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013 宗教と治療

「とても基本的な質問なのですが、人間と神様達の関係って一体どう云うものなのでしょうか?

私の以前住んでいた世界では神の奇跡と云うモノが余りにも少なかったので神様の存在その物を疑う人もいたぐらいなのですが、どうやらこの世界は違う様ですよね?」


少し考える様にカルダールが首を小さく傾けた。

「神々と人間の関係ですか。

人間は神様に祈り、気に入った人間の声を偶々神が聞いて、気が向いたら助けてくれると云うところでしょうかね?

神々の美意識に沿った生き方をしていれば嫌われない可能性が高く、意に沿わぬことをやっていると場合によっては神罰を下される事もあります」


「神を信じれば死後の世界で天国に行けると云う様な信仰もあるのでしょうか?」


「別に神々は人間から必要なモノなど、ありません。信仰心と転生における査定は関係ないと聞きます。神々が人間から求めるのは彼等の作った世界をより美しくして彼等を楽しませる事のみです」


うわ。

何か、ちょっと身も蓋も無い考え方だね。

人間にとっての蟻ん子よりはマシだけど、ペットに近い感じ?

最近のペットはコンパニオン・アニマルとして孫代わりに溺愛されているケースも多いと言うから、神様にとっての人間って人間にとってのペットよりランクが下な気がする。

とは言え、神様と直接意思の疎通が出来る神官がそこそこいるとなると、それなりに神様視点の情報も流れて来ていそうだから、正直な話なんだろうなぁ。


「美しく、ですか。やはり、人に尽くす善人がいいんでしょうか?」


くすっとカルダールが笑った。

「面白くとも言いましたよ。ピンク一色の絵が面白くないのと同じで、単に善人であれば良いとも限りません。

過度の絶望や恐怖、恨みと言った負の感情は美しく無いとして忌避されるようですが、それ以外は意外と何でも有りな様ですね。歴史には、『この腐った国の制度を直してやる力をくれ!』と神に祈り、見事王家を転覆させて独裁国家を作り上げた神官もいますからね」


そりゃまた凄い。

「その王国はどうなったんですか?」


「それなりに良い統治制度を作り出したので、息子は神官にはなりませんでしたが王家としては数百年続きました」

昔の地球でも王は神に選ばれたとか神の子孫であると云ったことが信じられていたらしいけど、この世界では本当に神の力で王になる事も可能なんだね。


「え~と、神官というのは結局どういうことをする職業なんでしょう?」

イマイチ『神官』という言葉から私が想像していた姿と全然違って、理解しきれていない感じがする。


「『神官』とは神の声を聞くことが出来る人のことを言います。神官という集団は職業とは考えない方がいいでしょう。ある意味、彼らは魔術師と同じようなものかもしれません。治療など法術が得意な分野においてサービスを提供し、それに対して対価を受け取ります。

神官たちは神の声を多く聞けば聞くほど法術の能力が上がるので、神の声を聞くことが出来る可能性の高い神殿で暮らし、祈ることが多いですが別に街中の家に暮らしてもそれは本人の自由ですし、神への祈りを止めても法術の能力がはく奪されることは滅多にないらしいです。

傾向として神官になる人間は人の為に何かをしてあげたいという想いが強いことが多いので、神殿で人々の為に働くことが多いですが別にそう言った仕事をしなければいけない決まりもありません」


ふうん。別に神への信仰を求める訳じゃあないんだ。

「神官にならない人でも信者として神に祈ることはあるんですよね?」


「我々が神の声を聞こえなくても、こちらの祈りを聞いてもらえることも偶にはありますからね。だから一生懸命祈る人も多いですよ。

お金を払って神官に祈ってもらうことも可能ですが、やはりどうしても他人事だと熱意が冷めますからねぇ。報酬貰っての祈りを聞いてもらえることはあまり頻繁には無いようです」


