Take2―47 愛情
愛を束ねれば強敵にだって勝てる。
そう思っていた。
だが、結局は愛とは盲目的である。
愛に溺れ愛に潰される。
愛とは、誰かに勝つためのものではないのだ。
誰かに勝とうとした瞬間、自分に負ける。
「尽く、上手くいかない時って続いてしまうものよね」
メイメイが呟く。
独り言に近いもので、そのまま風に流されていくはずであったその言葉をウッホは拾う。
「上手くいかない……? 今、この森の中で最も優勢なのはお前なのではないのか? 全てを味方に付ける能力があれば、全てを意のままに従わせることも出来るのだろう」
「……そうね」
愛は裏切らない。
仮初であった愛情も、二つ目の能力で更に強化され盤石。
偽りであっても本物に負けないものとなっていた。
「その能力に代償は無いのか?」
「んー、代償ねぇ……」
まさか能力を探るつもりではないだろうかとウッホを疑うも、すぐに思い直す。
ウッホは今、メイメイを妻であると思い込んでいる。
元々、番がいたのだろう。そして闘いによってかは知らぬが失った。
能力の術中だ。ウッホはメイメイを裏切ることはしない。出来ない。
裏切るようなことをしている時点で、その愛情は偽り。二つ目の能力である『大熊猫の嫉妬』は速やかにメイメイを別人物へと見えるように施すことだろう。
ウッホがメイメイを妻とみているうちはその愛情に偽りなし。
能力の代償、弱点を尋ねているのは単純に知りたかったからなのだろう。
「愛情を逆手に取られることかしらね。1週目は愛情を持つからこそ、手加減されずに殺された。他にも、デブのグレートファザーなんかも歪んだ愛情で私を能力に陥れて、結果として殺されそうになっているわね。まあ、そちらは他の2匹と牽制し合っているから問題は無いのだけれど」
「ふむ。愛が重ければ、一方的なものであれば相手を傷つける、か。相思相愛。俺とお前のようになれればいいものだがな」
「そうね」
相思相愛などメイメイにとってはどうでもよく。
問題はメイメイにとって有益かどうか。
役に立つのであれば傍に置く。
役に立たなくても強ければ遠方に配置する。
手駒を増やし、かつそれを気取らせない。
能力により疑心感など与えない。
思いのままとは言えないが、思いの範疇には動かない。
「それで、そろそろあなたの能力を教えてもらえないかしら? 私だけ教えるのは不公平だわ」
メイメイは知っていた。
難攻不落とも呼べるアルミュールの鎧に傷を付けたのがウッホであることを。
真正面から、1対1で闘うのであればアルミュールはメイメイの手駒の中でも最強の1匹。ウッホは他の動物がいたとはいえ、真正面から力のみでアルミュールの鎧を傷つけたのだ。
ウッホならばアルミュールを越えた1匹になるかもしれない。
アルミュールとウッホを従え生き返る。
そしてメイメイが魅了を使い手駒を更に増やしつつ、魅了が効かない動物や従わない動物をアルミュールとウッホが倒す。
メイメイの1週目の死因はとあるライオンのメスと闘った末によるもの。あのライオンはメイメイでは倒せない。
魅了だ。あの格好良さにメイメイは魅了されていると言ってもいい。
強さに惚れこんでしまっていた。
だから、その強さを払拭する新たな力を手に入れなければならない。
「ゴリラだし、アルミュールの鎧を穿つところを見ると、力に関する能力によるようだけれど」
「如何にも」
ウッホは少し誇らしげに答える。
数えれば何匹の動物を吹き飛ばしてきただろう。
跡形もなく、見る影もなく倒してきた。
やはり愛する者には自身を強く見せたい。
「俺の能力、『大猩々の心』はドラミングによる力の強化だ。筋肉の肥大ではなく、単純に力が強くなっていくだけなのが残念だが」
「……貴方の場合は別に見掛け倒しではないのだけれどね。元々が強そうよ」
