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001 プロローグ

日本人ってある意味頭の固い律儀な人種だと思う。


全然車の通らない信号で、何だって根気良く赤が青に変わるまで待つかね?

そんなもん付き合ってられっか!ということで散々私は信号無視をしてきた。


そのせいでいつか自分が交通事故で死んでも自己責任だと思っていたんだけど。

なんと、工事現場の上から落ちてきた鉄骨につぶされて死んだ。


おい。

話が違うぞ。


今まで積んできた私のキャリアは、

老後の為に着々と貯めてきた貯金は、

愛猫とのラブラブな日々はどうしてくれるのよ!!!!


どこのどいつだ、工事現場で鉄骨を歩道に落っことしたボケは!


そんなことを考えながら、私は自分が死んだ現場の上にぷかぷかと浮いていた。


いや~、昔から『私のもしものときの反射神経って案外と鈍いかも?』と密かに思っていたのだが、やはり鈍かった。


でもさぁ。

何か風を切る音がして、上を見たら自分の何倍もあるような巨大な鉄の塊が落ちて来るんだよ?

一瞬体が硬直するのは当然だと思わない?

我に返って逃げる暇も無く......ぐしゃ!

痛みを感じる前に暗闇に沈んだと思ったら宙に浮いていた。

かなりグロイ感じに頭とかが西瓜割り大会後のスイカ状態になっている。


即死だな......。

と言うか、あの状態だったら死んでいて欲しい。

まあ、魂がこうやって宙に浮いているんだから死んでいるんでしょうね、きっと。


ウチの家系は皆長寿だったから自分も90歳ぐらいまで生きると思って、散々ケチって貯金してきたのに。

優雅なリタイア生活を楽しむ私の人生設計がパーになってしまった。


ううう。

ぐやぢい......。


「この際、この事故の責任者か、工事会社の安全管理責任者か、誰かのところに夜参りしてやろうかな......。49日目までぐらいにちゃんと成仏すればいいんだよね、きっと」

なんてことを呟いていたら、物凄い勢いで光が私のところへ飛んできたと思ったら、2人の人影(透き通ってたけど)になった。


「申し訳ございませんでした!!!!!!」

そのうちの一人(Aと呼ぼう)ががばっと土下座する。


何、これ?

「誰よあんた?」


「あなたが死んだ原因。」

もう一つの人影(Bだな、こっちは。)が答えた。


おもむろに、土下座しているAのところへ行って頭を踏みにじる。

が。

私も相手も半透明状態だったので足がすり抜けた。

げろ~。


私の怒りはどこにぶつければいいのよ!


成せば成る!ということで思いっきり怒りを込めて土下座しているAの頭を足で蹴り付ける姿を意識しながら足を動かす。


ごす!


うっし。

いい感じにAが蹴り飛ばされた。


Bが手で顔を覆った。

「適齢期のお嬢さんが......」


「死んだら適齢期も何もあったもんじゃないでしょうが。」


あ~あ。

別に結婚しようとは思っていなかったけど、まだまだ人生をのんびり楽しむ予定だったのになぁ......。

勉強と仕事に励んだだけの人生で終わっちまうとは。

計画が狂った。


「実は、ですね。」


Aが手を揉みながらにじり寄って来た。

「瞳子さんがここで亡くなったのは間違いだったんです。」


「アブダの担当の成長のために『ちょっとした間違いから事故を起こす』という設定だったのが、アブダ間違えたせいで、『取り返しの付かない事故』になってしまってあなたが殺されてしまったの。

あなたは私の担当の中でも有望株だったのに。あ、ちなみに私はバリーナ。あなたの担当を任されていた者よ」

バリーナが残念そうにため息をついた。


「担当ってなに?あんたたち何者?」


「我々は守護霊だ。」

アブダ(これが名前かな?)が立ち上がって胸を張った。


「で、守護霊が間違えて私を殺した訳?」


がっくりとアブダが沈み込む。


「こう言っちゃあ何だけどさ、こいつが間違えて私を殺せるのに、あなたは私を救えなかったの?あなたの方がこっちより有能そうに見えるのに。」

バリーナに尋ねた。

普段はあまり他の人(霊)に自分に何かをしてもらうことを期待しないことにしているのだが、他人の守護霊に間違って殺されたなんて場合、自分の守護霊に『あんたは何をやっていたのよ!』と言っても許されるだろう。


