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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
2章 絶望の2週目
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40話 狐七化け獅子一裂き 中編

 リオナにとって巨大な敵も、強固な敵も、強靭な敵も、強大な敵も……強敵という強敵は見飽きておりその全てを屠ってきた。

 しかし、巨大で強固で強靭で強大な敵には未だ出会ったことはない。それぞれがそれぞれの特徴を持ち合わせた別の敵として出会って闘ってきた。全てを統合した敵に出会わなかった理由。なぜならそれら全てを持ち合わせたものは生物とは呼べないからである。どんな能力であったって、一つのことに特化し一つのことに独立性を持ち一つの環境に適するために生物は独自の生態系を遂げた。

 どんな環境下でも、どんな敵とでも、どんな場所でも棲めて、闘えて、できるようなものはもはや生物ではなく怪物と呼ばれる。


 どんなことでもできる怪物と呼ばれるべき生物は……人間で十分である。


 耐火服を纏い火の中に飛び込める。

 潜水服を纏い長時間水中で活動できる。

 果ては宇宙服を纏って宇宙にまで進出してきた。


 古来より他の動物を狩って殺して食べてきた。

 同種族間での殺し合いにすら力を注ぎ兵器を開発してきた。

 災害ですら支配下に置こうとしている。


 火も雨も雷も土も風も……ありとあらゆるものを使いこなすその様はできないことなどないかのように思えてくる。

 現に今、リオナ達が闘っている原因の大部分はその人間達ができないことをできるようにした結果の一つであるのだ。





 どんなことでできる能力。そんなものは恐らく存在しない。

 どんなことでもできるという時点でそれは生物として破綻しており、矛盾している。どんなことでもできるならば生きている意味も目的も理由もなくなる。できないからこそしようとするのであって、できるのであればしようとはしない。

 だからどんなことでもできる能力は存在しないのであった。唯一と言ってもいいほど近しいのがドロテアの能力であったが、夢の世界限定であるためこれは能力として成立していた。


 どんなことでもできる能力はない。だがしかし、どんなものにでもなれる能力は存在していた。どんなことでもできるような、そんな生物にだってなることのできる能力が。





 キツネときいて思い浮かぶものは何があるだろうか。

 肉食、夜行性、エキノコックス、いなり……狐耳も有名だろうか。

 それらの他にも数多くの特徴を持つキツネであるが、それらは生物としてのキツネの側面に過ぎない。

 生物以外の側面、それはキツネとは他の動物達とは違い、その存在だけで妖怪と同様に扱われた存在であるということだ。

 人を化かし、人を騙し、人を陥れる。

 善か悪かでいえば悪の側の妖怪であり、多くは人に化けて悪事を働いていた。

 

 化ける。それだけで何ができるかと言われれば、それ以上のことはできない。

 恋人に化け、家族に化け、友人に化け、本人そのものにさえ化けてみせるだけ。


 もっとも、長き時を生き、妖怪として大成してみせた化け狐はその限りではなく、狐火と呼ばれる火を操ってみせたり、人や馬を噛み殺してみせることもできた。


 日本三大妖怪の1つ、玉藻前もそうした化け狐の1匹であり、いわば九尾の狐である。化けるというたかがその程度の能力を持つ化け狐が他の妖怪達を押しのけて三大妖怪という立ち位置にいる。化けるという能力がいかに危険であったのかを如実に表した結果であろう。

 さらに、他の三大妖怪には酒呑童子と大嶽丸という妖怪が挙げられている。名前からではその正体が分からないが、両名とも鬼である。鬼……暴力の化身とも呼べるこの存在が2匹も三大妖怪になっているのはそれだけの恐怖を人々に語り継がせたからであろう。

 なぜ三大妖怪の三匹ともが鬼にならなかったのかは定かではない。系統を三つとも暴力で統一したくはなかったのか、それとも他に有力な妖怪がいなかったのか……しかしそれでも玉藻前は三大妖怪の1匹に連なった。人々を恐怖ではなく混乱に陥れ、語り継がせたのであろう。


 ともあれ、平安の時代よりあった、化かすという本質はしっかりと現代のキツネであるセプテムにも受け継がれていた。たとえ化かす能力が失われようとその心の奥底では化かすことに対する使い方と使い道が本能として確かに存在していた。

 化かすことはできないけれど、もし化かせるのであれば、化けられるのであれば今世も人々を混乱に陥れてやろう……いや、混乱と恐怖に陥れて疑心暗鬼の世の中にしてやろう。鬼はいないが、キツネはいる。化けるキツネは鬼にもなれる。


 だからこそ、このような経緯があったからこそ、『(フォックス’ズ)(ハート)』が化けるという一点に特化していたのは必然であった。

 人にだって他の動物にだって鬼にだって……見たことのないような生物にだって化け物にだって化けられる。それが妖怪、化け狐なのだから。


 さらにその能力の最たるものは細胞一つ一つからの変異が可能であるということだ。細胞をより強固に、筋肉をより強靭に変異することで見た目と同様の、もしくはそれ以上それ以下の強さを手に入れることができる。


