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049 周辺の人々(3)

>>> side アフィーヤ

「......と云う訳で、是非創って頂きたいとの陛下のお言葉です」

王宮から来た文官が強い調子で言った。


なにやら、フジノが空を飛ぶ絨毯の形をした魔具マジックアイテムを王宮で披露し、陛下を魅了したらしい。

だったら責任持って陛下に魔具マジックアイテムを進呈すりゃあ良いのに、『魔術が無い人間がコントロールできる魔具マジックアイテムの創り方を知らない』と返したらしく、こちらに話が回ってきた。


絨毯で空を飛ぶ......か。

一体どういう構造になっているんだ??

今までにも、伝説の幻馬ペガサスを再現しようと馬に色々術を掛けた魔術師や、馬車を魔術で飛ばそうとした人間はいた。飛翔の術は常に人気のある術でもある。


だが。

絨毯で飛ぶと言うのは新しいな。

面白いかもしれないが......あいつ並みの魔力が無ければ飛ばせないんだったら、あまり使い勝手は良く無い。


「魔術師フジノと構造などについて相談して誰か開発にあたらせるが、成功すると約束はできんぞ」


「勿論、開発に絶対は無いということは陛下もご存知です。ですが......非常に高い熱意を持って待っておられますので、よろしくお願いします」


こいつも買いたいんじゃないか?と思わせるような熱意を見せた文官は、暫く粘っていたがお茶と茶菓子を片っぱしから平らげたあと、やっと帰って行った。



◆◆◆




「空飛ぶ絨毯を王宮で披露したんだって?」

受付に、フジノが現れたら直ぐに私の元へ来るように伝えておいたら、意外と直ぐに現れた。

暫く冷蔵庫の開発に職人と掛かりきりになるかもしれないと言っていたから魔術院に数日は来ないかと思っていたのだが、嬉しい驚きだ。


「ありゃあ......」

微妙に気まずげな表情が返ってきた。


こいつ、陛下からの要求を予想していたな?


「馬に乗るのは苦手なんですよ。一々馬車をレンタルするよりも自力で空を飛ぶ方が便利だったんで。

王宮の門から建物までを飛んでもいいかと確認しようと思ってカルダール副宰相に見せたら乗せてくれって言われて、乗せたら......」


「国王陛下まで乗せる羽目になったと」


「ええ。昨日は陛下を乗せてちょっと空の散歩をした後......物凄く、強烈に、『自分用にも空飛ぶ絨毯を創ってくれ』と陛下に『お願い』されまして。

『魔力を持たない人間に操作できるような魔具の創り方が分からない』とお答えたのですが、こちらに来ましたか」


そのくらい、想像しておけ。

陛下は自分が好きなことには非常にアクションが早いんだ。


「で? 本当に創れないのか、それとも面倒だっただけかい?」


フジノが心外だという顔をした。

「人間いつでも100%馬鹿正直である必要があるとは思っていませんが、私は嘘はつきませんよ? 

魔術が無い人が、魔力をコントロールする必要がある魔具マジックアイテムをどうやったら使えるのか分からないのは、本当です。

ただ、例え製作そのものが可能だとしても、魔術師じゃない人に使わせる用の魔具マジックアイテムを創るのはあんまりお勧めじゃないと思いますよ」


「何でだい?」


「あれってそれなりに魔力を喰うんです。人が歩く程度の速度で地面の直ぐ上を移動すると云うのでなく、それなりの高さを高速で飛ぼうとしたら、リアルタイムに魔術師が魔力を供給しているのでない限りかなり短期間で蓄えておいた魔力は枯渇します。

そんでもって昨日も陛下や副宰相を乗せている時に頼まれたんですけど、空を飛びたがる人間って高いところを飛びたがるんですよね~。

馬車の高さぐらいで飛ぶならまだしも、彼らが飛びたがった高さで飛んでいる時に魔力が切れたら、乗っている人は死んでしまいます」


確かに、魔術院が創った魔具マジックアイテムで陛下が大怪我などしたら、大問題だ。

「魔術師が使うには、その空飛ぶ絨毯って言うのはそれなりに使い勝手がいいのかい?

現存している飛空用魔具っていうのはあまり効率的じゃない物ばかりなんだが」


いざとなったら、開発に時間を掛けて掛けまくり、陛下が焦れてきたら『魔術師の運転が必要な魔具マジックアイテム』としてこの空飛ぶ絨毯を提供するのもありかもしれない。

フジノ以外の魔術師でも普通に飛ばせるなら、だが。


魔石を使った魔具の話がいっているというのも、自立式な自分で好きに使える空飛ぶ絨毯が創れないかと陛下は言っている理由の一つのだろうが......それこそ、大量に魔石を使うような魔具を貴族や王族用に開発してしまっては、今回の一連のプロジェクトが台無しになってしまう。


『一般市民により近い魔術院』をアピールしたいのに、空を飛ぶなんていう上流階級のレジャーの為に我々の魔力が全部使われてしまっては、かえって反感を買いかねない。


「私が創ったあれは、色々考えなくても簡単に飛ばせるように、魔力を流し込めば魔術が展開する形に魔法陣を組み込んだだけなんです。街中とか王宮の周りを動き回る程度ならそれ程までには魔力を使わないので、同じような感じの物を創って、新米魔術師とか空を飛ぶのが好きな魔術師がお金を貰って人を飛ばすサービスみたいな感じにしてはどうでしょう?」