うう~む。

想像以上にビジネスライクで理解を超えそうな感じがする。


「じゃあ、この世界では神殿に寄付をしたりって言うことはあまりないんですか?」


「孤児院にお金を寄付するのと同じで、貧しくて治療費を払えない人の分を助けてあげて欲しいと言うことで寄付を行う人はいますよ」

でも、神殿に寄付することで神の歓心を買おうと言う訳ではないのか。


治療程度ならば金で解決。

他の祈りは頑張って祈れば聞いてもらえるのかもと言う程度。

神官に金を払っても神様に聞いてもらえる確率はそこそこ低いのは周知。


ある意味、とても話がはっきりしていて、地球の宗教よりもいいかも。


「どの神様に祈るかなんてことは内容によって決まるんですか?」


「どうでしょうね?自分が好きな神様に祈る人もいますし、祈りの内容がどの神様の領域に近いかを考えて祈る人もいますし。人それぞれですね」


昨日会ったマダーニ氏も神様の声を聞いたことがある人なのかぁ。

滅茶苦茶身近な奇跡だな。


「神官の方に、神様の声を聞いた時のことを聞くのって失礼にあたります?何分、私の来た世界では神様の声を聞くなんてことはまずなかったので凄く好奇心が疼くんですが」


「別にかまわないと思いますよ?彼らにとって神の声を聞くことが出来たと言うのは嬉しかったことですから」


うっし!

是非、神様との体験談を聞いてみよっと!



◆◆◆



馬車が貴族街の第一輪地域と商店街の第二輪地域を通り過ぎ、平民の住宅地だという第三輪地域へたどり着いた。

思ったより、首都の大神殿は王宮より遠いようだ。


神様の声を聞きやすい場所が神殿だとしたら、王宮もその傍に作りそうなもんだけど。

まあ、王宮の場所って景色がいいとか防衛に向いているとかそういうことが重視されるんかな?。

後から神殿が出来たとしたら王宮をそれに合わせて動かすのも不味いだろうし。

『神の声を聞きやすい場所』と言うのが神殿を作る場合の最優先事項だとしたら王宮の場所という人間の都合で場所を左右できないのだろう。


「着きましたよ」

馬車が止まり、御者の人が声を掛けてくれた。


「ありがとう」

馬車から下りて、見上げる。


大きい。

サッカーコートでも入りそうなサイズなんじゃないだろうか。

しかも3階建て。

これだけ大きな神殿を建てるなんて、やはりこの世界でも宗教というのは儲かるらしい。


「マダーニさんとお会いすることになっているんですが、どこに行けば良いでしょうか?」

入口にいた若い神殿兵に尋ねた。


「ああ、マダーニ神官から聞いています。案内しましょう」

おお~。

マダーニさんありがとう。

カルダールが時間とか私が世間知らずなこととかをマダーニさんと連絡しておいてくれるって言っていたけど、ちゃんと案内まで頼んでくれるなんて、親切~。


石造りの神殿の中へ入り、一階の右奥の廊下へ進んで暫く歩いた。そこそこ遠い。

まあ、こんだけ大きいんだから、当然か。

生前(?)に働いていた時に尋ねたクライアントのオフィスも大きなところは私たちが使わせてもらっていたミーティングルームからクライアントの担当の人が座っている席まで離れている時があったが、ちょっとそれに近い感じ。

とは言え狭い東京だから、水平にこれだけ遠いんじゃなくって、階段上り下りが多かった気がするけど。


「おはようございます、フジノ殿」

机の前に座って書類を見ていたマダーニ氏が立ち上がって私を迎えてくれた。


「マダーニさん、今日は私のお願いを聞いていただき、ありがとうございます。1日よろしくお願いしますね」


机の上に置いてあった急須にお茶を淹れながらマダーニ氏が私に席を勧めた。

「どうぞ座ってください。患者さん達が来るまでまだ少し時間がありますので。

ところで、今日は私は午前中は病人担当なのですが、大丈夫ですか?病人の傍にいるのが嫌でしたら怪我担当の人のところに行きます?」


「いえいえ、で是非病気の治療も見せて下さい」

折角病気知らずの体にしてもらったんだし。


「ただ、お伺いしたいんですが、これだけ大きな場所に病人を集めたら、院内感染というか......免疫力が下がっている人が集まったらお互いに病気を移しあってしまいませんか?」

