第一廻「光の中で」
日本国某都市。
時は西暦20XX年。
人々は目まぐるしい科学の発展によってあらゆる闇を光で埋め尽くした。
横道はもちろん、裏道や墓場、果ては下水道の配管に至るまで全ての闇を覆い尽くした。
人々は新しい科学、新しい娯楽、新しい生活を享受した。
しかし、何かが生まれる時、別の何かが姿を消す。
そう、人々の恐怖の心、闇の住人達、『妖怪』である。
非科学の象徴である彼らはすぐに時代に淘汰された、同じく心を糧とする神々も同じ様に消え、あるいは姿を消していった。
「……ハァ……ハァ」
そして、ここにも1人……いや、一体の妖怪が居た。
姿は黒髪の只の少年の様に見える、ひとつ違和感を感じるところを挙げれば燃える様な真っ赤な瞳であろうか……。
「……ハァッ! ……クッソ! ここもダメか!」
走っていた少年は足を止めて頭上に光輝く街灯を忌々しげに睨み付けた。
最新の科学で作り上げられたソレは至る所に設置され、人の影すら存在を許さないように辺りを照らしている。
時刻は間違いなく深夜の筈だが頭上には『太陽の様な物』が圧倒的光量を持って忌々しくも鎮座している。
人々はコレを『人工太陽』と呼んでいた。
この人工太陽の出現で人々は太陽すら自在に操る力を手に入れ、かの太陽神「天照大神」ですらその信仰を失い姿を消したと言う。
「……じじい、もう……ダメかもしれねぇ……」
少年はその場にへたり込みそう呟いた、辺りには少年以外の人物は見当たらない。
『何を言っておる! この世界にはまだ我々の居場所があるはずじゃ!! 歩みを止めるんじゃない!』
少年しか居ない空間に老人の声が響き渡る。
『貴様の中には大勢の住人達がおるんじゃぞ!? ここで貴様が諦めたら中の者たちはどうなる!?』
何処からともなく聞こえる声に少年は呟いた。
「俺だって、消えたかねぇ。 消えたかねぇが……。 本格的にもうダメみてぇだ」
少年は言うと自分の体を見る。
そこには、透けてしまい地面が見え、足先から消えていく自身の体があった。
「あぁ、もう、クソぉ……」
そして、少年は光の中に溶けていった……。