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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
109/129

Take2―50 対談

 夢と現実は時間の流れが全く違う。

 夢の中での数日は現実での1分に等しく、

 夢の中での1分は現実での数日に等しい。


 時間軸の流れが違い、時には一致する。





【ミガテの場合】


「へえ、生き返るのってこういう風にやんのか」


 手のひらを開閉しながら体の感触を確かめる。

 少しばかりの違和感はあれど、すぐに新たな肉体へ馴染む感覚があった。


「なんだか一月ばかしバカンスを貰っていた気もするが、そんなわけねえよな」


 森の中での闘いを終えたが、疲労は大してない。

 まるで闘いの直後に、闘いに見合った休憩をしていたかのようだ。


「そんな訳有りますよ。だって、夢なのですから。こちらでいくらでも帳尻を合わせて精神的疲労を癒すことが出来ます。夢の中で傷ついた精神は夢の中で治すのが道理じゃないでか」


 目の前の男の言葉を聞きながら、そんなものかとミガテは納得する。

 夢の中とは意味の分からない世界ではあったが、最終的に本当に生き返られたのだから文句は無いが。

 世界そのものを構築する能力を見せつけられてしまっては、闘う気も失せる。

 あのメイメイよりも圧倒的な力である。


「精神的疲労が癒えたのであれば、次は肉体的疲労です。疲労というには些か傷つきすぎていましたけれどね」

「錺とか言ったか。てめえには感謝しているぜ。こんなにも腹一杯喰えるようになったんだからよ」

「流石は肉食動物。血の気が多くて結構。貴方は今回のイベントで最も活躍した1匹と言っても良いでしょう。メイメイさんやその陣営だけでなく、各所で素晴らしい働きをもたらしてくれました」


「なら何かご褒美があってもいいと思うけどねぇ」

「夢の中でご馳走たくさん出したじゃないですか。あれ、恩無君に無理言ったんですよ。彼も少し疲れていたようです」


 闘いを終えた5匹の動物はそれぞれ別れ、また別の場所で錺と対談していた。

 それはインタビューのようであり、労いのようでもある。

 錺がいつもの調子で話しているため、誰もこの闘いの元凶である錺という人間に対して怒りや憎しみを覚えない。能力にも近い話術である。


「でも能力の使い方はより熟知したのではないですか? 夢の中であっても虚言も妄言吐けますが、虚偽は出来ません。能力は最大限に発揮されます。身に覚えはありませんか?」

「……そういやぁ、そうだな」


 思い当たる節はいくつもあった。

 

 カメサマの甲羅の一部、ぽん太の針1本、ボトムズの片ドリル……相手の肉体の一部だけでも取り込めば発動するというのがミガテの能力でもあるが、それにしては取り込んだ部位が小さすぎた。

 駄目元で喰らっていた。

 ドリルはまだしも、ぽん太の能力に至っては針1本だ。下手をすれば一度限りであっても不思議ではない。カメサマも甲羅の一部であったが、その頑丈性は健在であった。


 明らかに能力は強化されていると思いながらも、強くて損は無かったため気には留めなかった。


「それはそのまま皆様が生き返った後も適応されていますよ。要は、感覚ですから。使いこなしてきたと思っていてください」

「まあ、戦い抜いた経験値ってやつだな」

「ええ、そうです。そういえば、そちらの肉体はお気に召しましたか? ミガテさんは速さと鋭さをご希望でしたね」

「まあまあだな。少なくとも前の体よりかは動きやすい」


 そう答えるミガテの顔は、1週目、そして夢の中でのものと違っていた。

 どこか面影が残っているのは、ハイエナとしての特徴があるからだろう。


「便利なものだな。どこのハイエナの死体かは知らねえが、俺にとっては万々歳だ」

「5匹の中にゴリラやケツァールがいたのは少しばかり予算を切迫しましたがね。ニホンザルなんかは大した苦労をしなかったので弥七さんには感謝ですが」


 夢の中で精神だけは捉えられていた。

 その中の100匹を選抜し、生き残りを賭けた闘いが行われた。

 だが、その生き残りとは、あくまで夢の中。

 出来ることは精神的蘇生のみ。

 肉体はあくまで現実に準じている。


 ウッホの肉体は自身の力を反射されてミンチすらも残らなかった。

 ミガテの死体は喰らい尽くされた。

 他も同様である。


 だから、新たな肉体を用意する必要があった。

 精神はいらない。器のみあればいい。

 そこに精神を納めれば完成する。


 生き残る動物が決まった瞬間、同種同性の動物の死体を用意した。 

 殺してもいい。すでに死んでいてもいい。

 出来る限り新鮮である方が都合がいい。


「貴方の肉体は、昨日までアフリカ地帯を走り回っていたものですよ」

「へえ。いいじゃねえの。気に入ったぜ。……で、もう一回能力の話だがよ」

「何でしょうか」

「俺だけ不公平じゃねえの?」

「ふむ。と、言いますと?」

「だってよ、能力を使いこなすってのは遅かれ早かれってことだろ。俺が使いこなしていようが、1週目で使いこなしていたやつもいるかもしれねえ。そこを、だ。何も喰らっていない俺が参加したところで即殺されるんじゃねえのか?」

