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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
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Take2―41 矛盾

 尽くしたいと思う心は決して悪いことではない。

 依存ではなく奉仕。

 依存は何も考えない心。

 だが、奉仕であれば相手を思い行動する心である。

 決して、悪いことではない。

 

 アルミュールはメイメイに出会い、能力をかけられて以降、そう思うことで自我を保っていた。


 アルミュールにとって恋焦がれる存在がいるとすれば、それは自身より強い存在である。

 弱い者は哀れなだけである。

 貪られるだけの存在であり、そこに目を向ける必要はない。


 わざわざアリを避けて歩くことが無いのと同様に、弱者を一々相手にすることは無いが、避けることも無い。

 踏み潰したあげくに噛みつかれては厄介だが、そこに強さはあったのかと思い直し、再び踏み直せば潰せるだろう。

 

 目を向けるべきは強者だ。

 どうしようもなく強ければ、こちらが避ければいい。

 目を向けていればその動向を知ることが出来るし、向こうもこちらを見ていなければそれ以上追わないだろう。

 もし向いていれば……強者に目をかけられているのだとすれば、それはそれで光栄なことであるし、こちらも全力で強さを示すしかない。

 勝てば更に強さを得る。

 負ければ強さを知れる。


 負けても尚、生きていれば強くなれる。

 勝っても強くなれる。


 そう考えていたら……動物園内で殺し合いが始まった。

 与えられた能力は『(ライノセロス’ズ)(ハート)』。

 開始当初は絶対に折れない角と、絶対に折れず曲がらず貫かれない鎧であった。


 一度しかない命。

 まずは様子見とばかりに、鎧の能力を試すついでとばかりにひたすらに守っていたのがいけなかったのだろうか。

 不意をつかれて殺された。

 絶対に折れず曲がらず貫かれない鎧にも隙間があって、隙をつかれて殺された。

 絶対に折れない角は何の役にも立たなかった。


 そしてアルミュールは恋に落ちた。

 相手の正体は分からない。

 見えなかった。

 見ることも無く殺された。


 正体不明という様子は強者であることを物語るピースの一角に十分に収まり、死ぬ寸前は必死にその正体を探ろうとした。

 強い存在だ。

 そいつに殺されたのだとしたら、自分はまだ強くなる余地がきっとある。

 だからもう一度会いたい。

 会ってこの感情をぶつけたい。

 強くなったと、貴方のおかげだと。

 もし生き返れたのなら、伝えたい。


 生き返る……よりもその手前。

 その前哨戦である森の中の闘いで目を覚ましたアルミュールの目の前にいたのは1匹の少女であった。


「……誰だ」


 『(ライノセロス’ズ)(ハート)』を発動し、槍と鎧を纏い、驚いた。

 能力が進化している。

 負けても強くなることを懇願したアルミュールの心にまるで呼応したかの如く、折れない角は貫ける槍に、鎧も衝撃や電撃、熱をも通さないようになっていた。


 強くなっている。そう感じるのは自然であった。

 死ぬ前よりも、死ぬことにより自らの弱点を知り、強くなれるきっかけを得られた。

 それは誰のおかげか? 死を教えてくれた者のおかげだ。

 感謝の念は敬意から、やがて愛情へと変化していった。

 実際に死んだことで危機感を覚えたのか、その変化は緩慢では無く急激に起こり、目の前の少女に敵意を向けながら、愛情を送るべき者のことも考えていた。


「『大熊猫(パンダ’ズ)(ハート)』」


 考えていたから一瞬出遅れた。

 

