表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/65

004 初めての錬金。

大量に部屋に入って来ていた人達が追い出され、お医者さんだったらしき女性もメイドに軽食を持ってくるように指示をして姿を消す。

「何か必要なものがありましたら外に待機させておきます者に言ってください」

最後にもう一度軽く頭を下げてファディル氏が私に伝え、部屋を出ていった。


地球でも西洋ではお辞儀の習慣って無いらしい。

頭を下げるっていう慣習もこの国にはあまりないのかも。

だとしたら最初にあれだけ深々と頭を下げていたのはそれだけ『勇者』の立場を上に見ていたってことなんだろうね。

軽くでも頭を下げるってことは一応まだ私のことを重視してくれているんだと思いたいところだな。

一応筆頭魔術師と言うことはこれから魔術師として生きていく私の将来設計にもそれなりに係わってくる可能性もあることだし、あまり嫌われても困る。


扉のところでノックの音に続き、メイドらしき若い娘の声がした。

「軽食をお持ちしました」


「入って頂戴」

メイドが入って来てトレーをソファーの横のサイドテーブルに置く。

茶色の髪に薄茶色(かな?)の瞳。顔の造りはちょっと平均的な日本人よりも心持ち彫が深い、それこそハーフだと言われたら納得しそうな感じの顔。

ふむ。魔法の世界だけどあまり金髪碧眼じゃないのかしらね。

何とはなしにファンタジーって言うとヨーロッパとかディズニーのノリで白人を想像していたんだけど。


「あの......お着替えはどう致しましょうか?」

確かに着の身着のままだものねぇ。何か必要でしょう。


「寝巻になる物を一つ持ってきて下さい。あと明日の朝に何か動きやすい服に着替えたいので、お願いします」

一応丁寧語ながらも、命令系な口調を心がけて答える。

召使いに下手に出ると、召使いを当然のごとく下に見る支配階級の人たちに私のことまで舐められるかもしれないからね。

かといってこちらの地位がはっきりしないのにあまり偉そうな口調で話して召使い層から反発も食らいたくない。


「分かりました」

深くお辞儀しながらメイドが出ていった。

うわ~頭を下げながら後ろ向きに出ていくなんて動き方、初めて見たよ。

一体どれだけ上位に見られているんだ??

それとも貴族とか魔術師に対して今のが当然な行動なんだろうか。



とりあえず、対攻撃と対監視用の結界でも試してみよう。

色々試しているところを見られたくない。意識がはっきりしてきた今だったらどちらをやっても怪しくないだろうし。


まず。

『物理的攻撃に対してほぼ完全防御』と『魔術的攻撃に対してほぼ完全防御』を自分とダールに対して実行。


そこそこ魔力が引き出された感じ。とは言っても別にまだ尽きそうな感触はない。

一体どれだけ使ったら底を尽きるのか、尽きたらリカバリーにどのくらい時間がかかるのか、いつか調べてみたいところだ。考えてみたらこの術っていつまで持つんだろ?継続的に私の魔力を使って保たれるのかな?

