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057 異世界版遠距離通信

「おや、今日はいるんだね」

扉からアフィーヤの声がした。


ふりかえると、やはり開発担当長老が扉の所に立っていた。


「もう、冷蔵庫の改善は私の手は殆ど必要ないですからね。毎日出歩く必要は無いでしょう」


で? 

何の用?


流石にそう口には出せないものの、それなりにリモート掲示板を創る工夫をしているところだったので邪魔されたくない。

なので首と肩だけ扉に向けて答えた。


「空飛ぶ絨毯の複製が上手い感じに出来たんでね。一応知らせておこうと思って。

あんたは何をやっているんだい?」


「王宮のカルダール氏との連絡が中々面倒なので、あちらと私のところで文面を共有できるような掲示板を創ろうかと思って」


空とぶ絨毯が複製出来たか。

まあ、構造は比較的単純だったからね。

そのうち王都の空は飛び交う魔術師で交通事故が起きるようになったりして。(笑)


「掲示板??」

私の体勢のヒントを無視して、アフィーヤが部屋に入り込んできた。

ちっ。


しょうがないので、試作品第一号を見せた。


「こんな感じに、二つの共鳴させた石板に片側で文字を書きこんだらもう片割れにもそれが浮かび上がるようにしたいんです」

チョークを手に取って『テスト』と書き込む。


もう一方の石板に『テスト』という文字が浮かび上がる。


出来れば、直接書き込んだのと、浮かび上がってくるのと違う色にしたいな。その方が読みやすいだろう。まあ、違う色のチョークを使えばいいか。

基本的に書いた対象がそのまま表れるんだから。


「遠隔に文字を書く術があったので、それを利用しようと思いまして。対象を絞るコントロールを不要にする為に最初から石板2つを常時共鳴状態にしておこうと思っています」


「ああ、あの落書きの術ね」

アフィーヤの言葉に、思わず『ぶっ』と吹き出してしまった。


そうか、この術って落書きに使われるのがメインの目的だったのか。

一体何の為に創られた術なのかなぁとは思っていたんだけど。


「魔術師が、魔術を使って落書きなんぞするんですか??」


「流石に大人になったらあまりやらんだろうが、見習いの間では根強く人気のある術だよ。

まあ、元々は魔族が現れる前の時代に、宣戦布告に使う為に創られたらしいが」


ははは。

お互いの家の壁に魔術で落書きをしあう見習いたち。

笑えるねぇ。


でも、これって書いたのと同じサイズになるから、結局自分の家(か部屋)の壁にも同じサイズの落書きをしなければならないっていうのはそれなりに致命的なんじゃないかという気がする。

主に親に落とされる雷という視点から。


しかし、もう一方の宣戦布告用というのは大分と血生臭い理由だ。

確かに、態々殺されると分かっている使者を出す必要はない。その為に色々工夫した結果なんだろう。

落書き用と考えるよりは、術の開発に労力を込めた理由が理解できる。


ま、それはともかく。


アフィーヤが試作品を手に取ってしげしげと眺めた。

「常時共鳴にすることで、ターゲットに共鳴させる手間が省ける訳か。面白いね。使えるのかい?」


小さくため息が零れた。

「残念ながら。魔力を込めないと、有効範囲が非常に限られるんです。

魔術師同士で魔力を込めて書く分には2キロ程ひとっ飛びしてきて実験しても全く問題なかったんですけど、普通の人に手伝ってもらって実験したらなんと道の向こう側からでも失敗しました」


アフィーヤが肩を竦める。

「魔石を石灰と混ぜてチョークを創ればいいだろ?」


「......魔石って砕いていいんですか?!」

魔石を使うと云うアイディアは思いついたのだが、何と言ってもチョークはあっという間に使い切る消耗品だ。

何とかして石板に魔力を余分に供給することで普通のチョークで書いたものを伝達させようと悪戦苦闘していたのだが......魔石を混ぜ込んだチョークを創ると言うのは思い浮かばなかった。


魔石を砕いたら魔力が抜けちゃいそうな気がしたんだよね。


「魔力は砂や空気にだって込められるんだ。砕いた程度じゃあ変わらんよ」


そうなんですかぁ。

砂や空気にも込められると言うのは知らなかった。

まあ、空気に込めても直ぐ風に飛ばされて拡散しちゃうんだろうけど。


「何とかなるかもしれませんね。ありがとうございました!」


「礼には王宮とここまでの距離で機能する物が出来たら、一つ提供してくれ」

にやりとアフィーヤが笑った。

「王宮魔術師が、魔術院との連絡役に一々呼び出されるのが煩わしいと文句をいつも言っているんでね」


あ~そうでっか。

特許制度っていつ実施されるんだろ?


一々開発の特許権に目くじら立てるつもりはないが、私のアイディアが便利に使われちゃうのも何か面白くないなぁ。


◆◆◆



「どうぞ」

あの後色々試して出来あがった掲示板をカルダールに渡した。


石板は重かったので結局ホワイトボード・モドキな物にした。

サイズはA4の紙2枚分ぐらいだけど。


開き直って魔術で創ってしまったので、見た目は会社で時々使っていたホワイトボード。

アフィーヤには変な顔をされた。

ホワイトボードって一体どういう構造になっているんだろ?

