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039 買い物(休憩中)

「お茶にしません?」

幾つか買った植木を住居へ配達するよう手配した後、カルダールに提案した。

ランチを食べ損ねた。

でも、どうせならランチではなくってお茶とケーキでも食べたい。


「他の店は回らなくていいのですか?」


「植木はとりあえず、これで十分です。一年草の花はまたいつか、気に入ったものが目に入ったら買いますんで。

アルタ雑貨店が面白いと聞いたので最後に寄ってみたいと思うんですが、その前にちょっとお茶でも飲んで休みません?」


術を唱え、身軽に馬に飛び乗りながら(と言うか、馬の上でも微妙に浮いたままなんだけど......)誘う。


先日話した時に、『美味しいお菓子を食べたい!!』と言っておいたんで、どこかいい店を見つけておいてくれたら嬉しいんだけど。


「そうですね、私も少し疲れましたし。先日リクエストがあったように、美味しいお菓子が出る店を探しておきましたから、そこに行きましょうか」

うっしゃ~!


カルダール君の姉に薦められたと云う店に行くことに。

美味しいと評判だったパン屋が横の空き店舗を使ってお茶と店で売っている軽食を食べられるようにした場所らしい。



◆◆◆


「うむむむむむぅ」

メレンゲとベリーもどき。

アーモンドパイらしき物。

果物が入った菓子パンアップルパイらしき物。

何やら茶色いパン?

スコーンみたいな物。

あとはパンに色々入った食事系のやつ。


この茶色いのってチョコレートなのかな?


チョコレートなら是非これが欲しい。

だけどレーズンとかフルーツ系の物ならアーモンドパイかメレンゲがいいなぁ。


どうしようか。


店の人に聞いてみることにした。上手く行けば、翻訳魔術のお陰で普通に通じるはずだし。

「この茶色いのってチョコレートですか?」


「うん?それはカカオっていうやつでね、苦いんだけど元気になるっていう評判なんだよ」


苦いんだ。

カカオっていうことは、チョコレートの原材料って言うこと?

試してみようじゃない!

チョコがあり、ミルクもあるんだから美味しいデザート満載の日々は遠くないはず。


「じゃあ、これ下さい」


カルダールと私はパンをそれぞれ貰い、お茶をオーダーして席に座った。


あとは生クリームだよなぁ。

チーズがあるんだから、生クリームがあっても不思議は無いんだけど。


まあ冷蔵庫がないから、作って直ぐ食べるんじゃないと溶けちゃうか。

一般的な庶民へ提供できる価格帯では無理なのかな。

王宮での兵士・官僚用の食堂では見かけなかったけど、もしかしたパーティとか晩餐会とかでは出るのかもしれない。


うむ。

そう考えると、時間が止まることで長期保存が可能な異次元収納よりも冷蔵庫の方が重要だ。


「どうぞ~」

店の人がお茶を持ってきてくれた。


「カカオのパンですか。渋いですね」

私のお皿の上のパンを見て、カルダール君がコメントした。


「......渋いですか?」


「何とはなしに元気が出る気がするんで私の同僚でも食べる人がいますが、女性からはあまり好まれないですね」


うにゃ?

女性に好まれない?


......まあ、取り合えず食べてみよう。


かぷり。



......。

苦い!!


思わずお茶で口の中のパンを飲み流した。


道理で『渋い』と言われる訳だ。

こりゃあ、ブラックコーヒーを飲むのと同じような世界じゃん。

コーヒーもあれにはあれなりの良さがあるけど、チョコパンのつもりで食べるにはこれは辛い。


パンに直接砂糖をかけるか、じゃなきゃせめてお茶に砂糖を足そうとテーブルの上を見回すが.....無い。

「砂糖って頼まないと置いていないんですかね?」


「砂糖、ですか?」

カルダール君が首をかしげるように聞き返してきた。


「ええ、紅茶に入れる、砂糖。ちょっとこのカカオパンが苦いんで砂糖をかけようかな~なんて思いまして」


「砂糖は高級品なので、別払いで買わないと足せませんよ?

......カカオパンに砂糖を加えると言うのは面白いかもしれませんね」

カルダールの答えに、思わずお茶を注ぎ足そうとしていた手が止まった。


砂糖って高級品なのか!

