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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
2章 絶望の2週目
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35話 弱者の逃走

 エボリュー動物園における大実験2週目の大きな特徴として2人一組のチーム戦があるが、そのチームのバランスは非常に傾いている。

 錺が独断と偏見に我儘を重ねてしまっているおかげで強者だけのチームや闘えない者と闘える者のチーム、攻防それぞれの役割があるチーム、似たような能力を重ね掛けすることで強くなるチームなど様々な組み合わせがある。

 一度闘い、決着が着かずにいた者同士を組み合わせたりと、面白そうだからという理由で組まされたという迷惑な話もあるが、ほとんどのチームはチームとして機能していた。

 相性の差で勝てないが、パートナーの能力のおかげで勝てた、という話があちこちで挙がってきており、錺としてもチーム戦にした甲斐があったと喜んでいた。

 稀にチームを良しとせずに別れたり、パートナーを囮にして逃げようとする者もおり、それはそれで飾りを楽しませた。

 

 チームにしたからには何かしらの利益があり、それと同様の不利益もある。

 そのようなチームが大半で、次に多いのがチームの相性が良く利益が勝っているチームである。

 しかしながら、不利益しか被らなかったチームも存在した。

 どちらも死んでしまったチームは当然ながら不利益ばかりであったが、それはそれで闘いに臨み、死力を尽くしていった者ばかりだ。能力を十分に発揮して死んでいったならば未練こそあろうが後悔はないだろう。

 

 だからこそ、弱者同士がチームとなり、どちらも闘えない能力であった者達は不利益の中でただ臆病に隠れていた。


 闘おうとも思えず逃げ惑うばかりであったそのチームは錺をして


「……死んだら報告してください」


 と、一言述べたのみであった。

 死ぬまでは自分はそのチームに関わる気は一切ない。

 そんな意味を込めた言葉に黒服達は、じゃあ何でそんなチームにしたんだよ、と思ったが言葉にすることはなかった。





 動物園内における動物達の能力のうちで闘いに適していない能力の1つとしてモイラヘビであるスナックの『(スネーク’ズ)(ハート)』がある。数分間だけ絶対に敵を動けなくさせる毒の能力であるが、本人に戦闘能力が無いため毒を注入した後に逃げることしか彼には出来なかった。

 だからこそ、彼はチーム戦と聞いて少し期待していた。


 自分は密かに敵に近づいて敵を動けなくさせることは出来る。

 出来ないのはその後の致命傷を負わせることだ。

 何か、隙が大きくても攻撃力の高い者と組めば自分の能力は活きてくるのではないだろうか。


 そんな淡い期待をしていた彼であるが、


「よ、よろしくですぅ」


 しかしスナックの前に現れたのは1人の小さき少女であった。

 寒がりなのだろうか厚着をしており、長袖長ズボンの上からさらに何枚か重ね着をしている。

 その何枚も重ね着した上からでもおよそ非力すぎて何もできないのであろうことはよく分かる。

 手にはガラス片を持っており、それだけで牙や爪には頼れなく、仕方なくガラス片という武器を使用しているのだなとスナックは嘆息した。

 つまりは自分と同じく闘えない側。……いや、武器を持ち闘おうとしているだけあちらの方がマシだろうか。

 いや、待てよとスナックは思い直す。まだ失望してはいけない。


「能力を教えてもらってもいいか? もしかして……怪力になったり、腕が増えたり、伸びたり、武器を増やしたり、そういった敵を殺すことに特化した能力では――」


「ないですね、すいません……」


 即座に否定されてしまった。かなり申し訳なさそうに頭を下げる。

 戦闘系ではない。その言葉にスナックが項垂れていると、


「これでも1週目はそこそこの動物を殺したんですよ……サイとか――」


 少女の述べる動物達はどれも大型で、聞いただけでも強そうで有名な動物ばかりである。

 それだけの動物達を1人で……。非力そうであり、能力も戦闘系でないならばこの少女は技巧派なのだろうか。

 そう聞いてみると、


「私の能力、『避役(カメレオン’ズ)(ハート)』は体色変化です。自在に周囲と色を合わせられますし、派手な動きをしても問題はありません。ありませんでした……」


 少女の顔は暗い。


 カメレオンか。なるほど、周囲に溶け込むことのできる能力ならばカメレオンに相応しいものであろう。自分と同様に元からある特徴を強化した能力であるが、他の動物に劣っているようには思えない。出来れば戦闘系の方が良かったが、決して足を引っ張るような能力ではないはず。

 

 スナックは己の能力と少女の能力を比べてみてそう結論付けた。

 どちらも戦闘能力こそないが、戦闘の助けにはなる能力。

 少女はガラス片を手に取ることで劣った戦闘能力を補っている。

スナックは自分もどこかで調達するべきかと考える。


「名前はメオラです。あの、本当に申し訳ないのですが……」


「どうした、はっきり言ってくれ。今後のことにも関わってくるなら今のうちに知っておきたい」


 少女――メオラは先ほどから何か歯切れが悪い。

 何かを隠しているかのように。言いづらそうに、躊躇っている。


「お前の能力は言わば周囲から見えなくなる能力なのだろう? 俺の能力は数分間絶対に動けなくなる毒だ。……っと、名前はスナック、よろしく頼む」


 そう言えばまだ名前を告げていなかった。少女が自己紹介をすることでスナックはそんなことを思い出し自分の名前を告げる。

 メオラもつられてよろしくお願いしますと言う。


「俺達はどちらも正面からの戦闘には向いていないのかもしれない。だが、やりようによってはどうにかできる。あれだろ? カメレオンってゆっくりとしか動けないものなんだろう。それが能力で派手な動きをしても大丈夫になったのならば頼もしいものだ」


