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035 新居(6)

砂利を更に手に取り、鏡を創る。

これは折角だから自分の全身が見えるように身長プラス10センチ程のサイズにしてみた。


日本の家具屋さんとかで時々見かけたような、ウッドフレーム付きの長方形タイプ。

折角なので、ウッドフレームは少し違った色の小さな長方形の木が組み合わされているようなデザインにしてみた。

ちょっと角度を付けてZの文字の上の部分が無いような形にして自立出来る形にする。

ついでに後ろに出っ張りを付けてハンガーを掛けられるようにした。

前世では洋服の収納に苦労したが、これからは服はとりあえずシーズンの物は洋服ダンスにかけ、季節ごとにまとめて異次元収納に放り込んでしまえばいい。

その日に着た服はここに掛ければいいや。


考えてみたら、収納に悩まなくて良いなんて、素晴らしい!

ついついケチだから『着れる服』を捨てられず、大して服を買わないのにいつもしまう場所には苦労してきたんだよねぇ。

ま、この世界だったら中古の服を寄付とかも簡単に出来そうだけど。



そのうち、ドライクリーニングみたいな自動清浄魔術を開発して、洋服ダンスに入れたら服が自動的に奇麗になるように出来たらいいなぁ。


ま、それはともかく。


前回の遠視の時に創った後、異次元収納にしまいっぱなしだった鏡は洗面所に置くことにした。

そこそこ明るいし、朝のメイクはここでやるつもりだ。だとしたら鏡が必要になる。

一応元から鏡は置いてあったのだが、ガラスのグレードが低いのか、微妙に自分の顔が良く見えにくい。

まあ、それ程まじまじと自分の顔を見るつもりはないけど。


さて。

この大きな鏡に遠視の術を魔法陣として刻み込み、魔具マジックアイテムとして利用できるようするのが今晩の目標。


......そう言えば、最初に到着した時に『鏡』で術を検索した時に、『鏡を媒介して他の場所へ移動する術』があった気がする。


これだけ大きな鏡だったらここを通り抜けることも可能だ。


この術が一般的に知られているモノだったら、王宮のどこかに鏡を置かせてもらってそれを使って移動しようかな。

週に一度、馬車で迎えに来てもらうよりもずっと効率的だ。

もしも術が既に失われて『伝説の秘術』になっていたら......折角だからこれは秘密にしておこう。王都の外れの方にでも小さな部屋を借りて、非常時脱出用ルートとして確保しておくといいかもしれない。


他にも何かに使うかもしれないから、魔法陣は直径20センチぐらいのサイズにしておこう。

後から魔法陣のサイズを変えるのはかなり面倒そうだ。


遠視の術を魔法陣として登録し、変更しない限りデフォルトは日本の私の部屋とする。

オン・オフは私の意志。

あまり無駄に魔力を使うのも意味が無いので、視野を広げようと私が思わない限り、映るのは鏡の上半分ということにした。


で、実行。


一瞬、鏡が光り......私のアパートが鏡の向こうに見えていた。


おお~。

懐かしい。

2週間なんて、大学生の頃に旅行行った時はざらにそのくらいの期間、部屋を空けていた。


だけど、流石に死んで、新しい世界に来たこの2週間は物凄く濃く、まるでもう何年も前のことのように思える。

こないだ見てからもう2週間ぐらい経っているが、何も変わっていないのが却って違和感がある。


考えてみたら、遺品整理って何日後位にやるんだろ?

2週間経てば当然葬式とかは終わっていると思うのだが・・・。


そうだ、ついでに遺言書を書いて、どこかに忍ばせておこう。

両親は比較的仲がいいと思うが、確か資産がほぼ全て父の名前になっているんだよね。

どうせなら私の遺産は全て母に行くようにしたい。


確か、遺言書って直筆で日付を書いておけばいいはず。

印鑑も必要なのかな?

鉛筆で書いたら不味いかもしれないからペンも必要だ。


小物入れをこちらへ召喚したついでに、傍にあったペンと玄関に置いてあった判子も取り寄せた。


紙は何でもいいだろうから、先日創ったノートでいいよね。

『遺言書

私、藤野瞳子の財産は全て母、藤野直子に残します。

                    藤野瞳子

                    2010年5月8日』

判子を押し、出来あがり。

そんでもって二枚目の紙に説明を書き足す。

『若死にする予定は無いのにこんなことを書くのも変ですが、先日大学の同期が思いがけなく亡くなったのでこれを書いています。


まさか私が早く死ぬとは思っていなかったけど、もしもお母さんとお父さんがこれを読んでいるとしたら、私が若死にしたと言うことでしょう。

悔しいですね。

折角大学の頃から計画的に頑張ってきたのに。


まあ、起きてしまった事はしょうがないですが。

老後一人で寂しく孤独死するよりは、家族に惜しまれて死ぬ方が良いかもしれないし。

悪いことをしていないのに若死にしたのなら、きっと次の人生は更に恵まれた、良いものになるでしょう。

勿論、今回の人生でも十分充実していたし、二人の子供として生まれてきたのに感謝していますよ?

