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060 異世界版遠距離通信(4)

「夏至パーティの趣旨は皆で集まって親交を深めることであろうが! だとしたら食事やワインに造詣の深い私が主催者としてふさわしい!」


「何を言うか! ここのところの夏至パーティのレベルダウンは己のような食道楽な輩が出しゃばってきたからだ! 今回こそは魔術師の集いにふさわしい、術の研究成果の公開を兼ねた物にするべきだ!!」


白熱してます。


特許制度があっさり承認され、保護結界メインテナンスの注意事項が簡単に説明された後、夏至パーティの主催者の選別に議題が移ったのだが......今までのおざなりな態度と豹変して、皆さんがとても熱心に参加・発言してます。


すげ~。


「皆さん物凄く拘りがあるようね」

思わずデニーシャに囁いてしまった。


「そりゃあ、ね。魔術院主催の一番のエンターテイメントだから。

色々なショーみたいな魔術を見せてくれるのも面白いんだけど、最近は食道楽派が主催権を取ってきたから、魔術は殆ど無くて美味しい物を食べに行く集いになってきたわね」


ふうん。

魔術師にも食道楽がいるんだ。

だったら何故、もっと美味しいお菓子とかを造るのに料理人と協力しないんだろ?

そういう発想が無いのかなぁ?


食道楽派をミズバンやシャルノの店に連れて行ったら、新しい魔術の使い方に啓発されてくれるかもしれないかな。


「食べたい人が食べている間に、順番に発表したい人が魔術を発表していればいいじゃない。

ディナーショーみたいな感じで」

行ったことは無いが、手品とかジャズとかシャンソン歌手のディナーショーって食事とショーが一緒に楽しめる催しだろう。


そう言うところの食事なんておまけ程度だろうから美味しくなさそうだが、食道楽派が食事の手配を引き受ければ、美味しい食事も期待できるんじゃないかね?


「最初はそう言う案もあったんだけどね。魔術をディナーのショー程度に貶めるはけしからんって真面目な人たちが怒っちゃって。だけど真面目に研究したい人よりも、美味しい物を楽しみたい人の方が多いから、ここのところずっと食べる為のパーティになっているの」


ははは。

真面目な魔術師よりも食道楽の方が多いのか。


まあ、真面目な研究者ってあまりその分野に興味が無い人を楽しめるように工夫するのに向いてなさそうだもんね。

私も以前、合コンで理工学部の大学院に通っている研究者の男性と合席になった時に、延々と良く分からない生物学の深~い話題を続けられて参った記憶がある。


最初は面白い話だっただけどねぇ。

興味を持ったのがいけなかったのか、途中から暴走して物凄く話が専門的になって全く付いていけなかった。

ある程度話が深くなると、素人には違いの分からないような細かいポイントが重要になるらしくって、一生懸命説明してくれるんだけど全く理解できなかった。


「ここのところ連続して主催権争いに負けているから、もうそろそろディナーショーのエンターテイメントとしての妥協もしてきそうじゃないかと長老たちは見ているんだけどね」

デニーシャが小さく笑いながら教えてくれた。


成程ね。


ぼ~っと白熱議論を見ていたら、やはり食道楽派の方が人数が大いようだ。

だんだん研究派の旗色が悪くなってきたと思っていたら、ウサマン長老が立ち上がった。

「提案をしてもいいかな?」


唾を飛ばしながら研究の重要さと美味しい物の素晴らしさを主張していた魔術師たちも、ぴたっと発言を止めた。

......もしかして、これに関しても根回ししてあったのかね?


「特許権という、新しい術を費用を払えば皆が利用できるようになる制度が始まったこともあり、研究成果の発表は重要だ。

だが、夏至パーティで美味しい物を食べることを楽しみにしている者が多いのも事実。

そこで提案だが、私が主催者になって、エンターテイメントと食事の手配をそれぞれ熱意がある者に手配してもらうようアレンジすると言うことではどうかね?」


ざわざわと皆がお互いに話し合っている声が広がる。

どうやら、見える範囲の表情から判断する限り、良いアイディアだと思っている人が大多数の様だ。


「そうですね。それが一番現実的な妥協と云ったところかもしれませんね」

あっさりとさっきまで熱く議論をかましていた研究派が合意した。

まあ、旗色が悪かったもんねぇ。


「食事の采配を任せてもらうのでしたら、私も不満はありません」

食道楽派の主導者っぽかった人も合意する。


「では、ウサマン長老が主催者と云うことに反対の者は挙手を」

議長がすかさず、纏めに入った。


数人、研究派と食道楽派が手を上げていたが、数える程しかいなかったので多数決でウサマン長老に主催者は決まった。


あとでウサマン長老のところに行って、食道楽派の食事を手配する人と会えないか、頼んでみよっと。


◆◆◆


今回の保護結界メインテナンスは、遠い街を回りたい私と、魔物退治の攻撃呪文を試したいデニーシャのニーズが一致した為、二人で10程の西にある街や村を回ることになった。

魔物退治の依頼も有る時は2人組で動くことになっているっていうのと、初めての私に保護結界のメインテナンスを一人で任せるのは怖すぎるということで、ちょうど魔術院側にとっても都合が良かったらしい。


転移門の入口には、目的地と成りうる他の街の転移門のIDサインみたいなモノがファイルされてあった。

それを念頭に浮かべつつ、魔力を込めて転移門の魔法陣を稼働させると移動できるんだそうだ。


ということで、初の転移門トライです!