考えてみたら、日本でだって高度成長期ぐらいまでは砂糖ってそれなりに高級品だったらしい。

喫茶店でいくらでも使えるように山積みしてあるのが普通だった私には実感出来ないが。


取り合えず、このままでは少し食べづらい。

異次元収納に入れていた薪の一部を利用して、クリームをお皿の上に創ってみた。

食べ物を魔術で創るのは微妙に抵抗あるんだが、背に腹は変えられない。


砂糖多めで創ったそれを魔術を成分確認した後、ちょっと舐めてみた。

うん。ちゃんと生クリームの味がする。

感激するほど美味しい訳では無いが、それなりに子供のころに母にねだって舐めさせてもらった生クリームの味だ。


「なんですか、それ?」

カルダールが興味深げに聞いてきた。


「私の世界で良くデザートに使われた、生クリームという物です。原材料は乳と砂糖とヴァニラだと思います」

自分のカカオパンにたっぷり塗りつけて齧ってみる。


うんうん。

いいじゃない。

やっぱり生クリームは偉大だ。


「試してみます?」

小さくパンをちぎって、それに生クリームを塗って差し出してみた。


『断るべきかな~』という考えがカルダール君の目に浮かんだようだったが、好奇心に負けたのか。

あっさり生クリーム付きカカオパンを受け取って齧っていた。


「美味しいですね!」

カルダール君の目が輝いた。


だよね!

やはり生クリームの美味しさは次元の枠を超えて、どこでも共通に楽しめる物なんだね。


「牛の乳の上に溜まる濃い部分を冷やして泡立て、砂糖とヴァニラ・エッセンスを足すと出来るものなんですよ。私の世界ではデザートに色々幅広く使われていました」

まあ、これの作り方はカルダール君ではなく、どっかのパティシエかケーキ職人にでも伝えて研究してもらった方がいいんだろうが。


やはり冷蔵庫の魔具マジックアイテムの生産は急がなきゃね。

「これは暖まると溶けてしまうので、冷やす為の魔具マジックアイテムか氷水が必要です。まあ、冬ならそのままでも大丈夫かもしれませんが。

なので私的な動機も有り、現在研究中の魔具マジックアイテムは魔石を動力源にした普通の職人にでも作れる冷蔵用の魔具マジックアイテムです」


今後どんなことをするつもりなのか聞きたいって確か言っていたから、ついでに今のうちに話しておこう。


「普通の職人でも生産出来る魔具マジックアイテムを開発するなんて、良く魔術院の長老たちが納得しましたね」

自分の買ったメレンゲパイを一切れ私におすそ分けしてくれながら、カルダール君が言った。


「まあ、魔石が無ければ動かないし、魔術院にしか創れない部品がないと動かないデザインにするつもりなんで、特許料の取りっぱぐれも無いはずです。

経済的には魔術師全体から見れば損は無いと思うんですよね。

ただ、今までは『魔術を行う』という高度なスキルに対してお金を貰ってきたのに対し、今後は『魔石を売る』という魔術師にとってはかなり低度な能力からお金を稼ぐ羽目になる魔術師も出てくるかもしれないから、そこら辺は工夫が必要でしょうけど。

うまくいけば、魔術師が同じ魔具を繰り返し作るのでは無く、新しい魔具や魔術の開発にもっと集中する様になって技術がぐっと進歩するかも知れませんし」


カカオパンの最後の一切れをゆっくりと楽しみながら答える。

考えてみたら、複製でこのカカオパンと生クリームも復元出来るから幾らでも食べられるんだよなぁ。

でも、それじゃあやっぱりありがたみが無い気がするから止めておこう。


「長老たちの視点から見たメリットは今度彼らと会う時に聞くことにしましょう。

最初に作るのは物を冷やす魔具マジックアイテムなんですね?」

カルダールがお茶のお代わりを注ぎながら聞いてきた。


「そう。こう言う生クリームの入ったデザートはそれで冷やしておかないと保管出来ないんですよ。

デザートじゃなくっても、お肉とかは冷やしておくと悪くなるまでの時間がぐっと長くなるから食材が大分長持ちするようになるし、馬車か船にその魔具マジックアイテムを入れて移動すれば遠方へのお肉の売出も可能になるでしょう。

冷やすと美味しい食材も色々あるし。

生クリームで作ったデザートだったら店で売る際にもディスプレーその物を冷やす魔具マジックアイテムにしておけば長持ちするし食中毒の防止にもなると思います」


美味しいパティシエとかレストランいくつかにはスポンサーになって冷蔵庫を無料で提供してもいいんだよね。

美味しいデザートを作ってくれるなら魔具の一つや二つ、全く惜しくない。


一応魔術院の長老達に確認は取っておく方が良いだろうが。


お茶の残りを飲む間、色々美味しい店に関してカルダール君を問い詰めてみた。


魔術院の同僚達や下宿先の人達とかにも聞いて回って美味しいデザートを開発してくれそうな店に関してリサーチしよっと。



寄り道中。次回に雑貨屋までたどり着く予定です。

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