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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
2章 絶望の2週目
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41話 狐七化け獅子一裂き 後編

 拳と拳が衝突し大気を震わせる。両者は互いに一歩も引かず、さりとて一歩も進まない。

 

 力は互角。

 速度も互角。

 重量も背丈も何もかもが互角であり、それがこの拮抗状態を作り出している。


 中身どころか外見すら同様の両者であるが、当然ながらそれは片方が能力を使用しているためだ。

 細胞単位で何にでも変わることのできる『(フォックス’ズ)(ハート)』はリオナの外見も中身――とはいえそれは性格などではなく筋や内臓という意味であるが――を寸分違わずコピーしてみせた。

 『(フォックス’ズ)(ハート)』の持ち主であるセプテムが想像しうる限り最高の肉体を以てしてもリオナには勝てそうにないと思わされてしまった。だからこそ、最高の肉体を打ち破る最強の肉体なら……勝てるであろうと判断した。たとえ敵であると分かっていても自分と全く同じ姿であるのだ。何かしらの動揺はあるだろうし、上手くいけば戦意を消失させられるかもしれない、と。


「楽しい! 楽しいねえ!」


 しかしながらこの変化はリオナを辟易させるどころかより楽しませる結果となった。


 リオナは拳を幾度となく振るい、それら全てをセプテムは受け止める。筋力が互角であるため、最大限の攻撃は最大限の防御で以てして受け止めることはできるが、しかし戦闘に対する意識は明らかにリオナの方が上手。

 早く終わらせたい、どのような手を使ってでも勝ちたいと思うセプテムに対してリオナは楽しく闘いたい。この一つの思いだけである。


「しつっこいなぁ」


 時折セプテムからも拳を突き出してみせるが、それらもセプテムが行ったよう同様に受け止められる。


「強くなるための一環として己との対峙があるとか聞いたことがあるけどまさかこんな時に体験できるとはね! アンタには感謝してもしきれないよ」


 そう言いながらリオナはセプテムの胴に蹴りを放つ。


「くっ!?」


 それを避けながらこちらも蹴りを放つが、距離を取られて避けられる。


「そういえばあの能力は使わないのかい?」


「……あの能力って?」


 距離を取ったことにより会話する余裕が生まれたのだろう、不意にリオナが問いかけてきた。


「ほらあの、増やす能力だよ。アンタじゃなく太ったおっさんみたいなやつがたくさんいたじゃないか。正直鬱陶しかったけどね」


 数多くいた僧兵達。それらの能力を如何にしてこの変化する能力を使って行っていたのかリオナは不思議であった。

 闘いも丁度話せそうだし聞いておこう。

 そんな気持ち程度であったが、


「ああ、そのことか。あれならあての仲間の能力や。あてが使える能力やないから安心しとき、もうあてらの闘いに使われることはないさかい」


「……へー」


 その相槌は相方である朱抹の闘いを想像してなのか、それとも目の前の敵が増やす能力すら持っていればさらに楽しくなっていたことを想像してなのか、どちらにせよセプテムには自分との闘いが不満はないがより高度に求められていると気づく。


「なんや……あんさん、まだ闘い足りとうへんの? あてはもう一杯一杯やのに」


 セプテムは話ながらも拳を構える。

 リオナとセプテムに違いがあるとすればそれは戦闘の経験の差だ。

 

 狐はウサギやリスといった小動物を狩る。生後まもなくから狩りを始めるとはいえ、己よりも小さい小動物を狩るのは賢さゆえ。夜行性でこちらの安全が十分に確保されたときに奇襲をかけ、獲物を噛み殺す。罠・不意打ちが得意であれど真っ向からの狩り……それも実力の拮抗した勝負は如何せん慣れていない。


 対してライオンは己の体重以上の生き物すら殺すハンターである。集団で猛牛や象といった大型の動物すらも獲物とすることもあるためそこに命の危険は常に伴う。不意打ちすることもあるが、大抵は一撃で勝負は決まらず、抵抗する相手に如何に殺されずに殺すか。それを求められる狩りを強いられている。



「行くぜぇ!」


 リオナは己を鼓舞するためであろうか。轟くような音を喉から出す。

 それは咆哮。しかし、その咆哮は鼓舞するだけでなくセプテムにも動揺を与えていた。


「――っ!? 段々拳が重うなっとる……」


 セプテムは拳を打ちつけ合うごとに押され始めているのを感じていた。

 経験の差かと始めは思っていた。

 同じ筋力・出力であれど身体の使い方は相手の方が上。こちらの闘い方を知られては不利になるのは必然であると。


 しかし、思い直す。セプテムの身体は変幻自在。言い直せば負傷すらも傷を変化させることで治すことが可能なのである。

 事実、リオナの体にはセプテムの掠めた蹴りや拳によって生じた傷は多々あるが、セプテムの体の傷は生じる先から変化し治っていく。


 持久戦になれば血が減り傷が増えていく相手の方が不利であるはずなのだ。試したことは無いが致命傷すらも生きてさえいれば治すことはできるはず。思い切った攻撃が可能ならばその分こちらが勝つのは道理のはず。


