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051 開業準備?

主人公視点に戻ります。

「......暗いですね」

「ですね」


クジンが作ってくれた冷却ディスプレーの模型を見て、思わず深いため息が零れてしまった。


日本で見かけたコージーコーナーとかのディスプレーってどんな構造だったか良く覚えていなかったのだが......。

どうやら、あれって中に光源があったのね。

段ごとに蛍光灯が付いていたのか、じゃなきゃ段そのものがガラスで後ろのドアがミラー、上に蛍光灯だったのかも。


とりあえず、あのくらいの高さでそれなりに収納力のあるサイズの冷却ディスプレーの棚を試作してもらったら、中が暗過ぎて話にならない。


一番前の商品しか見えないじゃん。

コンビニスタイルの、奥行きのかなり浅いディスプレーにでもしない限り使えないか?

でもそれじゃあ、あまり数が入らないから冷蔵庫と冷却ディスプレーと両方が必要になって経済的負担が高まる。


「上部と段もガラスで作れませんか?」

金属の方が頑丈だし安全だが、それでは商品を『見せる(ディスプレイする)』という存在意義を果たせないのなら、妥協も必要かもしれない。


が。クジンが首を横に振った。

「高価になり過ぎます。中の物が奇麗に見えるだけの品質のガラスをそれだけ使おうと思ったら、それこそ魔術師が創る魔具マジックアイテム並みの値段になりかねません」


おっとぉ。

かといって、お手軽な値段の明るくて熱くない蛍光灯なんて無いもんねぇ、この世界。


生前(笑)、旅行でイギリスに行った際にホテルや個人宅の暗さに驚いたことがある。

『暗い』と言うと印象が悪くなるか。スポットライト的なランプやスタンドを使うことで部屋に『休む為』に適した落ち着いた感じな雰囲気を灯りをもたらしていた、と言うべきかな。


日本において、電気の灯りって多分戦後の経済成長期に全体的に普及したのではないだろうか?

だから『明るい』=『豊かさ』の象徴となり、オフィスだけでなく個人宅までもが煌々と照らされることになったと私は勝手に想像している。


明治以後は知らないが、江戸時代の特権階級だった武士は米高という固定収入だったから、江戸時代のインフレ(多分あったんだろう)の中で相対的に貧しくなったと思う。見栄と美徳が組み合わさって、堅実さと清貧さを推奨するような社会だったように思われるから、煌々と光を灯すのは良しとしなかったような印象がある。


それに対し、西洋社会では植民地とかからの利益で贅沢をやり放題だった『豊かさ』が電気よりもずっと前からあった。

その際の照明は最初は蝋燭を使ったシャンデリア、そのうちランタンやガス灯、最後に電気による電球になったのだろう。

だから元々常識的な明るさって言うのはその程度のレベルだったから、夜でも昼間と同じぐらいの明るさを求めることが『良いこと』と考える社会には成らなかったんだと思う。


まあ、それはどうでもいいことだし、全部私の勝手な想像なんだけどさ。

問題は、こちらの世界はまだ一般的な照明が蝋燭であることなんだよね。

上流社会ならば魔術を使った魔具の照明も有る。が、そんな物は当然街中のレストランやケーキ屋さんに気軽に買えるレベルの値段ではない。


しかしどう考えても、冷却ディスプレーの中で蝋燭を燃やすのは無理があるだろう。

変な匂いが付きそうだし、温度が上がってしまうし。


ミズバン一人の為だったら私が魔具マジックアイテムの内部照明を提供してもいいけど、開発したいのは一般的に売ることが出来る冷却ディスプレーだ。

私が個人的に何かを提供しなければ機能しない物では、ダメなのだ。

かといって、照明系の魔具マジックアイテムはそこそこの数を魔術師が創って高値で売っているみたいだから、まだ安価版を大量に売り出すのには時期尚早だろう。


「うう~ん......。

駄目ですか。冷蔵庫に仕舞ったままではいつまでたっても売り上げを増やすことが出来ないし、かといって外に出しっぱなしだったら直ぐに悪くなっちゃうし。

あちこちに差し入れでばら撒いて、口コミ効果を狙うと言うのもあまり効率的じゃあないですよねぇ」

思わずため息が出てしまった。


冷蔵庫その物をガラスで作れればいいのになぁ。


......というか、冷蔵庫をディスプレーに利用できないかな?

この際、売り物全部を見せなくてもいいや。

日本の店でデザートメニューを見せてくれと云うと、売りに出ているスイーツ類が全部のっているトレーを持ってきて説明しながら見せてくれるところが時々ある。

あれって席で物をじっくり見れる上に店員さんに具体的に質問してからオーダー出来るから、中々良かった。


冷蔵庫を店の入り口近辺において、上をガラス張りにしてそこにこのサンプルを収めたトレーを2個ぐらい置いておいて、店に入ってきた人の目に入るようにするって言うのも有りだよね?

