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006 下準備(2)

さて。

出来れば魔術師の立場から見た情報も欲しいところなんだけど。


流石に同じ魔術師である相手に術を掛けたらばれるのかな?

まあ、ばれないにせよ魔術師に知っているのはあのファディルとかいう筆頭魔術師しかいないし、近くにいないしで情報収集は難しいわね。


......暫くファディルの為に魔術師として働くってことにしたらそれなりの人数の魔術師と会えるだろうからそこら辺で情報を集められるかな?

あまり雑談って得意でも無いんだけど。


う~ん....。


「な~ご」

『お腹すきました』

考え込んでいたら、安楽椅子に座っていた私の膝の上にジャンプしたダールが啼きながらアピールしてきた。


「あら御免なさい。ご飯が無いわよね」

ううむ。

あまり自分が食欲が無かったせいか、愛猫のフードのことを考えていなかった。


私に持ってこられた軽食はどうなのかな?

本当は人間の食事って余分な塩分が入っていたりタウリン(だっけ?)が入っていなかったりで猫の食事としては理想的ではないらしいけど、とりあえず今晩だけでも何とかしないと。


さて。

猫に有害なものが入っていないかどうか、先に調べた方がいいよね。

『分析』の術を検索してみる。


『肉体状態の分析』

『魔術的才能の分析』へぇこんなのあるんだ。ある意味自分の才能を誤魔化そうとしてもばれちゃうんだね。

『鉱石の分析』

『植物の医療的成分の分析』......へぇ、だとしたら薬剤とかの技術はかなり進んでいるのかも?片っぱしから植物にこの分析を掛けていればかなり色々有効成分が見つかりそう。

『食材の養分分析』

お、これがいいかな。


『食材の養分分析』

詳細条件:猫もしくは人間に有害な物はハイライトっと。


トレーの上の食材にかける。

『上位素材:鶏肉、かぼちゃ、トマトもどき、芋、パン

その他:ガーリック、ハーブ(詳細あり)、胡椒、塩

ハイライト要項:猫および人間に有害な成分なし』

情報が脳裏に浮かぶ。

ふむ。

トマトもどきってなんなんだろ?

地球の素材と違うと私になじみが近い名前に勝手に脳内変換されるのかな?


「じゃあ、これを食べたらどう?」

トレーを床に下ろす。


『いつもの食事がいい~』

ふんふんと臭いをかいでいたダールがぷいっと顔を背けた。


おい~。

相変わらず、食事に煩いねぇ。


うう~ん、ペンやノートパッドみたいに造り出せるかな?

とりあえず、薪を手に持ちいつものペットフードを思い浮かべながら術を実行する。

ざぁぁぁぁ。

床に大量のドライフードが零れ落ちた。


うわ。

慌ててもう一つの薪を手に取り、タッパーの容器を造り出し、中身を拾ってかなりの部分をしまう。

「どう?」


『......何かいつものと味も匂いも違います』

何とはなしに不満そうな心声の答えが返ってきた。

急いで作り出したペットフードに食材分析の術をかけるが、特に毒は無い。

とは言え、何か足りてないんでしょうねぇ。さっきのノートパッドと同じで完璧に思ったものが造れるわけではないようだ。


ううむ。

いくら寿命を私と同じにしてもらったとは言っても、愛猫にはちゃんと栄養分とかもしっかりした現代の科学に基づいた総合栄養食をあげたい。

研究すれば自分で造ることも可能なんだろうけど、元データがないと再現も難しそうなんだよね。


......ここは試しに、家に買い置きしてあったペットフードを召喚出来ないか、試してみようか?

好きなものを召喚できるかどうか分かっている方がこれからの行動もはっきり決めやすいし。


まずは召喚したい対象物がはっきり見えている方がいいわよね。

ここに来る前に出ていた『鏡を使って他の場所を覗き見る術』で異世界(というか私にとっては元の世界なんだけどさ)を視れるか。これが試金石といったところだ。


さっき作った金塊を取り出し、一部を鏡に変える。

『召喚』の術はあまり沢山無いのでこれは選ぶのに迷わないで住みそうだ。


そして肝心の遠視の術を呼び出し、詳細条件として『地球、日本、東京都XX区XX4-5 テラスコート402号室』と設定してみた。

住所が魔法に関係あるのかどうか微妙だけど、詳細があればある程精度が上がりそうな気がする。どうなんだろ、実際のところ?

