027 魔術院(3)
アフィーヤの所へ行く前に、論点をまとめて置く方が良いだろう。
突っ込まれた時に答えられないと、話が拗れかねない。
と云う事で自分お部屋へ戻り、椅子に座ってノートと鉛筆を出して纏め始めた。
『普通の職人が作り、魔石を動力として起動できる魔法陣』とページのトップに書く。
『利点』
●魔具がより安価かつ大量に生産できるようになり、国民全体の生活レベルを上げられる
●魔具が平民にも買える価格帯で供給されることで魔術師がもっと馴染みのある存在になる
●魔法陣と魔石を提供することで魔術師が国の経済のあらゆるレベルで関与することになって排除されにくくなる
●魔具の生産ではなく開発に魔術師が集中することでよりレベルの高い魔具の発明が期待できる
●魔法陣の設計を販売することで開発された魔法陣が失われるのを防ぐことが出来る
●魔石の需要を創り出すことで、魔石を作るという余剰魔力を使えば意識せずに生産出来る物から収入を得ることが出来るようになる
『欠点』
●魔具を作って生計を得ている魔術師の収入が減る
●新しい魔法陣を開発するような才能が無い魔術師にとっては社会的地位の低下が起きるかもしれない
●魔術院が利益を上げすぎたら反感を買うかもしれない
最初の二つは、どちらも現存の魔術師が強硬に反対する理由になる可能性はそこそこ高い。
最後のは自己規制できる問題だが、下手をすると一番大きな危険かもしれない。
『対応策』
特許制度を導入することで、少なくとも魔術師の業界全体としては同じ金額かそれ以上を得ることが出来ると思う。
社会的立場の変動については......まあ、ある程度以上複雑な魔法陣は売りに出さないことで、複雑な魔具は相変わらず魔術師が創らなければならないっていうことにするかなぁ。
儲けすぎに関しては長老たちの良識に頼るしかないか。
『注意点』
(1)特許料をちゃんと取ること。
設計を売ったら、本来ならば職人がそれを使って作った魔具の販売個数に比例して特許料を貰わなきゃならないが、どうやってそれをするか。
う~ん・・・。
魔法陣の素材によって魔力の伝導率が違うみたいだから、そこら辺を研究して一番しっかり伝導する素材を魔術で創って売ることにするかなぁ。
でも、特許料がそれなりに高かったら例え伝導率が悪くても代替物で製造する方がいいっていうことになるだろう。
そうじゃなくっても、職人たちだって色々研究するだろうからそのうち魔術師から買わなくてもそれなりに伝導率のいいモノを発見するだろうし。
第一、物を魔術で創るのはそれなりに大変だから安く材料を提供するのは難しくなる可能性が高い。
では......魔石か魔法陣に使用回数を発信するような魔法陣を付けておく?
でも、やたらと複雑そうだし発信された情報を集計するのだって大変すぎる。
商売が成功したら手に負えなくなりそうだ。
魔石の費用で特許料を取る形にするかねぇ。
まあ、どうせ魔力が無ければ魔法陣は起動しないんだから、魔石を買う必要はある。
ただ、そうなると特許料を製作者じゃなくって利用者が払うことになるんだよなぁ。
しかも、これって下手をすると魔力だけ大きい筋肉バカならぬ魔力バカが沢山儲けて、新しい魔法陣を開発出来る才能があるけど魔力があまり無い人にとって不利になるかもしれない。
もしくは、魔石をもっぱら供給する立場の人が不公平だと感じるようになるか。
う~む。
やっぱ、魔石の売り上げと、特許としての魔法陣の売れた個数に比例した売り上げを別々に広く薄く欲しいところだよなぁ。
そうなると、問題はどうやって特許権侵害を防ぐか。
魔術院が金をだして魔具の販売元を抜き打ち検査でもさせるかねぇ。
......まあいいや、これは魔術院のお偉いさんに考えてもらおう。
私一人の知恵よりも、何人かで考えた方がいいアイディアが出るだろうし。
さて。続きだ。
(2)現存の術に対する特許権をどうするか。
それこそ、開発者がはっきりしている術ならその人にあげればいいけど、誰が創ったのか分からない術に関してはどうするか。
最初は暖房とか冷蔵庫用の冷却の術といった感じの基本的な簡単な術の魔法陣の方がお手頃で売りやすいと思うが、こう言うのは誰でも知っている術だから個人が特許を取るような物じゃあないよなぁ。
単なる暖房や冷蔵庫ならまだしも、技術が発展していけば術を行使することによって収入を得てきた魔術師の収入を潰すことになる。だから特許権で代わりに利益を得ないと不味いが、かといってそれを不労所得として全ての魔術師に配るのも不味いだろう。
どうすっかね。
それこそ、特許権の収入を魔術院が貰って、その金で魔術師を雇って運河でも作らせるかね?
