034 新居(5)
さて。
まずは窓の目隠しだね。
『不可視結界』で検索。
う~ん。微妙だなぁ。
『不可視結界』は争いや不法行為への利用が多かったらしく、『人』や『物』を隠す為の術だった。
球状の結界である上、向こう側の景色を見せてしまうんだよね。
まあ、球状なのを丸か長方形にして部屋全部を結界で包む形にすればいいんだろうが......そこそこ手を加えなければいけなそうで面倒だ。
今晩は色々することがあるんだし。
試しに『窓の目隠し』でも検索をしてみた。
お。
不可視結界よりも数が出てきたぞ。
そっか、戦争が出来ない世界では、姿を隠すような術への需要よりも自分の部屋のプライバシーを確保することへの需要の方が高いんだね。
一番上に出てきた術は、一方方向にしか光を通さない面状の結界だった。
おお~。
これぞマジックミラーの魔法版じゃん!
考えてみたら、外から中が見えるって言うのは、窓から外に光が漏れてそれが人の目に触れることで中の光景が見えると言うことだ。
中から光が出なければ、中の様子は見えない。
しかもその結界には光を多少乱反射する機能もあるので、外から見た時に窓のところにぼっこり暗闇が出来たりしない。
いいねぇ。
ついでに防御魔術と対監視魔術と、対害虫魔術とを部屋全体に掛けないと。
術の掛け直しが簡単にできるように、魔具を使うのがいいよね。
魔力が抜けたら色が変わる仕組みにでもしようか。
花瓶とか何かの置物にするかな。
じゃなきゃ、フットランプもありだ。
ダールのガラス像みたいな物でも面白いかも?
でも、あまり奇麗もしくは可愛く工夫して、誰かに盗られちゃっても困る。
一応防御魔術の機能には、外からの攻撃を防ぐだけでなく『悪意のある人間の排除』もあるが、完全に立ち入りを禁じる訳ではない。使用人が水の配達や排泄物の回収に毎日入ってくる状況で『突発的な出来心』を起こされた場合は防ぐのは難しい。
やはり実用的なフットランプあたりがいいかな。
ちょびっと角がある方がダールが頬をすりつけるのに良いかもしれないし。
としたら、武骨にキューブ状なフットランプがいいか。
物と形は決まったから次は素材。
願わくは魔力に反応して色が変わるガラスの創り方でも検索出来ればいいんだけど。
『魔力に反応して変わる』で検索。
●『魔力に反応して浮かび上がる文字を刻む』
●『魔力に反応して光を発する』
●『魔力に反応して色を変える』
......等々。
意外と色々ある。
二番目と三番目なんて、照明代わりにでも使うんかね?
素材そのものの創り方では無く、術だけどまあ三番目のでいいか。
最初のは隠し文字みたいな感じで面白いかもしれない。
ま、この世界では日本語を読める人間はいないはずだから私の文字は隠す必要も無い。
......でも、考えてみたら自動翻訳機能が動いて文字が読めるのに、書く方には機能していないとしたら私ってこちらの文字が書けないと言うことになる。
それとも、『こちらの文字を書きたい』と意識して書けば勝手にこっちの文字が頭に思い浮かぶのか?
ノートを取り出して鉛筆を持ち、『カルダールに読ませる』と考えながら『テスト中。文字は自動翻訳出来るのか?』と書いてみた。
うわ~。
何か......不気味。
日本語しか(まあ、義務教育で英語も習っているけどさ)書けないはずなのに、手が勝手に知らない文字を書いていく。
凄いもんだね、この自動翻訳の魔術って。
頭の中に翻訳ソフトを焼きつけたのかねっていう感じだ。
これってその技術を応用したら、呼び出した人間の洗脳も出来ちゃいそう。
そう言う悪用をしようと思った人間って今までいなかったのかね?
