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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
2章 絶望の2週目
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45話 7匹のヤギは空をも飛ぶ 4

「そうでしたそうでした」


 クラッチとの初邂逅を思い出し、ストマックは目を開ける。


 指先1つ動かせず、呼吸は満足に行えず、能力すら使えない。そして目の前にはその原因であるクラッチが悠々と立ち尽くしていた。


 それと比べて今はどうだ?

 指先は動き、呼吸もできる。能力だって使え、クラッチは横で伸びているが味方である。


 更に言えば、敵の能力は地面を滑らせる滑らせないの2つにしているが、それをこちらが全く活用できないというわけでもない。


「……なんだ、あの時よりも全くマシではないですか」


 一歩前進すれば滑る地面があるかもしれない。

 一歩後退すれば滑らない地面があるかもしれない。

 あるいは真逆かもしれない。


 双子それぞれが触れたものを滑らせる・滑らせないようにする能力が有り、そのどちらかを見極めるつもりであったが、実は双子共に両方の能力を持っていた。

 どの地面がどのような状態にされているのかなど分からず、ここで立ち止まっていれば髪のドリルで貫かれてしまう。……いや、避け続けていてもストマックの傷口から出ていく血液が一定量になれば出血多量で死ぬだろう。


 つまりは、短期決着であの双子を倒さなければならない。


 そのためにはまず、クラッチの力が必要であった。


「クラッチ、いい加減に起きなさい。朝はとっくに過ぎていますよ」


 一回呼びかけてくらいでは気絶しているクラッチは目覚めない。

 だから、呼びかけにストマックは能力を使い、


「「「「クラッチ、いい加減に起きなさい。朝はとっくに過ぎていますよ」」」」


 数回、数十回と呼びかける結果をもたらした。

 一回で駄目なら何回でも。それがストマックの能力ならば可能である。


 数十回分の呼びかけがクラッチに伝わる。

 その結果――


「……ん? ああ、なにが起こってるんだぁ?」


 クラッチが復活した。


「時間がないのでスマートに答えます。あの双子が敵で、能力は触れたものを極端に滑らせる、あるいはくっつけるというものです。辺り一帯の地面は滑るかくっつくかのどちらかになっていますので注意を」


「ほへー……って、やべえじゃねえか!? どうしよう、俺、どうしよう!?」


 ぼーっとストマックの話を聞いていたクラッチであるが、さすがに敵が間近に居り、そして周囲が敵のフィールドになっていることは理解したようだ。


 焦っているのも悪くはない。油断していないということだから。


「落ち着きなさいクラッチ」


 しかし、緊張感を持ち過ぎれば体を堅くさせる。

 それでは闘いを満足に行うことはできない。


「でもよ、でもよ……俺、こんな地面の歩き方知らねえぞ? ストマックはどうやって移動してんだ?」


「私は一回の踏み出す・踏み止まる回数を能力で増やすことで移動していますが……如何せんどちらか分からない地面ではどうしようもありませんね」


 更に付け加えるならば、地面を砕くことで地面そのものを無くすという手段もあるが、これは時間がかかるのでそこまでやることはないだろう。


「おいおいおい。俺にそんなことできねえよ! どうするんだよ……どうするんだよ!」


 混乱ここに極まり。

 おろおろとうろつこうとするも地面にかかっている能力を思い出し何もできずその場で立ち尽くすクラッチ。


 やれやれ、とストマックは首を振る。

 あの時の威圧感も恐怖も今のクラッチには感じない。

 きっと、ストマックと出会った時のことも、あの時交わした会話も忘れてしまっているのだろう。

 それがアホウドリの、阿呆さ加減が満天のクラッチなのだから。


「地面を移動できない? だからどうだと言うのですか。あなたは……クラッチは何か。それを思い出しなさい」


「俺が何か……? 俺はクラッチ。アホウドリ……能力は『阿呆鳥(アルバトロス’ズ)(ハート)』……ああ、そうか! 地面に向けて能力を発動すればいいんだな!」


 納得、といった感じにクラッチ『阿呆鳥(アルバトロス’ズ)(ハート)』は手を打つ。

 

 確かに、かつてストマックが投擲した小石に向け『阿呆鳥(アルバトロス’ズ)(ハート)』を放った時、小石にかかった能力は変化し、クラッチにとって無害なものへとなった。だがそれはあくまでクラッチが狙ったものではなくランダムに行われた能力変化であり、クラッチの能力は決してクラッチは望む能力へと変化させるものではない。


