帳簿の付け方(4)
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遠距離通信用の魔道具を地方の各地と王宮とで繋ぐ騒ぎで忙殺されていたのがやっと終わりが見えてきたと思ったら、フジノ殿が現れた。
週1回ぐらい顔を出して異世界の話をしてもらう流れは今でも続いているのだが、忙しすぎてここ2回程キャンセルして貰っていたのでかなり久しぶりに会う気がする。
「お久しぶりです。
ちょっとお伺いしたいんですが、この国の税金って職人だったら生産能力、商人だったら持ち込んだ物と持ち出した物の差額に税率を掛けるって話だったと思いますが、お金の流れとかをしっかりさせる会計記録を取っていて、それを見せたら税金が少し安くなると言った様な制度は無いのでしょうか?」
お茶を飲みながら最近の事について話していたら、フジノ殿に聞かれた。
「きっちりとした会計記録なんてそれこそ領地持ちな貴族じゃないと難しいですからね。
庶民がそんなことをやると言う想定が無かったので税金の減額と言った話もありません」
最近は商業ギルドでもメンバーの売り上げや費用に対してもう少し情報を集めようと色々と試みているらしいが、まだ王宮がそれを吸い上げて利用できる程の情報は無い。
「う〜ん。
私が出資する事になった喫茶店をご存知でしょう?
出資するからにはどのくらい儲かっているのか、どんな費用があるのかをちゃんと把握したいんで複式簿記のやり方を教えてやって貰うことにしたんです。
そうしたらシャルノが中々役に立ちそうだから他の商店街の人にも教えたいって言い出して。
教えるのは良いんですが、やっぱそれなりに手間だから多少でも何か得るものがあれば早く広がるだろうし、城下の正確な商業活動の情報って王宮にとっても入手できたら嬉しいんじゃないかなぁと思って」
フジノ殿が言った。
複式?簿記??
「一度、どんな感じなのか、見せて貰えますか?」
フジノ殿から来る話は注意を払うだけの価値がある事は多いのだが、なんの話だか理解するのに時間がかかる事が多いのが困る。
まだ忙しいのだが。
また睡眠時間が減る様なことになったら、職員たちに恨まれそうだ。
いや、税金だったら遠距離通信で忙しくなった部門とは違うから、大変な思いをするのは私だけか?!
◆◆◆◆
現時点では複式簿記にしたら税額控除が増える(と言うか現時点ではゼロだから貰えるって言うべきかな?)と言った制度は無いと言う話だった。なので精度の高い情報があると政策決定にも役に立つんじゃ無い?と勧めてみたが、イマイチ複式簿記自体に関する実感が湧かない様だったので今度実物を見せる事になった。
日本とかでは設備投資をさせたかったら減価償却出来る金額を上げて減税として打ち出す事で、特定の分野への投資を増やさせたり、景気刺激策にしたりって色々と便利に使われていた様なんだけどね。
とは言え。時限的な減税とかを使った政策って辞め時の判断が難しくて、結局状況が変わって必要性が無くなった時でもずるずる続く上、『例外』としてどんどん税制度を複雑にしてプロにしか分からない仕組みにしていったからなぁ。
節税コンサルタントに金を払える大企業だけが税額を減らせる、金持ちがより稼ぎ、貧乏人がより苦しくなる格差の拡大原因になりかねないから気をつける必要はありそうだ。
まあ、選挙がない世界なら市民に不評だろうが上がガンガン意思決定をできるから、一部の利害関係者だけに有利な例外は賄賂を貰っている人を黙らせるなりすればあっさり解除できるだろう。
もっとも、そう言う例外規定で自分だけ有利にしようとか、新規参入を難しくしようって方向に規制をさせるために賄賂を払う人が増えるかもだなぁ。こう言うのって制度の細かいところを理解しようとするマメな人が得をする傾向があるからねぇ。
ミズバンみたいな、職人肌な事業主には不利になりそうだ。
美味しい食べ物を提供する店だったら王宮の人間にも時々差し入れに持っていけばその店が潰れない様に注意してくれるかもだけど、家具とか生地とかの職人さんはそう言う抜道もないからなぁ。
既存業者に有利な岩盤規制を作っちゃわない様にするにはどうすれば良いのか、カルダールにもしっかり考えて貰わないと。
折角選挙がない君主制な世界なのだ。
せめてその程度のメリットがなきゃ、マジで民主制度へ移行しろと言いたくなる。
まあ、日本や海外の政治家の言動を思い出すと、大きな声で安易な利益誘導的公約を口にする無責任な政治家が選ばれやすい民主主義が、本当に人類にとって最適なのかは微妙なところだけど。




