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038 買い物(B)

主人公の視点に戻ります

>>side 瞳子

そっか、プリント技術は当然無いんだ......。


カルダールに連れてきてもらったバリスタン店で商品を見ながら、思わず考え込んでしまった。


錬金した金塊を売ろうとカルダール君に相談したところ、とりあえず日中は彼が立て替えして、帰りに換金して清算しようと言うことになった。

何か面倒なの~と思ってクレジットカードの話をしたら、大分と興味を持ったようだ。


『借金は最小に!』思っている堅実派で、お金は異次元収納に入れておけば盗まれる心配もなく大量に持ち運べる私にとって、あまりクレジットカードって必要はないんだけどね。


単に、金塊の換金を小規模にやって行こうと思って、後払い式のクレジットカードの方が換算必要額が分かって楽だよなぁ~と口にしただけに微妙だ。


この世界で下手にクレジットカードが普及してカード破産するような人が出たら......個人破産すれば取り合えず終わりという話にはならないだろう。

それこそ、奴隷モドキな労働環境に繋がれてしまいそうで心配だ。

そこそこ穏やかな日本ですら、自殺を強制しかねないような取り立てをする業者がいて社会問題になったのだ。こっちだったらもっと規模の大きな社会問題になりそうで、口に出さなければ良かったと密かに思ってしまった。

大丈夫かなぁ......。



ま、それはともかく。

寝具関連の店としてお勧めされたバリスタン店だが、日本の店に慣れていた私からしたらセレクションがかなり少なかったし、中身にも難ありだった。


考えてみたら、この間家具屋で見た非効率的な機織り機かその親戚を使って大きな布も織るんだろうから、大きな布って多分高いんだよね。

だから店でディスプレーして遊ばせておく数にも限りがあるんだろう。


シーツはまだ良かった。

どうせ無地の布なんだから、それ程求めるものは多くないし。


だけど、その他がねぇ......。

まず、タオルケットがない。

ふわふわですべすべな手触りのタオルケットとか柔らかい毛布が、無いのだ!


もうすぐ春が終わると言う時期だから毛布を置いていないのかもしれないけど、タオルケット位はあってもいじゃない?

王宮では薄い布団みたいなモノと凄く手の込んだ刺繍のベッドカバーが提供されていたのだが、タオルケットってこの世界では無いのかなぁ。


刺繍ってあんまり好きじゃ無いんだよね。

肌触りがごわごわしていて、下手に顔に押し付けた状態で寝ちゃうと起きた時に変な模様が頬に残っていたりするし。


経済に貢献する為にも、出来るだけこちらの世界で製造されている物は創らずに買おうと思っているのだが......刺繍付き寝具を買って、顔に変な痕が付いているリスクを冒すほどは理想に燃えてはいないぞ。

「こちらはいかがでしょう? 見事な薔薇の刺繍でございますよね」

店員が熱心に色々と勧めてくる。

でも、幾ら出して来ても刺繍付きは嫌なんだって。


「刺繍は寝具には避けたいんです。他に何にもないんですか?」

無いといったらもっと安物メインの店に行こうかな。

普通の平民だったらここまで刺繍に手を掛けてない物を買っているはず。


「刺繍ではないもの、ですか......。一応このような物もあることはありますが」

しぶしぶと言った感じで店員さんが奥にへ私を案内してくれた。

多分大きな生地に刺繍って言うのの方が高くて利益率が高いんだろうね。でも、高けりゃ良いってもんじゃあないんだよ。


奥に、パッチワークの作品が幾つか置いてあった。

「凄い......」

六角形の色んな色や模様の布を縫い合わせたダブルベッドぐらい大きなカバーの前で足が止まった。

ちょっとした風景画みたいな感じで、大地と山と空がパッチワークの布で描かれている。


いい。


初ボーナス記念に行ったアイルランドで見かけたパッチワークの大作みたいだ。

手作りのパッチワークだったせいか、クッションカバーは数千円だったのだがベッドカバーサイズだと何と15万円したから諦めたのだが......この世界だったらきっと小さな端切れを集めて作ったこれの方がさっきの刺繍物より安いのだろう。


「気に入りましたか?」

カルダールが声を掛けてきた。


「流石手作り経済。見事ですね~」

思わず嬉しくなり頷きながら、彼にとっては良く分からないことを答えてしまった。

機械で生産する世界だと、大きな布に刺繍を入れるのもプログラムで簡単に出来るからそれ程高くない。

かえって端切れを縫い合わせる方が手作業になる為ずっと高くなる。


だが、機械と言う物が存在せずどちらにせよ手作業な世界ならば、大きな布をまず織る必要がある先ほどの刺繍物の方がずっと高いのだろう。


「お客様、そちらのパッチワークも悪くない出来ですが、こちらの刺繍物はいかがですか?」

諦めきれないのか、何やら刺繍の色のことについて何だかんだ解説しながらまたもや店員が声を掛けてくる。


煩いよ。


「いえ、これが良いんです」


とりあえず、これを買おう。

普通のシーツとタオルも必要だ。


あとは秋物のタオルケットの代わりの物と、冬物の布団かな。

折角手作りでも高くならないこの国なんだから、ついでに更に贅沢にこのパッチワークでキルトみたいな暖かいカバーを作ってもらおう。

オーダーメードで物を作ってもらうなんて、リッチになった気分だ。




キルトと羽根布団をオーダーした後、タオル売り場に来て、思わずフリーズ。

「......まじっすか」


タオルじゃないじゃん、これ!