なるほど。

陛下だけでなく、魔術院のサービスとして大々的に提供すると云うのも手だな。

陛下用の魔具マジックアイテムの開発にそれなりに『努力』してみせるまでは売り出さない方がいいだろうが。


魔術師の才能とは、単に『魔力を術として出現させることが出来る』と云うだけで、術を掛けたり魔具マジックアイテムを創る才能に全員が恵まれているとは限らない。

あまり才能がない魔術師は魔術院で事務の仕事をしたり、場合によっては魔術師として働いていないこともある。

近いうちに全ての魔術師が魔石を創ることでそれなりに収入が得られるようになるが、空を飛ばして金を貰うと云うのも悪く無いかもしれない。


「タダングやウサマンと相談してみよう。

で? あんたの冷蔵庫とやらはどんな感じだい?」

レジャー用のおもちゃよりもこちらの方が、魔術院にとっては重要だ。


「物自体の改善はもう少し色々ユーザーに使ってもらってから考えます。

売り上げ予測として色々聞いて回ったところ、レストランのシェフとかパティシエは無理をしてでも買いそうですね。

貴族階級や有力商人は......そのうち買うんじゃないですかね?

便利ですし。

普通の平民層にとってはやはり『ちょっとした便利』の為の贅沢品なので、それなりに余裕がある層じゃないと買えないと思うんで、全体の2割程度かな?と思っています。

ビジネス用を除いて王都だけで1万8千個ぐらい売れるかも知れません。

銀貨2枚でも3枚でもあまり違いが出ないのではないかと云う感触ですが、2枚でも魔術院にとってそれなりの収入になりますから、この際思い切って銀貨2枚でいきませんか?」


ポケットから取り出したメモを見ながら、フジノが報告してきた。

ここまで具体的な数字を積み上げてくるとは、恐れ入った。

実際に売りだしてこの通りになったら、これからの新商品の開発・企画にはこいつに是非とも参加してもらおう。


さて。

利益の最大化を狙うなら銀貨3枚でも現時点での売り上げ量は多分変わらないとのことだが、魔術院にとってこれはある意味PR活動用の一環。

利益は抑え目ぐらいの方がいい。


「銀貨3万6千枚か。もしも本当にその通りになれば、悪くないね。

一つあたり銀貨2枚なら反感を買わないだろうし」


「ですよね?」

何やら嬉しげにフジノが答える。

こいつは、一体何だって自分が利益を受け取る予定の商品を安く売りたがるんかね?

不思議なもんだ。


「ま、とりあえず長老会で話し合って最終的には決めよう。

それまでは開発にせいを出しておくれ」


「は~い」


「ああ、あんたのその空飛ぶ絨毯を置いていきな」

サンプルが無くちゃ、魔術師の飛行サービス用の魔具マジックアイテムだって創れん。


「これって私の移動用に創ったんですけど」

フジノが困った顔をする。


にやり。

思わず笑いが口元に浮かんでしまった。


この国の魔術師ならば、自分が創った魔具マジックアイテムを複製させろと言ったりしたら、激怒する。今後特許制度が施行されれば、本人が使用料を貰うことで開発した物を公開するかもしれないが、それでも空飛ぶ絨毯なんぞと云う面白い物だったら独り占めしたがる魔術師が多いだろう。


フジノがこちらの常識を学んじまう前に、色々アイディアを貰っちまおう。


「魔術院で幾つか創ってサービスとして魔術師ごと貸し出すにしても、物が必要だろ?」


「アイディア盗む気満々ですねぇ......。

まだ特許権の制度が完全に策定されていないからと言っても、酷いんじゃありません?」

流石にちょっと反論してくる。


「じゃあ制度が施行されていないが、特別このアイディアに対しては特許料を払おう。

制度そのものを制定したら一番にお前さんの空飛ぶ絨毯を登録するし、それまでも創った数を記録しておいて、それだけ分ちゃんと特許料を払うよ」


はぁ。

フジノが小さくため息をついた。

「あんまり空を飛ぶ人が増えると、飛行に制限を付けられそうで嫌なんですけどねぇ。

でもまあ、私だけ飛んでいて変に僻まれても困るし、しょうがないから今晩にでももう一つサンプルを創ってきます」


「頼んだよ」


ぐいっとフジノが手を出してきた。

「あ、絨毯下さい」


絨毯ねぇ。

擦り切れて廃棄処分待ちの物とか、超高級なラグとかならあるが、魔具マジックアイテムに使うのにちょうどいいような物なんぞここには置いてないぞ。


「それも代金に含めて、自分で買ってきてくれ。

とりあえず、そのサンプルは私用に金貨2枚で買い取ろう。

特許料は......一つ当たり、銀貨10枚としようか」

馬車の相場が金貨1枚程度だ。

空を飛ぶ魔具マジックアイテムともなれば、物が良ければ青天井だがとりあえず金貨2枚程度で手をうってもらおう。


「うわ~。

なんか実感がわかない金額ですねぇ。

まあいいや、近いうちに持ってきます」

何やら疲れたような顔をして、フジノが出ていった。


どうしたんだい、あれ?


ちなみに、主人公が最後にふらふら~と出ていったのは、たったの1日で製作出来る空飛ぶ絨毯に200万円貰えると言う事実にショックを受けたから。


生前(笑)にはそんな大金を見たことが無かったんですね~。

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