鉄板にプラスチックか何かのコーティングでもしているのだろうか。

この国では見たことの無い代物であるのは確実だが......別に態々こちらに違和感が無い物を造ることにエネルギーを費やさなくてもいいだろうと開き直ることにした。


ということで、チョークの代わりにマジックマーカーもどきなペンも創った。

インクに魔力を染み込ませたので、魔術師じゃない人間が使ってもちゃんと機能する。


術そのものが下書きをしてから、最終結果を向こうに送りつけるという仕組みになっていたので、ボードの右端に小さなボタンを付けた。

これを押したらこちらの書いた文字が向こうのボードに同調されて現れる。


考えてみたら、書き損じとかも現れちゃったら恥ずかしいもんね。

本当だったらメールみたいに文字をタイプ出来るキーボードも欲しいんだけど、あまりにも話が複雑になるので諦めた。

気が早いせいか、私の文字ってついつい書きなぐった様に見苦しい物になってしまうんだよねぇ。

まあ、しょうがない


構造としては、魔力を込めて術を行う代わりにボードに魔法陣と魔石を付け、文字の方の魔力はマーカーのインクに染み込ませた魔力が補給。右上のボタンを押すと魔石から魔法陣へ魔力が流されて、2つのボードが同調されてデータが共有される。

ある意味、PCとiPad上の情報が共有される、iTunesの同調と同じだね。


死ぬちょっと前にiPadを買っていたのも、悔しいなぁ。

あれはどう考えてもこの世界では活用できない。

......いや、こちらに持ってきてダールの写真のスライドショーをするのはありかも?


両親とコンタクトを取るのに成功したら、iPadを捨てないよう、頼んでおこう。

魔術で発電できる方法が確立したら、あれを持ってきて音楽や写真を楽しむのも悪くない。



「なんですか、これ?」

掲示板のボードを手に取り、カルダールが尋ねてきた。


「お互いに簡単に連絡を取れるよう、創ってみました。

このペンでこのボードに書き込みをすると、同じ文字がもう片方のボードにも現れるようになっています。

私の都合を聞きたい時もここに書き込んでくれればすぐに返事が出来ると言う訳です。

私からカルダール殿の予定を尋ねたい時も同じく、こちらのボードに文字が現れるので、どこか定期的に目に入る場所にこれを置いて下さい」


マーカーで私の持っていたボードに『テスト』と書き込む。


「これは凄い!」

目の前にあったカルダールのボードに『テスト』という文字が浮き上がったのを見て、驚きの声が上がった。


「どうした?」

突然、隣の部屋から宰相が出てきた。


おや。

珍しく今日はあちらにいたんだ。

最近忙しいみたいで留守がちだと聞いたんだけど。


「見て下さい、これ。遠距離の連絡が取れます!」


カルダールがボードに『明日の午後、来てもらえますか?』と書き込んだ。


同じ文字が浮かび上がった私のボードを宰相に見せたら、取り上げられた。

おい。


「面白いな。魔術師が文字を遠距離で書く術があると言うのは読んだことがあったが、普通の人間にも使える魔具か」


「魔術で行う場合は、魔術師が遠視出来る場所であればどこにでも書き込めますが、これは魔具なのでこの2枚のボード間でしか機能しないですけどね」

だから宰相さんに渡しても、あんまり役に立ちませんよ~。

どうせあなたが連絡取る必要がある人間の数は多すぎますでしょ?


「連絡が来たかどうかは、どうしたら分かる?」


「文字が浮かび上がるので、見れば分かりますよ」

本当は、呼び出し音みたいのを付けようかと思ったのだが、考えてみたらどうせ異次元収納に入れていたら呼び出し音が鳴ったって聞こえないことに変わりは無い。

だから定期的にとりだしてちらっと確認するぐらいの方が良いだろう。


異世界にまで来て、電話やメールの呼び出し音に急かされる生活はしたくないし。


宰相としては私の答えが不満だったらしい。

本棚の本みたいに大量にボードを創らせて立てかけておこうとでも思ったのかな?

それじゃあ、文字が見えないから呼び出し音が無ければ連絡が来ても分からないよね。

まあ、機密性が無い情報に使うんだったらボード見張り担当をつくれば良いと思うけど。


「とりあえず、アフィーヤ長老にも1組渡しましたので、もしかしたら魔術院から宰相の方へも一つ献上されるかもしれませんね。王宮魔術師が連絡係に使われるのに色々不都合が生じていたらしいので」


宰相に物を渡す場合って『献上』って云うんだろうか?

何かの見返りを期待して賄賂代わりに渡すのではなく、単に便利だから『ウチの人間を無駄にこき使わないどくれ』ということで渡されるのってあまり『献上』という言葉が合っていない気がするが。


しかし、宰相の場合は色々な場所の貴族や軍人がその地方の魔術師を使って宰相と連絡を取っている訳だからなぁ。

1組ではとても足りないだろう。

第一、王都の端から端までの距離だったら有効範囲内であるのは確認したが、地方と王都を繋げる程の距離でちゃんと機能するかは知らんぞ。


う~ん。

しかし考えてみると、距離の問題さえ解決出来れば、これは政府よりも商人とかのほうが需要が高そうだな。

大きな商家だったら、各地や外国の支店との間で物価や景気、収穫の様子をリアルタイムで収集出来るだけでかなり商売に有利になるだろう。


何枚か、セット販売したらいいかも。(笑)


この際、幾つか大きな商家に売りつけて、顔を繋ぐのに利用してもいいかもしれない。


砂糖とかカカオとか乳製品とか、色々もっと大量に安く流通して欲しい物があるからね。


考えてみたら、商家だけでなく農協の方も使い道があるかなぁ?

結局流通させるのは商人だけど、砂糖も乳製品も、作るのは農家だ。


今晩帰ったら、ジュナイドに聞いてみよう。

(ちなみに、ジュナイド氏は下宿仲間の農協職員)


これから10日ほど、更新が不定期になります。

書き溜めする予定だったんですが、想定通りにいかず・・・。(汗)

すいません。

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