「……?」


 強化された鎧があるのも忘れて身構えたが、攻撃らしき衝撃は襲って来ない。

 何をされたか分からないままに相手を……愛しく思える少女を見ると、微笑まれた。


「貴方が最も愛すべき存在は誰かしら?」


「最も愛すべき……それは俺を殺した、俺を強くしてくれたあの……」


「ふうん……ねえ、その人を殺したいと思う?」


「……それは、どうだろうか。殺したくは……無いと思う。ただ、強くなった俺を見て欲しいとだけ……」


「なら安心したわ」


 ただ動くことなくその場に佇む。

 それだけなのに、それこそがアルミュールにとって何よりも効果的な攻撃であるように思えてならなかった。


「でも嫉妬しちゃうわね。貴方にそんな人がいるだなんて。だから使うわ。『大熊猫(パンダ’ズ)嫉妬(エンヴィー)』」


 何かが変わったわけでは無い。

 ただ、絶望的なまでに歯車が弄られたような、後戻りできない感情が芽生えたような気がした。


「ああ、言い忘れたわね。私はパンダのメイメイ。貴方を殺したのは私よ」


 第三者から見ればすぐに嘘だとバレるような言葉をメイメイは堂々と言い放ち、


「そうだったのか……俺は貴方に、メイメイ様にお仕えします」


 アルミュールは疑う素振りも無くその場に跪いたのであった。






「……近い」


 サイの視力は弱い。

 だから逃げるルビーを目で追いかけるのは至難の技であった。

 目では至難だから、嗅覚で追いかけた。

 

 金属臭さは拭えない。

 嗅覚が発達した動物であれば恐らく誰もが捉えるだけには纏いすぎている。

 ましてや、それを能力として使っている今、四六時中金属を纏っているに等しい。


 視力では無く嗅覚で、合わせて聴覚で補いながらルビーを逃がさないアルミュールは遂に追い詰めた。

 先ほどから動くことなく、むしろこちらへと向かっている金属と生物の混ざった臭い。

 対面した時にルビー本体の臭いも覚えているから間違えることは無い。

 他の動物に金属を纏わせて操っていようと惑わされることも無い。


「諦めたか」


 逃げることを諦めた。

 向かい合ってルビーの姿を確認したアルミュールはそう評した。


「そう。僕は諦めたんだ。誰かを頼って生きることを。最後に僕一人になるんだったら、1人で生き残らなきゃいけないんだ」


 目で表情が見えなくとも、その声には決意が籠っていることが分かった。

 先ほどまでの逃げ腰とは違うと、アルミュールは槍を構える手に力を籠め直す。


「……強がりも多少はあるな。メイメイ様のようなタイプでも、俺のような武装でもない。無から作り出すタイプの能力は限りがある。後どれだけ、その金属を生み出せる?」


「……さあね」


 たとえばメイメイであれば能力の発動は一瞬だ。

 インターバルはおよそ5分とアルミュールは聞いている。

 尤も、その場にいる全員に能力がかかるのだから、そのようなもの合って無いようなものなのだろうけれど。


 アルミュールの能力は常時発動されている能力である。

 発動しているからといって体力が常時削られるわけでは無い。

 特殊な攻撃……魅了や金属操作が出来ない分、シンプルでありそれだけに消耗も少ない能力である。


「まずは一手」


 アルミュールが踏み出した瞬間、足元が動かなくなった。

 見ればトラバサミがガッチリとアルミュールの足元に噛みついていた。

 鎧が歯を通さないでいるが、地面に食い込んだトラバサミを用意に蹴り外すことは出来ない。


「……少し見ぬ間に小癪な技を覚えたか」


 相手の能力は液体状の金属を自在に固めること。

 すでにアルミュールはそれを知っており、今回は地中に逆棘状にでもして引き抜けなくしたのだろうと推測する。

 面倒に思いながらトラバサミを外そうとしゃがみ込む。

 無防備な姿勢だがアルミュールの鎧はルビーの金属よりも硬度が高いことはすでに証明されている。


「ぐ、ぐぐぐぐ……」


 両手でトラバサミの口を強引に開ける。

 少し硬いが無理してトラバサミを粉砕し、捨て置く。

 人化しても尚、サイらしく体格に恵まれたアルミュールは力にも優れている。

 それを見せつけるために行った行動だ。

 