 だが現状はセプテムが押されている。


 リオナの咆哮。それがセプテムの心身に恐怖として刻まれているとでも言うのだろうか。恐怖が身を竦みさせ、動かなくさせている。


 何度目だろうか。

 再度互いの拳がぶつかる。

 ぶつかった後に次の拳が激突する。


 乱打乱打乱打乱打乱打。


 狙っているのは相手の体のはずなのに、当たるのは互いの拳。

 この闘いの中で互いの思考が繋がってしまっているためか。

 あるいは……


「(あての思考を読んでいる……とかないよなぁ)」


 ならば見てから防いでいるのだろうか。


 しかし、攻撃を防ぐ。

 出会ってから1時間も経っていないが、それでも闘い続けている相手である。多少は相手のことを知ったつもりだ。

 攻撃を防ぐなどそれこそこの王者たるライオンに相応しくはない。

 攻撃を食らいつつもそれ以上の攻撃で相手を制圧する姿の方が良く似合う。

 

 ならば……


「(認めざるを得ないね。あてが無意識にこの拳に当たりとうなくて防いでいる)」


 これしかないだろう。

 いつからかセプテムの体から生えていた新たな4本の腕。これらが必死に動くことでリオナの放つ拳を何とか防いでいた。

 そして一度意識してしまった新たな腕を遊ばせているわけにもいかない。


 計6本の腕を回転させるようにリオナの降り注ぐような拳から身を守る。


「(皮肉やねぇ。腕を増やしたあての方が手が回らないような状況になっとるとは。こうしてライオンさんの攻撃を必死に防いでいるとは……ん?)」


 そこでセプテムは気づいた。

 今の状況でセプテムが相手の攻撃を防ぐことに必死になっているということに。


「なんで腕を増やしたあての方が押されとるの……?」


 リオナの腕は2本。対してセプテムは6本。

 4本の腕の数の差があるにも関わらず6本の腕を稼働し続けなければ相手の拳が身体に届いてしまうという異様な事態。


「あんさんが早うなっとるの……? それともあてが遅うなっとる……?」


 さらには腕1本では防ぎきれなくなり2本で何とか防いでいる状況。

 筋力は同じはずなのに。

 これでは攻撃力にも開きがあるようではないか。


 そしてセプテムの問いかけに対してリオナは、


「どっちもさ!」


 と、一瞬のためをつくる。


「くっ……ここでやらなければやられてまう」


 と、腕の半分……3本の腕でリオナに向け突き出した。

 だが、それらを介さずに、何の受けすら見せずに食らってもなお


「これで終わりだ」


 ためた拳をセプテムに向けて、3本の防御すら突き抜けてセプテムを遠くあった建物にめり込ませるほどの勢いで放った。


「なんやのこいつは……!?」


 一瞬湧いた疑問であったが、それを許さずリオナの拳によってセプテムの思考も意識も途絶えた。


 が、セプテムも狩人の1匹。

 建物に衝突し、意識を手放した次の瞬間には意識を取り戻し自己の体の修復を始める。


「アンタさ、腕を増やすのはいいけどさ扱い切れてなかったよ。元々2本の腕で闘ってたんだ。それが突然4本も増やしたって同時に動かすのは無理な話さ」


 すぐさま追い打ちをかけようとして駆け寄ってきたリオナであったが、なぜか闘う気を無くしたかのようにセプテムに話しかけてきた。まるで助言を与え、再戦しようというかのように。


「ハハッ……」


 先ほどのはそんな次元の話ではなかった。

 攻撃面ではまだそれでも通じるだろう。だが、防御面ならばそこまで緻密に腕を動かさずとも防御は崩れないはず。

 まして、最後にいたっては、3本の腕であったのだ。多少荒い防御であったとしても貫けるはずがない。


 その疑問をセプテムは口にしようとして――口を塞がれた。

 口どころか体中を。建物に埋もれていたリオナの体と同じ姿であるセプテムの全身を塞ぐものがあった。

 


 突如途轍もない勢いで飛んできた物体が衝突し、修復しかけていたセプテムの体は、かろうじて致命傷を避けられていたセプテムの体はこうして絶命するに足る傷を負いそのまま意識を永遠に失った。


あれ?

一裂きしてない……

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