「む、必殺技を思いついた」
ウッホはドラミングの手を止め、拳を握る。
「そもそも俺の能力は攻撃全てを必殺に等しい威力にするもの。技はいらないと思っていたが……経験が生み出したものなのか?」
アイアイとの肉体のみの闘い。
その終盤で地面を巻き上げることで目くらましを立てたことが功を奏したのか。
これからメイメイと闘おうとしている者にとっては不幸なことに、ウッホは技を編み出した。
「あら、それはいいことね。見せてくれるかしら?」
「いいだろう。まずは一つ目、『星崩し』」
高く振り上げた拳を大地へと叩きこむ。
叩きこんだ箇所から大地は裂け、およそ100m先まで地割れを引き起こしていた。
間に立っていた木々は全て大地と大地の間――底の見えない奈落へと落ちていく。
「動かぬ敵に対して有用となるだろう」
「す、すごいわね……」
もはや地割れというだけで能力の一つになりそうだが、ウッホはそれを力のみで起こしていた。
その名の通り、星一つ崩しかねない威力を秘めている。
更には、これを一つ目と言っていた。
「まだ、あるのかしら」
「無論だ。三つあるうちの二つ目、『貫通岩』」
ウッホは地中へ手を入れると、強く握りしめる。
そして握りしめた土を強化された握力で更に圧縮し、高密度の土の塊を作り出す。
塊を宙へ放ると、もう片方の腕を正拳突きのように突き出し、塊を弾丸のように発射した。
途中にあった木々数本を倒しても尚止まらない土の塊はやがて勢いを減少させ地へと還っていく。すでにメイメイの視界から外れた領域の出来事ではあるが。
「三つ目は『貫通岩』の応用だ。『散岩』」
今度はあえて土を緩く握りしめる。
とは言え、それはウッホからすれば緩いだけであり、圧縮された土の塊はやはり高密度。
先ほどまでよりは密度の薄い土の塊を同じ様に宙へ投げ、同じ様に発射する。
違うのは密度……つまりは強度。
ウッホの力には耐えられず塊は空中で分解する。
分解しながらもある程度の形を保った小さな塊らは全て前方へ発射されていき、巨木のいくつもの穴を空けて、倒木へと導いた。
「それぞれ遠距離、数の多い敵に有用だな」
「……す」
その光景を見てメイメイは目を見開きながら、
「素晴らしいわ! ウッホ、やはり貴方こそ私の寵愛を一番に受けるべき存在よ」
ウッホを散々に持て囃す。
絶対に手放せない価値を持っている。
力のみでこの現象を引き起こしている。
グレートファザーよりも、シャルドレーダよりも、バッターよりも、アルミュールよりも強い。
強くて従順だ。
メイメイに愛を奉げている。
「もっと見たいわ。ねえ、それは力を増せばもっと強力な技になるのよね」
「そうだ。俺の力はドラミングを行えば行う程強くなる。先ほどのはまだ序の口だ」
それを聞いてメイメイは考える。
すでにこの威力で太刀打ちできる動物は少ない。
だが、念には念を入れるべき。
油断はしない。
「でも私怖いわ。だって、貴方の仲間は貴方の能力を知っているんでしょう? 今思いついた技も、対策されているかもしれない」
ご丁寧に瞳を濡らしながらメイメイは訴える。
頬を伝うほどまでいかなかったのは演技力を高く評価していないからか。
演技などせずとも魅了が騙してくれる。そう思っているのだ。
「可能性は否定できないな。だが、俺はお前を守り抜くぞ。この命を賭してでも」
「だったら、どんどん強化してくれないかしら? 何があっても私を守れるように」
「そうだな。それがいい」
力なんてものはあればあるほどいいだろう。
ウッホはドラミングを繰り返す。
メイメイはそれをはしゃぎながら応援する。
調子に乗ったウッホは更にドラミングする。
メイメイは黄色い声援を上げた。
まるで終わりのない迷宮のように、延々とそれは続けられていく。




