↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ヘルメットの奥の星空

作者: Chiyo
掲載日:2026/09/12

FINAL FANTASY VII リメイクシリーズ3部作の完結編となる『FINAL FANTASY VII REVELATION』の発売日を記念して。若き日のクラウド・ストライフのとある日常を書きました。

神羅カンパニーの軍事訓練施設がある八番街の裏手。油と金属の匂いが立ち込める整備棟の非常階段の踊り場は、ソルジャーになれず一般兵としてくすぶっていた十六歳のクラウドにとって、数少ない隠れ家だった。

青い制服に身を包み、ヘルメットを脱いで膝の上に置く。ツンツンと逆立った金髪に風が抜けていく。今日も適性試験の評価は散々だった。ソルジャー・クラス1stになり、故郷のあの子に顔向けできる強い男になる――そんな誓いは、ミッドガルの巨大なビル群の影に押しつぶされそうになっていた。


「やっぱりここにいた」


カツカツと軽やかな足音とともに現れたのは、整備部に所属する一つ年上の技師見習いの少女、マリナだった。作業着のポケットに両手を突っ込み、いたずらっぽく目を細めて笑っている。


「また一人で黄昏れちゃって。はい、これ。差し入れ」


放り投げられた冷たい缶ジュースを、クラウドは慌てて片手でキャッチした。表面の水滴が手のひらを濡らす。


「……別に黄昏れてなんかない」

「嘘ばっかり。眉間にシワ寄りすぎて、ヘルメット被れなくなっちゃうよ?」


そう言って彼女は、クラウドの隣に当たり前のように腰を下ろした。作業着からはオイルと、微かに甘い石鹸の香りがした。女性と肩が触れそうな距離に座られるだけで、クラウドの背筋は反射的にピンと伸びてしまう。


「訓練、きつかった?」

「……普通だ」

「相変わらず無口。同期の連中はさ、夜になるとプレートの上の派手な店に繰り出して、ソルジャーになれたらどうのこうのって大口叩いてるよ。でもあんたは、いつも一人で素振りしてるか、ここで空見てる」


彼女は缶を開け、ごくりと喉を鳴らしたあと、じっとクラウドの横顔を見つめた。クラウドはその真っ直ぐな視線に耐えかねて、わざと反対側へ顔を背ける。


「見てて飽きないんだよね、クラウドって。背伸びして強がってるくせに、本当は迷子みたいな顔してるから」

「……からかうなよ」

「からかってないってば。むしろ、逆」


ふっと笑い声が途切れた。気配が変わったことに気づき、クラウドが怪訝そうに視線を戻した瞬間、彼女の顔がすぐ目の前にあった。


「あたしね、あんたがソルジャーになれなくたって、全然いいと思ってるよ」


真剣な茶色の瞳が、クラウドの青い瞳を真っ直ぐに射抜く。


「誰よりも真面目で、不器用なくらい必死で……あたしは、今のあんたが好きなんだけどな」


心臓が跳ね上がった。耳の奥まで一気に熱が集まり、クラウドは息を呑んだまま固まってしまう。


「……な、何言って……」

「告白だよ、鈍感くん。今度の非番の日、一緒に上の街まで行かない? 美味しいピザの店、教えてあげる」


彼女の指先が、躊躇うことなくクラウドの強張った手の甲に触れた。体温がじんわりと伝わってくる。

もしここで頷けば、どれほど楽だろうか。ソルジャーという果てしない重圧から降りて、神羅の巨大な歯車の一部として、この温もりの中に逃げ込んでしまえば――。

だが、クラウドの脳裏をよぎったのは、ニブルヘイムの星空と、給水塔の上で見せたあの子の笑顔だった。


『ピンチの時にはさ、クラウドが助けに来てね』


あの約束を果たせないまま、誰かの隣で笑うことなど、クラウドのプライドが許さなかった。彼女の好意は痛いほど純粋で、だからこそ、生半可な気持ちで手を握り返すことなどできなかった。

クラウドはゆっくりと、だが確実に、重ねられた手から自分の手を引いた。


「……ごめん」


掠れた声だったが、迷いはなかった。

「俺は、ソルジャーにならなきゃいけないんだ。……誰にも負けないくらい、強くならなきゃいけない。だから、そういうのは……考えられない」


拒絶された彼女は、驚いたように丸くした目をしばたたかせたあと、ふっと寂しそうに眉を下げた。けれど、すぐにいつもの強気な笑顔を取り繕う。


「……そっか。やっぱり、心の中に誰か別の特別な人がいるんだ」


クラウドは答えず、ただ膝の上のヘルメットをぎゅっと握りしめた。その沈黙が何よりの答えだった。


「振られちゃったかー! あーあ、見る目あると思ったんだけどな」


彼女は大げさに伸びをして立ち上がると、階段の手すりに手をかけた。去り際、振り返って少しだけ切なそうに笑う。

「でも、無理しすぎて壊れないでよ。あんた、放っておけないんだから」


足音が遠ざかり、踊り場には再び重い静寂が戻ってきた。

クラウドはまだ冷たい缶ジュースを握りしめ、深く息を吐き出した。優しさに揺らぎそうになった自分を振り払うように立ち上がり、ヘルメットを深く被り直す。

無骨な鉄の仮面で素顔を隠した少年は、まだ見ぬ過酷な戦場へと、再び重い足取りで歩き出していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。