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016 税金と魔族と

「どうも昨日はすいませんでした」

朝食の後に部屋に現れたカルダールはすまなそうな顔をしながら謝ってきた。


「いえいえ、私も色々と今まで教わったことを纏めたり、借りてきた本を読んだりと有意義に過ごせましたから、気にしないでください」

お茶を注ぎながらカルダールに座るように勧める。

そう、昨日はとても有意義に魔術実行ショートカット用のブレスレットが作れた。

ある意味、お礼が言いたいぐらいだ。


「いやぁ、もうすぐ税金が納められる時期なのですが、幾つか今のうちにやっておかなければならないことが溜まってしまいましてね。私だけの話では無かったのであまり後回しも出来なかったんですよ」


「税金ですか。考えてみたら、そのお話はまだお伺いしていませんよね。租税制度に関して、教えていただけます?」

税金とかこの国の経済構造についてもっと聞いておきたい。

剣と魔法の世界っぽいから中世イギリスのような主に農業から経済が成り立っていると勝手に想像していたが、もしかして大々的に工業があるとか鉱山がメインだったりするなら、これからのプランも色々現状に即してアイディアを練らなければならない。


カルダールが少し首を傾けて考え込んでいたが、やがて講義を始めた。

「租税は中央政府へが20%です。それに加え、直轄地ならば更に地方税が20%。貴族領では領主へ20~40%払う事になっています」


「%と云う事は収入に対してと云う事ですね。どのように把握するのですか?」


「基本的にその年の収穫量の平均を作付け面積に掛けます。物を作る者の場合は生産能力に大体比例させますね。特に理由があって生産が出来なかったという場合にはそれが考慮される事もありますが、怪我といったような明らかな証拠がないと滅多に認められませんね。商人の場合は領地へ入る際に持ち込んだ商品と出るときの在庫の差額分に掛けます。」

ほ~。その年の収穫量に比例してとは良心的じゃない。

たしか江戸時代の終わりまでは少なくとも作付け面積だけに比例していたから不作だと餓死することになったようだし。

まあ、不作だったら4~6割課税された時点で餓死確定なのかもしれないが。

だけど職人は生産能力に比例と言うことは、顧客ベースを確保する前に生産能力だけ高めたら税金負担で下手したら破綻??特許制度が無いことと言い、規模の経済性を狙いにくい構造のようだ。


「例えば、領主が違法に地方税を5割とっていた場合など、どうなります?」


「国へ訴えれば直ぐに検査員が送られる事になります。国にとっても、あまり領主が重税を科して人口が減少してしまうようでは国力が下がってしまいますからね。それなりに巡回などをしてチェックはしていますが、どうしても後ろ手に回ることが多いんです。だから訴えがあればすぐさま人を送りますよ」

まあ、国民が餓死したりしたら、国にとっては課税対象だけでなく潜在的兵士の数の減少でもあるもんね。

第一、普段はちょっと余裕があるぐらいにしておいた方が、もしもの時に特別税か何かでお金を集めやすいだろう。普段の領主が受け取る税収なんて貴族の個人的な出費に消えるだけなんだろうし。


「農民、商人、職人などと言った層からの税収比率はどのくらいなのでしょう?」


「そうですねぇ。農民が5割、商人が3割、職人が1割とあと鉱山などの採鉱者や木こりから1割と言ったところですかね」

ふ~ん。

意外と商人からの収入が多いんだな。

職人からの収入の割合が1割しかないのにそれの3倍稼いでいるとなると......何か輸出入しているのだろうか?


「商人たちはどのような物を商っているんですか?」


「地域によりますが、毛織物とか塩・胡椒とか武器・防具はどこの地域でも扱われますね。後は富裕層向けの宝石や絹、魔具マジックアイテムなどですかね」


あまり平民向けの嗜好品はないよう。やはりそれだけの経済力が普通の平民には無いのかな。

「平民は対する嗜好品の流通はあまりないのですか?」


「一部の商人はそれなりに裕福ですが、殆どの平民は嗜好品を買えるほど余裕はありませんから」


ふむ。

都市の平民の生産性を上げるような器具などを製造できれば、平民の経済力を一番楽に上げられるかと思っていたのだが......。まずは農業の生産性を上げないと需要とか資金力とかが存在しない訳なのね。