「ふむ……なるほど確かに」


 時間経過によって強化されていく能力もある。

 1週目よりも2週目の方が強い者は多いはず。

 代償はあれど、永久的に継続されるウッホの能力もそうである。


「ただ生き返らせればいいと思っていましたが、他にもボーナスが必要そうですね。それは他の方々も同様に。ミガテさん、貴方先ほどご褒美がと言っていましたね」

「言ったな。何かくれるのか?」

「ええ。差し上げましょう。貴方だけに――を」


 錺がミガテに提案をする。

 それを聞いたミガテは口角を上げ、


「なるほどな。じゃあ俺は――を貰うぜ」


 即座に同意したのであった。





【トリニコの場合】


「少しくらい飛べるようになったからって、オイラ元々が弱いからなぁ……」


 森の中での闘いを終えて、このまま一月を生き残ることに自信を無くしていたのはトリニコであった。

 ここまでで彼の勝ち数はいくつかあるも、その多くがサポート。

 切り札である、爪に熱を灯し相手を燻らせる攻撃や、奥の手としての熱の球体。満を持しての発動であったが、それは対峙していたシャルドレーダを仕留めきれるものでは無かった。

 無論、シャルドレーダ以外の敵であれば倒し得る可能性もあったのだが、それは闘いにおいては何の意味も無い考え。次回は、と考える前に今回を乗り切らなくてはならない。


「貴方の真骨頂はその回復能力にあるではないですか。サポートしつつ、最後に強力な攻撃が出来る。一切が攻撃のみの動物とはその有り方が違います」

「だけどよ、それはチーム戦だったからって話だ。これからまた1匹になっちまえば、オイラはまたすぐやられちまうよ」

「そうでもありませんよ。貴方はすでにチーム戦を経験している。パートナーを見つけることで闘いやすくなるのではありませんか?」


 ウッホと共に、ミガテと共に、ホープと弥七と共に闘った。

 それは決して無駄な経験ではないと錺は思っていた。

 トリニコにとっても、他の動物にとっても強みになると。


「別に孤独に闘うことだけが野生で生きる道ではないでしょう。群れで生きる動物が決して弱いわけでは無い。個だけが強すぎると共闘などほぼ無理ですからね」


 とあるライオンとトラを思い出しながら錺は語る。

 それは性格的な面でもそうだ。

 トリニコは決して協調できない性格というわけでは無い。


「この闘いを生き残った報酬として、貴方にはそうですね――」


 何が相応しいか。

 トリニコの自信に繋がるものは何か。

 それを推察しながら錺は一つの提案をした。





【弥七の場合】


「今回の闘いにおいて、貴方はまさにトリックスター。味方を裏切り生き残ったその様は、会場を沸かせていましたよ」

「別に俺は裏切ったわけじゃねえよ? ただ、あのフクロウが俺を囮にしようって言うもんだから、じゃあお前が行って来いと、交代しただけだ」


 会場がなどとのたまう錺の言葉はさておいて、弥七は黒装束の下で器用に盃を傾ける。

 VIPのように用意された柔らかなソファや豪華絢爛な肉や酒を前にして弥七は機嫌よく錺の言葉に答える。

 周囲の黒服はいつ暴れ出すか分からない弥七に警戒の目を向けている。が、肝心の護衛対象でもある錺も呑気なもので、自分のグラスへノンアルコールドリンクを注いでいる。


「でも良かったのですか? あそこで貴方が能力を発動せずとも、もしかしたらミガテさん辺りがトリニコさんやルビーさんを片付けていたかもしれませんよ。能力をあえて発動したようにも思えましたが」


 実際、弥七が行動を起こした後に、続けてミガテもルビーへと攻撃を仕掛けている。

 ミガテであれば弥七が何をしなくてもそのうち思いついていたことだろう。

 ウッホを倒すよりも仲間を殺す方が遥かに楽であると。


「んー、まあそりゃその通りかもしれねえけどよ。隠していた本性を出すだけでも、あのフクロウを脅すには十分だったかもしれねえ。ホイホイと俺が従っていたからアイツも付け上がっていた節もあるしな」


