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041 買い物終了

雑貨屋での買い物も終わり、無事帰宅。

新しいティーポットとマグを使ってカルダール君にお茶を出すことにした。

ついでに私の思うところのタオルを見せて、どこかでそれを入手できるのかも確認したかったし。


しっかし本当に魔術師って便利だ。

汲んであった水を浄化して沸かし、お茶を入れるのを魔術で全部出来ちゃうんだから。

これが普通の一般人としてこちらに来たのだったら、まず水を濾過ろかするのに物凄く時間を掛けることになりそうだ。

工場排水による水の汚染とかないだろうから、井戸水とかをそのまま飲んで良いんだろうけど......こちとら長いことペットボトルか浄水器を通した水しか飲んでこなかった都会人。微妙に地面から汲んできた水をそのまま飲むのには抵抗がある。


まあ、外の食堂で食べる際に飲んでいるお茶だって普通に井戸から来ているんだけどね。

ある意味、知らぬが仏だよなぁ。


それはともかく。

お茶を淹れている間に、買ってきたタオルを取り出して、2枚合わせる。

日本で使っていた、ふかふかなタオル。

糸が立っている感じで立体的な生地から出来ていたはず。


そんなことをイメージしながら術を掛けて魔術でタオルを創った。


「......ま、こんなものか」

出来あがったタオルを手に取り、手触りとふわふわ具合を確認。

ついでに水をサイドテーブルにちょっと零してみて、吸水の程度も確かめてみる。


悪くない。大体記憶にあったフェイスタオルがいい感じに再現できたみたいだ。


「何を創ったんですか?」

興味深げにカルダールが覗きこんできた。


「私の世界のタオルです。ふかふかで吸水が良く、拭いた際にも気持ちがいいんですよ」

新生タオルをカルダールに渡し、もう2枚のタオルを取り出して再びタオルを創りだす。


「こんな感じのタオルって、こちらでも入手できますか?

これって多分タオルを織る際に毛を立たせて織るんだと思うんですよ。どうせ手織りなんですからシャトルを動かす際に縦糸を上に折り曲げさせるような何かを挟んで織っていけば出来ると思いません?」

詳しいことは知らないけどさ。

縦糸を折り曲げれば出来そうだと思うんだけどなぁ。


タオルを手に取って手触りを確かめていたカルダールがちょっと考え込んだ。

「こういったタオルを見たことはありませんが......需要はありそうですよね。

次回お会いする時に、織工ギルドに行ってみますか?」


ギルドかぁ。

ついでに、シャトルも近代風な中に糸を巻けるタイプのを紹介しようかな。

魔術は関係ないんだからさっさと生産性アップの手段を伝えちゃいたいし。


「織工ギルドって生地を織って売る人間が基本的に全て関与しているんでしょうか?」


「まあそうですね。地域によって支部が分かれますが」


「先日家具屋で見たシャトルがちょっと使いにくそうだったんですが、私の世界で使われていた物をギルドの方に見せたら、織物で生計を立てている人皆に行きわたりますかね?

変な風に技術が偏って、情報を受け取り損ねた織工が廃業に追い込まれるような事になって欲しくないんですが......」


カルダールが首を傾げた。

「特許権の制度の施行を待たなくていいんですか?」


「錬金が許されるんでしたら、別に技術を独り占めして儲ける必要も無いですからね。こちらで暮らして行くのですから、私が気持ちよく欲しい物を買えるように、こちらの経済に変な歪みを与えない範囲内でどんどん技術の情報は提供していきたいと思っていますよ?」

そう考えると、魔具マジックアイテムを売る魔術師の人たちって錬金が出来ない人たちなのかなぁ......?


今度、アフィーヤ女史に聞いてみよう。





>>>side カルダール


「どうだった?」

フジノ殿との買い物ツアーが終わり、執務室に帰ってきた私に宰相が聞いてきた。


買い物その物は......覚悟していたほど辛くなかった。

女性との買い物は、ひたすら見て回り、選び、意見を聞かれ、その意見を却下され、更に見て回り......の繰り返しであると言うのが過去の経験なのだが、フジノ殿は執拗にありとあらゆる店を見て回る訳でもなく、選ぶのにもそれ程時間を掛けなかった。

ある意味、女性としてはかなり例外的なのかもしれない。


「とりあえず、現在のフジノ殿の一番の拘りは食生活の様ですね。

元の世界で普通に食べられていた食材をこちらで普及させるために、安価な冷却の手段を提供したいそうです。だから魔術院の長老たちも説得して、普通の職人にも作れる魔具マジックアイテムを開発していると言っていました」