「さあ、次の手は俺から――」


 アルミュールが立ち上がろうとした瞬間であった。


 雨のように空中から金属の臭いのする液体が降り注いだ。


「これ……は!?」


 それは固める前の液体金属。

 どのような形状にもなれる、しかし攻撃力皆無の状態。


 足元から全身へと液体金属は覆っていき、徐々に固まり始まる。


「これしき……っ!?」


 振りほどこうとしても振りほどけない。

 先ほどのトラバサミのように壊せない。


「関節を抑えれば力なんてものは容易く弱くなるんだ。これで終わりだよ、サイのアルミュール」


 口元を覆うように液体金属が広がっていく。


「窒息させる気か……そうはいかん!」


 フルフェイスの中でも空気孔としてあった隙間がぴったりと鎧で埋まる。

 この場面で鎧も進化していた。

 二度目の死を避けるために、鎧自身も強くなっていった。

 鎧の中で空気が生成される。

 呼吸に関する問題はクリアとなった。


 ならば次の問題は……動けなくなることだ。


「だが、貴様の金属など俺の槍の前では……槍の前では……?」


 鎧を覆い固まっていく金属を剥がそうと槍を構えるも、止まる。

 果たしてこのまま金属に、金属越しの鎧に槍を突き立てても良いものかと。


「そう、戸惑うのがお前にとって正解だ。始めから不思議だったんだよ。矛盾する槍と鎧に。貫けないものが無い槍と貫けるものがない鎧なんてのは世界に存在しない。必ずどちらかが弱く無ければならない。……お前のはどっちかな?」


 これこそがボトムズのドリルとの違いだ。

 彼のドリルは貫けるものを選択出来た。一つの物事を突き進む彼に似合いのドリルは一度に一つしか貫けない。自身の体を傷つけることなく金属だけを剥ぐことが出来た。

 だが、アルミュールの槍は違う。ルビーは知っていた。ルビーの金属の壁越しにウッホの腕を貫いていたことを。


「ぐ……ぐうぅぅぅ」


 唸る声を上げながら苦悩するアルミュール。

 このままでは動けなくなる。

 メイメイの役に立てなくなる。

 それだけは嫌だった。


「メイメイ様……俺に力を! 『(ライノセロス’ズ)(ハート)』」


 槍と鎧がぶつかり合う。

 液体金属を容易く打ち破りながら、鎧の前で槍は止まる。

 貫けなかった……と思った瞬間に鎧に穴が空いていた。

 そこから液体金属にヒビが入っていき、全身を覆っていた金属は剥がれていく。


「は、はは……」


 安堵した声を漏らしながらアルミュールは身軽になった体でルビーに向き直り、槍を構える。


「土壇場でまた俺は強くなった。死地に追い込まれる程に俺の槍と鎧は強化されていく。どうだ、これこそが俺の『(ライノセロス’ズ)(ハート)』……?」


 アルミュールの口の中から温かな液体が吐き出される。

 同時に全身から痛みが広がっていく。


「……え?」


 ヒビが入り砕けたのは金属だけでは無かった。

 あろうことか、槍は鎧までもを完全に破壊していた。


「どうやら矛盾は解消されたようだね。強かったのはお前の槍の方だ。『鉄巻貝(スケーリーフット’ズ)(ハート)』」


 剥き出しになったアルミュールの体に幾本もの小さな金属の破片が刺さっていた。

 見れば破片の隅に固まっていない液体金属は張り付いていた。


「これは……俺の壊した金属……か」


「リサイクルさ」


 ルビーの操れる液体金属は極わずかであった。

 アルミュールの全身を覆ってしまえば後は武器一つすら作り出せるか怪しい程度。

 だから、壊された金属の破片を再び液体金属を付着させることで動かし操った。


「本来は壊れてしまえばそこで終わりだったんだけどね。お前の槍と鎧が羨ましいよ」


「メイメイ……様……」


 メイメイと一度自分自身を殺した姿見えぬ動物を思い浮かべ、しかし重なることなく2つの影のまま映っていることに疑問を覚えつつ、アルミュールの目から光は消えた。


「……ふう」


 すっかり体力の尽きてしまったルビーはその場に座り込む。

 休憩が必要である。

 だが、その時間は果たしてあるだろうか。


「……とりあえず武器を作れるまではどこかに隠れていようっと」


 アルミュールの死体をそのままにしてルビーは茂みへと潜むのであった。


鎧壊れる→中身を攻撃出来る

槍壊れる→アルミュール動けないまま。封印状態には出来る。放置しておけばルビーに攻撃は出来ない

どちらの結果になろうとルビーは生きることだけは出来ていた


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