Take2―42 視界
【開けた土地】
「デブと陰キャとコミュ障。私を信奉しているあの子らも心配と言えば心配ね」
「俺にはそれがどの動物かは分からないが、お前にも仲間意識があるのか」
メイメイとウッホ。
現在戦闘を行っている2つのチームのリーダーが並んで会話をしている。
そこに敵意は無い。
愛があった。
「だって、せっかくのゲームなんですもの。私のチームと貴方のチーム。勝つのがどっちなのか、楽しみたいじゃない」
「そうか。俺もお前と語らえて楽しい」
ウッホは心底楽しいとばかりに、愛情の籠った眼差しでメイメイを見つめる。
今の彼はメイメイを敵であるパンダのメイメイとしては見ていない。
かつて失ってしまった番として見ていた。
『大熊猫の心』。自身に愛情を刷り込ませる能力。
それだけではない。
この能力は親兄弟、恋人、仲間等と同等の愛情を抱かせることは出来るが、それそのものに成りきることは出来ない。
ウッホがメイメイに対して妻と同じくらいの愛情を持つことは出来るが、妻そのものにはなり得ないのだ。
しかしそれを可能とするメイメイの二つ目の能力があった。
『大熊猫の嫉妬』。
自身が相手の最も愛する姿に見える能力。
変身能力では無く、これも精神に訴えかける幻惑のようなもの。
直接的な害は無い。
だが、『大熊猫の心』と併用することにより、相手の最も愛する姿になり、それと同等の愛情を得ることが出来るようになる。
つまり、メイメイはウッホの最も愛する者に成りきっているのだ。
見た目も、愛情も。
心では分かっている、なんてことはない。
敵チームであることは理解していても、それがメイメイがパンダであることと結びつかない。
敵であることも、パンダであることも、メイメイであることも、都合の悪いことは無かったことにして、錯覚させて納得してしまう。
「デブと陰キャはまあ、普通にやれば負けないわ。どちらも質と量を確保できる能力だもの。娘を揃えれば、腕を揃えれば、一動物が負けることは無いわね……あのライオンを除けば」
「ならば何を憂う必要がある。負けることが無いのであればお前の勝ちでは無いか」
「問題は残り。コミュ障なのよねぇ……」
メイメイがウッホの仲間を殺す算段を立てていてもウッホはそれを不思議には思わない。
メイメイを否定しない。
思考停止、ではなく思考誘導に近いのかもしれない。
会話は可能。だが、全てはメイメイを愛することを最上位に優先させられ、他のことは二の次となってしまう。
「森の一つを任せてあげたけれど、それはあの子が一番手がかかるから。強いってわけじゃないけれど、やたら鳥類哺乳類って五月蠅くって。私以外みんな殺す殺すって言うんですもの」
「三匹を遠くに置いたのはそのためだったのか」
「まあ、どいつもこいつも一緒にいさせたら駄目そうな子ばっかりだけどね。デブは陰キャを襲いかねないし、陰キャは陰キャで他の子がいたら能力使うのに戸惑いそうだしで。陰キャはその点、他の子と一緒に闘えそうだったんだけど、あの性格じゃあねぇ……」
はぁ、とメイメイはため息を付く。
ウッホはそれすらも自身の妻は可憐だと見惚れる。
「弱いのよ。視界をただ塞ぐだけなんて。見えない敵を相手にするだなんて、初見でこそ戸惑うかもしれないけれど、それまで。打破する手段なんていくらでもあるわ。それが出来なきゃ、あの子はここまでね」
ウッホという新たな駒が手に入った。
アルミュールを新たな森の主に据えるのもいいかもしれない。
そうメイメイは画策する。
「アルミュールのように能力が急に強化されるなんてそうそう有り得ないだろうし、期待しないで待ちましょう。もしコミュ障が負ければ貴方のチームが一勝。ゲームの勝敗は分からなくなってくるわね」
森の中の出来事はメイメイにすら与り知らぬこと。
実際はどのような戦局となっているのか知らぬまま、メイメイはただ待つのであった。
「それで、貴方の能力は一体どういったものなのかしら?」
ゴリラであるならばその力はそこいらの鳥類や小動物を軽く凌ぐはず。
愛の力で奴隷化したウッホを見てメイメイは期待に満ちた目を細めた。
【ただ黒き森】
鳥類を憎み、哺乳類を羨み、魚類に殺されたコウモリのバッター。
彼は今も孤独に愛され、しかし孤独から脱しようと藻掻いていた。
