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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
2章 絶望の2週目
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52話 強欲なる鼠算 中編

 ナイは復讐者であった。

 復讐対象は人間。そして人間に加担する動物全て。

 人間は1人残らず憎い。

 人間を守ろうとする動物、そして人間に乗せられて殺し合いに興じる動物も憎い。


 快楽に溺れ、欲望に負け、本能に従う。

 動物とはかくあるべきではあろうが、それでも失ってはならない自分というものがある。

 プライドを捨ててはならない。負け犬のように這いつくばってしまってはそれではただのケモノと一緒だ。


「(私たちはケモノではない。……動物だ!)」


 しかしして、ナイの能力は、強さは、その人間によっては生み出されたものであり、強くされたものである。

 何時からだろうか。その強さを当てにして闘い始めてしまったのは。

 何時からだろうか。動物を殺すことに使命感を抱いてしまったのは。

 何時からだろうか。更なる能力を、次の強さを求めてしまったのは。


 『(マウス’ズ)(ハート)』。歯を伸ばす能力。強化されたそれはナイの口の中にかろうじて残っている歯を伸ばすだけではなく、折れた先の歯まで伸ばすことが出来る。奇襲も正面からも防御も、それなりにこなせる能力だとは思っている。


 しかしそれでも足りない。それでは足りない。

 もっとだ、もっと欲しい。


 願ってしまった。願ってはいけない人間についこぼしてしまった。


 だからこそ手に入れたのだ。手に入れてしまったのだ。


 新たな能力を。

 

「『(マウス’ズ)(ハート)』……いや、これは私の心から生まれたものではない。……これは私の本能、そして欲望……名付けて『(マウス’ズ)強欲(グリード)』。人間を殺す。動物を殺す。心は心でも私も強欲な心が生み出してしまった能力」


 錺は言っていた。

 この新しい能力を授ける時にまるで忠告をするかのように。


『気を付けてくださいね。あなたの他に後6匹、能力を2つ持っている動物がいるでしょう。それらはあなたと同じく更に強くなろうと、私に打診してきた者達。強くなろうという気持ちこそが能力の強さに直結する。……まああなたの能力はその欲に反してそこまでの力を得なかったようですがね』


 後6匹……。

 それらがどこにいるのかは分からない。

 どうやって錺から2つ目の能力を得たのかも分からない。

 ナイはこの戦場が始まる前から、新薬の実験体としての生を受けているからこそ、錺に知られていたから錺とコンタクトを取れていた。

 だが他の動物は間違いなくこの闘いが始まってから錺を知った者ばかりだろう。それなのに錺と個人的なやり取りができる。それ自体が恐ろしい。


 そして新たな能力。

 更なる力を得ようとしたはずだが、それなのにナイの新たな能力は結果からして微妙なものであった。

 考えようによっては『(マウス’ズ)(ハート)』よりも弱いかもしれない。


「(強欲か……心のどこかで人間を否定し、それでもなおすがってしまった矛盾した私の心が能力をも否定してしまった結果なのだろうな。求めてもなお、いらないと突き放してしまった矛盾した心。強欲とは名ばかりの、否定的な心だ)


 しかしそれでも能力を2つ持っていることには変わりない。

 大抵の動物であれば1つ目の能力だけでも倒せるかもしれない。この強欲なる能力は、他にいるという6匹の2つの能力持ちの動物を相手にするまでは使わないだろうと高を括っていた。

 だがしかし、


「(使わないと間違いなく死んでいた……あのままミンチのように引き裂かれて潰されていた……)


 落とした歯がたまたまタケミツの方を向いていたのが幸いであった。

 そうでなければこの強欲なる能力を発動しても免れることは出来なかっただろう。


「『(マウス’ズ)強欲(グリード)』」


 それは、存在感の操作。

 どこまでも影を薄くすることで存在感を無くし、まるで消えたかのように振る舞える。


 ネズミはどこにでもいるが、見つけることは難しい。

 戸棚の奥に、天井裏に、軒下に。

 どこにいるか分からない。どこにでもいるのかもしれない。


 タケミツからしてみれば消えたかのように見えたナイであったが、その実、ナイは伸びる歯によってタケミツの視界から一瞬だけ消え、その隙に茂みに隠れただけであった。しかもその隠れ方は非常に幼稚なもので、這いずりながら、茂みを大きく揺らし、完全には隠れきれずに体のパーツのいくつかは茂みから出てしまっている。負傷しているから仕方ないこととはいえ、それでも『頭隠して尻隠さず』の状態という間抜けなものではある。