「ああ、長老達が相談したいと言ってきた用件か。魔具マジックアイテムを普通の職人に作らせるなんてことに良く魔術院が合意したな」


しばし考える。

フジノ殿が『冷蔵庫』と彼女が呼んでいる魔具マジックアイテムを普及させたい理由はまずはスイーツの為だと思う。だが、ちゃんと魔術院の長老たちを説得したのだからそれなりに魔術院にもメリットはあるはず。


何と言っていたか。


彼女との会話の端々で出てきたコメントは中々考えさせられるものだった。その中に答えはあると思うのだが......。


「特許制度を魔具の作り方に関して導入するから、収入的には魔術院には損は無いのだと言っていました。元々、これは安価な平民が使えるレベルの魔具を目指しているらしいので、現在作られている魔具とはあまり競合しないのでしょう。

長期的な理想としては、魔術院としては魔術師たちにもっと優れた魔具や新しい魔術を開発することに力を注がせ、同じ魔具をいくつも作るだけで技術の改善が起きにくい現状を改めたいのだと思います」


フジノ殿の話からは、『もっと魔術と云う物は社会全体の効率化に役に立つはずだ』という考えを感じられた。

私を含めて、現状が『機能している』ということで満足している人間が多い中で、フジノ殿は『何を更に効率化出来るか』という視点で世の中を見ているように思える。彼女の世界がそう言う社会だったのか、それとも以前の社会に比べこちらが非効率的に見えるのか。

どちらなのだろうか?


「......文化や技術の発展と云うのは何が左右するのでしょうね」

ふと、考えていたことが口からこぼれる。


「フジノ殿の世界が何故こちらよりも発展しているのか、考えているのか?」

エッサム宰相が小さく笑いながら聞き返してきた。


「やはり、宰相殿もそう思いました?」

フジノ殿は『自分の世界の方がこちらよりも発展していた』などと云う言葉は一度も口にしていないが、今までの言動から察するに、少なくとも彼女の前の世界の方が色々な物が流通しているようだ。


「お前の聞いてきた話から察するに、フジノ殿は特権階級では無かったのにこちらの世界では貴族の跡取りしか受けぬような教育を身に付けているようだからな。それだけ社会に余力があると云うことだろう。

色々こちらで入手できる物にも不満があるようだし、先日お前が貰ってきた紙とエンピツを見ても技術水準も高い。

ある意味、遅れた社会に無理やり呼びだされたことに激怒しなかったことは感謝せねばならぬのかも知れぬな」


エッサム宰相の言葉に、思わず深く息を吐き出してしまう。


文明と云う物がどう違うのかはあまり想像できないが、もしも自分が数百年前の不便な時代に間違って召喚されたりしたら、かなり不愉快に感じるだろう。


まあ、数百年前と云えばフェルナーやダンカといった天才芸術家が生きていた時代になるから、彼らに会えるとなったらそれなりに悪くないと言う気もしないでもないが......。


それはともかく。

フジノ殿があまり怒った様子も無く、私にいつも『ありがとう』と言ってきたので『激怒』という可能性には思い至らなかった。


この世界と違い、戦争と言う行為が制限されない世界だったらしいから、下手をしたら戦うことに特化した魔術師を呼んでいたかもしれないことを考えると、間違いだったとしてもフジノ殿が来てくれたことは幸運だった。


「少なくとも、普通の一般家庭に当然のごとく食材を冷却する魔具があり、タオルもこちらの物よりもずっと性能の高い特殊な織り方をした物が普及していたようですね。

他にも暖をとる魔具や移動手段の向上なども言っていましたから、そういう方面の技術も発展しているのでしょうね、フジノ殿の世界は」


「しかも技術開発専門だった訳でも、歴史や考古学を専攻にしてきた人間でもないのに、不思議な程に技術の普及に対してその影響に気を使っているな、フジノ殿は」

先日貰ったノートを手に取りながら、エッサム宰相が呟いた。


確かに。

明らかに優れた技術を知っているのに、それを普及させるのにあれほどの注意を払う必要があると何故考えたのだろうか。

考えてみたら、宰相府に勤める自分が技術や制度の社会への影響をまず第一番に考えるのは当然だが、技術バカの多い魔術師にそんなことを考える人間はほぼ皆無だろう。


「不思議な方ですよね。

自分の世界の発展が必ずしも100%正解では無かったから、あちらの世界の解をこちらへ押しつけるつもりはないと以前言っていましたが......どういう意味だったのでしょうね?」


「それ程技術が進んだ世界でも住民が『問題がある』と自覚していたと言うことは......100%問題の無い社会なんぞ、存在しないと云う証明なのかもしれないな」

苦笑しながらエッサム宰相が答えた。


それってある意味哀しい発見かも。



何かちょっと暗い??


次回はもう少し明るく行きたいところですねぇ・・・。

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