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003 到着。

光が消えたとき、先ほど見えた大きな魔方陣の中央に立っていた。


「ようこそカリーム王国へいらっしゃいました、勇者様!」

初老の男が喜びを隠せない顔でこちらに寄ってくる。


勇者様、ねぇ。

勇者として奉仕するつもりは欠片ほどもないから、向こうの期待を砕かねばならない。

だが、あまり大人数の前でこの老人の面子を潰すのはまずいかも?


とりあえず、ショックで気絶ということにしようか。

でも、気絶したをふりをしている間に変なことをされても困るな。

何か防衛策を講じたいところだ。


急いで『防御』と検索。

『切る攻撃からの防御』

『鈍器によ攻撃からの防御』

『突くによ攻撃からの防御』

『熱による攻撃からの防御』

『冷気による攻撃からの防御』

『精神魔術による攻撃からの防御』


......。

果てしなく出てきている。

こんなに沢山、防御の術が存在するって......。

まあ、地球にだって武器も防具も山ほどあったし、防衛産業っていつの時代もとても盛んな産業らしいから『人間とは争うイキモノ』だと思う方が正しいのかも。

異世界に行ってまでそれを実感してしまうのはちょっと悲しいが。

......と言うか、平和で争いが無い世界だったら勇者召喚なんてしないか。


それはともかく。

これではきりが無いので、もう一度検索をやり直す。

今度は『完全防御』で検索してみた。

魔力は沢山あるはず。オールマイティな術だって行使できるんじゃないの?

『物理的攻撃に対してほぼ完全防御』

『魔術的攻撃に対してほぼ完全防御』

『すべての攻撃が届かないようにする防御』

『すべての攻撃をある程度弱める防御』

う~ん......。

急いで見てみたところ、完全防御ってそれなりに出力が大きいようだから、術を発動させたのが直ぐにばれそうだなぁ。

ショックで気絶したはずなのにその前に大掛かりな完全防御の術を自分にかけるのを目撃されるのはあまり印象が良くないかも。


めまぐるしく考えながら、呆然としたような表情(なつもり)で部屋をゆっくりと見回す。

この際、術を掛けるのではなく、術を破れる様に保険を掛けておくか。

すべての術をキャンセルできればいいのだ。

『解除』で検索をかけ、強力な解除術をダールに与え、人の注意が行かないように愛猫に目隠しの術を掛けておく。

『人に見られないように、こっそり私についてきて。捕まりそうになったらとりあえず隠れて、後から私を見つけて頂戴』

『了解~。』

ダールに頼み込む。まだちょっと魔方陣が光っているから観客からは何をやっていたのかはっきり見えていないと思いたいところね。

足元にいた愛猫がさりげなく姿を隠すのを確認してから、ふらふら....と初老の男の方へ足を踏み出し......倒れた。


うっしゃ。

いい感じに気絶っぽく出来たんじゃない?ちょっと膝とおでこが痛かったけど。

慌てて私のところに駆け寄る足音が聞こえ、

「勇者様を部屋へ運べ!」

「医者はどこだ!」

「水をもってこい!」

慌てふためいた声が部屋の中に溢れた。


部屋が混乱に包まれている間に急いで『麻痺』で術を検索し、自分に30分間体が麻痺する術を掛けておく。

これで気絶がふりなのもばれないだろう。

ちゃんとした勇者を期待した君たちには悪いが、他力本願な勇者召喚なんてするのが悪いのさ。

一応経済には貢献するつもりだからそれで負けといて。


>>>side ???

30人の魔術師が力をあわせて行った勇者召喚が成功した。


魔物・魔族の脅威に対応するために行われた勇者召喚。過去にも行われたが成功率は3割というところで成功する確信は誰も持てていなかったのだが、今回は過去の記録よりもかなり早く、2刻程の詠唱で何かが反応するのが感じられた。


もっとも、こちらにとっては比較的容易だった召喚のせいで勇者に負担がかかったのか、勇者殿は現れてすぐ気絶してしまったが。


「ファディル殿。女性の勇者は・・・初めてだな?」

近衛兵に運ばれる勇者の後を続きながら宰相であるエッサムがファディルに尋ねてきた。


「ええ」


「召喚のショックで気絶するような女性に魔王と戦ってもらうというのは・・・大丈夫なのか?今までの勇者はどのような感じであったのだ?」

元々、宰相は勇者の召喚というものに懐疑的だった。

国に何の忠誠も誓わぬにもかかわらず、魔王を倒せるほど強力な存在を呼び寄せる危険というものにかなりの危惧感を感じていたのだ。

また、反対の立場を取っていただけにもしも勇者が魔王を倒すことに成功した場合、それは反宰相派に勢いをつけることになりかねない。


国王が乗り気だったから決行された召喚だが、『勇者がデリケートすぎて魔王討伐が果たせなかった』というシナリオは宰相にとっては都合の良いものになる。


「召喚の魔術は『魔王を倒す能力がある者』を招く機能があるので、今まで呼ばれてきた勇者は卓越した技能を持つ剣士だったこともありましたし、魔術師だったこともあります。きっと今回の勇者様も魔王征伐に向けて我々を大いに助けてくださることだと思います」


勇者召喚を協力にプッシュしたファディルとしては勇者が役に立ってくれなければ困るのだ。




>>>Side 瞳子

近衛兵に運ばれている途中、召喚の間で声をかけてきた初老の男と、何とはなしに冷たい声をした男との会話が後ろから聞こえた。

どうやら、この冷たそうな声の男性は余り私に活躍して欲しくないみたいね。

この人が偉いんだったら私が『勇者』として生きるのを断るのに手伝ってくれるかも?