 熱さにも寒さにも対応する細胞に変異させればセルフ防火服、防寒服にもなれる。

 化けるということは自分の身体をも騙す。欠点のない能力となっていた。



 しかしながらセプテムにも欠点はある。能力にはないが、セプテム自身にはある。

 それは強大すぎる能力の反動か、セプテム本体の肉体はかなり弱体化し、脆くなってしまっていることだ。

 リオナが小さな少女に化けていたセプテムを闘えもしないほど弱いと評価した。その評価は決して間違いではなく、そしてセプテムはその時は弱い存在になど化けていなかった。

 見た目だけで、その本質は如何ほども変わってはいなかった。偽りなき弱さを持ってリオナという最強の存在に近づいた。

 キツネは正面から闘うのではなく騙すもの。

 どのような謗りを受けようとも騙して勝てればそれでいい。

 最後に生きていればいいのだ。


 だからセプテムが正面からこうして――考えうる最高の肉体を以てして闘うのは最終手段であった。

 巨大で強固で強靭で強大な肉体に変化し、敵と闘うのはあくまで最終手段。最終手段にして最高の切り札。


 最強すらも打ち破る可能性を持つ能力は、最強を超える肉体を持つ能力であろうか。

 その答えが今、最強のリオナと変化するセプテムの闘いによって明らかにされようとしていた。





「行くぜ、アタシの拳を一度でも受け止められたらアンタの能力がいかにすごいか褒めてやるよ」


 リオナの硬く握りしめられた拳がセプテムの胴に突き刺さる。

 先ほどの、透明化していたセプテムに向けられた拳ではなく、姿を現しそこに確かに存在する敵とみなして行う攻撃。


「(確かにさっきよりも迫力は満点やね。けど、いかに気合を入れようと所詮は生物の範疇の拳。硬度に練られた鉄を打ち破るには程遠い脆さやよ)」


 変化する前のセプテムであったならばその風圧だけでも飛ばされ致命傷になりかねないような拳を前にセプテムは表情を崩さず、どこか余裕を残した笑みを浮かべていた。

 両腕を交差し、その両腕は鉄のように鈍く輝いている。さらに拳の命中するであろう腹部にも鉄のような高度を持たせることで万全の守りである。

 さらに念を入れて足を杭のように尖らせ地面に突き刺すことにより固定。これによりたとえ威力が高すぎて硬さよりも重さが足りず、壊されなくとも空中に放り出されるというような事態を避けることもできる。


「(けれど、それでも足りないような気がするんやよね……もう一押ししておこうかな)」


 交差した腕から幾本もの棘を突き出させる。

 防御と同時の攻撃。殴った本人が棘以上の防御力を持たないと拳が棘により穴だらけになってしまう。


「さあ、来るなら来いや。あんさんのような輩と闘う準備はできとるからね」


「うおおおおぉぉぉぉ!!」


 リオナの拳がセプテムの両腕にぶつかる。

 棘がリオナの拳に刺さり、そこから赤く温かい液体が流れているのが分かる。


 ――勝った。これで拳は使い物にならない。そしてあての硬度はあんさんよりも強度であることがはっきりした。


 思わず頬が緩み、若干だが力がセプテムの全身から抜けた瞬間。

 セプテムの身体が浮き上がった。


「――なっ!?」


 拳に穴が空くことすらも躊躇わずに、気にせずにセプテムに接触した拳に全ての力を込めて振りぬく。

 やっていることはそれだけであるが、痛みに耐えながら、己の肉体が傷つくことを厭わずに行えるのは尋常ではない。


 セプテムは驚愕した。まさかここまでの力をリオナが持っていることを。そしてその心の強さを。

 両腕を貫通して、腹部の硬化部分をも通り越して内臓を揺らすほどのダメージ。

 そして何より防いだはずの両腕は欠けていた。爪程の欠片であるがパラパラと腕から地面へと舞うように落ちていく。


「……へえ」


 リオナが笑う。

 己の拳を見て、そしてセプテムの両腕を見て。

 外側からだけで見れば両腕に穴が空くリオナと、少しだけ両腕の表面が欠けたセプテムでは前者の方が傷が大きい。


「宣言通り褒めてあげるよ。最強のアタシの攻撃を防ぐなんてね。これで二回目かい? 二度あることは三度あるというし、次も防がれちまうのかね」


 あくまで楽しそうにリオナはセプテムを褒める。

 ここまで攻防が続く相手がいることを心底嬉しがっているように。


「せやね。次も防いでしまうかもしれんね」


 しかし、セプテムは今の一撃で多少なりとも心が折れかけていた。

 万全とは言えないが準備していた防御に対する攻撃。内臓が揺らされただけで済んだが、次は内臓に致命的なダメージが……それこそ心臓が止まるような攻撃が来るかもしれない。


 だからこそ、セプテムの次なる変化はこの姿を取るしかなかった。


「……いつかアタシ以上の最強がいるなら闘いとは思っていたけど、まさかそれが半分くらいは実現しちまうとはね」


 セプテムの考えうる限りの最高の肉体はリオナには通じなかった。


 ならば――セプテムの考えうる限り最強の肉体に化けようではないか。


「自分自身との闘いや。修行には持って来いやろ? 修行で死ぬんも一興と受け取りいや」


 そう、リオナと遜色ない姿、声でセプテムは言った。


次でこの闘いもラスト!

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