それ程負担を感じないから継続されるならして欲しいところだけど。


次に『監視防止』で検索。

『監視の術を乱す術』

『監視の術を騙す術』

『監視する術者を殺す術』.....随分と物騒だね、こりゃ。

『監視する人間を眠らせる術』

『監視する人間の有無を調べる術』

『結界を張って中を見えなくする術』

ふむ。この乱すのと、見えなくするのとで魔術師と物理的な覗き見と両方対応出来るかな。


術を選び......実行。

魔力が流出。

何とはなしに、見張られていた気配が消えた気がした。

まあ、気配なんて読めるとも思えないから気のせいかもしれないけど。



さて。

朝までの時間を最大限に利用してこれからのプランを練らないと。

まるでRPGばりな設定だが、リセットなんて物が存在しない、自分の人生だ。

ここで出方を間違えると後々まで響く。

......まあ、これが昏睡中の私の夢という可能性も完全には否定できないけど。

だけど、夢ならどれだけ無駄な努力をしたって失う物は無い。そう考えたら、これが現実だという前提に基づいて出来る限りのことをした方がいい。


「まずは何か書く物が欲しいかなぁ。ウチのPCがここにあればいいのに」

あれもほんの2ヶ月前に買い替えたばかりだったのだ。つくづく口惜しい。


......考えてみたら、異世界から人間を召喚出来るんだ。質量のずっと少ないPCだって召喚出来てもおかしく無い。

人間が死なずに来れるんだ、精密機械だって十分に可能そう。

ネットに繋ぐのは難しいだろうけど、百科事典とかビジネス書とか、専門書の召喚も良いかもしれない。

出来れば計算機も欲しいし。

まあ、計算機よりもソロバンとソロバン入門書でも召喚する方が継続性があっていいかもしれないが。


「取り敢えずはまず書く物ね」

独り言を呟きながら部屋を見回す。


奥に寝室とフカフカそうな天蓋付きのベッド。

こちらにはソファと一人掛けの安楽椅子幾つかにサイドテーブル。

そしてどちらの部屋にも暖炉。


「ふむ」

暖炉のそばに置いてあった薪を手に取る。

死ぬ前によく読んでいたライトノベルのファンタジーに『錬金』というべらぼうに便利な魔法があった。

何でもかんでも精神力で物を造りかえられたようだけど.....。同じことが出来ないだろうか?


『錬金』で検索すると意外と術は少ない。

とりあえず、一番上のを実行してみた。

魔力が引き出され......手に持っていた薪が純金になっていた。


ありゃま。

そりゃあ、確かに『錬金術』って『金』を造ることが目的だったけどねぇ。

とってもナイスなんだけどねぇ。現時点ではこんなモノ、使えませんよ。


とりあえず、これの一部をブレスレットか何かにして、4次元ポケットみたいな収納庫に連動させることは出来ないかしら?


どんな検索の仕方をしたらいいんだろ。

『一部分離』で検索。

う~ん、殆どは鉱石とか植物から金属とか薬の養分を取りだす魔法だな。

じゃあ、さっき鏡を取り出そうとした時に出てきた物を創り出す魔法でどうだろう。


『物を創り出す術』を選び、条件の詳細を選ぶべく集中すると、頭の中に色々な条件のボックスみたいなものが出てきた。

考えてみたらさっきの『錬金』だってこの『物を創り出す術』の応用編だよね。何も考えずに単に手に持っていた薪に術を掛けたのが悪かったのかな?

ま、それはともかく。

「え~と、創る物は純金のブレスレット、デザインは......以前持っていたオシャレ系な軽いあれのコピーでいいや。元の物はこの金塊の一部っと。壊れないように魔力での補強付き。あとは......魔法に使いやすいように私にだけ同調設定っと」

うう~む、恐るべきチートな道具だな、この魔法の能力って。

術の使い方が頭のどこかに入っているのではなくこんな感じに初心者でも簡単に応用しやすいようになっているなんて。


.....もしかして、今までにも何度か同じような感じで殺しちゃった人を他の世界に『勇者召喚』で生まれ変わらせているのかな?ノウハウが溜まっていたりして。


とは言え、非常時には呑気に検索・条件設定・実行なんてやっている暇はないだろうから、使用頻度の高い術は頭の中でこんなステップを踏まなくても実行できるように研究した方がいいだろう。

ま、これは今後の懸案だけど。

そう考えるとこの初心者フレンドリーなシステムもちょっと問題あるかも。


とりあえず、術を実行。

金塊の一部が消え、手の中にブレスレットが出来ていた。

うんうん、いい感じ。


さて、次は4次元ポケットだな。

『4次元収納庫』で検索。

が、何も出て来ない。

あれ?

他の場所で収納させるような術って絶対にあると思うんだけど。


『収納』で再検索。

『サイズを小さくして収納する術』

『収納した物が劣化しないように時間凍結を掛ける術』

これって食料品の保存に良さそうだな。

『異なる時間軸に収納する術』

お!これでいいじゃない。4次元という考え方がこの世界には無かったのかも。

異なる時間軸ってついでに時間凍結もかかっているのかな?


とりあえず、『異なる時間軸に収納する術』を選択し、詳細条件に集中する。

うんうん、条件ボックスが出てきた。

とりあえず。

●オート索引機能付き。

●サイズは.....生前に住んでいた私の1LDKに合わせよう。感覚的に掴みやすいし。

●ブレスレットに連動していて、私が触ったものをそこに直接送り込める。

●送り込み・取り出すのは意図と魔力の注入。

●時間凍結の術が自動にかかる......これって生き物を入れたらどうなるのか、後で実験しておかないと。もしかしたら馬とかもこれに入れられたら場合によっては便利かもしれないし。


こんなところかな?

