次は主食(3)
「あれ?
トマトやレタス、きゅうりもあるのね」
ハシャーナに案内された食材卸売業者に入って、思わず足が止まった。
最近見かけなかったサラダ用の野菜類が店に置いてあったのだ。
「値段を見て。
それらは貴族や豪商用よ」
ハシャーナが指摘する。
彼女だって元貴族だし、実質まだ貴族と言って良い血筋なんだけどね。
まあ、それよりも。
確かに値札を見たらバカ高かった。
一皿で数万円相当のサラダになりそう。
どうやら王都近辺で温室栽培は行われてはいるけど、効率性が悪いせいでバカ高くなっているか、ぼったくっているかのどちらかな様だ。
効率が悪いなら今やっている農家と協力してもっと大々的に効率よくやってもう少しお手頃な値段で販売できるようにしたい。
ぼったくっているならそのビジネスモデルを潰しても構わないから、近郊の農家と温室農業を始めるベンチャーキャピタル的なことを提案したいな。
まあ、それはさておき。
先にジャガイモと米とサツマイモだ。
「芋類はこっちに色々とあるわよ」
ハシャーナがそう言って左側の棚の方へ案内してくれた。
何種類かの芋が籠に入れられて展示してあった。
そこそこ高い。
3つで大体1万円相当ぐらい?
こちらの物の値段って日本と高い物が違う為に通貨の換算が難しいのだが、屋台の美味しく食べられるランチをアメリカの世界的バーガーチェーンのバーガーセットの値段と相応だと考えて換算してみると、ジャガイモには高い。神戸牛とか、『時価』なマグロのトロの値段レベルじゃない?
まあ、時価で食べる寿司なんて注文した事がないし、そう言う高級店でトロを食べるのは通のする事じゃないみたいだけど。
最近はインフレでバーガーもガンガン高くなってきているらしいけどね。
日本はまだしも、アメリカでバーガーがびっくりする程高騰しているとこっちに来るちょっと前にニュースでやっていた気がする。
「ちなみに、芋って季節によってはもっと安いの?」
ハシャーナに尋ねる。
フライドポテトが時折無性に食べたくなるが、この値段だったら安くなる時期があるなら待てる。
日本にいた頃は肉じゃがとかマッシュポテトにしたり、トマトソースとチーズを使ってグラタンもどきっぽくしたりって感じで買ってあったが、ソウルフードって訳じゃあないので、この値段だったら無理に食べる必要はない。
それでも時折どうしても食べたくなるのがバーガーとフライドポテトって……思っていたよりも私ってジャンクな魂だったみたい。
「そうね。
でも、もとよりジャガイモは北部の方での栽培が盛んだから、輸送費とかも加えると近郊地域で穫れる小麦粉より高くなるのよ。
まあ、小麦粉も安いのはライ麦とかをこっそり混ぜてるのが多いけど」
ハシャーナが苦笑しながら言った。
確かに現物の形がそのままなジャガイモよりも、粉になっている小麦粉の方が混ぜ物をして誤魔化しやすそうだよね。
「何種類か買って帰って、美味しいのを菜園に植えて育てない?
ちょっとぐらい条件が合っていなくても植物が育つ様にする術があるから、協力するわよ」
屋敷の庭の大部分は花と木と芝生なんだけど、ちょっとしたハーブ用の菜園があるんだよね、裏の方に。
あそこにジャガイモを植えても良い気がしてきた。
植物の育成を促進する術があるので、あれを使えば多少土や気候が合っていなくても育つ筈。
小学生の理科の授業で、適当に切ったのを埋めて水をやり、夏か秋かに新ジャガが取れてビーカーで茹でて食べた記憶がある。サイズとか量とかを極端に拘らなければ、ジャガイモの栽培は比較的簡単な筈。
「そうねぇ。
試してみましょうか」
キラリとハシャーナの目が光った。
「ちなみに、トマトやレタスとかの野菜類も育てる気があるなら温室を作るのにも協力するわよ?」
ハシャーナ本人がやらなくても庭師にやらせたら有りじゃない?
「いえ、流石にそこまで本格的にやるのは祖父がいい顔をしないと思うわ」
ハシャーナが苦笑しながら首を横に振った。
ダメか〜。
「じゃあ、あとは穀物類を見て回ってサンプルをゲットした上で、出来れば温室栽培をやっている農家に紹介して貰えないか、ここの店長なり農協でジュナイドさんなりに交渉かしら?」
この店で実際に売っているし、ハシャーナが使っている店なので極端にぼったくりじゃないだろうから、ここ経由で連絡を取ったら信頼できるのでは?と思うんだが。
「う〜ん、仕入れ元の情報はそれなりに店に取っては秘匿情報だからねぇ。
ジュナイドさんに何をしたいのか説明して、そっち経由で話を持って行った方が信頼してもらえるかも?」
ハシャーナが少し首を傾げながら言った。
そっか、単なる客の知り合いからの話じゃあ、変な引き抜きとか情報を抜き取った上での出し抜き行為とかを疑われるのか。
まだ公的(多分?)機関な農協経由で話を進める方が、理不尽な事はされないって思ってくれるかな?
うん、
そう考えると農協経由が一番無難かも。
下手にカルダールを頼って王宮から話がいくと、断れない上からの圧力と受け止められかねないし。
まずはジュナイドに話を持って行って、上手くいかなかったら王立研究所みたいなところがないか、カルダールを頼ってみよう。
話が農協経由で上手く進みそうだった場合もいずれかの段階でカルダールに話を通しておく方がいいだろうが。




