42話 7匹のヤギは空をも飛ぶ 1
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黒白コンビこと白スーツを着たヤギのストマックと黒スーツのクラッチはエボリュー動物園における大実験2週目で他チームにはない強みがあった。
それは個の能力ではない。無論、個としての能力も勿論高い。
だが、それ以上に強く持っているものが彼らにはあった。
初期動作と過程が1つの攻撃だけであったとしても、結果としては10をも超える攻撃として残る能力を持つストマック。
口から発せるられる怪音波で相手の能力を混乱させることで、まるで正反対の能力にも役に立たないような能力にも変えることのできるクラッチ。
素の身体能力も決して他に劣ることのない彼らであるが、それ以上に持つ彼らの強み。
それは彼らが即席のチームではないということだ。
2週目にチームを強制的に組まされ、口でも内心でもいがみ合う他のチームに比べ、彼らの仲は比較的良好であり、司令塔であるストマックとそれに従い闘うクラッチの組み合せは他チームよりも格段にベストな組み合わせであった。
そして2週目の1日目。
運が良いのか悪いのか。出くわしたチームはあったが、相手は仲違いというか一方がもう一方を戦場に置いていくという普通では考えられないような行動を取り結果的に2対1となる。
少しばかり手強い能力でありクラッチの能力を使ってもなお、むしろより手強くなった相手であったがそれでも勝利。傷一つ負わない完封であったことに変わりはない。
これなら他のチームにも勝てるだろうという楽観的な考えにはならなかったが、それでもこの程度かと思わざるを得ない程の彼らには確かな闘いの手ごたえがあった。
なにせノーダメージでの勝利。多少の傷さえ負っていれば引き締めるはずの兜の緒ですら緩めたくなるほどの勝利後の体。締めすぎた方がきつすぎて動けなくなってしまうのではないかとストマックすらも思ってしまっていた。
だが彼らは忘れていた。これはチーム戦であり、ストマックとクラッチだけがチームなのではない。
太郎は仲間の心が歪んでいたため1人になってしまったが故の2対1であったが、通常ならば2対2.
まだ彼らはチーム戦というものを味わっていないのである。
いうなれば1週目でやっていたことと同じ。ストマックとクラッチの2匹で殺していたときと全く何の変りもないのである。
それを心のどこかで分かっていたつもりになってはいたが、改めて思い直すことでもないと安易な考え方をしてしまっていた。
その安易な考えこそが、油断こそが死に繋がるのだと、これまで馬鹿にしてきた動物達と同じであるとストマックが思い直すのは次の闘いが始まってからであった……。
「さて今日もスマートに参りましょうか」
チーム戦というからにはチームでの行動をしなくてはいけない。
そのため2週目からは空いている大型動物用の檻にチームを押し込めるという動物側からすれば暴挙を黒服たちは動物達に強いていた。
無論、離れていては奇襲されてしまう危険性があるため合理的に考えることのできる動物たちであれば納得はするが、気性の荒い者やチームがチームとして機能していない組合せのところでは日々怒鳴り声が鳴り響いたり脱走したのかと思わせるほど静かになっていた。
そしてクラッチはともかくとしてストマックは合理的に考えることのできる動物であった。
合流する手間が省けて良い。互いに警戒し合っていれば不意打ちを受けずに済むぞとむしろ歓迎していたくらいであった。
そして2週目2日目の朝、2匹は起床後、立ち上がる。
「どーこに行くんだぁ?」
相も変わらず気の抜けたような声でクラッチはストマックに尋ねる。
それは昨夜何度も尋ねられたことであり、何なら毎晩毎朝尋ねられているのだが、その鬱屈さを感じさせずにストマックは答える。
「どこへでも、ですよ。尤もこの動物園の敷地内に限りますけどね」
自らの能力と相方の能力、そしてチームワークにおいても絶対の自信を持つストマックは出会ったチームと闘っていれば良いと考えていた。
それでも常識外の動物達が数多くいる動物園。気を抜けばどれだけ非常識な存在に出会ってしまうか分からない。そこは警戒して避けるべきではあるが、常識内の強者であれば十分に勝てるとストマックは考えていた。
だから無計画に、それでも慎重に警戒して檻から2匹は出るとそのまま木の棒を立てると倒れた方向に歩き始めた。
「なあなあ。ちょっと休憩しよーぜぇ」
歩き始めて数十分。
その時間ずっと警戒し続けるのは不可能にも等しい。出来る出来ないでならば出来るが、神経が参ってしまうか元から異常な神経の持ち主だけであろう。