「どこダ……」


 しかしそれでもタケミツはナイを探せない。

 ナイが能力を発動した場所。そこから一歩でも移動出来たのなら、タケミツはそこにしか目がいかず、他の場所に移動したということを考えることが出来ないでいる。


「(だけどこれではまだ駄目……まだ、アイツを倒せない)」


 タケミツの能力は朧気ながら身体能力を強化するものであることは察していた。

 恐らくは角含め頭部を堅くするとかそういったものであろう。ありふれた能力であり、シンプルながらに強いもの。

 当然ながらナイの歯もその角や頭部には効かないと言ってもいい。効くのは手足や胴体だ。角や頭部は弾かれてしまう。


「だったら……それ以外を狙うしかない!」


「そこカ!」


 突如としてタケミツの長い髪が逆立ち、こちらを睨みつける。


「見つかった……!?」


 声を出したのがまずかったのか、それとも殺気が漏れていたのか。

 タケミツはナイを見つけるやすぐさましゃがむように低く構えて……そしてロケットのように、ミサイルが発射されるかのように、突進をかました。


「『(マウス’ズ)(ハート)』」


 ここに来るまでに落していった歯を伸ばす。


「ふん、こんなもノ!」


 しかしそれらがタケミツの体に届く前にタケミツは頭を振り、角で叩き落としていく。

 歯はバラバラに砕け、地へと落ちていく。


「だけど、まだまだぁ!」


 それでもナイは諦めず、


「『(マウス’ズ)(ハート)』」


 再び能力を発動した。

 発動する対象の歯は……今丁度タケミツに砕かれたもの。砕かれた先から伸ばされる歯にタケミツは無視することは出来ず、更に激しく角を振り回し、やがて腕を傷を負うことを覚悟で使い始める。


「『水牛(バッファロー’ズ)(ハート)』」


 タケミツの角が伸びた。……いや、ナイの歯ほどではなく、ほんの少し数㎝ばかりのものであったが。

 しかしそれでタケミツの動きが変わった。角はより早く、より力強いものとなった。


「俺にこの能力ヲ、使わせたことを褒めてやろウ」


「ぐぅっ……『(マウス’ズ)(ハート)』」


 より歯を砕くペースが速くなったタケミツに対抗しようと、自分の口に生える歯をへし折り、投げようとしてナイは気づいた。

 片腕が負傷し動かないことを。

 

 片手でへし折って片手で投げる。

 これをやらなければ間に合わない。


「ま、ずい……」


 それでも無理やり動く方の手だけでへし折ると、投げるをこなすが、段々と伸びる歯の勢いが消えていく。


「これで、終わりダァ!」


 ついには伸びる歯の猛攻を潜り抜け、周囲にはもう伸びることの無い歯の残骸を踏みしめてタケミツはナイの懐へと辿り着く。

 ナイの周辺にはナイがへし折って投げようとしたが慌てて落としてしまったのだろう、幾本かの歯が落ちていた。


 だがしかし、ここまで来れば問題はない。歯の向いている方向はタケミツを向いてはおらず、それどころかナイの方を向いている。

 間違いなくこれは、間違えて落としてしまったものだ。

 そうタケミツは判断し、そしてナイへと角を向けて、


「最後まで油断はしなイ……『水牛(バッファロー’ズ)(ハート)』」


 更に角が伸びる。

 スイギュウ本来の1mをも優に超える角となる。


「最大最高最強の攻撃を貴様に与えてやル。この一撃で……落ちロ」


 振りかぶり、振り落とす。

 ただそれだけ。それだけなのに一撃必殺の威力を持つことは誰の目にも明らかであった。


 だから、


「『(マウス’ズ)強欲(グリード)』」


 その瞬間、またもやタケミツはナイを見失った。

 ……いや、見失ったわけではない。目の前に、確かにナイはいる。


「(だがこれはどういうことダ……右にモ、左にモ、後ろからモ、そして足元からもこいつがいるということが分かル……こいつの気配を感じル……)」


 気配が、存在感がそこら中にはあった。

 そして後方からの存在感がひと際強くなったのを感じ取ってしまったタケミツは、それこそが本物だと、目の前にナイがいるにも関わらず振り返ってしまった。


「しまっ!?」


「『(マウス’ズ)(ハート)』」


 隠し持っていた小さな歯の欠片。

 それをナイは能力で伸ばす。


 ナイは歯を剣のように振るい一閃。

 タケミツの長い髪ごとタケミツの背を切り払った。


「ギ、ギィヤァァァァァ」


 その叫び声はナイのものではなく、タケミツのものでもなく、しわがれた老人の声。

 タケミツの長い髪に隠れて背に掴まっていた老人の絶命の叫びであった。


なんだか新たな能力を持たせてみましたけどね

強欲、ということはつまりは他の能力の名前の由来は何か分かりますよね

本来は特別処置としてナイのみに2つ与えようかと思いましたが、こうした形にすれば2つ持っている動物を他にも出せそうなのでこうしてみました

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