 空になった盃に錺は御猪口を傾ける。

 減ることの無い酒を浴びるように飲む。

 夢の中であるためからか、酔うことは無い。


「なんか物足りないな。お前も飲むか?」

「いいえ、私は仕事中ですので」


 それに下戸です、と錺は付け加える。


「つまらねえな」

「すいません」

「で、能力を使った理由だったか? そうか……使わなくても良かった。お前らにはそう映っていたのか」

「……はて。私は何か見落としていたのでしょうか」


 錺の笑みは崩れない。

 それは本当は知っているのではないかと錯覚するほどだ。

 弥七であっても錺の内心は読めない。

 

「俺は見た能力を真似出来るからな。だから実は、ホープやあのゴリラ以外にも使えた能力はあったんだ」


 そのほとんどが途中で使えなくなってしまったが、逆に言えば途中までは使えたということだ。

 その能力は戦闘に関わるものだけではない。

 ホミーを始めとした探知系能力も一目見て、多々を積み重ねて森の中の様子を探っていた。

 そして中盤までに限ってはホミーやイグルーを越えて森中にいる動物を把握していたのだ。


「……何時までもチンタラやっていられねえ理由があったんだ。終わらせられる場面が出来たのなら終わらせるしかねえだろ。あの最恐が来る前にな」

「なるほど。貴方は彼の存在に気が付いていたのですね」

「やっぱお前は知っていたんだな、あいつの存在に」

「勿論ですとも。あの方の強さも、オーラも、全てを把握しています」


 錺は笑顔を崩さない。

 人間であろうとも、いや、牙や爪が鈍っている人間であるにも関わらず錺は弥七の言う動物に恐怖を抱かない。


「希望を言えばな、あいつがあの森の中でくたばっちまうことを望んでいたんだぜ。だが、ホープの能力を以てしてもそんな希望的観測を持つことが出来ない」

「貴方が恐れるのは生き返った後も、あの方がいるということですね。結局は森の中にいるのと状況は変わらない、と」

「ああ、そうさ。ゴリラやハイエナの奴らはどうにかすれば倒せるかもしれん。だけど、あいつだけは倒せるビジョンが浮かばねえ」


 探知しただけだ。

 直接相対したわけではない。

 だが、それでも弥七は震えていた。


「倒せるビジョン、ですか。でしたらいいことを教えてあげましょう」

「いいこと?」

「ええ、その情報を以て報酬とします。いいですか、あの方は森の中で闘っていたのです。貴方と同じ様に」





【ウッホの場合】

「貴方は……いえ、何もいうことはありませんね。心ここにあらず。私が何を言っても効果は無さそうです」


 ウッホの目は何も見ていなかった。

 ただ宙を映しているに過ぎない。


「ですが思い出してください。貴方が殺したのは能力で妻と偽装したメイメイ。本当の貴方の妻は生きているのです」


 ピクリ、とウッホの体が動いた。

 目は錺へと向けられる。


「貴方への報酬も情報でいいでしょう。むしろよくここまで闘ってきました。流石は元群れの長といったところでしょう」

「妻が生きている……だと。アイツは倒れてそのまま死んだんじゃ……」

「誰かがそんなこと言いましたか? 貴方が知っているのは倒れたところまででしょうに。ええ、倒れて動物病院に運ばれましたよ。そのまま現在も処置が続いています。本当はそのまま殺されるはずでしたがね、貴方が闘っていることで延命処置が続いているのです」

「それはつまり……」


 現在も生きている。

 錺の言葉では昏睡状態に近いのかもしれない。

 だが、それでも……


「貴方が死ねば彼女の命の価値もゼロになります。死なせたく無ければ、生き延びてください。滅多にいませんよ、この闘いにおいて自身以外の命を背負う動物は」


 一ヶ月の闘いを終えてもウッホの妻が目覚める保証も、完治しているという保証もない。

 あえて錺はそのことを言わずに、ウッホに再び戦意を取り戻させようとしている。


「これ以上は私からは何も言いません。なぜなら、これだけで十分と言える程に貴方の目は生気を取り戻したから」


 全てを殺す覚悟をした目か。

 どうあがいても生きようとする決意の目か。 

 ウッホは眼前の錺を見て頷いた。




【???の場合】


「俺が最恐だ」

「ええはい。それで結構です」


 何を言ってもそれしか答えない彼に対して錺は諦めた。

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