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007 会見

ピー・ピー・ピー。

目覚まし時計の電子音で目が覚めた。

まだ空は暗い。多分。

カーテンが遮光かどうかなんて調べなかったけど、それだけのテクって多分ないよね?

それとも遮光カーテンって特に進んだ技術が無くても難しくないのかな?


昨日は色々調べたり換び出したりしていたら日が暮れてからそれなりの時間がたっていた。

とは言っても『ショックです。休ませてください』といって皆を追い出したのってまだ日がかなり高いところにあったから真夜中にはなっていなかったと思う。


とりあえず、朝起きてからもそれなりに考えたかったので5時間後に目覚ましをかけてベッドに入った。

異世界だし、慣れないベッドだし、一度死んだし......眠れないかと思っていたのだがどうやら爆睡していたようだ。


目覚ましをかけておいて良かった。


『まだ早いです~』

不満そうな心声を漏らすダールをベッドに残し、窓際に行って外を調べる。

うん、片側(この世界の太陽が昇るのも東側なんだろうか?)の空がちょっと明るくなりかけているが、まだ夜明け前という感じだ。


「さて。これを全部片付けないとね」

部屋に散乱しているノートやら猫グッズやらを見回して呟く。

ノートはいい。

下着とか食材も。

自分だけの物は全てあっさり異次元収納に収まった。

だが、ダールちゃんの分をどうしようか。

大量にあるドライフードは収納しちゃっていいが、他の物は彼の為に出しておかないと困るだろう。


うう~ん......。

異次元収納の詳細条件って後から変えられるのかな?

昨日使った術を呼び出し、『ヘルプ』を探すような感じで集中する。

なにやらぼんやりと知識が頭に浮かんできた。

変な感じ。

術を使うときにはこんな知識は出てこなかったのに。

使った術はこういう風にヘルプを見てもっと理解しておけば改善したり出来るのかもしれない。

さらに集中すると、マクロのVBAの様な文字列が目の前に浮かぶ。

なるほど、これがマクロの様なチートな魔法起動システムのバックグラウンドで起動している呪文式なのか。

確かにこれならバーリアが言っていた様に、研究すれば自分でも新しい術が開発出来そうだ。


それはさておき。

設定に『使い魔ダールの意思で出し入れ可能』と付け加えてみた。

悪戯とかしないと期待したいけど。

知恵が増えた分悪意や欲望が増したなんてことは無いわよね??


と言うことで、全て収納。

「ダール。ちょっと起きて、トイレや餌や水を自分が欲しいときに出せるか試してみて」


『ん~?』

眠そうな猫の顔が毛布の間から出てきた。

『トイレ~』

掛け声とともにトイレが現れた。


よしよし。

「仕舞える?」


ふっとトイレが姿を消す。


ダールの魔力ってどこから来ているんだろう?私の魔力は影響を受けていないようだが、彼の魔力の量がどのくらいなのか、今度調べてみよう。


◆◆◆



この部屋でファディルや宰相と話し合いをするのかと思っていたら、メイドが持ってきた着替えを手伝って貰いながら着込み、朝ご飯を食べ終わった後にドアの外に立っていた衛兵たちがミーティング・ルームへ案内してくれた。

さて。

誰が来るんだろうか。

『勇者』なんて云う軍事的意味合いの強い存在についての話し合いだから、出来れば魔術師のおっちゃんだけでなく宰相辺りにでも参加してもらいたい所なんだけど。

私を政治的に使いたいらしいファディル氏だけが来たりしたら最悪だ。願くは宰相が牽制の意味も込めて参加して、私の提案に賛成してくれると大分楽になるが......。


そんなこと考えていたのだが、中々誰も現れない。

しょうが無いので術の呪文式を調べながら時間を潰すことにした。

最初はやはり単純なのから始めた方がいいかな?

