043 商品開発(2)
「こんにちは~」
久しぶり(と言っても、本棚をオーダーしてからまだ10日も経っていないんだけど)に家具街に足を運び、クジンの親の店に顔を覗かせる。
一人で馬を乗る自信が無かったので、今日は馬車をレンタルして来た。
いい加減、移動手段を開発しないと。帰りにでも適当な絨毯を買って空飛ぶ絨毯を創ろう。
先日ハシャーナの馬を借りて前庭で試してみたところ、ぷかぷか馬の背中の上を浮いているだけだと、上手く馬をコントロールできないことが判明した。一緒に同行する人がいると、その人の馬に自発的に付いて行こうとするから問題ないんだけど、一頭だけで移動させようと思うと全くこちらの要求に応じてくれない。
つまり一人で街中を動けるようになりたかったら、ちゃんと馬に乗る方法を学ぶか、その他移動手段を創る必要がある訳だ。
下手したらノミを移されたり、蹴られたり、噛まれたりしかねない馬の乗り方を学ぶつもりはない。
機械的な移動手段は部品を創るのが難しそうだし、他の人から変な注目を集めても面倒だ。
その点、空飛ぶ絨毯だったら浮遊術そのものはそれ程難しい物じゃないから、人の注目を集めるような物じゃないと思う。
まあ、空飛ぶ絨毯で動き回っている人は見かけていないからアイディアとしては目新しいみたいだけど。創りたければ普通の魔術師でも特に問題なく作れるはずだ。
と云うことで今日は帰りに小さめの絨毯を買わないと。
そんなことを考えながら店な中を見回していたら、私を見かけたクジンが声を掛けてきた。
「あれ、フジノ殿。本棚に何か問題がありましたか?」
「あれはちゃんと想定通りの機能を果たしてくれてますよ~。
今回は、ちょっとした商品開発に協力する気がないか、提案しに来ました」
まあ、断るとは思わないけどさ。
冷蔵庫なんだ。最初のマーケティングを上手くやれば、爆発的に売れるはず。
何と言っても、日本の高度成長期の三種の神器だもんね。
......あれってなんだったっけ?冷蔵庫とテレビとエアコン?
テレビは放送局がなきゃ無駄だから無理としても、エアコンモドキな気温をコントロールするような何かはそのうち挑戦してみたい。
「商品開発ですか? 是非!!」
クジンがかなりの熱意をもって答えてきた。
おっしゃ。
さて。
話を店頭でするか、奥でやるか。
魔術院が今回始める特許式魔法陣の売出の話は、別に秘密にしろとは言われていない。
商品を共同開発するとアフィーヤ長老に言った時も、機密保持について注意しろとは釘を刺されなかった。
まあ、ある意味魔術師って象牙の塔にいるから、あまりそんなことを考えていなかったのかもしれないけど。でも他の魔術師はまだしも、あの切れ者っぽいアフィーヤ女史がそんな学者バカなうっかりをするとは考えにくい。
だから一種のプレ・マーケティングみたいな感じで、話を広めるのは悪くないと考えているんだと思う。
無理に秘密にする必要はない......が、変な風に噂が膨れ上がって変形して流れるのも困るかもしれないな。
とりあえず、店頭で普通に話をして、後でクジンにギルドの人とかが興味を示してきたら説明会を開いてもいいと言っておくか。
「今度、魔術院の方で普通の職人にも作れる魔法陣を売り出すことにしたんです。
詳細はまだ魔術院と宰相府の方で話し合っている最中ですが、基本的に売った数に対して特許料という手数料を取る形になると思います。
その第一号の外枠に関して、生産することになる普通の職人さん達とか、買うことになる利用者達の意見を集めて試作品を作ろうと思うんだけど、手伝ってくれません?」
クジンの顔が真剣なものになった。
「一般の職人が作れる、魔法陣ですか?」
「魔法陣そのものは多分銅を使うと思うので、鍛冶屋のルワイドさんにも参加して欲しいですね。
ただ、魔具って魔法陣だけじゃなくってそれを使う外枠もあるでしょう?
