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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
2章 渇望の3週目
122/129

69話 獅子と猛虎

 鍵探しという題目の三週目も最終日になれば誰が所有者であるかは一目瞭然である。

 余裕ある表情をしていれば所有者。

 血眼になり草の根を分けてでも探していれば非所有者。

 無論、所有者の中でも臆病な者は非所有者の振りをしている者もいるだろう。

 わざわざ見せびらかす必要もない。

 わざわざ鍵があることを教える必要もない。


 最終日に無駄な戦闘は行われない。

 流石に、同じ鍵を探すライバルを消している暇はない。

 だから、行われる戦闘は所有者と非所有者の鍵の争い。

 そして、晴らさなければならない因縁の対決だけである。

 

 鍵を求める三週目の戦いはやはりこの2匹の戦いを以て終了となった。





「アタシに客のようだね」

「いや、どうやら俺の客のようでもある」


 共に鍵の所有者であるライオンのリオナとトラの朱抹。

 仲良く連れ立って歩いているわけではないが、2匹を避ける動物が多いため、自然と合流する頻度も時間も早い。

 つい先ほど別れたと思ったらまた出会ってしまう。

 足止めする動物もいないため、闊歩していればどこかで会ってしまう。


 会っては別れ、会っては別れを繰り返すこと本日数度目。

 流石に臭いを辿って会わないようにしようかと思い始めた頃。

 また会ったなと手を振り、別れようとした時であった。


 2匹の動物が歩いてきた。

 焦燥は無い。一歩一歩、自分の庭を歩くかのような、自然で優雅な足取りであった。

 鍵の所有者だろうか。

 そう思わせるくらいに、彼らは自然体であった……否、内1匹は自然体であったが、もう1匹は殺意に満ちていた。


 蒼白なまでの肌の白さ。老人を思わせる白髪。そして血走るかの如く赤い目。

 殺意に満ちた青い目は朱抹を映していた。


「……知り合いかい?」

「いや。会ったこともねえな。だが、どうも俺を狙っているようだな。そして俺もアイツを知っている気がする」


 リオナが朱抹に尋ねると首を振りながら彼は答えた。

 知り合いではないが、知っていると。

 であれば、名の知れた動物なのだろうか。

 リオナは少しばかりその動物に興味が沸いたが、共に歩いてきたもう1匹を見て考えを改める。いや、捨て去る。


「……不味いねぇ」


 最強を自称しても冷や汗が出る。

 頬が引き攣る。

 口元は笑っているが、苦笑なのか作り笑いなのか。歪なものであった。


「どうしたリオナ……って、アイツか」

「ああ。あの人さ」


 朱抹もまた、もう1匹に気が付いたようだ。

 だが、リオナ程には表情は硬くない。


「幻覚の類だと思うかい?」

「さて。この威圧感は本物のようだがな。アイツ以外にこの重圧を醸し出せる奴がまだ残っているんなら、どのみち脅威だな」

「死者は蘇らない……とは思えないね。どんな能力があるかは分からないけど、生き返ったと捉えた方が良さそうだ」


 リオナと朱抹の視線は一匹に射止められていた。

 目を離せない。

 それだけのオーラが、危険度があった。


「朱抹……アンタは……」

「ああ。俺はアイツとやるぜ。どうやら向こうもそれがお望みらしい」

「アタシはあの人と戦うべきなのかねぇ。というか、敵よりもむしろ味方に思いたいけれど」

「なんだ、お前でもそういう顔するのか?」


 朱抹は珍しいものを見たと目を細めて笑う。


「アタシを何だと思っているんだい」

「そりゃ、最強だろうさ。最強の動物、ライオン。相手がたとえ最恐だからって、負ける理由にはならねえだろ?」

「……そうさね」


 リオナは真っすぐと見返す。

 

「ようリオナ。最恐たる俺の復活だ。祝え、喜べ。そして俺に勝利を差し出せ」


 背まで届く自身の髪を撫でながら、ソレはリオナに語り掛ける。

 敵にかける言葉ではない。

 それこそ愛情深い……家族……伴侶にかける掛け方であった。


「……レオン」

「そうだ。俺の名でも呼んで、何か用でもあるのかリオナよ。俺はあるぞ。さっさと鍵を寄越せ。お前がこの局面で持っていないわけがない。お前の強さを信頼し、俺とお前の、番という絆を信用したから俺は来たのだ」

