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019 王都(2)

南の市場を一通り見物し終わった私たちは、北側の市場の傍にある『武具街』に来ていた。

「この辺り一帯は武具街と呼ばれます。馬車が停車可能なこの通りを一番通り、そちらの奥を二番通り、更にその奥を三番通りと呼んでいます。

一番通りは貴族や大商人が贔屓にしていて、基本的に何代も前から貴族相手に商売をやっているような歴史の有る工房が殆どですね。二番通りは平民やブランドに拘らない貴族が使うベテラン職人の工房。代々続いている所もありますし、三番通りで腕を磨き、顧客を掴んで上がってくる職人もいます。

三番通りは独立したばかりの若い職人や、二番通りの家賃を払えなかった職人が越す先です」

通りと云っても片側5軒程度しか店は入っていないが、それでも両側で10軒。しかもそれが3本。

中々の数の工房が集まっているようだ。


王都では製品集中地帯が『街』として存在しており、その代表的なものが『武具街』、『家具街』、『ドレス街』なんだそうだ。


これらの街は皆似たような構造で、馬車が通れる太い通りに面した部分が一番通り、その裏の歩行者用の幅のある道を二番通り、そして更にその裏にある細い道を三番通りと呼び、大通りへの近さがランクの高さを表している。


他にも宝石類とか台所用具とか書籍とか美術品と言った物が集まった地域もあるが、武具、家具、ドレス程は大々的ではなく、通りのランクもそれ程はっきりとは決まっていないらしい。


また、こう言った専門街とは別に先日行った目抜き通りには『一流』もしくは『お洒落』な店が並んでいる。

言うならば、専門街は玄人向けの本格的な専門店が集まり、目抜き通りはちょっと百貨店に近い感じなのかな?


カルダールの説明のニュアンスをちゃんと捉えたのか微妙に自信が無いが、『取り合えず何か買おうかな』と言う時は目抜き通りとかを歩き、真剣に欲しい物がある時は専門街に行くと良いと言われた。


市場は安い物の中から良い物を見つけ出す自信があるとか、安い代わりに値段相当の品質の物を買う時に使う。食料品は別だけどね。とは言っても、食料品もそれなりにちゃんと品質を見極める目を持っていないなら腐りかけの食材を掴まされる可能性も大いにあるらしいが。


......考えてみたら、肉とか魚って売っていたかな?あれって腐りやすくて普通に平温の青空市場で売ったら危なくないかね?

まあ、店で売っていたって市場で売っていたって、冷却機能のあるディスプレーがあるんじゃない限り食中毒のリスクが高いのは同じだけど。


それはともかく。


武具街ですよ。

いくらファンタジーの世界に来たからと言って、自分で剣を振り回すのは無理があると思うがそれなりに興味は湧く。

何と言っても、街(どころか王宮も)を歩いているかなりの人間が、剣を脇に差して(もしくは背負って)動き回っているのだ。


まるで、女性のハンドバッグの世界かもしれない。

お洒落性と実用性と両方が求められる、万人の持つアイテム。


金持ちっぽい恰好をしている人はそれなりに装飾が付いて高そうなレイピアらしき物を持っているし、普通の平民っぽい人は同じレイピアでももっと装飾性の薄い挿しているようだ。そして時々、ぐっと実用的なサーベルとか、バスタードソード(なのかな?)らしき巨大な剣を背負っている人もいるし。


「皆さん武装しているようですが、それ程までに王都って危険なのですか?」

いくら武装することが許されていると言ってもねぇ?

それこそ、階段で躓いたり、酒場で酔っぱらって喧嘩になった時に無意味に危険じゃない?


西部劇だって、ガンマンじゃない普通の農夫とか店長さんとかは銃を身につけてなかったと思う。

......高校のとき以来、西部劇なんて見てないからあまり自信ないけど。

もっともアメリカ開拓時代の田舎町だったら、街の外に住んでいたら街から家まで戻る間、インディアンなり狼なりに襲われる可能性がそこそこあっただろうから銃が必需品だったかもしれないが。


一応、街の中には魔物は入ってこないはず。としたら皆が皆、剣をぶる下げているのって何で?


「貴族の場合、侮辱された場合に決闘を申し込むという慣習がまだ残っているんです。絶対に決闘の申し込みに応じなければならないという訳ではないのですが......特に若い男性の場合は断りにくい様ですね。

その際に不慣れな剣を借りて戦うことになっては危険ですから、貴族の男性は一応の為に持ち歩いているというところでしょうか。現実的な話として、自分の剣を持っていないとそれにつけこんで変な言いがかりを付けられることがあるので、言わば言いがかり防衛策といった感じですね」


ふ~ん。

貴族様でも自分の言い分を押し通せそうだと思ったら、同じ貴族階級の人間にでも言いがかりをつけてくるんだ。『貴い人種』なんじゃないの?

まあ、貴族が正義感にや誠意に溢れる集団だとは最初から思っていなかったけど。


考えてみたらエリザベス女王時代の『シェークスピアに恋をして』とか言う映画では、皆レイピアを適当に腰に差してた気がしないでもない。中世レベルの文化だったらしょうがないことなのかな?


「平民の場合、治安が完璧では無い地域に足を踏み入れる可能性が高くなりますからね。ゴロツキなどに襲われないよう、これもまた自衛の為です」

まあ、ニューヨークとかだって足を踏み入れたら無事に出て来れないような地域もまだ残っているらしいからね。銃を持つ代わりに剣で自衛しているのか。

平和ボケした日本人は海外旅行に行った際にそう云うヤバイ地域にうっかり踏み込むことが偶にあると聞く。この王都にも同じように危険な地域があるということは肝に免じておいて、レーダーをしっかり張り巡らせて危険そうな地域には迷いこまないようにしないと。


一人で歩き回る時は、ダールが使っているような不可視結界の術を掛けておくといいかも?

