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星守の楽しみ

作者: ししおどし

 星守とはその名の通り、星を守る存在の事を指す。

 星に温度を与え、光を注ぎ闇で包み、水を降らせ火を起こし、魔力の濃淡を調整し、弱い力で地にあらゆる物を引き寄せる。

 一日の長さを決めるのも星守で、時に星の形を変える事すら珍しくない。

 多くの星守はそこに住まわせる生き物に合わせて星の環境を調整するが、稀に自分の好みを優先する星守も存在するため、管理する星守の性質によって星の個性は多種多様に様変わりする。

 星守の居ない星で生物が長く生き延びるのは極めて難しく、また生物の居ない星を星守が管理する事も殆ど無いため、星守の在る所に生命が在り、生命の在る所に生命が在るというのがこの宇宙での常識だ。


 ただしあくまで、殆ど、である。

 つまりそうでない星守も、ごくごく少数ではあるが存在するという事だ。

 宇宙の隅っこ、果ての果て。

 生命の居ないそこに居ついた星守も、そんなごくごく少数のうちの一つだった。





 ぱちり。


 短い眠りから目を覚ました星守は、まずは体内時計を確認する。

 それが指し示すのはいつもの目覚めよりは少々早い時間だったが、まあ多少は誤差の範囲だと納得して一日を始める事にした。


 ぽつりぽつりと浮かぶ小惑星に光を注ぎ、温度を調整して朝を始める。

 誰も住まぬこの果てでは、気が向かぬ時はしばらく朝を作らずずっと夜のまま、だらだらと眠る事も良くある事なのだけれど、今日はそうのんびりもしていられない。もうそろそろ客の予定があるからだ。

 おそらくは、今日のうち。そうでなくとも、やってくるまで今日を続ければよいのだと納得した星守は、仄かな光に包まれた小惑星をぐるりと見回してうむうむと頷いたあと、自らを二足歩行のヒト型の雌に似せた肉体に変化させて一つの小惑星にひらりと着地した。

 星守の本質は意識が宿った魔力溜まりであるけれど、こうして肉体を作って自らが守る星に降り立つ事はさほど珍しいことではない。特にまだ未熟な若い星守は、環境の調整をうまく操る事が出来ないため、星に住まわせる生命体と同じ組成の肉体を得て実際に具合を確認する事が多々ある。


 だがしかし、果ての星守はけして未熟でも若くもない。

 果てにやってくる前は生命の住む星を数多守ってきて、意識を眠りに浸しながらも同時に百を超える星の環境の調整を、何の問題もなく行う事が出来る。これは星守の中でもかなり優秀な方で、星守が全ての星を別の星守たちに引継ぎ果てにやってくるまでには、随分と惜しまれ引き留められた。


 だからわざわざ肉体を作る必要は無いかに思われるが、どうやらそうでもないらしい。

 小惑星に降り立った瞬間、星守の身体は大きく歪む。普通なら在りえない失敗であり、失態である。

 ところが星守はぐにゃりと歪んだ身体のまま、満足げにうむうむと頷くと、身体の形を整えて別の小惑星に飛び移る。

 そうしてまた身体の形を歪め、満足して頷き、次の小惑星へ、という作業を十度繰り返した後、ふわりと宙に上がった星守は、降り立った小惑星を見下ろし非常に楽しげに笑った。

 他の星守が見れば、さぞ困惑したであろう。端から見ればそれは、失敗の連続にしか見えなかっただろうから。


 けれど果ての星守にとってはそうではない。

 目論んだ通りに上手く調整されていることを自ら作った身体で体感した星守は、すとんと一つの小さな小惑星に腰をかけ、今度は身体を少しも損なわぬまま、足をぶらぶらと揺らして淡く微笑んだ。


(さあて、早く客がやって来ないものか)