とりあえず、発光術からでもはじめるか......。


呪文式を読み終わり、暗記も出来たので初呪文を試したくてウズウズし始めた頃にやっと扉が開き、宰相と筆頭魔術師が姿を表した。


「おはようございます」

かなり待たされていい加減うんざりしていたので、立ち上がらず目礼程度の軽い挨拶をする。


「おはようございます。待たせてすいませんでしたね」

宰相がにこやかに答えた。


「待たせたのは他でも無い、フジノ殿のその術が何を意味するのか意見が分かれた為なのですが、出来ればご説明願えますかな?」

ファディル氏が勿体ぶった感じで『お願い』してきた。


「術?」

「ええ、私も久しく視た事も無いほど強固な防御ですな」


おっと。

そう言えば、昨日発動させた防御の術がそのままだった。

寝ている間に自然解除するかと半ば思っていたんだけど、状態をちゃんと確認しておかなかったのは不注意だった。

危ない危ない。


「......正直な事を言ってもよろしいですか?多少失礼だと感じられるかも知れませんが」


「勿論です。礼にかなった嘘よりも失礼でも正直な答えの方が百倍意味がありますからね」

宰相が答えた。


ファディル氏の方は正直な失礼さよりも礼儀にかなったおべっかを歓迎しそうだけど、折角だから宰相さんのお言葉に甘えさせてもらおう。


「この世界の方を私から攻撃するつもりは誓って有りません。

ですが、誘拐してきた人間を物理的もしくは魔術的な力で強制して、奴隷の剣闘士の様に戦いへ追い立てるつもりなのでした命の限り抵抗するつもりです。この術はその為の準備でございますわ」


ファディル氏の顔が赤らんだ。

怒り?それとも羞恥?

「昨日も申しましたが、我々は誘拐する意図は無かったのです!誠意をもって助けを求め、その願いが受理されたのだ信じておったのです」


「そう仰られた言葉は聞きましたわ。ですが突然何の予告も無く、誰ひとりとして知っている人間のいない世界に取り残されてしまった私としては、とても心細い思いをしておりますの。ご理解頂けますわよね?」

一体どこ世界に拉致した犯人を信頼する被害者がいると思っているんだ。


赤さが殆どドス黒い感じにまで濃くなってきているファディル氏の顔を見る限り理解するつもりはなさそうだね。思うように物事が進行していないのにかなり苛立っているようだ。

反対に宰相の方は笑うのを必死に我慢している様に見える。


突然、入り口のドアが開いた。


「その通りだな。意図していなかったとは言え、害を成したのは我々。誠意を見せていく責はこちらにある」

若い男が私の言葉に答えた。


「「陛下!」」

2人が席から飛び上がる様に立ち上がった。


おぉぉぉ~。

昨日までは、本当に統治者である王様と会うことになるなんて、想像もしていなかったんだが。

どうやらその王様とプライベートに会見出来るほど『勇者』は重要らしい。


ここは座ったままは流石に不味いだろうと立ち上がった私を含めた3人に座るよう手を振りながら、国王が席に身を投げ出した。

「フジノ・トーコ殿だったか。俺はこの国の王、ジャビルーダ・アル・ハン・カリームだ。

今日は最初からこの会談に参加するつもりであったのだが、お主の防御結界を見て危険だと周りの者が主張してな。少し様子を見させて貰った。

だが、お主の言葉に一理ある。誠意を示す為にも参加する事にした」


なるほど。

国王の暗殺を狙っているのかと疑われていたのか。

......と云うか暗殺を強行できる様な相手の前にヒョコヒョコ顔を出しちゃ駄目じゃん、王様。


「ありがとうございます、陛下。しかし、私が暗殺を試みる可能性が客観的に見て否定できない状況なのに姿を表すのは危険ではありませんか?」


「元々、勇者召喚と言うのは魔王を倒す事が出来るだけの能力を有する者を呼び出す術だ。

危険は避けようがない。それなのにあまり深くも考えずに召喚を命じた俺には、その位の危険を冒してでも現れた人物の信頼を得る義務がある」


あ~実はあなた、そこそこ軽い好奇心で勇者召喚に承認を出しましたね?