 なぜか落ち込んでいるメオラを元気づけるように、言い含ませるように励ます。


「いえ、その……その、派手な動きのことなんですけど」


「うん?」


 嫌な予感がした。励ますためにつくっていた笑顔のままスナックの表情は固まる。


「実は……この両足を見てください」


 メオラが長ズボンをまくる。

 その下には肉付きなどないくらいの細い足が……あったが、それよりももっと深刻な問題があった。


「どうした、その足……」


 メオラの両足は包帯が巻かれているが歪に曲がり、立っているのもやっとというほど震えていた。

 寒さのせいではないだろう。骨折による痛みと、曲がった足が体重を支え切れずにいるのだ。


「二日前くらいです。周囲と同化し大型の動物をまた1匹仕留めようかとしていた時……悪魔のような動物がやってきたのです」


 恐怖なのか、さらに足が震える。必死に手で抑えるも、抑えきれずについには地面に座り込む。


「すいません、まだ怖くて……。その悪魔は私が仕留めようとしていた動物を弾き飛ばしてそのままどこかへと行ってしまいました。大型であったにも関わらず、巨体が宙に舞うあの姿はどこか滑稽で圧倒的な力を見せつけられているようでどこか笑えてしまいました」


「圧倒的な力か……」


 スナックの求めていたものだ。

 そんな力があればもっと楽であったのに。

 逃げ回るはめにならずに済んだのに。


「それで? その話だとお前は何の手傷を負っていないはずだろう。羨ましいくらいの圧倒的な力を持つ悪魔とやらはその大型の動物を弾き飛ばしてどこかへと去っていったのだから」


「羨ましい、ですか。ですよね、私もあの力が羨ましくて憧れてしまいました。あの悪魔が見えなくなるまで見続けてしまったんです」


 恐怖も過ぎれば憧れとなる。逆も然りだが。

 自分もその場にいたら見続けてしまったのだろうか。


「だから気づくのに遅れました。宙を舞っていても何時かは地面に落ちてくる。大型の動物の落下地点を気にしていなかった私は気づくのに遅れてしまったんです」


「だから何に……っ!?」


「はい。大型の動物が落下した先には周りの景色と同化した私がいました。気づいたときには目の前。必死に逃げようとはしましたが、両足が下敷きに……」


 よく死ななかったものだ。

 死んでいれば自分のペアはもっと攻撃的な者になっていただろうか、とそんなことは思えない。

 一歩間違えば自分だって同じ目に合っていたかもしれない。


 強者に憧れた結末がこれなのだから。


「すいませんスナックさん、失望しましたよね……」


 項垂れるメオラをスナックは見る。

 これからどうしようかと。

 置いて行こうと思えば簡単だ。

 逃げることに特化したスナックは1人で行動することに長けており、これからだってそうやって生きていける自信がある。


「……景色と同化できるのはお前だけか? そのガラス片や例えば小石など、手に持った物もできるのか?」


 しかし、スナックはあえて目の前の傷ついた少女に問う。


「一応、できます。私以外に、1人分の重量、大きさまでなら」


 ふむ、とスナックは考える。


「なら俺も同化できるな。それならこれからのことは簡単だ。透明になって毒を注入していく。今までよりも生き延びやすくなる」


「……へ?」


 メオラは呆けた顔でスナックを見る。

 見捨てられるとでも思っていたような顔である。


「……俺は確実に生き残りたいだけだ。その価値がお前の能力には十分にある。そう判断したまでだ」


 スナックは片手でメオラを持ち上げる。

 軽い。細身のスナックでも持ちあげられるほどに。


「こうすればその足も使わずに済むだろう。お前は敵を感知したら景色と同化しろ。俺も敵の体温を感知したら伝えるから」


「……はい。はい! はい!」


 メオラは嬉しそうに何度も頷く。

 大型の動物を狩っていたのは自分を強者だと思い込むためであった。しかし、怪我を負っただけで弱者へとすぐさま転換されてしまった。

 

 弱者であることで嘆き落ち込み何時死んでもおかしくないと思い込んでいたメオラであったが、最初から弱者であると認めていたスナックは弱者は弱者の使い道を教えてくれた。


 弱者であっても強者に負けることはない。勝負さえしなければいいのだ。

 逃げることばかりしていたスナックに同行する形となったメオラは今の自分でも出来ることがないか熟考し始めた。





 弱者同士が手を組んで逃げ回る。

 これを最初から予想していた者がいた。

 言うまでもなくこのチームを結成させた錺である。


「……死んだら報告してください」


 この言葉には諦めとは違う意味が込められていた。

 

 彼らはまず死ぬことはない。闘うよりも生き延びることを優先するのだから。

 だから、彼らが万が一死ぬような事態があったらすぐ報告してほしい。

 彼らが闘うことになった経緯を知りたいから。


今回、バトルはないですね。

まあ繋ぎというか、以前出した『見えない暗殺者たち』の1人があの後どうなったかという話でした。

いずれまた登場するかと。


次は誰にしようかなー

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