 星守は途方もなく長く生きる。

 一つの生命体が進化を繰り返しやがて衰退するのがほんの束の間にしか思えぬほど。

 故に客が訪れるまでの時間など、ほんの瞬きにも満たない一瞬でしかない筈なのであるが。

 そわそわと期待に思念を弾ませる星守には、その一瞬が永遠に感じられるほどじれったくてたまらなかった。



 やがて。

 複数の生命体が己の知覚する範囲に出現した事に気づいた星守は、楽しげな様子で何も無い真っ暗な宙へと目をやった。

 少しもしないうちにその視線の先に現れたのは、一隻の船。みるみるうちに大きくなったそれは、迷いもなく真っ直ぐに大きめの小惑星へと着陸すると、中からは星守と同じく二足歩行のヒト型の客たちが現れた。

 慌しく降りてきた彼らは全部で四つ。星守を見つけると皆、しゅんしゅんと短い転移を繰り返し一足飛びに近づいてくる。


「よく来たな」

「ああ! それより例のものは?!」

「まだだ。まあ急がずとも、いずれ現れるであろう。それまでゆるりと語り合おうではないか」


 待ちきれないといった風情で星守に詰め寄った雄の形をした客を宥め、自分の座る周りにいくつかの小惑星を呼び寄せて配置し座るようにと進める。

 星守の言葉に客たちは少しがっかりしたようだったが、特に不平を述べる様子もなく各々好きな場所に腰掛けた。


「で、どれがそうなんだ?」

「あの一群だ」

「ほう、ほうほうほう! どれどれ」


 腰を下ろした途端、再び口を開いたのは先ほどと同じ雄の形をした客。本当の名とは違うが、ここではアカと呼ばれている。

 星守が指した小惑星にぽんと魔力塊を投げ入れたのは、レイ。アカよりも小さい雄の形を好んで採っている。

 レイが投げた魔力塊は、小惑星に近づくと綺麗さっぱり霧散した。その現象を認めた四人の客は、きらきらと目を輝かせ、期待を込めて星守を見た。


「セイ、どれほどの時間がかかるの?」

「さあ。しかし51A無魔力宇宙とそこから派生した九つの宇宙から飛来する落ち物は、全て補足して転移するように設定した。頻度からして、さほど遠くはあるまい」

「ああどうしましょう。楽しみだわあ……」


 セイ、というのは客たちを含めた五つの中で、星守が呼ばれる名前。発したのはルカと呼ばれる雌の形の客で、残りの客は一等大きな身体の雄の形の、クウ。クウはあまり言葉を発する事はないものの、熱を持った視線は小惑星に向けたまま。

 客たちの反応に大変気を良くした星守は、くふふと笑って得意げに胸を張った。



 51A無魔力宇宙というのは、星守たちの生きる宇宙とは全く別次元にある宇宙であり、星守たちが一等興味を寄せる宇宙でもあった。

 別次元の宇宙の存在が観測される事はさして珍しい事ではなく、星守を始めここに集った面々ならばいくつかの宇宙を自在に行き来する事も可能だ。

 ただしそれは、星守たちが存在する宇宙と同じく、魔力で満ちた宇宙に限られる。そしてこの宇宙で基準とされる時間にしておよそ千年前までは、全ての宇宙には濃度の差はあれど、魔力が存在するのが当然であるとされていた。


 ところが千年前。

 いくつかの宇宙を経由して星守たちの宇宙に届いた書物により、その定説は覆される事になる。

 全く魔力の存在しない宇宙が存在しており、更には驚く事に、そのような環境でも生命が育まれ知的生命体すら発生しているというその話は、最初は御伽噺の類として扱われていたが、同様の書物が頻繁に持ち込まれるに従いその存在が信じられるようになった。

 そうして決定的になったのは、51A無魔力宇宙とそこから派生した無数の宇宙からの次元を超えた飛来物が発見された事による。

 残念な事に星守たちの宇宙において、無魔力宇宙で発生したものは長くは存在出来ず、あっというまに風化して無に帰してしまうのだが、それでも確固たる存在を目の当たりにした研究者たちは多いに興奮し一種の51A無魔力宇宙で発生した物語が積極的に探されるようになった。

