次は主食(2)
「ちょっと故郷の主食だった芋や穀物が王都でも手に入るか調べてみたいんだけど、農協でジュナイドさんに聞くのが一番かな?」
朝食のお茶を注いでくれたハシャーナに尋ねる。
こっちの常識的に、家でジュナイドを捕まえるべきなのか、職場で聞くべきなのか、確認しておきたい。
「う〜ん、どんな物を探しているのか、教えて貰える?
私も生鮮市場や卸売業者の所で色々買って入るから、王都で売られている物なら一通り見た事があると思うから」
他に人がいないので、ハシャーナが気軽い感じで答えてくれた。人が居ると丁寧語になるんだよね〜。
「これとか、これ。
こっちは脱穀して糠っていう中身の周りについている粉っぽい部分も削ぎ落とした状態だけど。
あと、もっと細長くて中が黄色っぽい芋もあるなら欲しい」
ハシャーナには『祖国から持ってきた家宝のブレスレット』がアイテムボックスだと言ってあるんで、遠慮なくブレスレットからジャガイモと見せる用に小さな箱へ小分けした米を出して見せる。
「そっちの穀物の方は微妙な違いっぽいから何とも言えないわねぇ。
一番よく買う小麦は基本的に粉に挽いた状態だし。
そちらの芋は北の方の地域で食べられる事が多いヤツかも?
以前、小麦が不作で値段が上がった時に少し出回ったのを見たのに似ているかも。
細長くて中が黄色い芋は直ぐには思い当たらないわね」
ハシャーナが私が出したサンプルを見て言った。
確かに、米と他の穀物の違いって見て直ぐに分かるか、私も自信はない。
微妙な色とか形の違いがそれこそ全然違う種類の穀物なのか、長粒米と短粒米の違いなのかも不明だし、日本の古来の米は赤かったって話だから色が違ったって米なのかもだし。
第一、押し麦だってそれなりに美味しく食べられたからなぁ〜。
まあ、レンチンして食べる用の押し麦って色々と工夫してモチモチ感とか出して美味しくしたんだろうけど。
取り敢えず、穀物系は適当に全部脱穀して炊いてみて、比較的美味しく食べられたらそれで良いとするか。
「え〜っとじゃあ、普通に生鮮市場をしっかり見てまわればこれらを見つけられそう?」
ジュナイドを煩わせる必要はないのかな?
「農業ギルドは新しい作物の食べ方は常に探して広めようとしているから、トーコの故郷での食べ方がこちらと違うなら、それを教えてあげる代わりに王都で同じような作物を探すのを手伝って貰っても良いんじゃないかしら?
一応先に一通り市場を見た後にジュナイドさんに会いに行けば良いと思うから、なんだったら今日は市場を見て回って、今晩にでも明日会う約束を取り付けておいたら?」
ハシャーナが提案した。
確かに仕事の段取りとか予定が色々あるだろうから、突然押しかけて時間を取るのは迷惑か。
「そうだね。
じゃあ、取り敢えず今日は市場に行く……って言っても、もうちょっと遅いかな?」
シャルノと行った時はもっと早かった。
「なんだったら、食材の卸売業者の店を幾つか回る?
ウチが使っている所を幾つか紹介しても良いわよ」
ハシャーナが言ってくれた。
へぇぇ、卸売業者なんかも使っているんだ?
まあ、それなりな人数の食事を賄っているんだから、元貴族なハシャーナが毎朝市場で必要な食材を全部買い出してくるのは大変すぎるよね。
「是非!」
◆◆◆◆
急いで朝食を詰め込んで市場に行ってみたが、半分近くの出店が既に商品を売り終わって帰る準備をしているか、既に帰っていて空間が空いているだけになっていた。
「考えてみたら、市場で売っているのは旬で沢山取れて安くなっている作物とか、毎日取れる物が殆どだから、芋や米は今の時期だったら早朝に来ていてもここでは売られていなかったかも」
失望しながら市場を見回していたら、ハシャーナが慰めてくれた。
「そっか、倉庫とかで温度管理しておけば長期間保存できるとは言っても、それを態々市場に持ってきて売る必要はあまりないのか。
市場よりも店に売る方が良いの?」
子供の頃に読んだ開拓時代のアメリカの少女とその家族の物語の本で、ジャガイモ(もしかしたら小麦かも?)が豊作だったから全部を売らずに一部は翌年まで持ち越して売るなんて話があった気がする。
あれって1年後に店とかに売りに行ったのかな?
時期を見極めれば豊作で市場が溢れている時よりは市場で売ろうと良い値段になるだろうが。折角なら店に売る方が高く売れそうな気もする。
「店の方が基本的に高く売っているけど、農家から買い取るときは買い叩くことが多いらしいから、農家は市場で売ろうとすることが多いのよ。
だけど農家は収穫期に全部売らずに長期間保存しておいて高くなってから売るだけの資金的余裕が無かったり、知識が足りない人が多いから。大抵は旬の安い時期に店で買い叩かれて、我々住民はそれを後から高く買う事になるのよね〜」
ハシャーナが言った。
「だったら安い時にハシャーナも沢山買っておいて、地下室にでも保管しておけば?」
あのお屋敷だったら地下室も大きなスペースがありそうだが。
「そこまでやるのも面倒かな〜って感じで多少は多めに買うけど、自分とお祖父様の分だけならまだしも、皆の分までは買い溜めて置いておくスペースがないのよ。結局は旬が終わった後に高くなったのを買う羽目のなるわね。
流石に保管用に地下室をもう一つ作らせる費用を考えると、小麦や芋ぐらい店で買えば良いってことになるし」
確かに、あの屋敷に暮らす人間全員分の食材を1年近く分保管しようと思ったら、かなりのスペースが必要になりそうだ。
私のブレスレットのようなアイテムボックスに大量に保管できるならまだしも、新たに蔵や地下室を作る費用が必要となったら食材程度の出費の節約ではペイしないだろう。
そう考えると、アイテムボックスで大量の食材を保管できるようになると、旬とそれ以外の時期の価格差で儲ける食材の卸売業者が破綻してしまいそうだね。
新しい魔道具って普通の戦争とか密輸リスクでだけでなく、場合によっては流通の形も変えてしまいかねないんだなぁ。
既に世に出した冷蔵庫や空飛ぶ絨毯が普及する事でどんな職業が潰れるのかは知らないが。誰かがとばっちりを喰らっていないか、それとなく情報を集めておこう。
それはさておき。
次は食材の卸売業者だ!