「私の担当はあなた一人じゃないのよ。基本的に守護霊って言うのは手取り足とり助けるのではなく、大きな目標とチャレンジを用意して、担当者が成長するのを遠くから助ける存在なの。あなたは特に勝手に自分で頑張ってくれるタイプだったから時々見守る程度だったんだけど・・・突然死ぬからびっくりしたわよ。」


私も突然殺されて、驚いたわよ。

「まあ、起きてしまったことはもうどうしようも無いんでしょうね。

事故が起きなかったことに出来るんだったらあんたがそこで土下座してないんでしょうから。

で、特に悪いことをしなくって守護霊に間違えで殺された私はちゃんと天国に行けるんでしょうね?」


死後の世界なんてものがあるとは思っていなかったんだけど、こうして守護霊がいるということは、天国と地獄も存在する可能性が高くなった。

となったらここで守護霊にごり押ししてでも天国に行きたい。


「いえいえ、ここで死ぬはずじゃなかった瞳子さんには、違う世界で人生をやり直すという選択肢もあります。どうでしょうか?」

アブダが提案してきた。


「嫌よ。折角頑張ったのにチャラにされてまた最初からなんて面倒だから、もうこのまま天国に行って休ませて」


うっ。

アブダが怯んだ。


......おや~?

この転生の提案には何か裏があるのかな?


「そうおっしゃらず、新しい世界で勇者として世界を悪の魔王から救う!どうですか、やりがいがある人生でしょう?」


「冗談じゃないわよ。何だって家族でも友人でもない赤の他人のために私が戦わなきゃいけないのよ」


バリーナが深くため息をついた。

「そうなのよねぇ・・・。あなたって戦うタイプじゃないものねぇ。勇者の人生なんて、やりがいを感じたりしないわよねぇ」


当然だ。


「いえ、でも!勇者召喚でしたら色々基礎条件の上方修正が効きますので!魔法使いも絶世の美女も思うがままですよ!」

アブダが必死になって転生のアイディアを売り込む。


「勇者召喚?単に生まれ変わってやり直すんじゃないの??」


「死亡を無かったことにするためには、勇者召喚が一番無理が無く実行できるんです。第一、また赤ちゃんからやり直すのもいやでしょう?最初から勇者として歓待される方がいい思いが出来ますよ。」


ふ~ん、成程。

私の『死亡』を無かったことにしたいのか。


「そんな、自分たちの危機を関係ない第三者を勝手にに呼び立てて問題を解決してもらおうなんて思うような、他力本願なやつらのところに召喚されるなんて冗談じゃない。世の中自助努力でしょ」


......。

低く唸りながらしばし悩んでいたアブダが、またもやがばっと土下座した。

「お願いします、召喚されてください!このままでは僕が降格なんです!」


「人を一人殺したんだから、罰を受けるのは当然でしょ。しばらく反省していなさい。」

私の将来設計を間違いで台無しにしたくせに、私を他の世界の他力本願野郎共を助けに駆り出すことで帳消しにしようなんて甘いんだよ。


「トーコちゃん。確かに折角頑張ってきたのが台無しにされたのは悔しいし不幸なことなんだけど、ここで降格になったらアブダは来世がゴキブリなのよね。だから助けると思って転生してあげてくれない?

思う存分自分の好きな条件指定していいから」

思いがけず、バリーナがアブダの肩を持つ発言をした。


ゴキ??!!


ちょっと意外。

世界に70億近くの人間が存在し、毎日何千人(何万人かも?)の人間が死んでいるこの世の中で、一人ぐらい間違いで死んだところで、誤差というところだろう。

もしかして守護霊が供給過多で失敗したらすぐにクビ(=ゴキ)なのかね?

だから世の中にゴキが溢れているの??