 ただしそれは長くは続かなかった。すぐに別の、89B無魔力宇宙の存在が観測された上、かの宇宙では魔力のある宇宙の存在が夢物語ではなくはっきりと認知されており、魔力のある宇宙との交信手段が模索されている最中だった。自然と研究者たちの興味はそちらへとシフトチェンジし、まだそこまでの技術力が確立していない51A無魔力宇宙近辺については後回しにされる事になり、次第に興味も薄れていった。


 ただし、全ての存在が51A無魔力宇宙への興味を失った訳ではない。

 ここに集まった面々は未だ51A無魔力宇宙への憧れを捨てる事が出来ず、星守にいたってはわざわざこのような宇宙の果てまでやってきて、51A無魔力宇宙の環境を再現するまでに傾倒している。


 51A無魔力宇宙と派生した宇宙を愛する会。

 それが星守と客たちの集まりの名称であった。

 各々が星守たちの宇宙ではあまり主流ではない二足歩行のヒト型をとっているのも51A無魔力宇宙でよく見られる知的生命体の姿を模倣しているためであり、本名とは全く別の名をつけているのもその知的生命体を真似たものである。もっと補足するならば、それぞれの模倣した姿は書物により伝え聞いた51A無魔力宇宙の知的生命体を参考にしており、毎回集まりがある度にテーマを一つの星に絞ってその中から好きなものを選択するのがこの会合の通例となっている。

 今回のテーマはアース。技術力としてはまだまだ51A無魔力宇宙の中でも発展途上ではあるものの、頻繁に話題になる事の多い星である。

 アカはコンドッティエーレという戦士の姿、レイはドワーフというアースの物語でよく見られる種族のもの。ルカはアオザイというアースの一部で受け継がれる衣装を纏い、クウはロボットスーツというキカイを模したものを着用している。ちなみに星守は、キモノと呼ばれる衣装を選択した。アースがよくテーマに挙げられる事が多い理由にはその、衣装や種族の多種多様性と、魔力が無いにもかかわらず多数存在する魔法世界についての空想話の面白さがある。無論、魔力を全く利用しない発展途上のキカイの多様性にも心くすぐられるものが多い。


 しばらくの間はじっと小惑星を見つめていた客たちであったが、すぐに何かが発生する訳ではないと悟り、今回のテーマであるアースに絞ってめいめいに好きなように話を始めた。


「あの船はなかなかの出来であるな」

「だろ?! ウチュウセンっぽいだろ?! 頑張って作ったんだー」


 まず始めに話題に上がったのは、客たちの乗ってきた船について。

 星守も含めここに集った客たちは、単身で宇宙を渡る事など造作もなく、船などに頼る必要なんてない。

 しかしだからこそ、宇宙で生息する事の出来ぬ知的生命体が、ウチュウセンに乗って宇宙を巡る話には、皆大いに心惹かれるのだ。

 当然星守も、ウチュウセンで宇宙を旅する話は大のお気に入りだった。なんといっても浪漫がある。魔力が無く星守も存在しないのに、一定の法則性に則って恙無く巡る宇宙も、その法則を利用して知恵を絞りとうとう宇宙に出る手段を見つけるに至った知的生命体も、話を聞くだけでひどく胸が高揚する。ある程度の魔力を操る力さえあれば、自在に宇宙を渡る事など造作もない宇宙に生きるからこそ、それらの物語は一層強く星守たちを魅了した。


「そうだ、ワタシ、アースの新しい物語を手に入れたのよ。みんなにも是非紹介したくって! 異世界トリップっていうらしいわ。本当に面白いのよ。魔力のある世界に界渡りする話なの」

「おお、是非読ませてほしい。彼らの想像力は実に興味深い」

「本当だよね! 魔力の無い世界なのに、魔力のある世界を想定出来るなんてほんっと、面白いなあ!」

「かの宇宙は境界が希薄であるからな。もしや本当に界渡りをした者が存在するやもしれぬ」

「えーでもあっちの生き物がこっちで生きるのは無理でしょ。来た瞬間に死んじゃうよ」

「この宇宙では無理だけど、ある程度互換性のある宇宙はあるわ。可能性が無い訳じゃないよ」

「うーん、でも内容はとんでもないしなあ。こんな風に魔力使うなんて発想、僕には無いな」

「それは確かに。そこも面白い所ではあるが」


 ルカが取り出した物語には、一斉に皆が食いついた。アース産の物語は、荒唐無稽で大変面白い。特にルカやアカは彼らが想像した魔力のある世界の物語が大層お気に入りだ。二足歩行型のヒト型が規定となっている所から始まり実際の魔力のある宇宙とは大きく異なる部分が多いものの、時には存在する魔力の利用法も登場する事もあって、その想像力の多様性には感嘆してしまう。

