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045 商品開発(4)

「はい」

馬車から持ってきた冷蔵庫を机の上に置く。


クジンの所を出た後、待たせてあった馬車に乗ってミズバンの店『バルーダ』へ向かった。


道中では私の好きなスイーツの話になったので、シュークリームとかチョコレート・ババロアとか、ショートケーキとか、チョコ・タルトとか他もろもろのデザートの話をしたのだが......語りつくせる前に店についてしまった。


「これが幾らになるのか分からないが......現実的なコストで冷やして食材を保存できるとなれば牛乳を元にした生クリームやバター、チーズが一年中使えるようになるな」

じっくりと冷蔵庫を調べながらミズバンが呟く。


「スイーツの為だからね。私の欲しいデザートを作ってくれるなら生産が軌道に乗るまでは冷蔵庫と魔石は提供するよ。

流石に『バルーダ』だけにスイーツ業界を独占されちゃったら多様性が無くなっちゃうからそれなりに商品の告知が出来て数が売れるようになったら、他の店と同じように魔石と買い替えの冷蔵庫は自分で買ってもらうけど」


と云うか、デザート業界全体に暫く魔石を安く提供してもいいんだけど。

魔術院に、個人的に補助を付けた格安価格で魔石を提供してもいいか、聞いてみよう。


「凄い拘りだな」

薄く笑いながらミズバンが答える。

馬車の中で話している際に分かったのだが、このミズバン、パティシエなんてとっても繊細そうな職業の癖に口が悪い。

流石に魔術師相手(しかも試作品とは言え魔具マジックアイテムを無料で提供してくれる奇特な魔術師)にタメで話しては不味いと思ったのか固い丁寧語で話していたのだが、あまりにもぎここちないのでお互いタメで話そうと云うことにした。


鍛冶屋のルワイドなんて最初からぞんざいな言葉遣いだったしね。

ちょっと逝っちゃった系の職人バカはそう言うモノなのかもしれない。


「折角魔術師になったんだもの。好きな物に拘りまくるのも特権の一つでしょう」

経済性を超越しちゃって好きなことに集中できるって物凄い特権だよなぁ。

考えてみたら、一応領地の統治なんかもしなきゃ収入が減ってしまう貴族なんかよりもずっと美味しい職業だ。


「ま、お前さんの拘りのお陰で助かるんだから文句は言わんがな。

フジノが言っていた物はカカオに関係した何かを使う物と生クリームを使う物とがメインのようだったが......とりあえず素材が分かる生クリーム系の物からどんなのが欲しいのか、もう一度説明してくれ」


私としては、チョコレートの方が更に好きなんだけどなぁ。

まあ、シュークリームも捨てがたいからいいか。

「え~とね、シュークリームっていうのは丸くふくらまして焼いたシューの皮の中に生クリームやカスタードクリームを入れた物。外の軽いシューの歯触りに中にふにゃ~としたクリームの甘さと冷たさと柔らかさが堪らないのよね~。

ショートケーキは普通のケーキのスポンジを半分に切って中に生クリームを塗ってイチゴを挟んだ物を更に生クリームで外側全体も覆って上にイチゴを乗せただけかな?

スポンジの素材のしっとりとした柔らかさと生クリームの美味しさがポイントな気がする」


シュークリームは2、3日に一度、コンビニで買って食べていたからそれなりに詳細を憶えているが、考えてみたらショートケーキって何かの際にケーキを買う時にしか買わなかったからあまり詳細を憶えていないな。


考えてみたら、ショートケーキのスポンジって何で出来ているんだろ?

単に小麦粉を卵とミルクに混ぜて焼くだけなのだろうか??


ま、いざとなったらこの間食べたカカオパンからカカオを抜いてそれに生クリームを塗ってもそれなりに美味しいかもしれない。学生時代にイギリスへ旅行に行った時にスコーンに生クリームを塗って食べら凄く美味しかったから、適当に小麦粉を卵やミルクでこねて焼いた物に生クリームを付ければ美味しいんだろう。


「シューって何だ?」

......何でしょう?

シューって訳じゃあないよね??

意味を成さないし。

名前としてはあまり意味は無いんだろう、きっと。


シューの皮ってパイ生地に近い気はするけど微妙に違うと思う。焼き方次第なのか、原材料からして違うのか分からないけど。


ううむ。

ちゃんと現物が再生できるか分からないけど、魔術で創ってみるか。


「ちょっとそのパン使わせてね」

売り物として用意してあったらしき菓子パンを幾つか貰い、集中する。


まずは、良くコンビニで買っていた普通のシュークリームを創る。

外の皮はふにゃりと柔らかく、中にはカスタードと生クリームが入っている。


次に、ケーキ屋さんとかで買うと出てくる皮がもっとかっちり固い奴。


考えてみたら、この違いってどう出るんだろ?

どう考えても一個105円のコンビニシュークリームの方が安物なんだろうけど、皮が固く焼き上がる方がデフォルトな気がする。この二つの製造方法の違いって興味があるが......今更調べられない。

あ~あ、もっと色んな事に興味を持って詳細を調べておくんだった。

とは言ってもそれを憶えていられるたかはかなり怪しいが。


ま、どちらでも食べられればいいんだ。

とりあえず、見た目はこんな感じと示せればいいだろう。

味の方も再現できれば更にいいんだが。


まず、コンビニ・シュークリームを齧ってみる。

......良いんじゃないかな?