「実行!」

さっきよりも多めの魔力が流れ出す感覚があったが、特に他に何も起こらず。

う~ん、異なる時間軸ってイマイチなんだか分からないけど、目に見えないんだね。ちょっと寂しいかも。


取り合えず、さっきから手に持っていた金塊をそちらに送り込むよう魔力を込めてみる。

ふっ。

金塊が消えた。

一瞬、そこに真空が生じたのか風が流れる。

......これは大きな物を送り込む時は気をつけないと鎌イタチでも生じそう。

今度は取り出しを考えてさっきの金塊を思い浮かべたら、ポン!という音とともに手の中に金塊が戻ってきた。どうやら出し入れは簡単に出来そうだ。


さて。肝心の筆記道具。

これもさっきの創造魔術でいいよね。

新しく薪を手に取り、ノートパッドと鉛筆を作り上げた。

鉛筆は小学校の頃に使っていた木片に炭?の芯が入っているあれになったが、ノートの方は微妙にページの厚さにばらつきがある感じ。

物を作るのにもちょっとコツがあるようだ。


さて。

『魔物・魔族との戦いに協力するか』

1ページ目に下線を引いてタイトルをつける。


『1.魔王を討伐しなければ滅ぶような世界では無いはず』

『2.戦うのは嫌』

身も蓋も無いが、こちとら生粋の文系。戦いに一番近づいたのって大学の1年の時に夏期講習で合気道を2週間やっただけ。

どう考えても戦場に出てパニックを起こさずにいられるとは思えない。


『3.国が滅びそうと云うのならば強力な長距離攻撃魔術でも探し出して何度か協力してもいい』

『4.下手に戦闘能力を見せちゃうと、後から暗殺されかねない。』

じゃなきゃ、王家の人間との結婚を強制させられるか。

こちらが惚れてならまだしも、下手したら合法的レイプになりかねない政略結婚に協力しなきゃならないような状況には陥りたくない。


『5.協力することになった場合は最後に戦死を偽装した方がいい』

どうせ数日で終わるような戦いじゃないだろうから、それまでにダミーの死体の創り方の研究もする時間があるだろう。


ふむ。

考えてみたら、魔物・魔族との戦いに協力することになった場合は、考えることは『どうやって戦死を偽装するか』に尽きるわね。


では。

ノートパッドをめくり、2ページ目に『戦いに直接関与しない場合の今後』とタイトルをつける。

『1.勇者は要らない』

下手に勇者だなんてことになると何で戦いの前線に出ないのか色々言われそうだし、神輿として変な連中に担ぎ出されかねない。勇者召喚は失敗して、普通の魔術師を召喚してしまったってことにしてもらおう。

違う世界の魔術師だから違った系統の魔術を知っていて、少しは役に立つかも?という路線で行きたいところだわね。


『2.独身女性の法的地位は?』

所有権とか契約締結権がちゃんと法律で認められているのかはまず確認したいところだ。

確かあの儀式の場には騎士・魔術師・野次馬の中にそれなりの数の女性が含まれていた。半々ではないが、3割ぐらいは女性だったように思う。

このことから想像するに、法的地位は中世のヨーロッパや日本よりはいい......と思いたい。


『3.魔術師が経済的にやっていいことは?』

最初はあの召喚にかかわっていたファディルとやらに協力するために彼の関与する研究機関で異世界の魔術の技術の提供とでもいう感じで研究に付き合ってもいい。

実際にはこっちの世界の魔術なんだけど、失われた魔術とか違う大陸の術とかもきっと知識の中に含まれているはずだから役に立つだろう。

その場合、副業として自分でビジネスをやったり、錬金で貴金属を造ったりしていいのか?


特に錬金や資産の召喚に関しては魔術師だけじゃなくって宰相の方にも確認した方がいいでしょうね。下手に金を大量にばらまいたりしたらインフレ経済まっしぐらだ。

......もしも金銭目的での錬金が禁じられているとしたらこのブレスレットも不味いかな?

いいや、これは元の世界から呼び寄せたということにしよう。

物凄く疲れたということにして、何でもかんでも呼び寄せられる訳ではないものの、時間をかけて自分資産を呼び寄せたいけどどのくらいの量の金とかを放出していいのか、確認したらいい。

どちらにせよ向こうの本とかもいつかは呼び寄せたいから、今の段階で出来るって公開した方がいいだろうし。


『4.魔術師が通常行う経済活動』

最初は研究機関で協力するにせよ、長期的には自分で好きなことをしたい。

そこら辺の木片から金塊を造れるんだから、金にそれなりの価値があるとしたら経済的に私は無敵だ。

一人で寂しく誰とも付き合いなしに生きていくのは嫌だけど、いつまでも誰かに使われるのも嫌だからそのうち独り立ちしたいところ。


どんな選択肢が魔術師として可能なのか知っておきたい。

これは明日聞かなくってもいいけど。


ふむ。

ノートに箇条書きした案件を眺めながら、考える。

疲れているのか、イマイチこれ以上思いつかない。

考えるべきことってまだまだあるんだろうけど。


とりあえず、リストはここら辺までにして、次は情報収集かな。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