そっちの方の作る人の工夫とかも必要だからクインさんにも一緒に考えてもらいたいんです」
馬車から宙に浮かせて引っ張ってきた冷蔵庫を傍の机の上に置く。
「最初の魔具はこの冷蔵庫の予定!」
冷蔵庫を開いて冷やしたジュースを取り出し、クジンに渡した。
「生ものは冷やせると長持ちするし、物によってはぐっと美味しくなります。裕福な家庭のキッチンとか、レストランやケーキ類の多いカフェとかに売り込めるんじゃないかと思っています」
「......冷たい」
恐る恐るジュースを受け取り、口に含んだクジンが驚いたように呟いた。
そのまま飲み干さず、いつの間にか傍に来ていた初老の男性(似ているからお父さんかな?)にグラスを渡す。
「このような魔具を普通の職人が作れるようにするのですか?」
ゆっくりと冷やしたジュースを味わってから、その初老の男性が私に聞いてきた。
「ええ。一個売るごとに魔術院に使用料を払わなきゃいけないし、利用者も動力としての魔石を定期的に買う必要があるけど、少なくとも作る人間が魔術師である必要はないから普通の魔具よりはずっと安く普及出来ると思います。
基本的に現在売られているような魔術師が作る魔具とは競合しない物を開発するつもりですが、他にも『有ったら便利だな』っていうような魔具を思いついたらその相談も魔術院の方で受け付ける予定です」
◆◆◆
「錫では弱いから、鉄の方がいい」
ルワイドが試作品の冷蔵庫を調べながら主張した。
あの後、急遽呼びだされたルワイドと何人かの職人さんと冷蔵庫について意見を戦わせ始めた。
「ジュースとかを入れるとしたら濡れる可能性があるから鉄じゃあ錆びちゃうでしょう」
私が反対する。
......考えてみたら、日本の冷蔵庫では別に結露なんて無かったが、暑い部屋で物を冷やしていたら冷たいビールを入れたガラスが濡れるのと同じで、空気中の水分が結露するはず。
「あと、多分冷蔵庫の周りが結露する可能性が高いから、水を受けとめるトレーが必要かも」
私の言葉に、クジンが冷蔵庫を開けて木と金属の間に手を入れてみた。
「本当だ、湿っている」
横から冷蔵庫の脇へ手を挟み、ルワイドも唸った。
「じゃあ、鉄を錫で覆ったブリキにしよう。それなら錆びない」
へぇぇ。
ブリキのバケツやじょうろって通販のカタログで見たことあったけど、あれって鉄を錫で覆ったものなんだ。ブリキって現在でもレトロな物に使われているようだから、それなりに使い勝手がいいんだろう。
「木はニスを染み込ませて撥水性を上げておかないと腐りそうだね」
クジンが考え込む。
「気密性が高い方が冷気が逃げなくていいんだけど、下手したら木が腐るかもしれないわね。それなりに定期的に木の外箱は交換出来るようにした方がいいかも」
魔法陣は魔石さえ充電すれば何年でも使える(んだろう、多分)のだから、この冷蔵庫の寿命は極めて長いものになる。中が定期的に濡れる木が腐ったからと云って捨てて次を買う必要はないだろう。
もっとも将来の需要を考えるんだったら、買い替え需要をある程度引き起こす商品にしておく方がいいのかもしれないけど。
まあ、それはもう少し社会全体が豊かになってから考えることにしよう。
「ちなみに、この外箱の扉にバネを付けて自動的に閉まるように出来る?
開けっ放しちゃうとあっという間に魔石を使いきっちゃうから」
試作品は洋服ダンスの扉を参考に魔術で創った箱に魔法陣を付けただけの代物なので、外箱も内箱も単に蝶番で開閉するだけで、自動的に閉まる仕組みは無い。
バネを付ければ自動的に閉まるはずだと思うのだが、いまいちバネのイメージが上手くて来ていないのか、変に固いか脆いバネになってしまったのだ。
ここはプロに任せようと思って途中であきらめた。
ついでに本職のバネを見せてもらったらベッドのコイル付きマットレスを創る時にも役に立つし。
「バネ? 扉に?」
「そう。ちょっと長めのバネを押し込むような感じで蝶番の外側に付けたら、扉を閉める方向に力を加えることにならない?」
ちょっと不格好になるかもしれないが。
この世界でも、小さいバネって作れるのかなぁ。
それとも、扉を上に開ける形にして勝手に閉まる形にする方がいいか?
「嵩張りそうだったらつっかい棒を付けて、扉は上に開ける方がいいかもしれないけど。
キッチンに置くんだから、あまり場所を取るようじゃあ困ると思う」
「でも、レストランなどに売るなら、それなりのサイズが必要になります。大きな扉を上を押し上げようと思ったらかなり力が必要になりますよ?」
クジンが指摘する。
おっと。
試作品は私は部屋で飲み物を冷やすのに使うことを考えていたからコンパクトなサイズになったが、メインなターゲット層が業務用もしくは金持ちの大きな世帯となると、実はそれなりに大きく造る必要があるかもしれない。
ここら辺は本当にターゲット層に聞いてみないことには分からないなぁ。
「誰か、知り合いにレストランやカフェをやっているような人いません?それとか大きな屋敷を切り盛りしている主婦か家政婦とか」
クジンに聞いてみる。
ある意味、二番通りとはいえ、王都でそれなりの位置に店を開けるんだから、クジンの家だった実はターゲット層に入るぐらい豊かかもしれないし。
「え~と......今晩の夕食の時にでも、何人か知り合いのシェフや菓子職人に話をしてみます」
「ついでだから、ここに連れてきて下さい!
日中や夜が忙しいっていうなら早朝でも良いですよ」
菓子職人~~!!
是非会いたい。
「じゃあ、俺は明日までにちょっとどんなバネが出来るかやってみる」
ルワイトが約束した。
「よろしく!」
ふふふ~。
いい感じに話がすすみそう?