こういうのも実験しておきたいところだわね。

一応『魔術の研究者』という形で自分を売り込む予定だからあまりそんな基本的であろうことを堂々と実験できないところが痛いけど。


実行。

ぐ~~~っと何かが私から引っ張り出されるような感じがした。

今までにない、魔力の消費だ。


息が詰まるような一瞬の後、鏡に私の部屋が映った。

特に接続にエネルギーがかかるみたい。繋がってからの消費はそれ程でもないかな?


鏡の中の風景は、まるで部屋立って私が壁にかけてある鏡を覗き込んで後ろの光景を見ているようだ。

凄い。

幸い、部屋には誰も居ないようだ。

今って向こうの世界ではどのくらいの時間が経過しているんだろ?

まだ家族が病院に呼び出す連絡を受けている程度?

死んだと聞いて呆然としているところ?

葬式の準備中?

葬式の最中?

それとももっとずっと後?


実家を除き見れば少しは見当が付くのかもしれないけど、とりあえずは目的の物をこっちへ持ってこないと。


幸い(?)つい先週にネットでオーダーしたドライフードの箱がそのまま放置してあるからあれをそのまま持ってこれればそれでいい。


鏡の中の視点をキッチンの棚の下へ移動。

そこに置いてある箱をじっくりと見てから『召喚』の術を呼び出す。

対象:遠視の術で見ているペットフードの箱。

実行。


「うわ!」

一瞬、体が引っ張られるような感覚とともに魔力が引きずり出された。

これって魔力が足りなかったらどうなるんだろ?

もしかして世界の狭間に引きずり込まれたり?

......あまり大きな物は不用意に召喚しようとしない方が良さそうだ。


ぱん。

数拍後に、目の前に箱が現れた。

一瞬、空圧が上がって耳の鼓膜が圧迫されたような感触があった。

うう~ん、これって召喚とか収納から出し入れするときに同じだけの容量の空気を交換させるよう条件付けできないか試した方が良さそうだな。


とりあえず。

袋を一つ開けて床に少し出す。

「待って、一応変質していないか確認するから」

さっと近づいたダールに制止をかけ、慌てて食材分析の術を再びかけてみる。

うん、有害物質はないみたい。

出てきた内容がパッケージに書いてある成分とほぼ一致していたのはある意味感激だった。


「どうぞ、大丈夫みたい」

『ども~』

ガツガツガツ。

大分お腹がすいていたのか、かなりがっついた感じで一心にダールがドライフードを食べ始めた。


おっと、飲み物も出さないと。

猫はちゃんと水分を取らないと腎臓を傷めやすいって言うし。


しばし周りを見回してから、自分に出されていた軽食のスープを飲んでその器を使うことにした。

自分のグロイ死体を見た後で全然食欲なんて無いんだけど、やはり食べなきゃ体力が下がるだろうし。


『清掃』の術を適当に呼び出して深皿を綺麗にしてから水入れに入っていた水を移し、分析をして毒が無いことを確認した後ダールに出す。

「ちゃんとお水も飲んでね」


『トイレがないけど?』

うっ。


買ったばかりの餌はまだしも、トイレがなかったら親に怪しまれると思うんだが。

でも、考えてみたらダール本人(と言うか猫)がいないんだから、ダールが死んじゃったんでトイレを処分したとでも思うかな?

私が愛猫を溺愛していることを知っているから死んだことを回りに言っていないとは考えにくいと思うけど。でもまあ、ウチは新年にしか集まらないから、10月の今だったら言っていなかったとしてもありえないことじゃあないわよね。

だとしたら今朝(というか死んだ日の朝)に出した餌と水の容器をこっちに持ってきた方がいいか。


とりあえず、キッチンにおきっぱなしにしていた今朝と昨晩(多分)の食器が洗わずにおきっぱなしになっていたから例え時間の流れがこちらより先だとしても、使った食器を母が片付けていないということは、まだ家の中に来ていない可能性が高いよね。

この際、魔力が持ちそうだったら色々持ってきてしまおう。


鏡の前に戻り、猫のトイレへ視点を移す。

召喚対象:遠視中のトイレ。

詳細条件:同じ容量の空気をこちらから向こうへ移す

実行。


さっきよりは心なし少なめの感覚の後、猫のトイレが目の前に現れる。

空気の入れ替えがうまくいったのか、今回は音も空圧の変化もなかった。


猫の餌と水の容器も召喚。


まだもう少し出来そうだ。

としたら何を持ってきておくべきか。

百科事典とかが家にあったら一番いいんだけどねぇ。


実家に本棚一個分ぐらいのがあったがあれを勝手に盗んで行く訳にもいかないだろう。

中世・近代の工業改革とか農業改革の本とかも役に立ちそうだけど、当然そんな本も持って無い。

広辞苑すらないってちょっと社会人としてダメダメかね?