魔術師は労働対価として収入を得られるし、魔術院は変にお金を貯め込むことにならないし、運河を作ることは国全体の経済力を底上げして、将来的にはさらなる売上げアップにつながるだろうし。
でも、運河の通行料をどうするかなぁ。
それを魔術院が貰うのも微妙な気がするが、無料にしたら普通の街道沿いの経済が壊滅的な打撃を受けるだろう。しかも長期的には魔術院が富を蓄積しすぎるリスクは変わらないし。
運河の通行料は研究開発の支援料に使えばいいかな?
土地の権利とか何かの調整に国とも収入を分け合わせることにすれば、国も運河の整備に協力してくれるだろうし。
あとは......。
(3)何を魔法陣特許として売り出すか。
暖房と冷蔵の魔法陣が出回るだけでも、大きな意義があると思うし、需要もあるだろう。
あとは工夫していけば回転力を加えるような魔法陣があれば掃除機とか洗濯機も作れるだろう。
特許権として売れる物を作れば魔術師も職人も利用者も得をする状況なんだから、開発依頼を受けてもいいし。そうすれば現実的な魔具のアイディアも色々と出てくるだろう。
魔術院にリクエストボックスみたいな意見箱を置いてもいいかもしれない。
確か、ネットで商品のアイディアのリクエストを集めて人気があった物を製造したらヒットになったって言う話を日本にいたころに読んだ。ネットの代わりに意見箱になるけど、悪くは無いアイディアなんじゃないかなぁ。
ただし、手造りの魔具で稼ぐという選択肢を完全には奪わないように、魔法陣の販売には多少の制限を掛けた方がいいんじゃないかという気もする。
ま、そこら辺はそれこそ開発担当の長老とか運用担当の長老が話し合って、どういう魔法陣だったら現存の販売量が多い魔具と競合しないか分かっているだろう。
(4)どうやって魔法陣を創るのか。
......現実的な話として、魔術を魔法陣に変換するあの術って現在でも残っているのかな?
また、残っているとしたら、あの術で創る魔法陣ってもっと効率化出来るのだろうか?
効率化出来ないのだとしたらこれからの魔術師の研究ってひたすら新しい術を作ることになるだろうし、改善の余地があるのなら術と魔法陣の開発と二通りの研究の道がある。
とりあえず、魔法陣の研究をするか。
少なくとも、魔法陣が研究したら効果が上がるのかどうかだけでも調べてから、アフィーヤに話に行こう。
◆◆◆
結局。
その日は魔法陣の改善には殆ど取り掛かれなかった。
効率性を測る道具が無かったのだ。
照明の魔法陣を弄って明るさが変わるかどうかを確認すればいいかと思っていたのだが、はっきり『明るい』とか『暗い』とかは分かるほどは違いが出なかったのだ。
しかも、明るさの違いだけでなく消費魔力の違いだって重要だが、それは殆ど私には見えないし。
しょうがないので『魔力の測定』の術を色々試して測定用の魔具を創る羽目になってしまった。
試行錯誤の結果やっと魔力測定の魔具が出来あがり、早速照明の魔法陣を弄って実験しようと思っていたら王宮からの迎えが来てしまったし。
しょうがないから、今晩は長風呂の時間を少し削って実験するか。
早いところアフィーヤに魔法陣とか特許の話をしたいから、前提条件として魔法陣の開発に『開発』と言うだけの手間をかけた工夫が必要なのかを知っておかないと。