ただ黒き森の中には死体が転がっていた。
数こそグレートファザーの森よりは少ないが、それを作り出したのがバッター一人である事実は変わらない。
「……何と脆い。皮と骨、羽根だらけの鳥類は殺しやすく、生かしにくい」
足元の死体は全て血を抜かれていた。
そのうちの一つは背に翼の生えた鳥類。
メスの人化した鳥類であった。
「名はなんと言ったか……タカだったかワシだったか……些末な問題だ。鳥は鳥。等しく殺す。哺乳類も同様に。所詮は目に頼ってしか生きることの出来ない動物は俺の能力の前には抗うことすら出来ない」
互いの視界を全て封じる『蝙蝠の心』。
視力便りの能力が多い鳥類には天敵と言っていい能力だろう。
特に、能力が視力強化のような鳥類には勝ち目がない。
血を吸い取られ、死体となって転がっているホミーのように手も足も出ずに殺されてしまうだろう。
「……ああ、思い出した。確かホミーだったな。一度しか名乗らず、1分と持たなかったから忘れてしまっていた。きっと次はもう思い出せないだろうが」
体内の水分が失われ、ミイラのように干からびてしまった死体はホミーの面影はあるが別人のようにも見えていた。
見た目では判別が難しい。
だから、死臭を嗅ぎつけてやって来た別の動物はそれがホミーだと臭いで分かると舌なめずりをしながら近づいてきた。
「ケケケ……なんだ、死んでやがるのかアイツ。まあ俺も今や偵察が出来る万能な動物だからな。ホミーの優位性は無くなっちまった。存在理由が失われた動物は野生から消えるってもんだぜ」
それは、ブタであるグレートファザーとの闘いを終えたミガテであった。
メイメイと闘うには力不足。
あの洗脳に近い魅了に打ち勝つ手段はまだ見つけられていない。
だからまずはその周辺から狩ることにした。
頭数を減らす作戦に出ていた。
今はまだバッターに気が付かれることのない場所からホミーの死体とバッターの姿を確認しているのみ。
アナグマの能力を使い物音を立てずに移動している。
「だってよぉ、あの人間は言っていたぜ。最後に5匹残ればいいって。チームは関係ねえ。あのメスを殺さずとも、5匹の中に俺が残っていれば俺の勝ちだ。勝手に潰し合うにしろ、俺が闇討ちするにしろ、生き残れば勝ちなんだ」
この森の中での闘いでそれなりの動物を喰らい、能力を得て来たミガテ。
彼は目の前にいる動物であれば倒せると、確信していた。
「なんだか見覚えがあるんだよなぁ。あの焦げた臭いを思い出すぜ。あの能力が脳裏に浮かぶぜ。互いに存在を認識した瞬間に互いの視界を奪う能力。知っていれば何の問題もねえな」
ミガテはかつて喰らっていた。
死する直前の闘いで死体となっていたバッターの死体を。
そして自身で使い体感していた。
その能力の使い勝手と不便さを。
「そこにいるのは分かっている」
「……お?」
何時の間にかバッターがミガテのいる方へと目を向けていた。
「反響定位。目に頼っているのは弱者だけだ。俺は肌で敵を感知する」
「ふうん……? ソイツは能力で得られなかったものだ。元から備わっていた機能か」
コウモリの出す超音波による探索能力は能力で無いから奪えない。
「さあ始めよう。お前は鳥類か? 哺乳類か?」
「俺か? ハイエナ、つまり哺乳類だ」
「そうか。ならば楽に殺してやろう。『蝙蝠の心』」
ミガテがバッターのことを視認していて、バッターも反響定位でミガテを認識している。
バッターの能力を発動する条件は整っていた。
ミガテの視界が塞がり始まる。
闇に沈み、何も見えなくなる。
イグルーから奪った赤外線や紫外線、熱源すらも視認出来る能力を使おうとも変わらない。
何も見えない。
見えないから、ミガテは走り出した。
「なっ!?」
慌てふためくどころか猛進する。
バッターにとっては予想外の行動にバッターこそが慌てふためいてしまう。
「甘え、甘すぎるぜ。臭いや声がする方にてめえがいるんなら、そこへ攻撃すりゃいい話だ」
能力によりバッターも視界は封じられている。
次にミガテの声がした時には、反響定位はミガテの位置をバッターの真後ろを示していた。
「『鬣犬の心』」
バッターの体を鋭い何かが貫いていった。
また、しくじった。
そう暗闇の中でバッターは歯を食いしばるのであった。