「都市部の納税も同じですか?」


「どういう意味です?都市に住んでいても税金はかかりますよ?」


「私の住んでいた世界の歴史では、都市では商業が盛んになるように課税制度が優遇され、その為多くの商人がそこに集まって商いを行うようになったことで結果的には税収は上がるようになり、流通が効率的になることで地域ごとに、より効率の高い特産物を作るようになることで国全体の経済規模も上がって行ったそうです。そういった政策は取られていないのですか?」


考え深げにカルダールがお茶を味わい、飲みこむ。

「成程。税率を下げることで商人を集める訳ですか」


「農民と違い、商人は集まってもそれ程沢山の土地を必要としませんからね。ただ、それだけの商業圏を作るには周囲にある程度以上の購入能力のある住民がいなければなりませんから、どこででも出来ることではないでしょうが。それに、人口密度が高くなるのでしたら衛生状態などにも気を使わないと疫病などが流行りやすくなって危険だとも思います」


「面白い考えですね」

おお~。カルダール君が考え込んでる。


「今仰った、衛生状態に気を使わないと疫病などが流行りやすくなるとはどういうことです?」


あれ。

神様からそれなりにダイレクトにコミュニケーションがあるみたいだから、清潔さの重要さも教えられていると思ったんだけど。

王都の中も想像していたような悪臭が漂っていなかったし。


「不潔な状態ですとゴキブリや蚤・蠅や鼠のような病気を運ぶ生物が増えますでしょう?

鼠と害虫を徹底的に排除することで病原菌の転移がかなり防げます。

あとは飲料水に排水が混じらないようにすることで食中毒や赤痢、寄生虫などの害もかなり減らせるという研究結果が私の世界では出ていました。

......神様はそう言ったことは教えて下さらなかったのですか?」


カルダールが小さく笑った。

「神は指示はすることはあっても説明するこは滅多にありません。

確かに清潔な状態を保つよう努力せよとは今までにも何度か神官たちが指示されてきましたが理由は分かっていなかったのです」


そっか。楽しく美しい世界にすれば喜ぶ神様たちらしいからね。

悪臭がする世界を嫌がるのは当然だろうという考えで終わっちゃったんだろう。


「排泄物などは集めて発酵させて農地に撒くと良い肥料になるらしいですよ」


カルダールの右側の眉がくいっと上がった。

「ほおう?」


「ちゃんと発酵させないとかえって寄生虫などが広まってしまうらしいですけどね」


「今ははずれの森などに態々捨てに行っているはずですから、例え発酵の手間を掛けるにしても肥料として使えるなら随分と助かることになると思います。今度ちょっと研究させてみましょう」


頑張ってくださいな。

そう言えば、農業と言えば農作物を毎年変えることで土が痩せるのを防げると読んだ気がする。

だけど何を植えればいいのか覚えていないなぁ。

確か豆って窒素を土に戻す効果があるからいいはず。

他は......小麦と牧草かねぇ?それともジャガイモ?

いつの日か、日本から歴史の本を召喚することに成功したら調べてみよう。


「そう言えば、農地は余っているのですか?農業の生産性が上がって単位当たりの畑に必要な労働者数が減った場合、余剰労働者が新たに開拓出来る農業に適した土地はあります?」

昔のヨーロッパとかアメリカとかは人口が増える(イコール)経済規模の拡大だったらしいが、もしも農地での生産性を増やしても余剰人口が働く産業が必要になる。


「開拓出来る土地も幾らかはありますが......魔物が出没する為に放置されている土地ですので開拓するのに色々解決しなければならない問題がありますね」

あ、そう言えば魔物の話も聞こうと思っていたんだった。


「そう言えば、私は魔王討伐の為に本来は召喚されたらしいですが、今仰った魔物とは筆頭魔術師殿が言っていた魔王の仲間ですか?」


ぽん。

カルダールが手を叩いた。

「そう言えば、説明していませんでしたね。

魔物とは、何らかの理由で自然の条理から外れてしまった動植物もしくはその子孫を指します。

鉱山などの傍では廃棄物の毒素か原因になっているようだという報告もありますし、戦場などの血が多く流された地も負の波動があるのか、魔物が発生しやすいと言われています。

普通の動物よりも凶暴性が高く、攻撃力も高いので旅人や一人で村の外を歩いていると襲われることも多いです。

昔話によると、魔族などが意図的に作っていることもあるようですね。

魔族は......人間の様に知性がある、歪んだ存在と言いましょうか。

肉体的に何か異常があることが多く、魔力を有しており、人間を害することを楽しむ悪癖があることから彼らが歴史にあらわれて以来、人類とは敵対関係にあります。

魔王とはその魔族を総べる存在です」


魔物ってある意味突然変異した動植物か。

魔法がある世界だけに、地球の常識からはかけ離れたレベルの突然変異が起きるのかな?