魔法陣からの冷気は冷蔵庫の中へ大部分が流れるものの、上の金属板も有る程度は冷やすからガラスの下に見える部分もそこそこ冷やされるはず。


この間見せてもらったクジン達の試作品って縦長系の物が多かったけど、ちょっと横長な形にしても極端に問題は無いと思いたい。



◆◆◆



「隣の店舗が空くことになったらしい。金を貸してくれ」


クジンと冷却ディスプレー(と云うか結局『ディスプレーも出来る冷蔵庫』になりそうだけど)の話が終わり、他へばら撒く差し入れを入手する為にミズバンの店へ戻ったら、顔を見た途端に金の無心をされた。


おい。

説明もなしに金を無心しないでくれ。


「隣の店が空くのとあんたに金を貸すのと、どういう因果関係があるのよ?」


そう答えた私に、ミズバンがカウンターの上に出してあったシュークリームを私に差し出した。

「食ってみろ」


普段は私がシュークリームをパクパク食べていると微妙に不満げな顔をしているのに、食べるように勧めてくるとは珍しい。

変な悪戯なんぞしていないだろうねぇ。

まあ、自動防御系の術は全部常時展開しているから例え毒が入っていても大丈夫だけどさ。

ただ、『害』はない滅茶苦茶酸っぱいとか苦いとか辛いと言ったような悪戯系に防御の術は効かないから、ある意味ダメージは受けるが。


で。

食べてみた結論。


あまり美味しく無かった。

ぬるくなっていて味がぼやけた感じだったし、クリームが溶けかけていてちょっとべちゃっとなっていた。


「......どうせなら、ぬるくなる前のが欲しかったな」


ミズバンが大きく頷く。

「美味しくないだろう。

お前さんが俺に開発させた冷菓子は、どれも冷たくないとあまり美味しくない。

だから今のこの店の状態で売り出しても、持ち帰りがメインだとかえって店の評判が落ちかねない」


ミズバンの店にも座ってその場でお茶を飲みながら食べるコーナーはあるが、あまり場所が大きくない。

カップルが2組座る程度しかスペースが無く、だからミズバンもウエイトレスを雇わずに自分が色々な業務をやる間にお茶を淹れたり皿を洗ったりしていたのだ。


だが。

日本だったら持ち運びの時間を聞いて保冷剤を付けて売るから問題ないが、確かに持ち帰りメインで売り出して家に帰ってぬるいシュークリームやケーキを食べてもあまり美味しくない。


冷凍庫の売り出しはまだまだ先だから、保冷剤を付けて売り出すと言うのも無理だ。


保冷剤なしでも、腐って食中毒を起こす前にクリームが溶けちゃって食べられない状態になるだろうと思って、あまり保冷のことを考えていなかった。だが、食中毒を起こさなくっても焼き菓子よりも割高なのに美味しくなかったら店の評判を落としかねないね、確かに。


「隣の店舗も借りて店内で食べるのをメインにするの?」


「ああ。知り合いに、喫茶店をやっているのがいるんだが、そこで働いていたそいつの妹が独立したいと言っているらしい。共同経営みたいな感じでそいつに任せようと思ったんだが、初期資金が足りん」


金の無心をしている癖に堂々と強気な態度で言ってくるミズバン。

ちょっとさぁ。

卑屈になれとは言わないけど、金を借りる側にしては少し態度が大きくない?


前世では、友人どころか家族にも金は絶対に貸さなかった私に金を借りようとしてるくせに。


まあ、今回の人生では金を創れるなんていう反則技が使えるし、空飛ぶ絨毯をアフィーヤに売ったら大金が手に入るからそれで何とかなるだろうけど。


「まあ、確かに美味しいスイーツの普及の為に資金提供も吝かではないけどねぇ。

その友達の妹さんにまず会わせて頂戴。ビジネスプランの詳細も聞きたいし、その人のお茶を淹れる腕前も知りたいし。

あと、幾ら必要なのよ?」

喫茶店のノウハウなんぞ無いが、少なくとも何にどの位お金が必要なのか、営業見通しがどんな感じなのか位は聞いておきたい。第一、素人の視点から突っ込みを入れられても答えられるぐらいの知識があることは確認したい。


「隣との壁を壊して少しリフォームしなくちゃならないし、金貨1枚ぐらいかもしれない」


100万円かぁ。

ミズバンの店は、二階建ての戸建てが横にずっと繋がったようなタウンハウス式建物の一部だ。だから隣の店舗との間には壁一枚しかない。

有る程度の壁をぶち抜いても構造的には大丈夫なのだろう。同じ通りで2軒分のフロアで営業している店もあったし。

そう云ったリフォームやテーブル・椅子や食器なんかを揃えるのに加え、利益が出るまでの初期費用として、100万円相当で足りるのかな?


日本でだとしてもそう言った開業費用なんぞ分からないんだから、こっちの世界のことなんてますます分からない。


ま、とりあえずこの友達の妹やらから詳しく話を聞こう。

ミズバンじゃあ丼勘定過ぎて当てに出来ないから、この娘さんがもう少しビジネス向きな人間であることを期待したいところだなぁ。


保冷剤が無いところで冷菓子の持ち帰りはヤバいのでは・・・というご指摘があったので喫茶店方式へちょっと方向転換。


ディスプレーも難しそうだったので冷蔵庫を少し変形させることにしました。



ちなみに、『開業準備』と言っても主人公は直接経営には携わりません。でも面白そうだからちょっと首を突っ込ませてみようかな?なんて。

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