いつ死んでも、後悔は無い人生を歩んでいるつもりです。

きっと死ぬ時も『悔しい』とは思うし、『若死にするんだったらケチらずにもっとお金を使えば良かった』と思うかもしれませんが、自分の人生は充実したものだったと胸を張れるつもりです。


そんな私に育ててくれて、ありがとう。


さて。

遺言書ではお母さんに全て残すことにしました。

どうせ二人仲良く老後も一緒に暮らして行くと思いますが、確か二人の財産って全部お父さんの名義になっていますよね?それじゃあお母さんが心おきなく『無駄遣い』が出来ないと思うので、ちょっとした贅沢用に、私の生命保険やささやかな貯金を使ってください。


銀行の詳細とか生命保険の証書は本棚の左下に入っているファイルに全部挟まれています。

月々の支払いとか、クレジットカードを使った買い物とかの詳細はPCの家計簿ソフトに入っていますので必要があったらそこで確認してください。


本棚やベッドサイドテーブルに入っている本は、何も見ずに全部ブックオフで売っちゃってください。

微妙に読んでいたことを知られたくない本も有りますので、何も見ずに箱詰めしてくれると嬉しいです。



子供が親よりも早く死ぬと言うのは究極の親不幸だと思います。ごめんなさい。

とりあえず、次に生まれ変わるまで天国から時々お二人を見ている予定なので、幸せに仲良く人生を楽しんでください。


瞳子』


こんなところかな。

本当はこちらからコンタクトを取って文通でもしたいところだけど、戦前生まれの両親に『守護霊の間違いで死んだので、異世界で魔術師になりました』と連絡したところで......両親達本人が気が狂ったと思ってノイローゼになるか、じゃなきゃ極めつけに悪質な悪戯だと思われるだろう。


まあ、後二人も兄貴がいるんだし。

幸せに暮らしてくれ。


さて、この遺言書をどこに置くか。


確実に見つかり、他の書類に紛れてしまわない場所は冷蔵庫だと思うのだが......流石に何度かアパートに母親が来ているだろうから、今さら冷蔵庫の中に入れたりしたら、可笑しいよね。


う~ん......。


悩んでいたら、ふと鏡の向こうの部屋の机の上に放置してあった封筒が目に入った。

先日、クーポンを集めて応募する為に会社から一つ拝借してきたやつだ。


うん、封筒に入れるのが一番目を引きやすいし、態とらしくないよね。


ノートの紙を一枚破り、封筒へ創りかえる。

『藤野修・直子様』と書いて中へ遺言書と手紙を入れた。

これって封をしておかなきゃいけないのかな?

別に封書じゃないと無効じゃないよね?

確か、以前読んだ漫画で、小学校の交換日記の中の書き込みが遺言書として有効だったって見た気がするし。


問題はこちらから、物を向こうへ送り込めるか。

召喚の術を理論的には、召喚の術をひっくり返せばいいんだろうけど、流石にそう言う応用はまだ私には難しいぞ。



◆◆◆




結局。

遺言書を日本のアパートへ送り込むことは出来なかった。


何で誰も、逆召喚の術を開発していないんだ!

それこそ、危険が迫った時に愛する家族を他の世界へ逃がすとか、要らなくなった産業廃棄物を他の世界へ不法投棄するとか、需要はありそうなものなのに。


しょうがないので、まず『転移』の術を使ってみた。

『転移』にも幾つかバリエーションがあったので片っぱしから試してみたのだが......全部灰になって向こうにたどり着いた。


試しに砂利を向こうへ『転移』させてみて直ぐにそれを召喚し戻したら、何と微妙に赤っぽくなっていた上に、呼び出した床に焦げ目が付いてしまった。


うひゃ。

手の上に召喚しようとしなくて良かった。


どうも、次元を超えて移動する際に何らかのエネルギーが大量に付与されてしまうようだ。

召喚の術にはそのエネルギーから対象物を守る機能も付いているのだろうが、同じ次元内での移動である『転移』にはどうやらその保護機能がないようだ。


そこでVBAの切り貼りみたいに、召喚の術でそれっぽい部分を転移の術に足してみたのだが......術は発動せず。

2時間近く、色々試してみたんだけどねぇ。


しょうがないので、苦し紛れに今度は召喚の術を切り貼りして出発地と目的地を入れ変えるよう努力してみたのだが、やはり発動せず。


夜中の1時過ぎになって、諦めることにした。

そこでベッドに入ったのだが、ふと『物を動かせるなら、字を向こうで書けばいいのでは?』と思い付き、また起きてきて鏡の前で色々試すことに。


色々調べた結果、『遠隔操作』という手元の動作を遠隔地でトレース出来る術を発見。

あっさり、向こうで遺言書を書くことが出来た。


色々無駄な試みに掛けた時間が4時間近く。

遠隔操作を試みて成功するまでにかかった時間が30分。


......かなり哀しかった。

ま、それでも最終的にはやりたい結果になったんだからいいけどさ。


とりあえず、遺言書は封筒に入れ、テレビ台の下の小物置き場に突っ込んでおいた。

かなり乱雑に物が入れてあるので封筒が新しく差し込まれても分からないだろうし、綺麗好きな母が遺品整理をやる気力を取り戻した時には、多分あそこは早い段階で片付けようとするだろう。


しっかし。

旅行から帰って来るように、またいつか両親や兄と会えそうな気がしてしょうがないのだが......無理なんだろうなぁ。


あれ......?


何か鼻水が出てきた。


......寝よ。

ちょっと家族から引き離されてしまったことを自覚してブルーになった主人公。


でも、次回には復活しますのでご安心ください。

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