもらっていたということ。それすなわちそこまで強くはないということ。
「……まあいイ。元々俺はこいつの能力にはそこまで期待してはいなかっタ。俺は俺1人で闘えル。こいつの弱小なる能力は俺にはいらなイ」
現状の最大の目的である老人は倒した。
しかしながら、ジュウゾウの命こそ守れたが、ナイの命が現在進行形で失われようとしている。
「さっきのデ、俺を仕留めなかったことヲ、こいつを優先したことを後悔しロ」
再びタケミツが角を大きく振りかざす。
「『鼠の心』! 『鼠の強欲』!」
再びナイの持ち得る2つの能力を発動するが、伸びた歯はタケミツの腕に一蹴され、辺りに散らばった存在感溢れる歯にタケミツは気にも留めていない。
「同じ手ハ二度と食らわなイ。お前は強敵ダ。お前以外を気にしている余裕もなイ」
真っすぐと、脇目もふらずにタケミツはナイを睨みながら角を振り下ろそうとし――
「なんじゃ、儂の弟子を名乗るならもう少しシャンとせんか」
乱入して来た影によって、その影から突き出される手刀を本能的に危険なものだとタケミツは察知して避けざるを得なかった。
「ほれ、ナイと言ったか。立てい。闘いは終わっとらんじゃろ?」
「し、師匠……なぜここに」
ナイにのみ集中するといってのけたタケミツの攻撃を中断させ、手刀のみで警戒心を最大にまで上げさせた老人。
シーラカンスのジュウゾウであった。
「あれだけ派手な音を立てておったからの。それにナイ、お主が儂を付けていたことには気づいておった。まあチームであるならばあえて撒くことも無いとそのままにしておいたが、まさかこうして1匹で2匹を相手に闘っていたとはの」
尾行者は尾行している相手が自分に気づいていることに気づかない。
ジュウゾウが気づいたのはタケミツによって建物が崩壊し、その崩れた音を聞き取ったからである。
恐らくはナイが闘っている。そう思ったが、その音があまりにも大きく、そして恐らくこれはナイの仕業ではなくナイと闘う敵によるものだということはすぐに分かった。
助けに行くつもりは最初はなかった。
このままどちらが死ぬのもそれはそれで運命。
だがしかし、その後にも響くいくつもの轟音を耳にしてジュウゾウは気づく。
ナイは逃げていない。なぜかその場に引き留まらせようと闘っている。
それはなぜか。
追い付かれたくない……誰が誰に?
その答えこそが。
「この2匹を儂と闘わせたくはなかったのじゃな?」
だから、ナイは闘っていた。
この戦場において自分ではなく誰かのために闘う。
それは人間の望んだものではなく、自分が望んだ闘いそのもの。
だからこそ、ジュウゾウは戻ってきた。駆け付けることが出来た。
「はい……正確にはこの倒れている老人こそ私の標的でした。1週目で遠目に見ただけでしたがこの老人は電気を操る。……同じく電気で闘う師匠とは分が悪いと思い、なら私が倒そうと……」
「よい」
その老人の能力の詳細よりもなぜナイが闘っていたのか。
それさえ分かればジュウゾウには後はどうでもよかった。
「ナイよ。後は儂がやろう。手出しはするなよ」
「は、はい!」
ナイは『鼠の強欲』を発動し、どこかへと存在感を消して消えていった。恐らくはどこかで見ているのだろうこの闘いを。もしも万が一、ジュウゾウがピンチにでもなったら助けるつもりで近くに待機しているのだろう。
「情けない話じゃの。弟子に我が身を案じられるとは……。まああちらが一方的に弟子となったようなものじゃから気にしなければそれまでなのじゃなの」
「何を言っているジジイ……そんなことをほざく前に俺の質問に答えてもらおうカ」
「うん? 話がしたいのか? いいぞ、儂でよければ、の。儂は誰かと会話するのが好きじゃからの。会話は不変的なものでありそれだけで何かが変わるというものではない。じゃから何時まででも続けることができる」
「……ジジイ、お前を倒せばあのナイとかいう小娘は俺の前に出てくるのカ? あの強敵は俺と闘うのカ?」
「どうじゃろうなぁ。案外、あっけなくどこかへと消え去る気もするし、儂が倒れる前に出てくるやもしれん。しかし、それもいらぬ心配じゃて」