 だから、クラッチの提案したものはストマックの考えていたものとは全く違っていた。

 もっと原始的なもの。能力とかそんな後付けで得たものではなく。


「クラッチ、あなたの背に生えているものは何に使うのですか? まさか這いつくばって地面に垂らすものではないでしょう?」


 ハッとクラッチは背中を見て気づく。

 黒と金をあしらったスーツから生える白い羽。

 飛ぶことのできないストマックに付き合い地面を歩くことが多かったため、普段から邪魔扱いしていた羽であるが、ここに来て本来の用途を思い出した。


「そういえば、俺って鳥だったわー」


 目の前にいる決して空を舞うことのできないペンギンと違い、アホウドリは空を舞うことが出来る。


 クラッチは翼を広げる。

 日本の鳥類の中でも最大級と呼ばれる鳥に相応しく、その翼は大きい。


 ゆっくりと翼をはためかせると、徐々にクラッチは地面から離れていった。


 こうなれば地面の摩擦など、もはや関係ない。

 いくら地面が滑ろうとも、くっつこうとも、触れてなければなんでもないのだ。


「おっと、そうだ。忘れていた」


 見上げるほどに上昇してからクラッチは地面に佇むストマックのことを思い出し、急降下するとそのままストマックを掴んで再び空へと舞った。


「ふむ。相手を見下すことは多々ありましたが、こうして物理的に見下ろすことになろうとは」


 地面には双子が残されている。

 双子はこれまで圧倒していた相手が、気絶していた片方が起き上がったかと思うと、こちらの能力を無効化するような手に出たため驚いている。それも、初手で気絶した雑魚と思い込んでいた方が、しかも能力ではなく元々備わっていた機能で。


「ずるい~。空を飛ぶだなんて!」


「まあいいじゃないか。僕達だって海中を自在に舞っている。それに、今なら空だって飛べるんだ。ほら、僕を使って」


 そう言うと、ライの前にレフが寝ころんだ。そして、


「僕は地面に固定してある。そら、飛べライ」


「……ええ! 分かった!」


 レフが何をさせたいのか分かったのだろう。ライはそのまま地面を滑走する。

 極限にまで地面から摩擦を減らし、地面を蹴る勢いそのままで滑っていく。


 地面を滑るその先には――レフがいた。

 しかしライがレフに激突することはない。ライとレフとの間にも摩擦は無くなり、滑っていく。尤も、その滑る方向は地面をそのまま真っすぐというわけにはいかなくなり、寝ころんだレフが介在した分だけライは斜めに滑っていく――そう、空中へと。


「いっけぇぇぇ!」


 いつの間にか固められた髪がドリル状になっており、空中を滑るライは空を翼で飛ぶクラッチとそれに抱えられるストマックへと向かう。


「あらよっと」


 だが、クラッチとて伊達に鳥類をやっていない。

 不意打ち気味で驚きこそしたが、間一髪、避けることが出来た。


 クラッチが避けることで素通りしていくライはそのまま放物線上に落ちることはなく、動物園内で最も高い建物へと激突していった。


「やれやれ……危なかったぜ」


 ストマックを抱えているため額を拭うことはしないが、内心では汗だくだくであったクラッチは安堵のため息をついた。

 自分1人だけならともかく、ストマックを抱えているため重さも、避け方も通常とは違う。それでなくとも鳥形態ではなく今は人の姿をしているのだ。避けることが出来たのは奇跡といってもいいだろう。



 建物へと激突したライ。

 しかし、その激突の音はクラッチにも、ストマックにもそしてレフにも聞こえなかった。


「まだだよー」


 遠くの建物へと激突したため誰にも見ることは叶わなかったが、建物に激突したライは建物に触れた瞬間に激突した面の摩擦を無くしていた。

 摩擦を無くしたことで建物を滑ることになるのだが、摩擦とエネルギーの方向を上手くコントロールすることでライは一回転し、通ってきた直線を戻ってきていた。

 そしてその直線上には先ほどの攻撃を避けたことで安堵していたクラッチ。


 今度は奇跡など起きなかった。

 完全に油断していたクラッチの体をライのドリル状の髪が深く抉り、空を飛んでいた二匹を地に叩き落とした。


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