「……鍵はあるよ」


 リオナは自身が獲得した鍵を見せる。


「フハハ。よくやったリオナよ。それだ。それがあれば俺は次なるステージに立つことが出来る。よくやった、褒めよう。最恐たる俺の番であるリオナよ」

「お褒めに預かり光栄……だけどね。悪いけど、鍵は1つしか無いんだ」

「だからどうした?」


 きょとん、と不思議そうな顔をレオンはする。

 何かおかしいことでもあるのかと。


「1つしか無い? それは俺の鍵だろう? 数など関係ない。ああいや、2つあればお前の分もあったかもしれないがな。残念ながらお前の手にした鍵は俺のものだ。リオナは残りの時間を鍵探しに充てるといい」


 それが当然であるかのように、レオンはリオナに詰め寄ると、その手にある鍵を奪い……レオンからすれば受け取ろうとする。

 しかし、その手を横から掴む者がいた。


「自分本位過ぎるぜ、そりゃ流石にな。しかもこの俺が目に入っていないだと? どうやって生き返ったは知らねえが、この俺を無視するとはいい度胸じゃねえか」


 横から朱抹がレオンの手を掴んでいた。

 ギリギリと強く手首を締め上げる。


「ふん。朱抹、か」


 知っていた、とばかりにレオンは鼻を鳴らす。


「無論。お前のことは知っている。だから、連れてきた。最恐の王たる俺に相応しい騎士をな」

「殺す」


 更に横手から鋭い爪が降り注ぐ。


「……っ!?」


 朱抹を狙ったそれは、確実に命を狙うものであった。

 レオンから手を離し、紙一重で躱すと朱抹は構える。


「ようよう、何で俺にそこまで恨みがあるかは知らねえが、今は会話中だぜ。別に逃げることはしないからもう少し待ってくれや」

「……? 殺す」


 白い肌と髪。そして青い瞳を備えた女であった。


「……ウサギってことはねえよな。その爪の鋭さは」

「殺す」


 彼女は歯を剥き出しにし唸る。


「ぐる。グルルルルルルルル」


 その口から覗く牙もまた鋭い。

 草食動物の持つそれではない。


「……まさか、な」


 ふと思い当たる動物がいた。

 一度だけ、会った気がする。

 まだ人化する前に一度だけ。


「……そうか。そういう段取りか。リオナはレオン。そして俺……トラには……」

「殺す! 貴様はこの私が殺す! トラよ! 朱抹よ! 私の名を忘れたとは言わさんぞ。このホワイトタイガーのセティを!」


 ようやく、殺す以外の言葉を彼女は……セティは吐いた。

 朱抹が彼女を思い出したためか、それとも殺意が僅かにでも揺れたからか。


「……ああ。いたなぁ。そうか、そうか……お前、まだ生きていたんだなぁ」


 朱抹は思い出しながら懐かし気に応える。

 セティの殺意に対し、あっさりとした返答。

 煽りと捉えられるのも無理はない。


「馬鹿に……! 貴様、私を馬鹿にするのか! 殺す。絶対に貴様を殺す! 貴様を惨めに殺し、私の憂さを晴らす」

「そうかい。ま、戦うってんならいいぜ。やろうか」


 朱抹の戦意に嘘は無いことをセティは悟ったのか、場所を移そうと走り出す。


「悪いなリオナ。そっちはお前で頑張ってくれや」

「……もちろんだよ」

「ということでな、レオン! お前との決着はすでに着いているが、もしまた戦うことになったら俺が今度こそきっちりと殺しておいてやるよ」

「フハ、フハハハハハ。最恐たる俺を2度殺すだと? やってみろ。すでに俺はあの時の俺ではない。グルラァァァァァァァ」


 レオンが唸る。

 その咆哮は先ほどのセティのそれとは比べ物にならぬ程周囲に轟く。

 戦いを見物しようと集まっていた者達の足をすくませ、腰を抜けさせる。彼らは這いつくばりながらでも逃げ出していく。

 朱抹がセティを追い、その場には2匹のみが残る


「邪魔者はいなくなったな。では、存分に番として話をしようではないか」

「ハッ! この局面でアタシから鍵を奪おうなんざ、番じゃなく敵さ!」

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