Take2―44 馬鹿
【数時間前】
それは、ミガテがグレートファザーとの闘いを終えた直後のことであった。
全身に傷が残り、疲労も回復しないままに次の敵へと向かうというのは愚策。
ミガテはチームのメンバーとの合流を果たすべく、近場に誰かいないかイグルーの能力で索敵を図っていた。
「んー、この場合は単純な視力強化じゃなくて熱源探査が向いているってことでいいんだよな? 体温を操作している奴らはともかく、ウッホ達には出来ない。トリニコの炎の熱量は知らねえけどな」
周囲に散らばる死体――グレートファザーによって母体とされた哀れな死体――はエネルギーを奪われたためか、死後まもなくであろうとも冷たい。
数えれば3、4匹程度の死体しか見つからないが残りは喰われたのだろう。
あの娘達は母体を喰らうのだから。
「赤外線やら紫外線やらも見られるようになるらしいけどよ、俺からしたら見えたところで何だって話だ。そんな訳の分からないもん、見えたところで何が出来るって訳じゃねえぞ」
赤外線やら紫外線を飛ばしてくる敵がいようものなら見えるように視力強化を使うだろうが、どんな捻くれた由来があればそのような能力を持つ動物になるだろうか。
索敵をするのであれば単純な視力の強化と熱源探査あたりで十分。それ以上は使いこなせない。
自身の能力を過剰に扱わず、使えるものだけを使いミガテは歩を進める。
「……てかよ、俺は一体どうすればいいんだろうな。満身創痍で他の敵に挑む程馬鹿じゃねえが、逃げたら逃げ切れると思う程楽観的でもねえ。攻めの一手を何とか編み出さないと時間が過ぎていくばかりだ」
トリニコを見つけることが出来れば傷ついた体の回復が出来るが、見渡す限りでトリニコらしき影は無い。
視力強化をしてみても、かなり遠い位置にいることが分かる。
そもそも、視力を強化したところで木々生い茂る森の中では視界が悪い。
かといって、下手に透視能力など使おうものなら今度は距離感が分からなくなる。
とりあえず熱源探査で付近の動物だけを手当たり次第に探してみたのだが、
「ん? 動くわけでもなく、ただじっとしているのか。2匹だが睨み合っているようにも見えねえな」
おおよその位置さえ掴めば透視へと切り替え覗く。
ミガテが見つけた2匹の動かぬ動物。
何があったかと言われれば、拘束されていた。
蔦で木に括りつけられていた。
「……」
見覚えのない動物だ。
1週目でさえも、グレートファザーの娘の中にもいなかった。尤も、この2匹はオスであるからグレートファザーの能力の条件には当てはまらなかっただろうが。
「……なるほど」
なんとなくだが推察は出来る。
この2匹はグレートファザー一味の餌になるはずだったのだろう。
グレートファザーを喰らい能力を奪った今であれば分かることだが、娘を生み出す能力はかなりの体力を使う。動物1匹を生み出すのに動物1匹を喰らいたいくらいに。
オスは餌に。メスは母体に。そうやって区分けしていたのだろう。有効活用していたのだろう。
「んで、こいつらは捕まったがまだ喰われていなかったってわけだ」
鮮度を気にしたかあるいは能力の条件か。
殺されることなく、殺される恐怖を味わっていただろう2匹へとミガテは近づく。
「殺すのは簡単だ。動けないところを見るとよほど上手く縛ったんだろうぜ。もしくはかなりの強度の縄を作り出したか」
動かないのは動けないから。
あえてこの状況を良しとする者はいないだろう。
「見つけたぜ攻めの一手」
だがミガテはこの出会いを好奇とした。
殺すのは得策ではない。
殺し、能力を奪ったところでミガテ一人であることは変わらない。
「ようお二人さん。ちとお話があるんだがいいかい? お前らは死にかけだ。どっかのデブに掴まっちまったんだろうな。だからよ、俺が助けてやるよ。お前らがよっぽどの馬鹿じゃねえのなら、恩を返そうと俺のチームになって働いてくれるよな?」
と、木の向こうにいる2匹の動物へと顔も見ぬままにそう投げかけると、
「馬鹿……?」
「だと……?」
怒気を孕んだ声で返答があった。