一応身元の保証をしてくれるだろうこの国にいるほうが、生活の基盤を築きやすいと思う。だが、安易に暗殺なんていう手段を取ろうと考えるような国なら他の国へ逃げなければならない。

ま、そんなことにならないように話を誘導しなくっちゃね。

失敗したら、遠くへ転移する術や、見た目を変える術だってあるだろうし。



どこかの部屋へ入ったような音がしたと思っていたら、ソファに体を置かれた。

暫くしてから女性が近づいてきて、瞼を上げて瞳に光を当てたり脈拍を取ったりし始める。

「どうだ、勇者殿の様子は?」

多分ファディルとか呼ばれていた初老の男がこの医者らしき女性に声をかけた。


「もうすぐ意識も戻るかと思います。脈拍やオーラに異常は無いようなので召喚のストレスから来た一時的な失神なのではないでしょうか」


「召喚というのはそれ程ストレスがかかるモノなのかね?」

さっきの冷たそうな声の人が尋ねかけている。


「エッサム殿。召喚というのは過去3回しか成功していない大魔術なのです。あまり情報がないので、何とも言えませんな。ただ、今回は以前の記録と比べるとかなり早い段階で成功したのでその分勇者殿の方に負担がかかったのかもしれません」

なんか、この2人の間の空気が険悪になってきた感じ?

ふむ。

麻酔の術も切れてきたことだし、もうそろそろ目を覚ましますか。


「ここは......?」

弱弱しい声を出しながら目を開き、右手を頭にあてる。


「勇者殿、お目覚めですか。私は、勇者殿を召喚しました儀式の指揮を取らせてもらいましたファディルと申します。以後お見知りおき下さい」

初老の男が声をかけてきた。


「ユウシャ・ドノ?私の名前は藤野瞳子です。ユウシャ・ドノとかいう者ではありません。

私は人違いで誘拐されたのですか?」

悲嘆にくれたような顔でファディルを見つめてみせた。


「誘拐だなどととんでもない!

藤野殿は勇者としての召喚に応じて下さったのではないのですか?!」

驚いたようにファディルが声を上げる。


「勇者って......あのドラゴンや魔王と戦うような伝説の存在ですか?

私がそんな超絶した戦士に見えると思います?私は普通に職場に向かっていて歩いていたら突然光に巻き込まれてこちらに来ていたんです。誘拐ではないのでしたら、送り返して下さい」

ここで『ほい、どうぞ』なんて言われても困るんだが、あれだけの大人数で儀式をやっていたということは多分送り返すのにも同等もしくはそれ以上の労力が要るだろう。となったら直ぐには出来ないはず。


というか、普通は出来ても私の場合は多分世界にはじき返されて元のところには帰れないだろうし。

もしくは返還されたらその場で圧死死体になるか。


ま、もしもバカ正直に帰すなんて言ってきたらさりげなく邪魔をしてやろう。

とりあえず、ここでは相手側に罪の意識を持たせないと。


「すいません。勇者召喚は帰還のすべは無い術なのです」

狙い通り、青くなりながらファディルが答えた。

おでこが冷や汗でテカテカしてきてる。


よっしゃ。


「そんな......家族も居たのに。酷いです」

両手で顔を覆って下を向く。

ここで涙が欲しいところなんだけど。こう言う時の為に目薬を創っておけばよかった。

何とか涙ぐもうと、一生懸命もう会えない両親のことなどを思ったら本当に少し涙が出てきた。


......ちょっと意外。

そっか、家族に会えないことってそれなりに辛いんだ。この私が涙ぐむなんて想像していなかったけれど、実はそれなりにショックを感じているのかもしれない。


涙が出てきたので手を下ろして濡れた瞳で部屋の周りを見回した。


「......疲れました。休ませていただけますか?明日、何が起きたのか、何が出来るのか話し合いましょう」

ちょっとずうずうしいかもしれないけど、これからのプランを練る為にどうしても時間が欲しい。


「......分かりました。こちらの手違いでとんでもないことが起きたようですし、我々も考える時間が必要かもしれません」

ファディルが一歩下がって軽く頭を下げた。


う~ん。

大分態度がおざなりになったな。

明らかに下げる頭の角度が減ったぞ。

......下手したら抹殺されそう?


でもまあ、私の魔力とかその他の能力を全然測っていないんだし、『自覚は無いけど魔王を倒せる潜在的勇者』という可能性はあるんだから問答無用に今晩暗殺ってことはないよね?



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