あなたが私に好きだと言ってくれれば、ただそれだけで幸せになれたのに。
彼に抱いている感情が特別なものであった事に、気づかない方が幸せだったのかもしれない。
現に私は、いくら愛の言葉を囁いても返事の一つもくれない彼にうんざりしていた。
昔から私たちは、いつも遊ぶグループの中でも一番仲が良かったし、私のお母さんもお父さんも、彼のお母さんもお父さんも、絶対に私たちが愛を育むことを望んでいたはずだ。
なのに彼は裏切った。高校生の夏、ぽっと出の地味な芋女が、私から彼を奪っていった。
あの女が唆したに違いない。そうでなければ、あの女が彼を誑してさえいなければ、彼だって私を選んだはずだ。
目の前で横たわる彼を見下ろすと、あの日の怒りがどうしようもなく沸き立ってきて、目から涙が溢れた。
本当はあなたから抱きしめて欲しかったのに。
あなたから名前を呼んで欲しかったのに。
あなたから先に愛して欲しかったのに。
もう叶わない夢を頭の中で唱える時も、彼はずっと黙ったままだった。睨みつけてくるようにすら見える目も、声も、顔も、身体も、あなたの全部が好きだったのに。
くちゅ、くちゅと、水の音が鳴っている。
私たちの愛を証明する音。
本当だよ。あの時私に謝ってくれたら、私を裏切ってごめんって言ってくれたら、私はあなたを許すつもりだったの。私を幸せにしてくれるって言ったら、全てが上手くいったのに。
あなたはあの女を選んだけれど、大好きだよ。今だってこんなに…。
うんざりだな。頭の中で繰り返したこの言葉も。
本当はもう好きなんかじゃないことに、私だって気づいてる。
中学の頃、勇気を出して彼に告白したことがある。
お前は俺の大切な友達だよって言葉が何度も頭の中に響いて、何よりも気持ち悪くて、それでもいつか振り向いてくれるって思ってたのに。
嫌われたくないから一歩引いた位置から君を見続けた。そのせいで最近はあんまり話せていなかったけれど、それでもいつか私を愛してくれると思っていた。
だって、私が一番仲がいいのはあなたでしょ?だったら、あなたが一番仲がいいのは、あなたと永遠の愛を誓うのは私がふさわしいに決まっている。
なのに、あなたはあのブサイクの子宮をぐちゃぐちゃに潰された死体を見ても、私に振り向かなかった。
目の前で足を切り落としたし、顔を何度蹴り続けても、腕の骨を折っても、あなたはあの女を愛し続けた。
私があなたにとっての一番だって分からないなら、分からせようと思って、ちょっと喧嘩しちゃって、そうして彼は動かなくなっている。
愛し続けた人間は、今やただの無意味な肉塊で、私を幸せにしてくれる宝物でもなんでもなくなった。
取り出してみればきっと水晶のようだったであろう心も、今の彼を見ると、ただ脳が出しただけの反応だったんだろうと思考がいたって、なんだか酷く疲れた。
私はこれから、幸せになれるのだろうか?