まだ試したことないけど、今度調べておこっと。


「ああいう本格的な武器を持っているのは傭兵ギルドの者ですね。あれは一種のアピールの意味も持っています。どれだけ良い武具を持つことが出来るかというのは、その人物のギルドランクともそれなりに関係してきますから」


「傭兵、ですか。

そこそこ見かけるようですが、戦争が出来ないこの世界でも戦う人間への需要がそれ程あるのですか?」

対魔物防衛は国軍か領主軍が受け持っているはずだし。


「ああ、『傭兵』とは戦争で雇われるのが元々の語源でしたっけ」

一瞬、私の質問に驚いたような顔をしたがカルダールが何かを思いついたのか一人で頷いていた。


「傭兵と言っても戦争をする訳ではありません。確かに山賊や盗賊の討伐を請け負うこともありますが、彼らはキャラバンの護衛とか、魔物が出る危険な地域での薬草や鉱物の採集、領主や代官が軍を動かしてくれない時の魔物退治といったある意味何でも屋な仕事を請け負っているんです」


なんだ。

ある意味、RPGでよく出てくる『冒険者』がこの世界で言う傭兵なようだ。


RPGにどっぷり浸かってみたいなぁ。

傭兵ギルドに登録し、魔物退治や薬草採集なんてことをしながらコツコツお金を為、ギルドランクを上げていくなんて言うこともやってRPGの生活をやってみたい。


だけど。

流石に本当の自分の人生を使ってそんな無駄な遊びはしない方が良いだろう。

何と言っても、本当のスペックは傭兵ギルドなんてぶっちぎった『勇者様』なんだから。


「ちなみに、傭兵ギルドを覗いてみたり......できます?」

やっぱRPGと言えば冒険者ギルドと酒場だ。

酒くさい人間は嫌いなんで酒場は取り敢えずパスだが、案内人がいる間にギルドは見てみたい。

1人で行くのはやはりちょっと怖いし、誘っても一緒に行ってくれるような友達が出来るか分かったもんじゃ無いし。


「いいですよ。では、こちらです」

武具街は馬の上から見て回り、そのまままっすぐ直進してから西へ進む。

進みながら、少し気になっていたポイントをカルダールに尋ねた。


「そう言えば、この世界での傭兵の社会的地位はどのような物なんですか?

私の以前いた世界では魔物が居なかったので、傭兵と言えば戦争に雇われて金の為に人を殺す余り褒められた人種では無いと云う風に見なされていました。こちらでは戦争が無いですし、魔物退治とかに活躍してくれるのですからもう少し好意的に見られていそうななのですが、どうなのですか?」


「街や村に通りがかる分には歓迎されます。リタイアしてどこかの村や街に落ち着くというのも。ただ、流石にちょっと普通の職業よりは危険なので配偶者候補としてはちょっと不利ですかね」


ま~そうだろうねぇ。

何かあった時にいなかったら役立たずだし、いつもフラフラ仕事をしに出歩いていたらきっとあちこちで愛人やら恋人やらを作りそうだ。

それなりに成功していて高所得獲得者ならば、『邪魔になる程家にいなくてちょうどいい』と財布扱いで歓迎されるかもしれない。


武具街からはあまり遠くへ行かぬうちに、剣が盾に立てかけてある看板がぶら下がる建物に着いた。

「ここです」


馬を横の停留所(こう言う馬をつなぐための横棒の正式名称って何なんだろ?)に繋ぎ、中に静かに入ってみる。


ギルドハウスの一階はぶち抜きの大きな部屋になっていた。

奥に受付っぽいお姉さんが座っており、右側の壁に多分依頼書らしき紙が掲示されている。

左側の壁には本棚が置いてあり、色々な本が入っていた。

......何か意外。中世ヨーロッパレベルだとしたら、傭兵になる人間って案外と文盲が多いのかと思っていた。


考えてみたら、この国の教育制度について話を聞いていないなぁ。

そのうち思い出したら確認しないと。


ま、それはともかく。

部屋の中央部分にはいくつもの丸いテーブルとスツールが置いてあり、傭兵らしき人たちが団欒をしていた。


思っていたより落ち着いた雰囲気だ。

もっと荒っぽい雰囲気の場所を想像していた。


「随分と落ち着いた雰囲気ですね。もっとはっちゃけているかと思っていました」


くすり......とカルダールが笑った。

「2階に酒場があるんですが、ここは夕方5時過ぎまでお酒を出さないんです。だからでしょうね」


成程。

受付とか依頼書とか図書を荒らされない様に酒は上のフロアなのね。

ギルドで酒を売っているというのは微妙に驚きだけど。まあ、いわばルイーダの酒場みたいなモノなのかな?

酒の力で人間関係をスムーズにして、パーティを組む相手を見つけたり、次の依頼について相談したりするのかな?


しばし雰囲気を楽しんだあと、その場を離れた。

やはり、あんまり好奇心だけで見物するのって相手にとっても失礼だし。

いつの日か、何もかも落ち着いたらこのギルドに加入してちょっとクエストとかをこなしてみたいな~。







傭兵ギルド関係のことはもう少し書きたいことがあるんですが、眠くて意識が朦朧としてきたので明後日に残りを書きます。

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