注いだお茶を私に注ぎながらマダーニ氏が笑った。


「ああ、そう言えばカルダール殿が言っていましたが、こちらの世界の事情をご存じないんでしたっけ。

この神殿は死の神の奇跡の跡地なんです。今でも、病気が移らない・傷が化膿しないといった効果があるので、大丈夫です」


死神の奇跡???

「こちらの世界では神の奇跡が比較的しょっちゅう起きると言う話は聞いているんですが、どんな奇跡があったんですか?」


マダーニ氏が椅子に背を預け、ゆっくりとお茶を口に含む。

「ここは、数百年前に疫病がはやった時に助からないとみなされた病人達が打ち捨てられた場所なのです。かかった人間の10人に8人は2週間以内に死んでしまうような病気で、王都の機能そのものが殆ど麻痺していました。治療と言ってもとても神官の数が足りず、次から次へと神官たちが過労で倒れていたと聞いています。

神官にかかるだけのお金が無い人間は、症状が出てきた段階でこのあたりの野原に打ち捨てられていたそうです。

王都の人口が半減したとも言われるのですが、ある夜突然目を焼くような光とともにここに巨大な魔法陣が現れ、その中にいた人間が全て癒されていたんです。そこにいた人間の何人かが、『あまりに死に過ぎて、魂の循環のバランスが崩れてしまっても困る。この魔法陣の中に病人を入れよ』という死の神の声を聞き、すぐさま王都中の病人をここに連れてきたら、ここで一晩寝たら皆治ったということです。

疫病が治まった時点で魔法陣が輝くのを止めて奇跡の治療は終わりましたが、今でもその加護が残っていて病気の転移や傷の化膿を防ぐ効果があるんですよ」


ほえ~。

この巨大な神殿全部のサイズの魔法陣?

魔法陣って継続的な術を掛けたい時に使う手法らしいが、それなりに作るのに力を込めなければならず、手のひらサイズの魔法陣でも普通の魔術師一人が一晩かけてやっと作れるといった物だとこないだ読んだ本には書いてあった。

それがこのサイズ??

しかも一晩寝たら致死率8割の病気が治るって凄すぎる。


目を閉じて、心眼で周りを視るよう集中してみたら、確かに巨大な魔法陣が視えた。

殆ど端っこが視界からはみ出しそうだ。


うひゃ~。

流石、神様。

無神論者の私も納得しちゃうぐらい、人知を超えている。


「凄いですね。これなら安心して治療に集中できそうですね」


「お金を出せば死なない程度の新しい傷でしたら神官に治してもらえますが、そこまでお金が無い場合は骨を治してもらい、傷は縫うだけで済ませて後はこの神殿で休むという方も多いんですよ」

成程。

だからこんなにバカでかくなっていたのか。

カルダール君に聞いた神官の人数から考えたらちょっと大きすぎるんじゃないかと思ったけど、怪我をした人の素泊まり宿としても使われている訳ね。


コンコン。

ノックの音とともに扉が開かれて、若い少年が顔を覗かせた。

「マダーニ神官。時間ですがいいですか?」


ちらりとこちらへ目をやったマダーニ氏へ小さく頷く。

「どうぞ通して差し上げて下さい」




朝一番の患者は、中年の男性だった。

「ここんところが、刺すように痛いんです」

でっぷり肥ったおなか周りの左側を抑えながら訴える。

部屋の後ろの方の椅子に座った私は基本的に無視。

まあ、服装からして神官の恰好していないしね。


マダーニ氏が何か小さく唱えると、ふわっと一瞬彼の周りが光った。

お、あれが法術?