それが無実な人間の誘拐なんて云う結果になって良心の咎めを感じているっぽいでっせ。


「お互い、現時点での状況は変えようがありません。今後をよりいいものへ転換出来るよう、きっと分かり合えると思いますわ」


「ふむ。

では、何から協議していこうか?」

王が尋ねる様に眉を上げて見せる。


「では、私からとても気になっている懸案を挙げさせて頂きますね。

陛下は、勇者という存在は危険過ぎる劇薬だと思いませんか?」


「ほう?」さっと侍従がもってきた水を口に含みながら王が左眉を上げて見せた。


「古今、私の世界では国を救う程の勇者は危機が過ぎた後に王座を簒奪しているか、簒奪を恐る主に殺されています。

この王国でも、王家に忠誠を誓わぬ、国を左右出来る様な存在は平時になれば色々な方の危機感を煽ると思いますし、現実的な可能性として私が戦場に駆り出されて数日で戦死してしまうと、国民のモラルへ深刻なダメージを与えてしまいますでしょう?」


「お主の防御結界を見る限りかなりの魔力がある様だから、いい感じに戦場でも活躍出来るのではないかと思っていたのだが?」


「殺されそうになれば、死に物狂いで抵抗しますが......私の生きてきた国はもう70年近く、戦争が無かった国でした。魔物も魔族というモノも存在せず、日常生活では殺傷能力のあるような武器を持ち歩くことすら違法とされたほど平和な国だったのです。しかも、人口における魔術師の割合が極めて低い為、戦力として実用性がないという考えが常識でした。そんな世界で研究者として生きてきた私が戦うのに向いていると、お思いですか?」


ファディルが何かを言いたそうな顔をしていたが、国王がスルーしていた為、沈黙していた。

どうやらこの国は、国王の会話に勝手に参加するのは筆頭魔術師でも許されないタブーらしい。


「訓練を積めば凄腕の魔法戦士になれると思うが......訓練する気持ちも無いと云うところか。

勝手にこちらの世界に連れ込んだ上に故国でも無い国の為に命を賭けよと言うのは図々しすぎるようだな。

下手に凄腕になることを強制したことで、後に復讐を企てられても困る。

......となると、戦線へ行かぬのならば『勇者』と云う肩書きは確かに要らぬトラブルの元だな」

王が小さく溜息を尽きながら同意した。


おや。

初めてこの人が外来語を使っているのを聞いた気がする。

......と云うか聞こえている言葉って全部召喚儀式の中で賦与された脳内自動翻訳機能みたいなものの翻訳結果なんだろうなぁ。となったら、もしかしてこの王様がパンクロックみたいな格好をしていたら彼の言葉って同じ事を言っていてもヤンキーな言葉遣いに翻訳されるんだろうか。


私の精一杯猫を被った上流階級ちっくなつもりの言葉遣いってどんな風に聞こえているんだろ?

気になるところだ。


「こちらで生活基盤を築く為に、身元保証をしてもらったり初期費用を貸して頂かないといけないと思いますので、まず暫くのところは国立なり民営なりの魔術研究所で働かせていただくと云うことでどうでしょう?

違う歴史から発達した魔術を知っていると云うのは、違った視点を提供出来て何らかのお役にも立てると思いますわ」


「そうだな。暫く魔術院の方で手伝ってくれるとファディルも助かるだろう」

ちょっと人の悪い笑顔を見せながら王様が合意した。

どうやら王様もファディルが愛国心とか真摯な故国への危機感からではなく、政治的目的で勇者召喚を行いたがったって分かっていたようね。

面白がってそれにのったら拉致騒動の加害者になっちゃったと云うところかね。

あっさり『勇者召喚失敗』に合意してくれて、助かった。


「ありがとうございます。ところで」こほんと小さく喉を払って話題を変えた。

「この国での女性の法的権利ってどのようになっているのでしょう?

私の故国では女性も男性も、20歳を超えれば全ての成人が完全な自由人として物を所有したり契約を締結したりする権利を認められていましたが、歴史の違う国ではまだそこまで文化の平等化が進んでいない国もありました。

この国の法制度に関してどなたかかから簡単に教えてもらえる様、手配していただけませんかしら?」


選挙権なんてモノは云うだけ無駄だと思うが、少なくとも所有権と契約締結権は是が非とも欲しい。

自分の努力の成果を手にするのに、誰かに『後見』して貰わなければならないなんて冗談じゃ無い。

そうなったら、女性に権利が認められる場所を見つけたらすぐさまこの国を捨てて移住してやる。


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