記憶にあるシュークリームと似たような感じだと思う。

やはり魔術って偉大だ。作り方を知らなくっても創れるんだから。

とは言っても、知らない物は創れないから、やはり新しいデザートとの出会いの為にはパティシエ達に支援をして色々工夫してもらわないとね。


「悪いけど、お茶貰える?」

甘い物は大好きだが、出来ればちょっと濃い目のお茶と一緒に食べる方が甘さが引き立って美味しい。


お茶を貰って軽くお口直しをした後に、ケーキ屋版シュークリームも食べてみる。

考えてみたら、コンビニので十分満足していたからあまり店で買うようなシュークリームって食べていない。現物を忠実に再現できたかどうか、分からないな。

でもまあ、外がパリッと固くて中は美味しいクリームが入っているから大体どんなものかは伝わるだろう。


「こちらのは近くの店で良く売っていたタイプ。こっちはもう少し高級店で売っていたタイプかな。

どっちでもいいけど、こんな感じのお菓子、作れる?」


ミズバンがコンビニ・シュークリームを半分に割って片側を食べた。

「ふむ。中々美味しいな。この皮は......パイ皮に少し工夫を加えれば何とかなるかな。

どうやったら柔らかく焼き上げられるか、分からんが」


「美味しく出来あがれば完全にこれと同じじゃなくってもいいから。多分私の世界の技術ではこの柔らかいタイプの方が安上がりに出来あがったみたいだけど、かっちり焼き上がっている方が作りやすいなら無理に柔らかくしなくていいよ」


しっかし、考えてみたら、シュークリームにせよショートケーキにせよ、商業ベースで作って売るとなったらそれないに大きな冷蔵庫が必要だ。

日本で良く合ったようなガラス張りの商品ケースは無理だとしても、もっと大きな冷蔵庫が無ければお客さんがそれなりに入るようになったら生産が注文に追い付かないだろう。

ある意味、壁一面ぐらいのサイズが必要かもしれない。


一体何個ぐらい売れれば店の経営が成り立つのかから逆算して最低限必要な冷蔵庫のサイズを決めるべきかな?


でも、クジンが勧めてきたパティシエなんだから、単に彼の友達と云うだけでなく腕もいいんだろう。

だとしたら今売っている焼き菓子とかだって売り上げがちゃんと出るはずだよね。

ま、最初は様子を見て改善点を聞きながらだんだん大きくしていけばいいか。


◆◆◆



「差し入れで~す」

アフィーヤ女史の部屋の扉を軽く叩き、中へ入る。

冷蔵庫用魔法陣を流用して作った冷却ボックスに入れてあるのはミズバンが作ったシュークリーム。


色々試行錯誤した結果、日本で食べていたのとは微妙に違うのだがそれでも美味しいシュークリームが出来たので、魔石の割引提供の件で話を纏める際の賄賂代わりに持ってきた。

ショートケーキはまだスポンジが微妙に美味しくないので今回は見送った。


「なんだい、それは?」

書類から顔を上げてアフィーヤが尋ねる。


「シュークリームという冷菓子です。今回の魔具マジックアイテム・冷蔵庫が市販できるようになったらこれも普通に手に入るようになると期待しているお菓子ですが、一ついかがです?」

冷却ボックスの中からトレーを取り出し、アフィーヤへ差し出した。

一応、全長老と後数人分と云うことで10個程入っている。


「他の長老たちの分も有るんですが、皆さんいます?」


「ああ、ちょうど良かった。話し合いたいこともあるから呼ぼう」

アフィーヤが頷きながら引き出しから通話用金属片を取り出した。


「フジノが来たよ。丁度いいからお茶を飲みながら話し合わないかい」


「「分かった」」

「「了解」」

あっさりと直ぐに返事が来た。


突然声を掛けられて、皆驚かないんかね?


長老たちが部屋に集まる間にアフィーヤがお茶を淹れた。

「試作品の方はどんな感じだい?」


「値段と素材のかねあいが色々悩ましいようですが......基本的に職人さんの方に任せています。

製造上の視点と、ユーザーからのフィードバックも含めて色々試しているようですよ」


「あんたの試作品なのに、何か随分とおざなりだね?」


「そりゃあ、私にとっては冷蔵庫その物よりは、それが普及することで市場に出回るスイーツの方が重要ですから」

集まった長老たちにシュークリームを配り、自分の分も一つ手に取って席に座った。


微妙に恐る恐ると云った感じで長老たちがシュークリームを口にする。


「「「「「......美味しい!」」」」」

 

ふふふ。

シュークリームの魅力は普遍的かつ不滅だ!


「現状では、冷やす為の魔術が高値すぎて真冬以外には普通には流通させることが出来ないんですが、冷蔵庫がお手軽な値段で売り出されるようになれば、こう言った菓子が色々と手に入るようになります」

素晴らしいでしょ?


「成程、あんたが拘るのも分からないでもないね。

で、今日は何しに来たんだい?」


「幾らぐらいで冷蔵庫と魔石が流通することになるのか、繰り返し聞かれるので値段がどのくらいになりそうなのかお伺いしておこうと思いまして。

あと、自分が作った魔石なら割引価格で特定の業界に提供してもいいのか、確認したかったんです」


ぱくりとシュークリームの最後の一片を口に放り込み、クリームが多少付いた指先を布で拭いながらウサマンが頷いた。

「ちょうど良かった。魔石の生産の試算なども一応目処が付いたから、君の意見も欲しかったところなんだ。具体的な数字を話し合おうじゃないか」


え。

具体的な数字を固めるところにまで私が参加しなくちゃいけないの?

数字って嫌いじゃないけど、出来れば今はスイーツの試食に集中したいところだったんだけど......。

砂糖は『喫茶店に入った客に無条件で幾らでも出す』程は安くないけど、『一般市民がちょっとした楽しみに買う』ことは出来る程度の値段だということにします。

あまり高すぎてスイーツが一般市民の手に届かないなんてことになったらあまりにも絶望的なんで......。

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