何をやったのかイマイチ分からないけど、魔法っぽい感じ。

考えてみたら、最初に召喚された時以外、他の人が魔法を(この場合法術だけど)使うのを見るのってこれが初めてかも。

何も視えないかとも思っていたが、一応何かは視えるんだね。

とは言え、何をやっているのかイマイチ分からないが。


慌てて、前もって検索しておいた『術の解析』を実行。

ついでにオーラを視る術を自分にも掛けておく。


中年男性のオーラは痛いと訴えていた辺プラス背中回りが変な感じに色が暗かった。

あれって肝臓の辺かな?

でも、肝臓って『サイレント・キラー』とかで自覚症状が出てくるのってかなり病気が進行して、手遅れになってからだと聞いたけど。


マダーニ氏は暫くじっと動かず何かに集中していたようだが、やがて患部近くに手を当てて何やら術を唱えた。

オーラを視ていた私の心眼に、小さな魔法陣のような物が中年男性の胴周りに現れるのが視えた。

『毒素の分解、血管の再生、細胞の復活』

分析魔法が魔法陣の効果を解説していく。

どうやら一気にその場で治すと言うよりも、その魔法陣が暫く時間をかけて半分死にかけている肝臓(と推定)を復活させるようだ。


凄い。

現代医療なんて実は目じゃない??


私もこれが出来るんかしら。

ちょっとまだ、魔法陣を作るような術は検索結果に出てきていないが、今度探してみよう。


「どのくらいお酒を飲みますか?」

マダーニ氏が男性に尋ねる。


「え~と毎回の食事時にグラス2杯に家に帰ってから何杯かと寝る前に少し?」

おいおい。朝昼晩100ccを2杯を3回プラス帰ってから何杯か、更に寝酒って言ったら一日1.5から2リットルぐらい飲んでない??


「少し飲み過ぎですね。内臓に負担がかかっていたようで、それが苦痛の原因でしょう。

内臓へのダメージを癒す術を掛けましたが、術が終わる3日程はお酒は飲まないで、お湯を沸かしたお茶でも飲んでください。その後は多少ならばお酒を飲んでもいいですが、今の半分ぐらいまで削った方がいいと思いますよ」

マダーニ氏が少し厳しい声で指導した。


でも、全く飲むなとは言わないんだね。

まあ、中世のヨーロッパとかでは飲料水の質が悪くって、お酒じゃないと食中毒を起こしたとかいう話を読んだ気がするから、もしかしたらこちらでも飲み物ってお酒が普通なのかもしれない。

お茶も結構飲まれているようだけど。



次に来た患者さんは、吐き気がおさまらないと言う女性。

実はおめでただった。

とは言え、顔色も非常に悪く、ふらふらな感じだった。げっそりやつれた感じだけど、あれで出産まで生き残れるのかね?いつ流産しても不思議はなさそうな雰囲気。

そう思って見ていたら、また何やら魔法陣をマダーニ氏が施していた。

今度は『体の反発を抑える』とやら。


出産まで毎月来て術を掛け直してもらよう、指示していた。

休憩中に聞いたところ、本当に力が強い神官だったら出産まで持つぐらいの魔法陣を掛けることも可能なのだが、妊娠中というのは思いがけない他の問題が発生することもあるので、無理に強度な魔法陣をかけるよりも定期的にチェックも兼ねてきた方がいいんだそうだ。


◆◆◆



1日治療を視ていた感想。

神官の法術って凄い。


止血の術とか、幾つか簡単な術を学んだので単純な怪我の治療ならば何とか出来そうだが、病気の治療はどうやらプロに任せた方が良さそうだ。


あまりにハイレベルな治療に圧倒されて、マダーニ氏の奇跡体験の話を聞くのを忘れてしまった。

ちぇ。


まあいいや、また今度遊びに行かせてもらおう。

もしかしたら、見習いボランティアみたいな感じで手伝う代わりに治療の仕方を教えてもらうって言うのもいいかもしれない。

事故があった日の翌日は買い物の仕方とか税金の話を聞いていたんですが、ここではスキップ。

神殿関係の話で纏めることにしました。

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