まあ、私の場合は守護霊たちがそれなりに目を光らせてくれていたから、例え洗脳する魔術があってもその部分は成功しなかったんだろうけど、ちょっと背筋が寒くなる。
防御魔術に『精神的攻撃・影響・変質を防ぐ』という機能も含めておこっと。
◆◆◆
さて。
キューブ状のフットランプだったら目につく面は正面左右上で4面だ。後ろは壁についてしまうし、足元の壁に付けるつもりだから下の面も見えにくい。
目隠し、防御、小生物禁止、監視防止の術を各面に刻み込むかな?
物としては......すりガラスみたいな素材でいいや。
本当はプラスチックの方が割れた時に危険が無いと思うけど、プラスチックは数年間したら劣化するからなぁ。
取り合えず、ガラスそのものには強化魔法と自己修復機能を付けておくか。
砂利を手に持ってガラスを創る。物理的衝撃・圧力に強くすることに魔力を注ぎ込み、ついでに3日に一度、私の魔力を吸収して傷や破損を修復するよう設定しておいた。
魔具として魔法陣を刻んでいる訳じゃないので、創る時の設定だけで本当にうまく行くのかは知らないが、まあダメ元と言うことで。
一応7枚創って一枚にはその場で創ったナイフで傷を付けておいてみた。
何日か後に傷が無くなっていたらこの設定って実際に機能すると言うこと。
無くならなかったら......まあ、しょうがない。
では、肝心の目隠しだ。
窓枠にダールが寝転がって外を見ていても良いように、窓の外にかけるかな。
ダールみたいな愛くるしい動物が窓から外を覗いているのを目撃されたら、誘拐されてしまうかもしれないし。
術を起動させ、それをガラスに魔法陣として刻み込む。
意識して魔法陣のサイズを抑え、ガラスに複数魔法陣を刻めるようにした。魔法陣は大きい方がより大きな魔力を受け入れられるようだが、この程度の常時起動魔術だったら小さくても問題は無い感じだ。
ついでに毎晩2時に私もしくは私とダールが部屋にいたら魔力が多い方から消費した魔力を吸収するように設定しておいた。
一応魔力切れの警告が出るようにするつもりだが、自動的に充電してくれる方が楽だもんね。
目隠しの術が無事ガラスに刻み込まれたら、今度はガラスそのものに術を掛ける。
え~と。
目隠しの術の魔力を少量借りて微かに白く光るようにするっと。
そんでもって目隠しの術の魔力が現時点の標準値の半分まで下がったら光が青くなる。
ついでに、誰かが術を破ろうとしたりして、術の魔力に揺らぎが生じたらガラスの上に大きく黒い縦線が現れるようにしよう。
揺らぐ度に縦線が現れるから、複数回干渉されたら回数も分かる。
うっし。
こんなものかな。
次は......監視防止の術。
どうせ私本人とダールには常時術がかかっているけど、部屋の中そのものも覗かれたくない。
と言うか、建物全体に掛けよう。
食事中の様子とか、お風呂場とか覗かれるのも嫌だし。
まあ、現実的な話として覗きこもうとする人なんて殆どいないと思うけど、気分の問題だ。
折角、魔王様を退治出来ちゃうぐらい沢山の魔力があるんだ。
有効利用しなくっちゃ。
ということでもう一つのガラスに監視防止の術を刻み込む。これも自動的に魔力補給を設定しておき、更にガラスに魔力切れと外部からの干渉の警告機能も付けておく。
次は害虫対策だな。
これも家全体にかけちゃおっと。
キッチンとかお風呂場にゴキがいたりしたら嫌だ。
出来れば鼠も禁止したいが......誰か、小鳥を飼ったり餌付けしたりする趣味の人がいると、下手したらそれも入れなくなってしまう。
とりあえず、親指より小さなサイズの生物は全て建物の中へ侵入禁止にしよう。
そんでもって親指より大きく、拳2個分ぐらいまでのサイズは、床を10歩以上歩けないと設定しておくか。
小鳥だったら多分床は歩かないはず。