「ほウ?」
「なにせ儂は倒れん。貴様を倒すのじゃからな」
ジュウゾウは構える。拳ではなく、ただ両手を胸の前で手を広げた状態で。
「俺を倒すだト……? フハハ、いいだろう面白イ。では闘おうではないか」
タケミツもまた構える。こちらも拳を構えるのではなく、角を見せるかのように、相手に頭部を向ける。さながらそれは闘牛のようであった。
「『水牛の心』」
タケミツの角は1mを優に超えている。
未だその角は振り下ろされてはいないが、もし振り落とされればそれを防げる者はこの動物園内でも限られた者だけだろう。
「俺の能力は時間経過によって伸びる角の強化ダ。この角を軸にした闘い方しか俺には出来なイ。……それまでハ、体ならぬ角が温まるまではこいつの力を借りていたガ、それも今は必要なイ」
タケミツは地面に転がる老人の――かつては仲間であった死体を一瞥する。
「さア、来イ。お前の力を見せてみロ」
そう言ってタケミツは角をジュウゾウへと振り下ろす。
「見せるほどのもんではないが、まあ使うとしようかの。『空棘魚の心』」
振り下ろされる角へとジュウゾウは避けることをせず、逆に進むことで角よりもタケミツの懐へと入っていく。
「角を使う攻撃などそう大して多くもない。角以外の攻撃も鍛えておかんとの」
ジュウゾウがタケミツの鳩尾へと手刀を入れようとし、その手刀をタケミツの腕が止める。
「角以外……こういうことカ?」
ニヤリとタケミツは笑う。手刀に脅威を感じていたが、大したことはなかった。先ほどの感覚は何だったのだろうと思いながら、そのままジュウゾウの手を掴み角の餌食としようとして、体が弾けるような感覚に襲われた。
「あ……ア……?」
「そういうことじゃが……まあ、いいか」
ジュウゾウの能力である『空棘魚の心』は変化に対応する能力。そしてその能力で首輪から流れる電流に対応している……ジュウゾウだけは。
その電流が迸るジュウゾウの体に触れてしまえば否応が無しにジュウゾウと同じだけの電流を浴びることになる。
「やれやれ。こうして首輪からの電流だけで闘っておるから儂の闘い方はこれだけじゃとナイにも勘違いされてしまうんじゃな」
「ぐ、ウ……」
「ほう、やはりタフじゃのう」
しかしそのタフさも数十秒、数分、ジュウゾウと共に電流を浴びていればやがて心臓への影響は大きくなり、いくら体が絶えようと中身が先に力尽きることとなった。
「何か別の闘い方でも探すとしようかのぅ」
とはいえ、これが現状で最も効果的で最も適したな闘い方であることはジュウゾウも理解していた。なにせ電気に耐えられる生き物は存在しない。あの電気ウナギだって脂肪が絶縁体の役割を果たしているから感電しないだけであって、その体自体は電気に耐えられるものではない。
「まあそれはいずれ、早いとこここを立ち去らないとな」
「師匠!」
嬉しそうに駆け寄ってくるナイをジュウゾウは好々爺のごとく見つめる。
よくできたと褒めてやりたい。孫のように頭を撫でてやりたい。
しかしながらそれはできない。この体は、この闘い方をしている間は誰かに触れるだけでその者を絶命するに足るのだから。
どこぞにゴム手袋でも落ちないかのう。
最後にそんなことを思いながら、ジュウゾウはその場をナイとともに去っていった。
ではここで謎のまま死んでいった老人の説明でも
種族は電気ウナギ
名前はエイドリ
能力は『|電気鰻《エレクトリックイル’ズ》の心』。電気を自在に操る能力ではあるが、老化し、大きな電気を出すことは出来なくなった。その代りに操作性はかなりのものであり、タケミツの体に微弱な電流を流すことにより身体能力を強化したり、水たまりに微弱な電流を流すことにより一瞬だが相手を麻痺させることができる。ナイが目撃したのはこの相手を麻痺させる場面であり、この時エイドリ自身も水たまりの中にいるにも関わらず痺れていないことから電気系統の能力は効かないだろうと思い、目を付けていた。本人の身体能力も弱いため2週目はずっとタケミツの背にしがみつき髪に隠れることで生き延びようとしていた。