 ちなみにレイは恋愛を主体とした物語を好み、星守とクウはロボットやキカイが沢山出てくる物語を好む傾向にあるが、結局の所は皆、どんな話でも突飛もなくて想像のつかない展開を見せるから、何であろうと興味を惹かれる事には違いない。星守たちの宇宙では生き物は単性である事が殆どなので、複数の性別が存在するのも恋愛感情は生まれるというのも大変珍しいことであるし、魔力で強引に捻じ曲げることもせず純然たる規則に従って動くキカイも存在しないから、何もかもが新鮮で目新しいのだ。


 と、その後もアースの話で大層盛り上っている最中、それは起こった。

 一つの小惑星に反応があり、唐突にそこに何かが出現した。

 皆話に夢中になってはいたものの、小惑星群の動向には常に気を配っていたらしい。

 すぐさま歓声を上げて駆け寄ろうとするアカを制し、星守は慎重にその物体の環境を調整する。伝え聞いた物語を参考に可能な限り環境を整えたつもりだったが、やはり多少は誤差があったらしい。どうにか原型は留めているものの、時間が経てば崩壊してしまいそうな気配を悟り、それが持つ情報を手早く解析して可能な限り環境を変化させる。

 やがてある程度崩壊の気配が薄くなった事を確認して、更に細かく調整をした星守は、思いもよらぬ成果を発見して打ち震えた。


「……表面に、微生物が付着しているようだ。半数は死滅したようだが、生き残っているものもある」

「ほほほほほほ、ほんとに?! もう触って大丈夫?! あああああああ、すごい、すごいよ! キカイ、なんだよね、きっと! 微生物って、あれだよね、無魔力宇宙の生き物ってことだよね! ああどうしよう! なんて素晴らしい日なんだろう……!」


 うっとりと頬を紅潮させ、ぎらぎらと目を光らせるアカをレイとクウに抑えて貰っている間に、より一層細かな調整を加える。微生物を殺さないようにと手を加え、出現した物体を操作した環境で包み込み、更には表面を薄い魔力の層で保護をする。星守たち魔力を基調とする存在が、触れても崩壊を招かないように。薄い膜で覆って直接触っても大丈夫なように保護してから、ようやく星守は出現した物体を客たちの近くに呼び寄せた。


「これは……物語にあった情報から判断するに、トケイ、だろうか。アースのもののようだな。なんとタイミングの良いことか」

「うんうんうん! それっぽい! うわあ、うわあ、すごい! これ、アースの時間の基準になってるんだよね! うわあああああどうしよう、もっと細かく調べたい! どうやって動いてるんだろう! ああああ分解したい!」

「落ち着きなさいアカ。まだその段階にはないわ。じっくり観察して、動作を確認するのが先よ」

「わかってるけどさあ! だってキカイだよ! どうやって動くか調べたいじゃん!」


 アカをルカが制している間に、星守は淡々と微調整を加える。簡単に行っているように思えるが、今までのどんな星の管理より、慎重さを必要とされた。


「トケイ……確かアースでの時間を計測するものだったな」

「そのようだな。ううむ、正常に作動している事を前提とすれば、思ったよりアースでの時の進みは早いようだ」


 ぐるぐると忙しく回り続ける針の速度に、星守はむむむと考え込む。表面に付着していた微生物のうち生き残っていたものの、時計の針の速度に比例するように異常な速度で増殖しては死滅してを繰り返している。これが51A無魔力宇宙の、アースでの基準となる時間であるとなれば、そこに生息する生き物の寿命はあまりにも短いと考えなければならない。