「......これってIDサインを思い浮かべる時に詳細を間違えていたら、どうなるのかな?」

思わず、同行することになっているデニーシャに尋ねてしまった。

一応魔術の能力と一緒に、こう言った魔術に必要なIDサインもきちんと認識できる能力が付与されているようなのだが......何と言っても見た目は難解な魔法陣モドキな模様なのである。

自分の記憶力に全く自信が持てない。


デニーシャが肩を竦めた。

「ちょっとぐらい細部が違ってもそれに目的地のIDが一番近くなればそこに行くわ。

他のIDと見なされたらそこに行くし。

最悪なのは、自然の地形と術に判定された時ね。どこかの僻地とかに飛ばされるって云うのならまだしも、地下とか地中とかに飛ばされたら終わりよ。極々偶に見つかる、埋めた形跡が無いのに地中や岩石の中で発見される死体って移転門使用の失敗事故だろうと言われているわ」


うわ~お。

目的地を最初から相対する鏡に設定しておかなければならない鏡を使っての移動の方が、不便だけど安全そう。


誰かが悪戯(もしくは悪意を持って)この転移門に置いてあるIDサインを書き変えていたら、下手をしたら死んじゃうじゃない!


まあ、意図的に誰かを暗殺しようとしているんだったら、人を殺す方法なんて時間をかければいつかは見つかるんだろうけど。でも、暗殺ではなく悪戯とか無差別殺人だったらやりきれない。


「跳ぶ前に、IDサインがちゃんと想定している転移門の物だって確認出来る?」


「魔力を込めれば、目的地の周辺も視えるはずよ? 疲れるから大抵の人はしないけど」


疲れるよりも、岩の中へ転移する方が怖いよ。


と云うことで、魔力を込めて転移門からの魔力の流れを追い、終点のIDサインまで辿り着いて周りを遠視する。

向こうに行ったことがないから正しい目的地なのかは分からないが、少なくともどこかの部屋の中のようだから跳んでも大丈夫だろう。


「じゃあ、向こうで会いましょう」

一声デニーシャにかけ、転移門を起動させた。


ヴン!

何やら骨に響くような振動音が一瞬したと思ったら、見慣れない部屋に立っていた。


「ようこそバルルーシアへ! 領主より出迎えを命じられましたサレスと申します」

部屋で待っていた若い男の人に声を掛けられた。


「こんにちは。魔術師のフジノです」

男性に挨拶をしながら部屋の端へ寄る。


直ぐ後に、後ろの魔法陣が光り、デニーシャが現れた。


「あら、サレスさん。今年も出迎え当番御苦労さま」

デニーシャが男性に気軽に声をかける。

ふ~ん、知り合いなのね。

な~んとはなしに、サレス氏のやにが下がって見えるんだけど、気のせい?

まあ、デニーシャって美人だもんねぇ。


「地方の外れの村の幾つかで魔物退治の請願を出していたと聞いたので、デニーシャさんが来るかもと期待していたんですよ」

にこやかにサレスが答えた。


正直だね~。


デニーシャの反応はイマイチ鈍いし、サレス氏の方もそれ程熱がこもっている様子でもないから、単に奇麗な女性を見物に来ただけなのかもしれない。


「一昨年生まれた息子さんは元気?」

見物確定だね。


「聞いて下さい!! この間『パパ』と言ってくれたんです! 滅多にないほど賢いでしょう!?」

でれ~と顔を崩しながらサレスが答えた。

ほほう。

親バカですか。良いですねぇ。

美女見物に態々出てきたことも、許しましょう。


「子供の発声って『ママ』の方が言いやすいって聞いたけど、取り残されなくって良かったわね」

小さく笑いながらデニーシャが扉の方へ足を向けた。


事前の説明によると、保護結界は領主の屋敷の奥にあるそうだ。

どうせメインテナンスするのが魔術師なんだから、魔術院の支部があるような街だったら転移門と同じ建物に設置すれば良いのにと言ったら、転移門を使った電撃攻勢をかけられる危険を避けるために、常に保護結界は防御武力の一番高い場所に置かれるのだと教えられた。


国同士(どころか領地同士)の戦争は許されないが、電撃的に領主や王族を暗殺したり、保護結界を壊した後に魔物を追いこんだりすること自体は『戦争』と見なされず、魔族の攻撃対象にはならないことが多いらしい。


そうして相手の経済力や政治的安定を破壊した後に、何食わぬ顔をして援助の手ととともに併合策を提案すると言う手法は過去にも何度も使われてきたのだそうだ。


なので、この世界では転移門と領主や保護結界を離すのが常識。

だから王都でも転移門は魔術院にあるが、保護結界は王宮にあり、王宮と魔術院はそれなりに離されている。


不穏で嫌だね~。


でもまあ、日本みたいに『絶対に攻めて来ないさ』と安心しきっちゃって防衛費を削りまくり、挙句の果てに抑止力として頼りにしているアメリカの軍まで国から追い出そうとするような政治家がゴロゴロいるような状況もヤバいけどね。


確率論的に起きる可能性が低くても、被害が極端に大きいなら......それなりに費用を払ってでも対応策は取るべきだ。日本の常識が独裁国家の近隣国に通用すると信じきるのは危険でしょう。


それなりに物騒なだけに、こちらの世界の方が現実路線なようだ。


さて。

保護結界のメンテナンスが終わったら、ちょびっと時間を貰って王都のカルダールに遠距離掲示板を使って連絡してみたいんだけど......時間はあるかな?

ちょ~っと遠距離通信から脱線気味ですが、遠距離掲示板を完成させるまで、とりあえずこのタイトルを使っちゃいます。

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