「一度の間違いでゴキとは厳しいわね。」


「一度ではないもので......」

汗をかきかき(半透明の癖に)、アブダが説明した。


「あんた今まで一体何人殺してきたのよ!?」


「いえ、死んでしまったのは今回が初めてでして、いままでは破産とか寝たきりとか受験失敗とかそういったものだったんです。」


「破産して自殺してもあんたのせいじゃないって?」

アブダが青ざめる。

「まさか、自殺なんてしていませんよ。ちゃんと経済的に復帰して幸せになれるようにしっかりとアフターケアをしています!」


「殺しちゃうと、アフターケアも難しいってわけね。そんでもって私が天国でのんびりリタイア......なんてことをしたらあんたが私を殺したことが上にばれちゃう訳だ」

最近仕事にも疲れてきたことだし、ここら辺で休むのもいいと思ったんだけどなぁ。

でも、流石に私がノンビリ休んでいる間にこいつがゴキとして生きていくのはちょっと可哀想かも。


「どちらにせよ、天国行けばのんびりリタイアって訳にもいかないわ。

聖人みたいな生き方をしてきたんじゃない限り、何になるか分からないルーレット転生を選ぶか、魂の格を上げて次の転生でいい人生を引くために何らかの仕事をやれって言われるのよ。ハズレを引いた際のかなりエグイ例を色々見せられた後でね。だから基本的に皆働くことを選ぶようよ」

バリーナが肩をすくめながら口を挟んだ。


なんだ。

こつこつ働いてお金を貯め、貯金で老後を暮らし、なんとか破産せずに死んで終わりかと思っていたら、その後さらに働かなきゃいけないんかい。

守護霊なんている存在がいるというのに、宗教団体の想像するような天国が存在しないなんて、約束が違うなぁ......。


折角ここで有利な条件で転生出来るならそっちで思いっきり人生をフルに楽しんだ方がいいね。


「じゃあねぇ。

まず、身長は平均よりちょっと高い目になりたい。

そんでもって何を食べても太らない体質で、体系はすらっとしているのがいいな。

勿論アレルギーなしの健康体。

寿命は普通の人よりちょっと長い程度。

運動神経も普通よりはいい程度にしておいて。肉体派に生きるつもりはないから飛びぬけて良い必要は無いわ。

当然、魔法の才能は凡人にはありえないぐらいに頂戴ね。そんでもって使い方も教えておいてよ。

顔は絶世の美女でなくて、すっぴんで平均よりちょっと奇麗っていう程度がいいわ」


アブダがあんぐり口を開けて私の要求を聞いている。

「色々不満があったのね......」

バリーナが呆れたように呟いた。


「そりゃあ、ね。人間、常に上を見ていかなきゃ。

ついでに、愛猫も連れて行っていい?出来れば寿命を私と同じにして欲しいな。使い魔みたいな感じで、私と意思の疎通が出来るようにしてよ。

あと、当然向こうの言語とかは最初から習得済みなんでしょうね?

......そういえば魔王と戦うために召喚されるという設定らしいけど、魔王を倒さなければ世界が破滅するようなところは嫌よ」


がっくりと脱力したようにアブダが座り込む。

「分かりました。出来る限りの誠意を尽くさせて頂きます」


「......大丈夫、この人?誠意を尽くす前に気力か体力尽きちゃって、中途半端な状態で転生させられるのは嫌なんだけど」

思わずバリーナに小声で尋ねた。


「おっちょこちょいなだけで、能力はそれなりにあるから。

大丈夫、守護霊として出来る最後の守護としてちゃんと彼が間違えないよう見張っておくわ」

ウインクをしながらバリーナが答える。


「いることを知らなかったんだけど、今まで守護してくれてありがとう」

最後のお別れに手を出して握手をした。


「じゃあね~」

握手の後にバリーナが手を振っている間に、今度は光に包まれて意識が薄れた・・・。


ちょっと現代人が主人公の無敵モノが書きたくなって始めました。

気軽なエンターテイメントとして楽しんで頂けると幸いです。

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