生まれたばかりの子猫とかを連れてきたら不味いかもしれないが......多分歩きまわれるようになる頃には拳2つ分より大きくなっているだろう。
「ダール、もしもここの住民が小さなペットを飼おうとしていたら、教えてね。鼠ぐらいのサイズの生物は床を歩くのに制限を付けてるんだけど、子猫とか子犬とかが引っかかる可能性も無きにしもあらずだと思うから」
ダールにお願いしておくことにした。
猫の方が匂いや音で何かペットが連れ込まれたら分かるだろう。
日中家にいる時間も長いし。
『了解~』
「そういえば、ガリス氏がダールの鼠捕り能力に期待するって言っていたから、厩とかで見つけたら捕まえて彼に持って行ったら何か貰えるかもよ」
私のところには持って来んでいいが。
『う~ん、鼠が上手く捕れるかどうか分からないけど、そのうち試してみるね』
「出来れば街を歩き回るよりは、この敷地を縄張りにしておいてね。幾ら魔術が使えるとは言っても、外で事故にあったりしたら私は一生独りぼっちになっちゃうもの」
猫は元々それ程広い縄張りを必要しないと『猫の飼い方』という本には書いてあった。それもあってダールを飼うことを決めたのだ。
実際、日本では1LKのアパートで室内飼いしていて別に平気だったのだから、この大きな屋敷とその庭で十分な広さなはずだ。
『そうだね。あまり出歩いても疲れるしねぇ』
前足を舌で身繕いしながら、のんびりとダールが答えた。
頼むよ~。
家全体の術を掛けた後、私の部屋にはダールより2回り以上小さい生き物は全て禁ずる術を掛けた。
鼠は怖くないし、猫がいるのに入ってくるとも思えない。でも、やはり寝ている間に変な生き物が部屋の中とかベッドの傍を動き回っていたら嫌だからね。
最後は防衛術だ。
物理的攻撃および魔術的攻撃を防ごう。
これも家全体に掛けておく方がいいか。
この部屋が安全でも下の部屋が崩壊してしまったら、それに巻き込まれかねない。
第一、もしもこの屋敷が攻撃を受けるとしたら私が原因で有る可能性は高いし。
そんでもって、この部屋には私とダール、そしてこの部屋の物に対して悪意を持った存在を排除する術も掛けておく。
部屋に入ってから悪意をもった場合は、その瞬間にドアから排除される設定にしてみた。
流石に、嫌がらせとかで何かを壊そうとして窓から排除されちゃって死なれても気分が悪い。
後は......洗脳とか催眠術で『悪意』は無いのに攻撃しようとする相手はどうするかな。
まずは、私もしくはダールが危険を感じたら直ぐに排除されるようにしよう。
寝ている時は入るのを禁じるかなぁ。でも、病気だったりしたら看護の人が入れないのも困るし。
でも、考えてみたら私って病気にならないんだっけ。守護霊さんたちに要求した条件の一つだったはず。
じゃあ、防御魔術に解毒と回復の術も含ませておけば、寝ている時に誰かに部屋に入ってきてもらう必要はないね。
ということで、私とダールが部屋の中で寝ている間は誰も入れないようにしておこう。
誰かがこの部屋に来る時は後ろから襲われたりしないよう、ダールに見張っておいて貰えばこれで万全だろう。
しっかし。
ちょっと被害妄想的かなぁ。
でもまあ、備えあれば憂いなしって言うし。
術を刻み終えたガラスを集めてキューブの形に繋げて固定し、トイレの傍の壁の下の方に取り付ける。
ここにフットランプを付けておけば、夜中にトイレに行きたくなっても照明を点けずに歩きまわれるだろう。
さて。
どんな感じになるか実験だ。
部屋のあちらこちらに置いてある照明の魔具を消す。
良い感じにフットランプの光が浮かび上がった。
うんうん、良いじゃな~い。
暗い中で歩き回れるが、邪魔になるほどは明るくない。
完璧だね。
意外と結界作りの話に手間取りました。
次は日本を定時観測する為の魔具作成の予定。