野菜も大事(4)
加工ではなく、複製。そして材料を直接木材ではなく、それから抽出した樹脂にする。
ワンステップ余分なプロセスを入れたら、ちゃんと私の意思で作った最初のビニールシートと同じ物が出来上がった。魔力消費も、合計でも減った。
手に取っても破れない。膝で固定して指で押してみたが、少し伸びるが破けなかった。
うっし。防水性とかも一応確認しておこう。多少は水が滴って入っても構わないと思うが、水が滴るようだと雨の時に中がびしょ濡れになると困る。
ちょっと袋っぽく端を纏めて持って、中に水を入れて持ち上げてみる。
暫く待つ。
……うん、水漏れもしない。
次に水を捨てて、バケツの中に風船っぽく空気で膨らませをシートを沈めてみたが、水面が落ち着いた後は泡も上がってこない。ちゃんと気密性もあるようだ。
気密性はあまり完璧すぎると中で働く人が苦しくなっちゃうかもだが。
ちゃんと植物が育ち始めたら光合成で酸素を作り出すから、それこそ温度を上げるために中でストーブで火をつけていても大丈夫なのかな?
一応、一酸化炭素濃度をチェックする警報器でもつけた方がいいかもねぇ。
いや、ストーブではなく魔道具で暖を取らせればいいか。
それはさておき。
2回に分けているし、最初の抽出がちょっと魔力消費量が高いが、それこそ砂とかを溶かしてガラスにするよりは少ないと思う。
何と言っても、高熱にしなくて良いのが大きい。
……そう考えると、珪砂と石灰(だっけ?)を材料に錬金でガラスを作ると、魔道具でやるんだったら職人が炉で溶かして作るよりもエネルギー効率が良い可能性もありそう?
魔術って凄いな。
下手したら、魔術師と魔道具が社会の経済構造を牛耳っちゃいそうじゃん。
だが経済の一部を牛耳る程度ならまだ良いけど(魔術師以外には良くないだろうか)、便利すぎるから奴隷のように民の為に働けなんて事になったら怖いから、あまり迂闊な事は言わないでおこう。
取り敢えず。
ビニールシートが魔道具で量産できるようになったのだ。
これでカルダールのところに話を持っていけるね。
◆◆◆◆
>>side カルダール
「温室栽培を大々的に、今より安く出来るような形で広げたいと思いまして」
いつものお茶の日ではないのに会いにきたので何かと思ったら、椅子を勧められて座ったフジノ殿が徐に想定外な事を言ってきた。
「温室栽培?」
冬でも新鮮な野菜を食べられるように王宮だけでなく幾つかの貴族が魔術師を使って何ヶ所かで育てさせているが、あれがもっと安く出来るようになるのだろうか?
貴族も関わっているからこちらに来たのか?
貴族は買う側なので安く出回っても今までの品質の物が入手できれば文句を言わない筈だが。
「広めたい温室のミニチュア版の試作品を出しても良いですか?」
私が首を傾げていると、ソファの横の空いたスペースを示しながらフジノ殿が聞いてきた。
役人が不手際をやらかした時なんかに立たせてネチネチと注意をするために、執務机の前に比較的大きなスペースが空いているのだが、丁度いいらしい。
「どうぞ」
収納ブレスレットからポンっと言う感じに透明な半円筒形の何かが出てきた。
よく見たら、半円筒形の金属フレームの周りに透明な生地?ガラス?が固定されている。
いや、空気の動きで多少なりとも柔らかく揺れ動いているので、ガラスではない。
新しい素材か?!
「これは光を通しますが空気や水は殆ど通さない素材なんです。
極端に強くはないから嵐が来る時なんかには防御結界でも張らないと破けるかもですが、既存のガラス製な温室よりはずっと安く作れるので、沢山の温室をこれで作って必要に応じて暖房でも入れて少し温めるだけで、魔術師の栽培魔術無しでも冬に野菜を育てられると思います」
フジノ殿が説明した。
差し出された透明な膜を指先で押してみる。
柔らかいが、それなりに強度はありそうだ。
確かにガラスの温室と同じような使い方が、出来る……のかも?
防水ならば、馬車などの防水カバーとして使えるとしたら温室以外にも使い道がありそうだ。
「安く出来ると言うのは、どの位の値段になるんです?」
「薪一本で大体この試作品に使ったビニールシートを作れました。
このビニールシートを作るための魔道具は……2種類に分かれていますが、冷蔵庫よりは単純な作りなので、それなりの量を作れば安くなるのでは?
魔石の使用量も然程大きくはありません。
まあ、大々的にやるとなった場合は工場か工房を設置して費用を確認する必要がありますが」
随分と大掛かりな話になりそうだ。
一体どれだけの温室を作らせるつもりなのだ?
「こちらに来たのは何を求めてなのでしょうか?」
工場を開く土地の口利きが欲しいのだろうか?
「私としては、大々的に王都近辺の農家に広めて冬の野菜をもっと安くして欲しいんですよ。農業ギルドに紹介してもらった温室栽培をしている農家の方は、試行錯誤には協力はしてくれると言っているのですが、温室の製造とか流通の手配とかは専門外なんだそうなんで。
農業ギルドよりも王宮の方が購入者側の立場に立ってくれるかな〜と思って」
苦笑しながらフジノ殿が言った。
なるほど。
王宮は個人の新規産業開始をサポートする場所ではないのだが……まあ、確かに自分も個人として新鮮な野菜を冬に食べたい時もあるので、回り回れば美味しい食事への一助になると思おう。
現実的な話として、王宮の植物研究所でも安上がりに温室を設置できたら、あそこの予算を抑えるのに役に立ちそうだし。
「我々に、温室の大量生産の手配と温室栽培に参加したいと言う農家を集めて欲しいと言う理解で良いですか?」
フジノ殿に確認する。
「そうですね、ついでに幾つかの商店で利幅を取り過ぎずに売れるよう、ギルドとかに話を通しておいていただけると助かります。
ギルドの利益追求を抑えろと言うことか。