しかし、魔族の定義は大分ネガティブだなぁ。

魔王にも存在意義があり、果たすべき役割があるというような感じのことをこの世界に来る前に守護霊が言っていたような気がしたから、もっとまともな存在なのかと思っていたが......。


「魔物が村や町を襲うと言ったことはあるのですか?」


「滅多にありませんね。少人数で移動する旅人や、村の保護結界の外を一人で歩いている場合などに襲われる場合が多いです」

日本で読んでいたファンタジー物などでは、時々魔物が大集団になって村や町を襲って大変~という設定の話もあった気がするが、そういう行動はこの世界の魔物は滅多にしないようだ。


「魔族が人間を襲うことは?」


「魔族は普通の人間より魔力が高く、一体を倒すのに魔術師5人は必要と言われています。

平時はあまり人間と係わらないことが多いのですが、戦争などが起きると血に誘われるのか、姿を現し人間に牙をむきます」


魔術師5人分??普通の魔族を倒すのに?

魔王が魔族を総べる存在だとしたら......最低魔族2人分ぐらいの能力はあるだろう。


だとしたら。

私の能力が『魔王退治をすることになっても大丈夫』なレベルだとしたら、もしかしたら私って普通の魔術師10人分の能力があるってこと??


真剣にマジで、私のフルの魔力は隠さないとヤバそうだ。

バレたら『勇者として働け』と言われるか、下手をしたら『魔族だ!』と言われかねない。

......気をつけよっと。


「戦争さえしなければ魔族は人間とあまり係わらないということですか?」


「まぁ、そうですね。時々悪戯をしかけてくるらしいですが。

ファディル氏などは魔族が魔物を創り出しているから、魔王を討伐することで魔物の被害を減らせると主張していましたけど」


鉱山の廃棄物とかから魔物が発生するんだったら、本当に魔族が魔物を創り出しているのかも怪しいところだと思うが。


「今まで過去に、人間同士の戦争ってあったのですか?」


「魔族が現れる前はそれなりに戦乱の時代もありましたが、魔族出現後は数えるほどしかありませんね。我が国の直近の戦争は、200年ほど前に南側の国境近辺で領主の諍いが発展したものだと思います」


「戦いが始まったら魔族が襲ってきて、終戦になった?」


「ええ」


「魔族参戦前の死亡者の数と、平均的な年の魔物による死傷者ってどのくらいになるんですか?」


カルダールが苦笑した。

「詳しい事は資料を調べなければ分かりませんが、毎年の魔物の被害はそれ程は多くありません。戦争での死傷者数は数十年分の魔物の被害を足した分ぐらいにはなるでしょうね」


「魔族は最初からこの世界にいた訳ではないのですか?」


「約千年程前に突然大陸の中央に森が発生し、そこから魔族が現れて戦乱に乱れていた各国を襲ったと歴史書には記されています」


たった千年前に一つの種族が出現って......。

これも神様の奇跡ってやつかね?


「魔物も同じ時期に発生したのですか?」


「いえ、魔物は人間の歴史の始まりの時から存在していたと言われています」


「では、魔族が魔物を創っているというのは言い掛かりですよね。魔族がいることで人間がお互いに殺し合うのを防ぐ役目を果たしてくれていると考えられません?」


カルダールが小さく溜息をついた。

「人間と云うのは自分達以外の存在に行動を制限されるのを極端に嫌う生き物なのですよ。

魔族が魔物を創り出しているという説も、魔族の存在によって領土拡大の可能性を潰されている事に我慢出来ない者達の言い掛かりの可能性は高いのでしょうね」


なんだ、そちらも自覚している訳?


つまり、王様も魔王討伐なんて命じるつもりはこれっぽっちも無く、単なる好奇心から勇者召喚にOKを出した訳なのね。

まあ、私は訳有りだったからいいけど、もしもこれで間違いで無関係な誰かが召喚されていたら、王様ったら土下座しても許されないぞ......。

ちなみに、主人公は王様が魔族を滅ぼして他の国へ攻め込み領土を広げようとは考えていないと思っています。(会見時の印象から)

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