帳簿の付け方(3)
ちなみに複式簿記をして貰うのは既定路線だったが、最初は各帳簿分のノートを渡そうと思っていた。だが実際にノートを揃えてみたら数が多くなって邪魔そうだったので、ページを切り離して穴あけパンチで二つ穴を開け、2穴のリングファイルを創ってインデックスをつけて資産負債用と損益用の二つに分けた。仕訳帳はノートのまま。その方が後から中身を抜いたり足したりし難いしね。
と言う事で、喫茶店が満席になるまでは奥の一人掛けの席に座って今日の仕入れのお金の支払いを仕訳として書き込み、それを仕入帳にも転記して行く。
仕入帳は素材ごとにページを分けて、どこの誰から買ったのかも書ける様にしておいた。
ついでに時間が余ったので固定資産台帳も知っている範囲で書き出す。
日本の税制と違ってこっちは固定資産の減価償却費の損金計上がある訳ではないけど、要は固定資産って何年か後には修繕とか買い替えでお金が必要になるので、その分を減価償却費として積み立てておくのが元々の目的だった筈。
幾ら現金が貯まったからって、それを特に何も考えずに使ってたら魔道具の修理や買い替え、店の修繕が必要になった時に金が無くて困るって事になりかねない。
まあ、喫茶店だったら壊れたら直ぐに修理か買い替えないと開店できない物なんて、コーヒーを淹れる道具とかホットサンドメーカーとか湯沸器程度で、どれも大した値段じゃ無いんだけどね。
それを言うなら、ミズバンの方がオーブンや冷蔵庫が壊れたらマジでビジネスに直撃するんだから、そこら辺の積み立てを考えておいてもらわなきゃいけないんだけど。
と言うか、彼の場合はオーブンは昔のパトロンから貰ったって言っていた気がする。
そんでもって冷蔵庫は私と他の職人とで作った試作品だし。
マジであれらが壊れた時に買い替えるか修理するお金を積み立てる必要があるって考えてないかも?
まあ、修理代や新規購入費が幾らになるかも微妙に不明かもだが。
ちょっと今度、喫茶店の帳簿の付け方についての話し合いが終わったらミズバンを捕まえてそこら辺をしっかりさせないと。
いくらシャルノがしっかり喫茶店を経営してくれても、ミズバンあっての喫茶店だからねぇ。
ミズバンが潰れたらヤバい。
そんな事を考えつつ気が付いた数字を書き込み、シャルノの時間が空いた時にその他の出費とかに関して尋ね、忙しそうな時に手伝おうかと声を掛け(最初の5分後は頼むから静かに座っていてくれと言われた)、なんだかんだしている間に1日が終わった。
「と言う感じで、仕入れたら項目ごとにこんな感じに仕訳して、現金と仕入れについては別々のこちらのファイルのインデックスのところに補助簿を書き込むの。
売り上げに関しては……どうやって集計を取ってるの?」
注文を受けた時にメモを取って無かったけど。
紙がそこまで安くお手軽に使い捨て出来ないと、注文票にバンバン書いていくのも難しいから、店員さんの記憶頼りになるんだろうけど。
忙しい時とか、誰かヘルプを雇った時ってどうしているんだろ?
注文した時の前払い制だから取りっぱぐれることは無いけど、1日の終わりに売り上げがお金の残高なんて感じでやっているんだったら、お金を入れている箱からこっそり盗まれていても発覚が遅れそうだが。
「ここにメモしてあるから。
コーヒーだけ、紅茶だけ、ケーキとのセット、シュークリームとのセット、サンドイッチとのセットで、注文が出るたびに品を出す時にここへ一本線を引く事にしてるのよ」
シャルノが板に留めた一枚の紙を見せてくれた。
紙が縦に6分割する様に線が引かれ、左端に日付、右上に項目、その下に縦線四本ずつに斜めに一本横切るような感じで注文がメモられている。これってタリーマークっていうやつだっけ?
なるほどね、漢字が無いと『正』の字じゃなくてこう言う感じに5を記録していくのか。
と言う事で板に留めてあるメモを見ながら項目ごとに単価を掛けてこれも仕訳帳と売上帳に書き込んでいく。
私は計算機を使って計算したけど、シャルノもきちんと濡れた指先で机の上に計算して、正しい数字を出していた。
算盤は提供したけど、掛け算をどうやってやるかイマイチ分からなかったから教えられなかったんだよねぇ。
申し訳ない。
「こんな感じに毎日記帳していって、週の終わりに集計する感じでやって貰える?
固定資産台帳の減価償却に関しては月一で良いかな」
仕訳帳のノートと補助簿が入ったファイルを渡しながらシャルノの説明する。
「う〜ん、まあ、分かった。色々と売り上げや仕入れに関して後で分析できそうで良さそうね。
ちなみに、これって町内会の皆にも教えてもらって良い?
絶対に役に立つと思う」
じ〜っと補助帳の売上帳や仕入帳をめくって見ていたシャルノが言った。
「全然良いけど、それこそ1ヶ月ぐらい自分でやって、収益の集計とか分析とかをやってみてからシャルノが見せた方が説得力があるかも?
便利とは言え、手間暇掛かるから。
しっかり集計した結果の効果が目に見えないと、手間を掛けるだけの価値がないと思われるんじゃない?」
まあ、税務署とかがどの程度の会計書類を求めているのか、知らないが。
……どうなんだろ?
考えてみたら、日本だってちゃんとした複式簿記をやっている青色申告だと、お金の入出金明細程度の記録しか取っていない白色申告よりも税額控除が大きかった。
こっちにも、しっかりとした記録を取ったらお得になる制度ってあるのか、カルダールに今度聞いてみよう。