布巾ふきんだよ、布巾!!


昨日貸してもらったタオルもぺったんこだなぁとは思っていたが、古いタオルなのだと思っていた。

王宮のは手触りの柔らかい布だったので、タオルの高級路線になるとシルクモドキな布を使うのかと勝手に想像していた。


だが!

店に来てもタオルが無いなんて!!


『タオルです』と言われて見せられた物は、ちょっと織り目がざっくりして吸水・乾燥が良さそうな布だった。

100円ショップの布巾じゃん、これ。


糸をたたせたような形で織るタオルってこの世界ではまだ開発されていないんだね、多分。

どうせ手で織るんだから、何とか出来ないんかね??


そのうちこれも誰かに情報提供して開発してもらおう。


とりあえず。

タオルを多めに買って部屋で創り変えよう。

日本で使っていた、ちょっと高かったけどふかふかのタオルが私は欲しいんだ!



◆◆◆



ぎゅっと買ったばかりの包を抱き込みながら馬へと向かう。

「ご機嫌ですね」


カルダール君が声を掛けてきた。


「ふふふ~。

私のいた世界では、ああいう手作りのパッチワークって目が飛び出るほど高かったんですよ」

以前買えなかった時の悲哀を説明していたら、カルダール君に驚かれてしまった。


「パッチワーク一つで魔術師の住むような場所の家賃1~2か月分ですか?!」


え~っとぉ......。


別にあの時の私は『魔術師』じゃあ、なかったんだよね。


魔術師の才能と言うのは子供の時に見出されるものだから、現在これだけ『魔術師としての知識と才能』があるのに、社会人としてで始めた頃は違う職業だったというのは説明しにくい。


守護霊に殺されちゃって特典付きで生まれ変わりました~なんて、幾ら神様の存在が身近に感じられるこの世界でもあまり言えることではない。


適当に誤魔化したら、空気を読んでくれたのかカルダールが次はどこに行くか、聞いてくれた。


次は植木屋!と答えてジュナイドさんが勧めてくれた店へ向かった。


エアスターとか言うこの店は、街の東側にある、広場に面した店だった。

いたるところに下の根っこを丸く布でくるんだ小さめの植木が売りだされている。

おお~。


この世界ってあまり植木鉢を使わないんだなぁ。

きっとここで売っている木って基本的に地面に植えることを想定しているから布でくるんだままなんだ。


ううむ。

植木鉢は......自分で創るかなぁ。

テラコッタの鉢を上手く作れるといいけど。

ま、底に穴さえ開いていれば、少しぐらい出来が悪くても多分何とかなるだろう。

最初は生体オーラの観測の術を植木に掛けて、健康状態を確認しておけばいいだろうし。


もしかしたら、植物好きな魔術師が植物を健康に育てる為の術とかを開発しているかもしれないから、それも後で調べてみよう。


さ~て。

金木犀、沈丁花、ジャスミンとローズマリーが欲しいところだな。

金木犀とか沈丁花とかジャスミンは窓の外で育て、咲いている時は気温調整の術でも使って窓を開けっぱなしにして香りを楽しみたいところだ。


日本にいたころは、折角咲いても寒すぎて窓を開けておけなくて、思う存分香りを楽しめなかったことが多かったんだよね~。

しかも、月曜日に咲きはじめたりしたら、週末になったら既に終わっていたりしたし。

この世界なら、咲きはじめたら香りがピークになりそうな時に休みを取って、優雅に部屋で本でも読みながら香りを楽しめるし。


ふふふふふ。

考えるだけでなんか嬉しくなる。


ローズマリーは家の中で育ててみよう。

あれは葉の香りがボケ防止になると言うし。

守護霊との約束で健康なはずだし、老人になる前にボケ防止の術を見つけておくつもりだけど、取れる予防策は取っておく方がいいからね。



金木犀は、あっさり店の人に行ったら『ああ、あれね』と案内してもらえた。


が。

沈丁花が通じない。


ありゃま。


自動翻訳の術の機能を考えると、この世界に同じ植物が存在するなら、言葉が自動的に翻訳されるだろう。

まあ、もしかしたら店員さんがその木を知らないだけなのかもしれないが、一国の王都でもトップな店で売っていないなんて......やはり無いのかなぁ。


そこそこ植物や動物の生態が地球と似ている感じだったので、同じ物が全部あると思っていたのだが。

......がっかり。


春先の、あの沈丁花の仄かに甘い匂いは好きだったんだけどなぁ。


しょうがないので春先に咲く花を見せてもらったら、ジャスミンが見つかった。

ついでに店の中を歩いていたら、ローズマリーも。

沈丁花はやはり見つからず。

まあ、あれってかなり繊細な植物だからなぁ。

この国の気候が適していないのかもしれない。


まあでも、いい感じに花が咲きかけているジャスミンの株を買えたので、とりあえずは良いとしよう。

来年の春先もっと早くにもう一度探したら、出てくるかもしれないし。


確か沈丁花ってジャスミンより早く咲いていたから、ジャスミンが咲きかけていると言うことは、もう沈丁花は終わっているのかも。



さて。

寝具と植木の買い物が終わったから、後は雑貨店でぶらぶらするだけだな。

その前に、どっかでお茶でもして少し足を休めようかなぁ......。

前回が微妙に薄っぺらくなった感じだったので、主人公の視点から同じシーンを書いてみました。

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