しかし交代で警戒し続けることでその負担を和らげる。互いに信頼を置けるチームだからこそ出来る芸当である。
だがそれでもクラッチは辛抱強い性格ではない。むしろよく数十分も我慢できたなとストマックはクラッチへの評価を改めたくらいであった。
まだ待ってください。スマートに歩き続けましょう。
そう、ストマックがクラッチを鼓舞しようとした瞬間であった。
シュン、シュン、と足元を高速で何かが通り過ぎていくのをストマックは感じ取った。
「な!?」
ストマックは驚く。それも2つのことに対して。
1つ目は通過した何かが2つであったこと。2つ目に対してすら何もできなかったことを。
2つ目はその何かが通り過ぎたのを、通り過ぎて行った後に感じ取ったことであった。
警戒はしていた。クラッチのやる気が減っていく今、後に休憩するまではストマックが代わりに警戒していたのだから。
「クラッチ、スマートに警戒しなさい!」
前方を歩いていたクラッチに向かってストマックは忠告をする。
「ん? 今何か通ったか?」
ストマックよりも幾分か遅いが、それでも異常事態であることに気づいたのだろう。
歩きながらクラッチは振り向こうとし――盛大に転倒した。それも後頭部から。
「ぐ!? ……お、う……」
少しばかり呻いてクラッチの口から音は出なくなった。
胸が上下に動いていることから生きてはいるようだが、気絶してしまったようだ。
後頭部を強く打ちつけたのだから仕方がないが、それでも何もない地面で転倒するなどまずありえない。
ストマックはクラッチが死んでいないということに対して安堵するとともに考える。
ならば可能性の高いのは……というかほとんどの可能性で原因は先ほど通過していった何かであろう。
気絶しているようだが、まずは正体不明の攻撃から身を隠さなければならない。
そう思い、クラッチを担いで移動しようとクラッチに近づこうとして――ストマックも転倒した。
幸いにもクラッチと違いストマックは前方への転倒であり負傷箇所は膝への殴打であったが、それでも痛い。少しばかり機動性に低下が生じてしまうが、それよりも心配すべきは、考慮すべきは別にある。
「……クラッチが転倒したことは何かしらの能力が原因であると理解していた。だから私にもその能力がかかっているかもとスマートに警戒していたつもりであった……だがこの能力は……」
思っていた能力と違う。
ストマックやクラッチの三半規管や小脳といった平衡感覚を司る機能に働きかけバランス能力の低下を図ったものや足腰から力を抜くことで立っていることを不可能にさせているわけでもない。
これはストマックやクラッチ自身にかけられたものではない。
もっと違う、別のものに対してかけられている能力である。
そしてその正体をストマックは自ら転倒してしまうことで理解した。
「地面がすべすべしている……氷のように……」
地面はまるで氷上にいるかのように――とはいえストマックは氷上に立ったことはないが――滑らかですべる。
これでは前方に体重をかければ前方へ倒れ、振り返れば後ろに倒れてしまうのは仕方ないだろう。
「うぐ……」
ストマックは倒れたことに対することよりも今こうして地面に倒れていることに惨めさを感じてしまう。
そしてここまでで未だ相手の攻撃らしき攻撃は足元を通過したことのみ。
その一つの動作でクラッチを戦闘不能にし、ストマックを地面に這いつくばらせている。
「立たなければ……すぐさま追い打ちをかけられてしまう……」
地面に手を突き、力を入れ立ち上がろうとし――立ち上がれない。
手に力を入れても滑り、上方へと起き上がることが出来ない。
どうするべきか……。
自分でも驚くべきことに焦っていることにストマックは気づく。
正体不明の敵と正体不明の能力。
まるで解決策が見当たらない。
クラッチを介抱するどころか、自分の身すら危うい。
「考えろ、考えろ……いや違う。スマートに……そう、スマートにいきましょう」
焦るあまり普段の口調すらも剥がれかけていた。
丁寧な言葉を使うのは自らを鼓舞するため。
相手よりも優位に立ち余裕があると見せつけるため。
ヤギはオオカミに一方的に食べられる存在ではないのだ。
殺そうとする相手を逆に返り討ちにする。そういった強者たる存在であるのだ。
あの勇敢なる7匹のヤギのように立ち向かわなければいけない。
「スマートに……思いつきました」
立ち上がるための算段を思いつき、いざ実行に移そうとした瞬間、
「あれ~?」
「やっぱりいた~」
と、子供特有の高い声が前方から聞こえてきた。
そこそこ長いから飽きませんように……
5話まであるよ!