 51A無魔力宇宙と派生した宇宙を愛でる会の最終的な目標は、唐突にこちらへと渡って誰にも知られぬままあっという間に消滅している可能性のある知的生命体の保護である。そうして保護した知的生命体により、詳しく51A無魔力宇宙についての話を聞くことが、彼らの目的なのだ。

 これでは例えすぐに崩壊しなくても、あっというまに寿命を迎えて死んでしまう可能性があまりにも高い。

 幸いにして星守は、その問題を解決する手段を持っている。一日の長さを決められるのは星守だけであり、それに付随して時間の流れを在る程度調整する事だって可能だ。


「一応は成功した。が、改善点は多々あるようだな」

「うむ」


 未だ牽制しあっているアカとルカを放っておいて、星守はクウとレイと今後の事について話し合う。

 準備した小惑星たちは、ある程度は51A無魔力宇宙の、生物の住める環境に限りなく近づけてはいたようだが、まだまだ改善点が多すぎるようだ。


「当面は、その微生物を育成して様子を見るしかあるまい」

「そうだな。今のままでは知的生命体を保護するには些か心もとない」

「うむ。より改善点を述べるならば、彼らが生活するに十分な環境を準備する事も必要だろう。エネルギーも彼らは魔力からは摂取出来ないようだしな」

「彼らは家を必要とする性質があるようだ。どうだろう、小惑星の一つに彼らが生活出来る環境を整えるというのは」

「ふむ。同時に彼らが食せるものを育成する事も急務のようだ」

「植物と、生命を消費してエネルギーに換えるとの報告がある。ただこちらの植物では合わない可能性もあるからな」

「となれば次は、食物に準ずるものが拾える事が望ましいのだが、果たしてうまくゆくかどうか」

「いっそその微生物を進化させて食料として育てれば良いのではないか」


 難しい顔で話し合っていた三つであったが、次第にそれも取り繕えなくなったようだ。星守がふふふと嬉しげに笑ったのを皮切りに、クウとレイもどことなく浮かれたような様子で、出現したトケイと増殖しては死滅してを繰り返す微生物たちを見つめてはそわそわと落ち着かなく身体を揺らす。


「なんにせよ、我らの目的に近づいたことは間違いない」

「ああ、そうだな……叶うならば、ウチュウセンを補足したいものだ」

「ふふふ、逸るでないわ。私はオイランにぜひともお会いしたい」

「ドワーフ! ドワーフ!」

「コンドッティエーレ! ハスカール! サムライ! バッカニア!」

「アオザイ! ルバシカ! カンガ! パレオ!」


 言い争ってた筈のアカとルカまで加わって、いつの間にやら自らの欲求を叫びあう話にシフトしていた。

 そんな彼らの希望に笑って耳を澄ましながら、星守はぐるぐるとせわしなく針の回る時計と微生物の周りを流れる時間を調整する。多少緩やかになったものの、果たしてこれで正解なのかは分からない。

 しかし多少は目標に近づいた事を確信して、星守はひらひらと楽しげに宙を舞う。

 次は何がやってくるだろうか。まだ生物を殺さず生かすには少々検証が心もとないから、出来るならばキカイの類が良い。

 そうしていつかは、ある程度の知力を持った生命体を保護出来れば。

 いくつかの星における知的生命体の使う文字と、体を使った合図については百種類ほどの種族分のものを網羅している。音声は耳にしたことがないため肝心の発音が分からないし、念話は魔力を介在しているので通じる可能性は低いものの、筆談である程度の意思疎通は可能だろう。

 そのためにはもっともっと、この果ての小惑星群を改良する必要性がある。

 家を建てて、彼らのための食料を用意して。ああそうだ、娯楽の類も彼らには必要だろう。魔法に憧れがあるならば、そちらについても彼らを満足させるような歓待の準備を進めなければ。


 いつかの未来。

 出会える51A無魔力宇宙の住人に思いを馳せ、星守は一層気合を入れて、果ての宇宙の改装に励む。

 そうしてしょっちゅうやって来る客と、期待に満ちた想像を語り合いながら。

 今か今かと、その時を心待ちにしているのだ。

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