が、すぐに落ち着いたかのように、
「なるほど、確かに仕事をせぬまま死ぬは愚かなことだ」
「考え無しの俺だけどよ、流石に無策で動くわけじゃねえ。乗ってやるよ、その挑発」
冷静に見せかけた言葉が続けて返された。
「俺はグラスリッパー。ウマだ」
「俺はバゼール。シカだ」
「馬鹿ではない」
「馬鹿じゃねえぞ」
「……はーん」
馬鹿馬鹿しいと思いながら生返事をするミガテ。
なるほど、馬鹿だ。そして扱い易いと思いながら
「なるほどな、てめえらは賢いってことだな。この状況を理解していると?」
「委細承知している。だろう、バゼール」
「勿論だぜグラスリッパー」
得意げな顔を見合わせている2匹を見て、また馬鹿だと思い直しながら
「じゃあ俺の手下になるってことでいいんだよな」
「ああ……あ?」
「勿論だぜ……へ?」
「お前達はグレートファザーもしくはその娘に掴まったんだろ?」
「うむ」
「油断しちまったな」
「ならそいつらを倒した俺にはどでかい借りがあるんじゃねえのか?」
「ほう。倒したか、あいつらを」
「あいつら卑怯だったよな、俺達の勝負に割り込んできたんだからよ」
ミガテは会話の中で何となく2匹の性格を理解し始める。
自身を過剰に見ているのだ。
馬鹿ではないと、もっと強く賢いと思っている。
そこをグレートファザーに付け込まれた。
「へえ。ならお前らは本当はグレートファザーに勝てたんだな」
「無論である。正しく仕事をさせれば俺の右に出る者はいない」
「勝てるかどうかじゃねえ。勝つんだよ」
ならばミガテも付け込むだけ。
隙だらけの性格は煽てれば勝手に動いてくれる。
「なら見せてくれよ。多分だが、この先にグレートファザーと同格の奴がいる。そして、そいつらのボスもな。実力でグレートファザーを倒した俺と、実力的には勝っていたお前達。この3人がいれば敵なしだろ」
「分かった。元より、こちらもグレートファザーに仲間の3匹を殺されている身。戦力の補充はしたかったところだ」
「5匹までなら仲間になれる。そういやお前は仲間はどうしたんだ?」
「俺か? そうだな……」
ミガテは少し考え
「俺の仲間も2匹殺されちまった。その上、残った2匹とははぐれちまってな。敵を捜すついでに合流しようかと思っていたんだ」
嘘を付いた。
まだ全員生きているなどと言えばこの同盟はすぐさま破棄になる。
とは言え、4匹殺されたとも嘘くさい。
「そうか。はぐれて尚、単独でグレートファザーを打倒するとはよほどの手練れなのだろう」
「一緒に頑張ろうぜ。後で仲間も紹介してくれよな」
「……真っすぐかよ」
疑うことのない性格はどこかウッホらを思い出させる。
ミガテには出来ないことであり、やろうとも思わない。
まずは言葉を疑い、次に行動を疑う。そして思想をも疑う。
「そんじゃまずは能力を教えてもらおうか。お前らは馬鹿じゃねえだろうが、知略は俺の専門だ。任せてくれ」
「そうだな。俺は馬鹿ではないが、仕事は得意な者に振るのが最も効率的だ」
「俺も馬鹿じゃねえが、俺は考えるよりも動く方が得意だ。任せたぞ」
「……馬鹿みてえな能力だな」
「あ?」
「何か言ったか?」
「いや、強い能力だって言った」
ミガテは内心震えていた。
なぜこれほどの能力をして死んだのか……そしてグレートファザーに負けたのか。
いや、勝負の最中と言っていた。
両者互いに闘い合って力尽きたところを狙われたのだろう。
それにしても、何故仲間内で闘っていたのかを考え始めたらそちらも馬鹿馬鹿しく思えてきてしまうが。
「初見殺しでもあるし、知っていても強い能力だな。だが強すぎるが故に、相手の能力も知らぬままに使えば返り討ちにされるリスクもある」
「その通りだ」
「へえ。よく考えるじゃねえか」
「(お前らが考えなさ過ぎなんだよ)」
この2匹を従えていたチームのリーダーには同情を禁じ得ない。
ミガテは内心ため息を付きながら、
「まずは俺が敵の手の内を晒して来るぜ。逃げる能力はたくさんあるんだ。攪乱も同様にな」
こうしてミガテは馬鹿2匹を従え【薄汚い森】を出ていたのであった。