最近は何でもネットで調べられるから時点を買う必要なんて無かったんだよね。


子供が居る家庭の方がそういった本ってあるんだろうなぁ。

まあ、子供を残すなんて状況だったらこうもあっさり異世界での生活に折り合いを付けられないと思うけど。


家にある本と言ったら趣味のSFやファンタジー物の本と会計関係の本ばかり。

会計士なんて異世界に行くことを考えると殆ど役に立たない職業という気がする。

どうせなら理工系の研究職についておけばよかった。

大学に入る前にそれなりに理系にも興味があったから進路に関して真剣に悩んだんだよね。

理系だと仕事が教職か研究職しかないかな?と思って経済学部に行ったんだけど、こうなると分かっていたらそれこそ思い切って博士号ぐらいまで何か物理の分野で研究したのになぁ。


じゃなきゃ、歴史も好きだったから中世後半のイギリスの歴史とかの研究でも良かったな。ヘンリー7世からエリザベス1世、ウィリアム2世とかの時代。

大学で英国史をやって凄く面白かったんだよねぇ。

まあ、産業革命は確かそれよりも後のヴィクトリアの治世だったから趣味に走っていたら今の状況にあまり役に立っていなかったけど。


ま、そんなことを愚痴っていてもしょうがない。

昔の教科書すら捨ててしまっているのが現状。

一応、もしかしたらこちらの法体系へのアドバイスに役に立つかもしれないからイギリスの法律関係の授業のノートと、一応会計士の試験のまとめも持って来ておくか。


あとは......へそくりのお金も。

役に立ちそうな農業・工業革命の本が家に無いから後でどっかの本屋から貰わなきゃならない。料金の代わりにお金を置いておきたい。

とはいっても、1万円札分の本を一気に持ってくるかどうか分からないけど。

ま、私なりに本屋に前払い金を払ったってことにして持っていけばいいよね。


資料とへそくりの現金を移したが、最初のドライフードの箱ほどは魔力を使わなかった。

まあ、段ボール箱一杯のドライフードって実は持ち上げるのに苦労するほど重かったものね。

一番最初にあんなに重い物を持ってこようとしたのは危険だったかもしれない。


後は時計と計算機が欲しいかな。PCは......電源が難しそうだから諦めよう。

使ってないノートも確か引き出しに入っていたからあれも持ってこよう。もしかしたら手元に現物があったら魔法で作る時にもっと精度を高く出来るかもしれないし。

買ってきたまま食卓の上に放置していた単4電池もついでに。


あとは使い捨てコンタクトの替えを......と考えてみて、視力が良くなっている事に気づいた。

かなりの近視だったのに全く回りを見るのに問題が無く、コンタクトを装着している感覚も無い。

「あら、アブダったら気が利いているじゃない」

これはやばいところだった。コンタクトなんて絶対この世界には無いだろうし、眼鏡の精度もイマイチ信用できないから元の視力だったらかなり不便だっただろう。


この際、スキンケア商品と化粧道具も持ってきておくか。

こっちにも色々あるんだろうけど、そういうのも見つけるまでの繋ぎとして何か必要だし。

あと下着類も持って着ておこう。中世ヨーロッパってパンツなしで上はコルセットで絞めまくっていたらしいからね。どっちも遠慮したい。


食材として醤油と味噌と昆布も召喚。


ここら辺で頭痛がかなり酷くなってきたので止める事にした。

魔力は感覚的にまだありそうな気がするのだが、どうも慣れない能力を使うことに体の方が根を上げたっぽい。


慣れたらもっと色々持ってこれるのだろうか。

物事が落ち着いたら何を持ってくれば一番効率的かつ有用なのか、考えてみないと。


しっかし!!!

つくづく前準備出来ていなかったことが悔しい。

こうなるって分かっていたら大量にインスタントラーメンとか調味料とか利用できそうな本とかを買い集めておいたのに!!!


まあ、そんな風に前もって分かっていたら『不幸な事故』とは言わないんだろうけど。

不幸な事故で無ければ勝手に人を他の世界へ、ありえない位有利な条件で転生させるなんてことも許されないだろうから、無いことねだりをしてもしょうがない。


幸い愛猫とは分かれずに済んだんだから、それで良しとしよう。

両親のことは......陰ながら時々鏡で見守って行くしかないな。こちらから魔法の効果をあちらへ届かせることが出来るなら呆けないように術を掛けたり出来るかもしれないけど。


まだそれには何十年か猶予があるだろうから、これも長期的なプロジェクトとしてメモっておこっと。


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